4_7_6 掘削体積比エネルギーを用いた掘削損傷領域評価の試みについて
ポイント
概要

坑道を掘削すると,発破などの掘削作業そのものによる影響(掘削損傷),応力再配分,地下水の不飽和化などの現象が坑道周辺岩盤において生じます。このような影響が生じる領域の広がりや特性は,地下空洞の力学的安定性に影響を及ぼすことや,物質の選択的な移行経路になりうることから,その評価は重要です。

掘削影響を評価するうえで,坑道掘削前のボーリングコアなどの限られた情報からでは,割れ目を含む原位置岩盤の力学特性を正確に評価することは困難です。それゆえ原位置での岩盤調査が望まれますが,広範囲にわたる坑道掘削で,すべての位置を網羅した調査を実施することは現実的ではありません。このため原位置岩盤の力学特性を簡便で精度よく把握する手法の開発が求められています。

瑞浪超深地層研究所における深度500m研究アクセス北坑道の掘削の際に取得された油圧式削岩機のデータから算出した掘削体積比エネルギー(岩盤を掘削するのに要したエネルギー:用語解説参照)が掘削損傷領域を評価する際の指標として活用できるかどうかを検討しました。

内容

瑞浪超深地層研究所の深度500m研究アクセス北坑道(幅5.0m,高さ4.5m)の掘削作業において使用した油圧式削岩機のデータを用いて掘削体積比エネルギーを算出しました。取得したデータの概要と岩盤等級の分布を図1に示します。また,上半断面の装薬孔249削孔,下半断面の装薬孔101削孔,ロックボルト孔121削孔のデータを図2に,それぞれ削孔深度ごとの掘削体積比エネルギーの平均値を図3に示します。

図を見ると,いずれのデータも掘削開始直後から孔口から深さ0.15~0.25mで傾きが変化しています。上下半の装薬孔は,そこからほぼ一定値となっています。ロックボルト孔では,若干増加しその後一定値まで減少して収束しています。さらに上半装薬孔とロックボルト孔の削孔では,削孔終了前に傾きが大きくなっています。

掘削開始直後の掘削体積比エネルギーの傾きの変化点はすべての種類の削孔で認められ,ロックボルト孔で最も大きく明確に現れています。変化点の深度は,ロックボルト孔で0.15m程度,上下半の装薬孔で0.25m程度です。この挙動には機械的な影響が含まれている可能性はありますが,すべての削孔に共通する挙動として掘削損傷領域の範囲を捉えている可能性があります。

油圧式削岩機の削孔データを用いて掘削損傷領域を検討した既往の研究成果はなく,今回初めて検討された課題です。今後は,物理探査などの他の調査結果と比較することで,掘削体積比エネルギーを用いて掘削損傷領域の範囲を推定する方法の妥当性を確認します。

岩盤等級の分布図
図1 取得したデータの概要と切羽観察記録による岩盤等級の分布
掘削体積比エネルギーの分布図
図2 削孔深度ごとの掘削体積比エネルギーの分布
削孔深度ごとの掘削体積比エネルギーの平均値グラフ
図3 削孔深度ごとの掘削体積比エネルギーの平均値
用語解説
※1 掘削体積比エネルギー
坑道を掘削するときに用いる削岩機などのデータから,単位体積を掘削するときに要したエネルギーを計算したものです。
※2 掘削損傷領域
坑道を掘削すると,周辺岩盤が様々な影響を受けます。このうち,発破などの掘削作業そのものによる影響のことを掘削損傷と言い,岩盤に新たな割れ目が発生したり,既存の割れ目が開口・進展します。このような影響を受けた領域を掘削損傷領域と言います。
参考文献
  1. 引間亮一,佐藤稔紀,真田祐幸,丹野剛男,平野享,山下雅之,石山宏二,原位置岩盤物性評価のための掘削体積比エネルギー利用について~瑞浪超深地層研究所における研究計画~,資源・素材2011(堺)企画発表・一般発表(A)講演資料,pp.265-266,2011.
  2. 引間亮一,平野享,山下雅之,石山宏二,佐藤稔紀,真田祐幸,丹野剛男,瑞浪超深地層研究所における油圧式削岩機を用いた岩盤特性評価,平成25年度資源・素材関係学協会合同秋季大会(札幌),企画発表・一般発表講演資料,A13-1,pp.247-248,2013.
  3. 引間亮一,平野享,山下雅之,石山宏二,佐藤稔紀,真田祐幸,掘削サイクルにおける施工データを用いた掘削体積比エネルギーに基づく岩盤評価の試み,資源・素材講演集,Vol.1,No.2,2014.
  4. 佐藤稔紀,真田祐幸,引間亮一,平野享,山下雅之,石山宏二,掘削体積比エネルギーを用いた掘削損傷領域評価の試みについて,資源・素材講演集,Vol.1,No.2,2014.

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