1_6_2 水理地質構造モデル
達成目標
ローカルスケール領域における岩盤の透水性の三次元分布を把握することを目標とします。そのために,掘削したボーリング孔を用いて原位置調査を実施し,岩盤の透水係数や間隙水圧といった水理特性データを取得します。さらに,それらのデータを地質構造モデルに表現された地質・地質構造区分ごとに整理することで,水理地質構造モデルを構築します。
方法・ノウハウ
①原位置調査の実施:
岩盤の透水性分布を把握するためには,ボーリング孔を利用した調査を実施し,直接的に水理特性データを取得する必要があります。岩盤の地下水の流れは,透水性分布と地形の起伏に大きく影響を受けることがわかっています1)。そのため,地形の起伏などから推定した地下水の主流動方向に沿って配置したボーリング孔や地下水流動系に影響を与える可能性のある大規模断層などを対象としたボーリング孔を用いて調査を行うことが有効です。ボーリング孔の位置選定の考え方は,1_5_1を参照してください。
ボーリング孔においては,流体検層,単孔式水理試験,掘削応答モニタリング,長期地下水モニタリングを実施することで,岩盤の透水係数や間隙水圧分布,水理学的な連続性が把握できます。それぞれの調査の概要については,1_12を参照してください。
②データセットの作成:
ボーリング孔で実施した各調査から,水理地質構造モデル構築のためのデータセットを作成します。データセット作成の概要は,以下のとおりです。
- 流体検層で特定した地下水の湧水箇所と岩芯記載結果とを対比することで,地質・地質構造単位ごとの定性的な水理特性を把握するとともに,透水性割れ目帯などの主要な水みちを特定します。
- 単孔式水理試験結果を用いて,地質・地質構造単位ごとに岩盤の巨視的な(平均的な)透水係数や,断層や透水性割れ目帯などの透水量係数を整理します。また,ボーリング孔沿いの透水係数分布,透水量係数分布および水頭分布についても整理します。これらの整理結果は,流体検層で推定された水理特性と比較して,両者に矛盾がないことを確認します。
- 単孔式水理試験で取得した間隙水圧データと,掘削応答モニタリングで把握したボーリング掘削中の逸水や水理試験における揚水に伴う水圧などの変化を整理します。
③水理地質構造モデルの構築:
②で作成したデータセットを用いて,地質構造モデル(1_6_1)で考慮されている地質・地質構造区分の平均的な水理特性を算出します。水理試験結果から推定した地質・地質構造区分ごとの水理特性に明瞭なコントラストなどの特徴の違いがあれば,水理地質構造として区分し水理地質構造モデルに考慮します。水理地質構造モデルの構築にあたっては,地質構造モデルの地形や地質・地質構造の三次元的な分布形状やその連続性を十分再現できるように格子分割をします。境界条件は,表層水理調査で得られた地下水位(1_4_1)や地下水涵養量(1_4_2),長期地下水モニタリングで得られた間隙水圧分布(1_5_5)およびリージョナルスケール領域の解析結果(1_1_1)などを基に設定します。
東濃地域における実施例2)
ローカルスケール領域における地質構造モデル(1_6_1)とボーリング調査結果とを組み合わせ,以下に示すような岩盤の透水性の三次元分布を把握し,水理地質構造モデルを構築しました。なお,水理地質構造モデルはGEOMASSシステム(1_12_9)を用いて構築しました。
- 瀬戸層群は瑞浪層群と比較して透水係数が2オーダー程度高い。
- 被覆層である瑞浪層群については,図1に示すように層序・岩相ごとに透水性のコントラストを有するとともに,低透水の泥岩層を境に間隙水圧の急激な変化が認められることから,巨視的に見ると堆積構造に起因した水平方向と鉛直方向の透水異方性3)を有している。
- 花崗岩中については,割れ目の多い上部割れ目帯と割れ目の少ない下部割れ目低密度帯との間に透水性のコントラストがある4)。
- 流体検層による地下水の湧水箇所と断層や割れ目帯分布の対比により特定した断層や割れ目帯の透水性は,下部割れ目低密度帯と比較して1~2オーダー以上高い。
- 月吉断層は,断層主要部の周辺に発達した断層に伴う割れ目帯は高透水性を有しているとともに,断層主要部で遮水性を有している5)。
- 上記を踏まえると,ローカルスケール領域における透水性の三次元分布を把握する上では,瀬戸層群,瑞浪層群,花崗岩上部割れ目帯,下部割れ目低密度帯,および月吉断層をはじめとする3km以上のトレース長を有する断層が重要な水理地質構造である(図2)。
上記の特徴を反映した水理地質構造モデルを用いて,三次元的な動水勾配分布を把握するための地下水流動解析が実施されました(1_6_3)。

地質・地質構造要素 | 透水係数[m/s]の対数値 | ||
---|---|---|---|
堆積岩 | 瀬戸層群 | -5.0 | |
瑞浪層群(水平方向) | -7.3 | ||
瑞浪層群(鉛直方向) | -9.3 | ||
土岐花崗岩 | 上部割れ目帯 | -6.7 | |
下部割れ目低密度帯 | -7.4 | ||
断層 | 月吉断層 その他の推定断層 |
断層面方向 | -5.2 |
断層面直交方向 | -11 | ||
(モデル化した断層の幅:8[m]) |

参考文献
- Tóth, J. (1963): A Theoretical Analysis of Groundwater Flow in Small Drainage Basins, Journal of Geophysical Research, vol.68, No.16, pp.4795-4812.
- 大山卓也,三枝博光,尾上博則 (2005): ローカルスケールにおける地下水流動解析‐ローカルスケールでの地下水流動特性評価およびサイトスケール領域におけるステップ0の地下水流動解析の境界条件の設定‐,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-004,22p.
- 阿部正宏 (1979): “軟岩”の透水度について,土と基礎,第27巻,第4号,pp.11-12.
- 升元一彦,向井圭,竹内真司 (2004): 花崗岩地域における大深度長期間隙水圧モニタリング,第33回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.277-282.
- 豊蔵勇,橋井智毅,名越澄生,伊藤孝,杉森辰次,杉田信隆,政枝宏 (2000): 正馬様用地における試錐調査(MIU-3号孔),核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7440 2000-022,1478p.
- 石川清,目崎吉彦,鈴木秀雄,甲斐昌宣,渡部俶,藤盛誠二,石川潤一 (1999): 正馬様洞用地における試錐調査(MIU-2号孔)報告書,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7420 99-016,878p.