1_4_2 地下水涵養量の推定
達成目標

地下深部の動水勾配に影響を与えている岩盤への涵養量を把握することを目標とします。

方法・ノウハウ

①データセット:

岩盤への涵養量は,地表付近の水収支から算出することができます。水収支により涵養量を算出するためには,降水量,河川流量,蒸発散量の各データが必要となります。降水量,河川流量は直接観測することができますが,蒸発散量は直接観測することが難しいため,気象観測要素(純放射量,日平均気温,日平均湿度,日平均風速など)に基づき推定します。

②データの解釈:

岩盤への涵養量は,水収支法に基づき以下の式で算出します。

G=P-R-E
G:岩盤への涵養量,P:降水量,R:河川流量,E:蒸発散量

蒸発散量の推定方法としてはPenman(1948)1)の方法があります。Penmanの方法で算出される可能蒸発散量は,ある条件下での最大蒸発散量となることから,蒸発散比2)を乗じることによって実蒸発散量を推定しました3), 4)

東濃地域における実施例

地表地質の違いや流域の規模の違い,空間的配置(河川の上流域か下流域か)を考慮して7つの観測流域(図1)を抽出し,各観測流域において降水量,蒸発散量算出のための気象要素,河川流量を観測し,年度毎の涵養量を算出しました(表1)。

各流域の降水量と涵養量の関係(図2)から,観測流域ごとの岩盤への涵養量は地表地質の違いや,空間的配置(河川の上流域か下流域か)の影響による場所的な違いがあることや,流域面積による違いがあることが明らかとなりました3-5)。このことから,涵養量推定のための観測では,調査対象領域(解析領域)に広く分布する地表地質や,調査対象領域が河川のどの流域(上流域か下流域か)に位置するか,を考慮して観測地点を選定することが重要となります。

また,岩盤への涵養量は,気象の変化による年単位での時間的なばらつきがあることが明らかとなりました。涵養量推定のための各観測の期間が短い場合,単年度の気象条件の変化が推定結果に与える影響は大きいと考えられます。このことから,調査対象領域を代表する涵養量を推定するためには,気象条件が平坦化できる長期間の観測データを用いることが望ましいと考えられます。

瑞浪市日吉町から明世町までの地図。北西に柄石川小流域,柄石川流域の境界線が記載されている。柄石川小流域に地下水位観測孔があり,柄石川流域に雨雪量計,河川流量計の観測地点がある。中央部に正馬様川上流域,板取洞流域,鉱山流域,正馬側流域,正馬川モデル流域と正馬様用地の境界線が記載されている。板取洞流域には雨雪流計があり,正馬川流域と正馬様用地が重なる部分には地下水位計と河川流量系がある。正馬様用地には河川流量計,気象観測装置,雨雪量計,土壌水分計,地下水位観測孔がある。正馬川モデル流域には雨雪量計がある。
図1 観測流域位置図
表1 岩盤浸透量算出結果
観測年度 1990年度 1991年度 1992年度 1993年度 1994年度 1995年度 1996年度 1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度
Py 正馬様コミュニティー雨雪量計SR 1535 1890 1342 1655 1042 1573 1284 1743 1989 1521 1522 1384 1317
東濃鉱山雨雪量計TR 1528 1814 1178 1616 1030 1446 1315 1870 2093 1640 1377 1391 1373
正馬川モデル流域尾根部雨雪量計SM 1498 1459 849 1415
柄石川尾根部雨雪量計GRU 1404 1433 1488 1423
柄石川谷部雨雪量計GRD 1407 1759 1322 1340
Ey 東濃鉱山気象観測装置TMP
柄石川気象観測装置GMP
562 515 592 478 550 484 513 486 532 503 477 515 465
579 618 643 627
Ry 正馬川流域SPD 975 1347 734 1196 453 932 700 1220 1410 932 896 703 658
  正馬川上流域SPU 662 937 557 805 389 734 543 957 1072 745 658 549 473
正馬川下流域 1102 1514 805 1356 478 1012 764 1328 1547 1009 994 766 734
正馬川モデル流域SPM 710 606 466 402
柄石川流域GPD 933 960 733 657
  柄石川小流域GPD 745 629 575
Gy 正馬川流域 -2 28 16 -18 40 158 71 36 47 86 148 165 194
  正馬川上流域 308 401 110 353 97 292 244 363 437 332 315 323 407
正馬川下流域 -129 -139 -56 -178 14 77 7 -71 -90 9 51 102 119
正馬川モデル流域 285 376 -133 549
柄石川流域 -105 180 -54 56
  柄石川小流域 396 50 137
備考
Py
年間降水量(雨雪量計設置地点の年度総降水量)
Ey
年度実蒸発散量(ペンマン法)
Ry
年度河川流出高※
Gy
年度岩盤浸透量(Gy=Py-Ey-Ry)
「-」
観測機器設置前
単位
mm
縦軸に岩盤涵養量を,横軸に年度総降水量をとったグラフ。正馬川の全流域・上流域・下流域,板取洞流域,東濃鉱山流域,正馬川モデル流域,柄石川の全流域・小流域の8地点のデータがプロットしてある。年間降水量はどの地点においても1000mm~2000mmと大きなバラつきがあるが,岩盤涵養量は地点ごとに±100mm前後のバラつきに収まる。岩盤涵養量は同一流域であっても異なる地点もあり,例えば正馬川上流域では300~500mmだが,正馬川下流域では0~-200mmである。
図2 降水量と岩盤涵養量の関係
参考文献
  1. Penman, H. L. (1948): Natural evaporation from open water, bare soil and grass, Proc. R. Soc. London, A193, pp.120-145.
  2. 建設省河川局監修 (1993): 地下水調査および観測指針(案),山海堂,330p,2021年9月9日閲覧.
    https://www.jice.or.jp/cms/kokudo/pdf/tech/material/chikasui.pdf
  3. 山内大祐,宮原智哉,竹内真司,小田川信哉 (2000): 超深地層研究所計画用地周辺の水収支観測結果,サイクル機構技報,No.9 (2000.12),pp.103-114.
  4. 宮原智哉,稲葉薫,三枝博光,竹内真司 (2002): 広域地下水流動研究実施領域における水収支観測結果と地下水流動スケールの検討,サイクル機構技報,No.16 (2002.9),pp.137-148.
  5. 核燃料サイクル開発機構 (2002): 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発-平成13年度報告-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN1400 2002-003.

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