1_6_3 地下水流動解析
達成目標
ローカルスケール領域における動水勾配の三次元分布を把握することを目標とします。そのために,岩盤の透水性の三次元分布を反映した水理地質構造モデルを用いて地下水流動解析を実施します。
方法・ノウハウ
①地下水流動解析の実施:
ローカルスケール領域のような広範囲の地下水の流れを定量的に評価するにあたっては,地下水流動の影響因子となる地形,地質・地質構造やそれらの水理特性,涵養量に代表される水文特性などを総合的に考慮することができる地下水流動解析が有効なツールとなります。
地下水流動解析は,地下水流動に関する支配方程式を,近似的に計算するために空間や時間の離散化を行い,与えられた境界条件のもとで近似解を得るもので,有限要素法や差分法などが広く用いられています1)。メッシュ分割など解析モデルの作成には大きな労力を要しますが,解析モデルが作成できれば,パラメータや境界条件を任意に変えることで複数のケースの解析を行うこともできます。現在,世の中には様々な解析コードが存在していますが,それぞれの解析コードで解析できる内容や条件が異なるので,評価対象となる地下水の流れを適切に再現できる解析コードを選択することが重要です。
②解析結果の確認:
地下水流動解析に限らず,解析結果を用いた設計や評価を行うにあたっては,以下に示す解析モデルのV&V(Verification(検証)&Validation(妥当性確認))が重要です。
- Verification(検証): アルゴリズムが適切か,メッシュ分割やパラメータなど入力データの不備はないか,収束性に問題はないか,といった,意図した解析が正しく実施できたかどうかを確認することです。
- Validation(妥当性確認):検証された手法による解析結果が,対象の物理現象に対して適切であるかを確認することです。地下水流動解析に関しては,解析結果が対象領域内の地下水の流れの方向や速さを再現できているかの確認になります。
このうち,地下水流動解析結果の妥当性確認のためのデータとしては,地下水位,間隙水圧,流量の他,水質や地下水年代などの地球化学特性があります。これらのデータを用いた妥当性確認の結果,解析モデルの再現性が不十分と判断される場合は,必要に応じて,再現性を向上させるためにパラメータの修正など,モデルの校正を実施します。
東濃地域における実施例2)
ローカルスケール領域の水理地質構造モデルを用いて地下水流動解析を実施し,三次元的な動水勾配分布を把握しました。なお,地下水流動解析はGEOMASSシステム(1_12_9)を用いて実施しました。その結果,以下のことが明らかになりました。
- 地下水の主流動方向は地形に支配されており,標高の高い領域北東部では下向きの動水勾配(涵養傾向),標高の低い河川部で上向きの動水勾配(流出傾向),それ以外はおおむね静水圧分布(水平方向の動水勾配)を示している(図1)。
- 3km以上のトレース長を有し,かつ地下水の主流動方向とほぼ直交する方向に低透水性を有する断層部周辺においては,その上流側で被圧傾向の水頭分布を示し,上向きの動水勾配となっていることや,このような水理特性を有する断層で挟まれた領域の動水勾配は小さくなる。
- 解析結果が,ボーリング孔で観測された水圧分布の大局的な傾向および実測値と良い一致を示していること,地下水の水質および起源・年代に関する情報から推定される大局的な地下水流動方向(図2)と整合的であること3)から,解析結果はおおむね妥当であることが確認された。
この結果により,ローカルスケール領域における地下水流動特性の特徴が把握でき,解析結果はサイトスケール領域の地下水流動解析の境界条件の設定などに反映されました(1_11_2)。


参考文献
- (編)日本地下水学会 地下水流動解析基礎理論のとりまとめに関する研究グループ (2010): 地下水シミュレーション―これだけは知っておきたい基礎理論,技報堂出版,242p.
- 大山卓也,三枝博光,尾上博則 (2005): ローカルスケールにおける地下水流動解析‐ローカルスケールでの地下水流動特性評価およびサイトスケール領域におけるステップ0の地下水流動解析の境界条件の設定‐,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-004,22p.
- Metcalfe, R., Hama, K., Amano, K., Iwatsuki, T. and Saegusa, H. (2003): Geochemical approaches to understanding a deep groundwater flow system in the Tono area, Gifu-ken, Japan, In: Nishigaki and Komatsu (eds.), Groundwater Engineering, pp.555-561.