4 その他 4_1 研究に携わった人々 東濃地科学センターでは,20年以上にわたって超深地層研究所計画を進めてきました。計画には多くの分野の研究者が携わりました。それらについて,地下施設建設時の調査に関わる技術者の分野や人数の参考として示します。 4_2 共同研究・施設共用 瑞浪超深地層研究所では,地下500mまでの多種多様な地質環境にアクセス可能であったことから,外部研究機関との共同研究や研究坑道の施設共用により,地層処分だけでなく地球科学分野の学術研究にも貢献しました。 4_3 人材育成・技術継承 地層処分事業は,調査開始から地下施設の建設,操業,埋め戻しに至るまで100年程度の期間を要する長期事業であるため,地層処分に携わる研究者や技術者を継続的に確保していくことが必要です。瑞浪超深地層研究所では,人材育成や技術継承の一環として,大学等の若手研究者の育成にも協力しました。 4_4 国際連携・貢献 1980年台から90年台にかけて,日本の研究者が欧米の地下研究所で地層処分の基礎を学んだように,近隣のアジア諸国における地層処分計画の具体化に伴い,これらの国々から瑞浪超深地層研究所がその役割を果たすことが期待されました。 4_5 理解醸成活動 瑞浪超深地層研究所は,地下500mという普段目にすることのできない深地層の環境を体感することのできる国内唯一の地下研究施設であったため,地層処分や地下研究施設における研究開発に対する国民との相互理解の場としての役割を担ってきました。 4_6 地域との対話 超深地層研究所計画の公表から研究所の建設場所の市有地への移転に至る経緯や,原子力機構が取り組んだ地域社会との共生に向けた活動とその結果およびそれらから学んだ教訓を取りまとめました。 4_7 広報事例 4_7_1 花崗岩体中の岩相と化学組成の空間分布(2014年5月) 中部日本の土岐花崗岩体を対象に,岩相と化学組成の空間分布を明らかにしました。 岩体内の空間分布は,花崗岩体の形成プロセスとも密接に関連し,地殻の発達・進化を考える上で,あるいは地層処分システムの安全評価においても有益な情報となります。 4_7_2 花崗岩体中における割れ目形成メカニズムの解明を目指して-花崗岩体の初期冷却が割れ目分布に与える影響-(2014年5月) 中部日本の土岐花崗岩体を対象に,岩体中に分布する割れ目の形成メカニズムを明らかにしました。 花崗岩体の初期冷却が,割れ目分布に大きな影響を与えることを明らかにしました。 4_7_3 深度500m研究アクセス北坑道における調査研究状況について(2014年6月) 深度500m研究アクセス北坑道において,B級~CM級岩盤からなる比較的割れ目の多いゾーンはENE走向の割れ目帯を形成し,A級~B級に区分される割れ目の少ないゾーンが北側にいくほど広がりを持って分布していることがわかりました。 4_7_4 ファブリペロー方式による光ファイバ式岩盤変位計を用いた坑道岩盤挙動のモニタリング(2014年7月) 耐腐食性・耐薬品性・高絶縁性に優れた光ファイバ(注1)を利用した岩盤変位計を制作しました。 深度500m冠水坑道に光ファイバ式岩盤変位計を設置し,岩盤挙動のモニタリングを開始しました。 4_7_5 瑞浪超深地層研究所の建設に伴う周辺地下水の変化-主にこの10年間の水質変化について-(2015年5月) 深度500m規模の大規模地下施設の建設に伴う周辺地下水の変化を明らかにした。 研究坑道掘削に伴う地下水の水位,水質の変化は,周辺岩盤の透水性の分布(割れ目や断層,泥岩層などの分布)に応じて異なる。 地上と坑道の間に帯水層を区別する低透水性の地層(泥岩層など)が分布すると,上部の帯水層での変化は低減される。 4_7_6 掘削体積比エネルギーを用いた掘削損傷領域評価の試みについて(2015年5月) 瑞浪超深地層研究所における深度500mアクセス北坑道の掘削の際に取得された油圧式削岩機のデータから算出した掘削体積比エネルギーが掘削損傷領域を評価する際の指標となる可能性を示した。 4_7_7 過去に活動した断層の影響はどこまで及ぶか? -断層活動が地質環境に及ぼす影響に関する検討-(2015年5月) 断層活動によって,断層周辺では割れ目が形成されるとともに,その割れ目が地下水の通路になったと推定されたが,その範囲は断層から数十mの範囲に限られることを明らかにした。 4_7_8 瑞浪超深地層研究所計画における再冠水試験の概要(2015年5月) 坑道閉鎖時の地質環境特性(地下水の水圧や水質など)の回復過程を理解するための再冠水試験の概要を示した。 深度500mに位置する冠水坑道の周辺岩盤は,割れ目の影響で水理学的な不均質性が高いことが明らかとなった。 4_7_9 地下水涵養量を把握するための長期観測の終了(2015年5月) 10年以上に亘る長期観測を実施し,岩盤への涵養量の空間的・時間的な変化に関わるデータや知見を蓄積することができた。 瑞浪超深地層研究所の建設に伴う表層部の地下水位の変化は発生していないことや,その変化は降水量に同期していることを確認した。 4_7_10 瑞浪超深地層研究所の深度500mにおける円錐孔底ひずみ法による初期応力測定結果について(2015年5月) 深度500mの研究坑道における測定の結果,水平面内における最大主応力方向は南北方向であり,これは地上からのボーリング調査における測定結果(水圧破砕法)および深度100~300mでの研究坑道の測定結果(円錐孔底ひずみ法)とほぼ一致していることが分かった。 4_7_11 観測データから地下の地質構造の分布や透水性を推定する -簡易モデルを用いた解析的な推定手法の検討-(2015年12月) ボーリング孔から得られる地下水圧の観測データにより,地下の地質構造の分布や透水性を推定する手法を,簡易モデルにより検討した。 2つの推定手法を用いた検討の結果,地質構造の分布の推定に長ける手法と透水性の推定に長ける手法があることが分かった。 4_7_12 地下水の14C年代測定のための微量試料回収技術の開発(2016年3月) 従来の方法では不可能であった,地下水中に溶存しているごく微量の無機炭素を直接ガス化・回収する技術を確立しました。 地下水の14C年代測定に関して,従来の回収方法の誤差や適用限界と比較検討し,本技術の優位性を提示しました。 4_7_13 断層運動で損傷した岩盤の自己修復機能を確認(2016年9月) 瑞浪超深地層研究所の研究坑道を用いて,花崗岩体の形成時から現在までの岩盤中の割れ目の状態の変遷を地質学的・水理学的手法によって調査し把握した。 断層運動により損傷を受けた断層周辺岩盤は,岩盤中に発達した割れ目によって短期的には選択的に地下水や物質の移動経路となるが,長期的には鉱物等による割れ目の閉塞といった自己修復機能により,地下水や物質の移動を抑制する場となる可能性を見出した。 4_7_14 花崗岩中の物質移動に寄与する空隙に関する研究(2016年10月) 瑞浪超深地層研究所の研究坑道から採取した花崗岩の健岩部(肉眼では変質が認められない部分)を調べた結果,花崗岩の主要な構成鉱物の一つである斜長石の中に空隙が発達し,この空隙が地下水中の溶存物質の拡散経路(マトリクス拡散の経路)となることを確認した。 斜長石中の空隙は,花崗岩体の形成時に生じたと考えられ,国内の他の花崗岩の健岩部でも物質移動の遅延機能が期待できる可能性があることを見出した。 4_7_15 花崗岩中の地下水の年代測定に関する研究(2017年1月) 岐阜県東濃地域に分布する花崗岩(土岐花崗岩)中の地下水について,地下水中のヘリウム同位体(4He)および炭素同位体(14C)を利用して算出された年代値を比較した結果,両者の年代値の間には相関関係があることが示されました。 4Heと14Cのように複数の同位体を利用して地下水の年代測定を行うことにより,単一の同位体を用いた年代測定に比べて,年代値の信頼性を大きく向上させることができました。 4_7_16 花崗岩中の鉱物分布およびモード組成の新たな評価手法の構築(2017年8月) 花崗岩中の鉱物組合せとその量比(モード組成)を従来の手法よりも短時間に,簡易かつ客観的に評価できる新たな手法を構築した。 従来の手法では区別が困難であった,初生的に形成される鉱物(初生鉱物)と類似した元素からなる二次鉱物も含めて評価できる手法を検討した。 4_7_17 坑道閉鎖環境における地下水中の希土類元素の移動プロセスの解明(2017年8月) 希土類元素は放射性核種と同様の化学的性質を示すため,地下深部での放射性核種の移動プロセスを考察するアナログ元素として利用できる。 花崗岩の深度500mに建設された研究坑道の一部を閉鎖し,地下水中の希土類元素の挙動について観測を行った。 坑道閉鎖環境では地下水中の希土類元素濃度が有意に低下し,希土類元素が移動し難い環境が形成されることが明らかになった。 4_7_18 土岐花崗岩体のアパタイトフィッション・トラック年代の空間分布:東アジア大陸縁辺部に定置した深成岩体の上昇速度(2017年11月) 土岐花崗岩体内のアパタイトフィッション・トラック(AFT:Apatite Fission Track)年代の空間分布を把握した。 AERs(Age-Elevation Relationships)とAFT年代の逆解析(HeFTy解析)による土岐花崗岩体の冷却史・上昇史を解明し,土岐花崗岩体を取り巻く東濃地域では50Ma以降0.16㎜/年を超える削剥を被っていないことを明らかとした。 4_7_19 坑道掘削時に坑道周囲の高水圧湧水を抑制する技術を開発(2018年3月) 瑞浪超深地層研究所の坑道掘削時に,坑道周囲の高水圧の地下水湧水を抑制するため,セメント溶液などを岩盤に注入するグラウチングの技術開発を進めてきた。 深度500mまでの研究坑道を掘削する間に,様々な材料(普通ポルトランドセメントあるいは超微粒子セメントを水に溶かした材料や,セメントより浸透性に優れた溶液型材料である活性シリカコロイド)を用いてグラウチングを試行した。 4_7_20 再冠水試験における地下水の化学環境変化に関する研究(2018年3月) 深度500mの花崗岩中に掘削した坑道において大気と触れて酸化的になった地下水が,坑道を閉鎖・冠水した後に微生物の還元作用により,坑道掘削前と同等の還元的状態まで低下することが明らかとなりました。 坑道を閉鎖した後に吹付コンクリートなどのセメント材料の溶解により,地下水のpHが上昇することが明らかとなりました。 4_7_21 地下施設で使用するセメント材料が地下水の水質に与える影響の評価方法の提案(2019年5月) 坑道建設に使用されたセメント材料により,坑道閉鎖後に生じる地下水の水質変化を明らかにした。 水質変化に関わる主要な化学プロセスの同定手法およびセメント材料の長期化学影響を評価する手法を構築した。 4_7_22 結晶質岩(花崗岩)内の割れ目評価のための新知見 -マグマ溜りから深成岩が形成される過程の熱進化モデルの構築-(2019年6月) 中部日本の土岐花崗岩を研究対象とし,マグマ溜りから結晶質岩(花崗岩)が形成される冷却の過程を表現した熱進化モデル,特に土岐花崗岩内の領域ごとの温度時間履歴を復元。 結晶質岩中に発達した割れ目は地下水や物質の移動経路となるが,その割れ目の分布特性と岩体内の領域ごとの温度時間履歴との間に関連があることを発見。 領域ごとの温度時間履歴の解明は結晶質岩内の割れ目分布を評価する際に新たな指標となることを提示。 4_7_23 花崗岩内の物質移動経路に関する新知見 ~斜長石の熱水変質で生じる微小孔の役割と物質移動の解明~(2019年6月) 中部日本の土岐花崗岩を対象とした研究により,花崗岩中に多く含まれる斜長石の熱水変質現象で生じる花崗岩中の物質の移動経路としての微小孔の成因と役割を解明。 さらに,斜長石の熱水変質現象に関する検討を通じ,7,000万年前から5,000万年前の花崗岩冷却時の地下水の長期的な水質変化を把握するために有用な方法を提示。 4_7_24 観測データから地下の地質構造の分布や透水性を推定する-原位置データを用いた逆解析の適用事例-(2019年7月) 複数のボーリング孔による揚水試験で得られた水圧変化データを用いた逆解析を実施し,断層の透水性の空間分布を推定した。 水圧変化データを用いた逆解析は,原位置で不足する調査量を補うことができる有効なツールの1つであることが分かった。 4_7_25 マグマ由来の流体による微小な割れ目網が地下水の流路に-世界初,白亜紀の花崗岩中に超臨界流体の痕跡を発見-(2019年12月) 従来,花崗岩の中では,主に割れ目が地下水の流路になると考えられていたが,割れ目が発達していない岩盤でも高透水部があることが分かってきた。これには火成活動時の気体に近い性質を持つ流体(超臨界流体)が関与していると推察されていたが,流路形成のメカニズム解明には超臨界流体の痕跡の発見が重要な鍵であった。