1 地上からの地質環境調査(ローカルスケール)
1_6 モデル化・解析
既存情報,物理探査,ボーリング調査から得られた情報を用いて,ローカルスケール領域の地質・地質構造,水理特性,地球化学特性を整理して図示した地質環境モデルを構築しました。
最初に,地下水流動に寄与する地質・地質構造として,土岐花崗岩と瑞浪層群との不整合面,土岐花崗岩中の風化帯/上部割れ目帯/下部割れ目低密度帯を抽出し,それらを三次元的に表現する地質構造モデルを作成しました(1_6_1)。次に,構築した地質構造モデルに水理特性を加えることによって水理地質構造モデルを構築しました(1_6_2)。水理地質構造モデルを用いて地下水流動状態の解析を行い(1_6_3),地質構造や地下水の水質分布(1_6_6)と地下水流動の関連性を確認しました。また,過去の地形変化や気候変動条件などの長期的な地質環境の変遷が地下水流動に与える影響の評価(1_6_4)とそれらに基づく地下水流動の長期変遷モデル(1_6_5)について検討しました。さらに,地下水の水質変化に鋭敏な二次鉱物により鉱物形や同位体組成などに基づいて生成時代を推測し,地球化学環境の長期変遷モデルを推測しました(1_6_7)。
得られた主な知見
ローカルスケール領域のモデル化・解析により,以下の地質環境に関する知見を得ました。
- 地下水の主流動方向が地形に支配されていて,標高の高い領域北東部では下向きの動水勾配(涵養傾向),標高の低い河川部で上向きの動水勾配(流出傾向),それ以外はおおむね静水圧分布(水平方向の動水勾配)を示していること(1_5_5)を確認。また,地下水の主流動方向とほぼ直交する方向に遮水性を有する断層部においては,その上流側で被圧傾向の水頭分布を示すことや,このような水理特性を有する断層で挟まれた領域の動水勾配が小さくなると推測(1_6_3)。
- ローカルスケール領域の地下水流動系の下流部では,pHが長期的に安定であったと推測でき,上流部における緩衝反応により下流部ではpHが長期的に安定に保たれていたと推測(1_6_7)。
また,以下の技術的知見を得ました。
- ローカルスケール領域における地上からの地質環境調査の段階では,地質学的不均質性を示す地質・地質構造の抽出,設定が特に重要であり,そのための情報として岩相や割れ目データなどの空間的変化(例えば,累積割れ目本数グラフを用いた変曲点の同定など)の導出(1_5_4)が有効。
- 瑞浪層群の予測分布深度と実際の分布深度との差違が最大で約20mであり(MIU-4号孔の場合),ローカルスケールの地質構造モデルの被覆層深度の再現精度は,数十m程度の誤差を有すると想定(1_6_1)。
- 数km程度のトレース長の断層は,断層周辺に発達した割れ目帯が高透水性を有しており,断層主要部が遮水性を有していると推定(1_6_2)。
- 地下水流動方向にほぼ直交する走向で3km以上のトレース長の断層が分布する場合,その上流側で被圧傾向の地下水頭分布を示し,上向きの動水勾配となっていること,このような水理特性を有する断層で挟まれた領域の動水勾配が小さくなることを確認(1_6_3)。
- 複数の異なる水質の地下水が広範囲に分布する場合,また,異なる水質の地下水の混合により地下水水質が形成されている場合(東濃ではNa-HCO3-Cl型,Na-(Ca)-Cl型地下水),多変量解析の一手法である主成分分析が水質分布に関わる解析手法として有効。水-鉱物反応により水質が形成されている場合(東濃ではNa-(Ca)-HCO3型地下水),化学平衡論に基づく熱力学計算や鉱物観察が水質形成過程に関わる解析手法として有効(1_6_6)。
- 過去100万年間の地形変化や気候変動を解析条件として組み合わせた数値解析を行うことで,それらが地下水流動状態に及ぼす影響を定量的に評価可能。また,地下水中のCl(塩化物)イオン濃度や4He濃度などの地球化学特性データから,その評価結果の妥当性を確認可能(1_6_4)。
- 東濃地域の土岐川流域を事例として,過去100万年間の地形変化・水理特性変化,気候変動,海水準変動,涵養量変化など連続的に考慮した一連の解析手法(SMS)を用いることで,過去の地下水中の塩分濃度や地下水中の塩分濃度の変動プロセスを推定することが可能であることを確認(1_6_5)。
- HCO3(炭酸水素)イオンが主要な陰イオンとなる水質の地下水においては,地下水の炭酸ガス分圧の増減や炭酸塩鉱物の溶解・沈殿反応がpHの主要な緩衝反応。地史,地下水の水素・酸素や炭素の同位体比,炭酸塩鉱物の同位体比や結晶形に基づいて,地球化学環境の長期変遷を推定する手法を構築(1_6_7)。