1_6_4 地下水流動状態の長期変動性の評価
達成目標

地層処分の安全評価は,処分施設閉鎖後の数万年以上に及ぶ長期間を対象として実施されます。数万年以上の時間スケールを評価の対象とした場合,地形変化および気候変動の影響は,緩慢ではあるものの累積的かつ広域に及ぶため,それらの影響により地下深部の地下水流動状態が変化することが懸念されます。そのため,地形変化や気候変動が地下水流動状態に及ぼす影響の程度や空間的な広がりを定量的に評価することを目標とします。

方法・ノウハウ

図1に,地形変化や気候変動が地下水流動状態に及ぼす影響を評価するための考え方や手法を示します。ここでは,解析条件が異なる複数の定常状態の地下水流動解析結果(定常解析)から算出した変動係数という指標を用いて地下水流動状態が受ける影響を数値化します。変動係数はあるデータの標準偏差を平均値で除したものであり,値が小さいほどデータの平均値に対する相対的なばらつきが小さい,つまり解析条件の違いの影響を受けていないと評価することができます。ただし,この評価結果は地下水流動状態が影響を受けにくい場所を意味しており,必ずしも地下水の流れが遅い領域ではないことに留意する必要があります。

①地形変化と気候変動の推定:

②地下水流動のモデル化・解析:

③地下水流動状態の長期変動性の評価:

地下水流動状態の長期変動性評価のアプローチ手法の流れは次のとおり。1.地形変化と気候変動を推定する。地形・地質発達史に基づく特徴的な 時間断面での古地形の三次元分布を推定し,地表環境の変遷に基づく温暖期と寒冷期の涵養量を推定する。これによって得られた子地形モデルと涵養量から,水理地質構造モデルの境界条件を把握し,2.地下水流動のモデル化・解析を行う。各時間断面の水理地質構造モデルを構築し,三次元地下水流動解析を実施,続いて粒子追跡線解析を行う。得られた地下水流動状態(地下水の流速,移行時間など)から,3.過去から現在までの地下水流動状態の長期変動性を評価する。変動係数に着目したデータ分析を実施し,地下水流動状態の長期変動性の空間分布を把握する。外挿法による将来予測により,4.将来の地下水流動状態の長期変動性を評価する。地下水流動状態が影響を受けにくい地域を特定する。
図1 地下水流動状態の長期変動性評価のアプローチ
東濃地域における実施例1)

図2に示す東濃地域を事例に,過去100万年間の地形変化や気候変動条件を推定し,それらが地下水流動状態に及ぼす影響を評価しました。その結果,以下のことが明らかになりました。

東濃地域を含む100km四方の地形図。左上にどの色が標高何メートルにあたるかの凡例と方位,0から10kmのスケールがある。凡例では標高0~149mが水色,150~299mが若芽色,300~449mが薄緑色,450~599mが抹茶色,600~749mが江戸茶,750~999mが小豆色,1000~1499mが灰茶,1500~1999mが灰色,2000~3067mが白色となっている。地図の右下には日本列島の地図があり,本州の中央からやや南西が東濃地域になることを示している。地図の北部中央に御嶽山,その南に阿寺山地と阿寺断層がある。阿寺山地の東には清内路峠断層,木曽山脈,木曽山脈山麓断層帯,川路・竜丘断層が記載されている。地図の中心から南に屏風山断層と恵那山断層がある。地図の中心から南西部分には赤河断層,権現山断層,月吉断層,山田断層帯,華立断層,笠原断層,猿投山北断層がある。黄色の線でそれぞれの断層のトレース長が書き込まれている。北東から南西に流れる川は北から順に飛騨川,木曽川,土岐川である。御嶽山と清内路峠断層北端,川路・竜丘断層を含む地域から南西に向かって濃尾平野に至るまでがリージョナルスケール領域となっている。地図下半中央からやや西よりに縦約18km横約22kmの土岐川流域を示す境界線があり,その中に10km四方のローカルスケール領域を示す境界線がある。ローカルスケール領域の北北東500mの土岐川流域境界をA,ローカルスケール領域中央やや西をB,そこから南南西10km弱の土岐川流域境界をCとし,その3点を結ぶ破線が書かれている。
図2 東濃地域を事例とした領域設定
ローカルスケール領域は地下水流動状態を評価する10km四方の領域です。リージョナルスケール領域は地下水流動状態を評価するために必要な定常解析を実施する領域です。土岐川流域は,地形や地質を含めた過去から現在までの地質環境の長期変遷を解析するために設定した領域です。
図2で示されたA-B-Cの3点の鉛直断面図が縦に2枚並んでいる。上にある(a)図は涵養域から評価場所までの地下水の移行時間を,下の(b)図は地形変化と気候変動が地下水の移行時間に及ぼす影響の推定結果を示す。A地点の標高500mからB地点に向かい徐々に標高は下がり,B地点の手前には月吉断層がある。B地点を越えた中央の土岐川で地表の標高は一番低くなっている。そこからC地点に向かうとゆるやかに標高はあがり,途中に山田断層帯がある。山田断層帯を超えて1.5kmほどすると傾きが大きくなる。ローカルスケール領域を出ると標高は少し下がる。下がってから標高の変化は無くなり,下がってすぐに標高の変化が無くなり,猿投山北断層を横切る。2kmほど進んだ恵那山断層付近から再度標高が高くなり,C地点では標高500mを超える。A地点とB地点の地質構造は,中央よりA地点側ではほぼ基盤岩となり,B地点側では徐々に堆積岩の割合が増え,B地点側の中央では標高300m付近から0m付近までが堆積岩となり,地表付近に堆積層が存在する。B地点からC地点までの地質構造は,B地点付近の600mほどまでの地表付近では堆積岩の割合が徐々に減り,代わりに堆積層の割合が増えていく。山田断層帯を越えると堆積層は減少し,すべて基盤岩となる。ローカルスケール領域外の猿投山北断層と恵那山断層の間の地表付近では堆積層が見られる。標高0m付近から下は基盤岩となっている。(a)図では地下水の移行時間が0から1000万年で色分けされている。凡例では10年が濃紫,100年が紫,1000年が水色,1万年が緑,10万年が黄緑,100万年が橙,1000万年が赤となり,徐々に色が変化している。リージョナルスケールの両端の地表付近では地下水の移行時間は1000年を超え,中央の土岐川に向かうにつれ,また,標高が下がっていくにつれ,緑,黄,橙と色が変化している。土岐川直下では地表近くですでに橙色となっており,標高-200m付近から濃い橙色になっている。土岐川を中心に幅3kmの領域の標高-200m以深は地下水の移行時間が100万年を超え,地下水の流れが遅い領域となる。(b)図ではローカルスケール領域内が変動係数で色分けされている。凡例は0~20%が青,20~40%が青紫,40~60%が薄紫,60~80%が薄桃,80~100%が桃,100%超が赤となっている。A地点から山田断層帯の手前までは中韓地点の標高300m付近から100m付近までに60~80%を表す薄い桃色の部分が存在し,続いて40~60%の薄紫が存在する。さらに標高が下がるにつれ20~40%の紫となり,標高-500~1000mでは0~20%を示す青色の部分ががひょうたんの形で存在する。月吉断層を中心として標高-200m付近から-1000m付近までの幅7kmは変動係数が相対的に小さい領域となる。山田断層帯の手前からローカルスケール領域のC地点側の境界線の地質構造は,ローカルスケール領域の境界線からB地点に向かって山田断層帯を越えるまでの地表付近では80~100%の桃色の層が深さ1km弱で存在する。その下に60~80%を示す薄桃色の層があり,さらに深部ではほとんどが40~60%の薄紫である。
図3 地下深部の地下水流動状態の評価結果
(a)は涵養域から評価場所までの地下水の移行時間を,
(b)は地形変化と気候変動が地下水の移行時間に及ぼす影響の推定結果を示します。
これらの図は,図2に示したローカルスケール領域におけるA-B-C位置の鉛直断面です。

※本成果は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部です。

参考文献
  1. 尾上博則,小坂寛,松岡稔幸,小松哲也,竹内竜史,岩月輝希,安江健一 (2019): 長期的な地形変化と機構変動による地下水流動状態の変動性評価手法の構築,原子力バックエンド研究,Vol.26,No.1,2019,pp.3-14
  2. 日本原子力研究開発機構 (2017): 平成28年度 地層処分技術調査等事業 地質環境長期安定性評価確証技術開発 報告書,330p.
  3. 日本原子力研究開発機構 (2016): 平成27年度 地層処分技術調査等事業 地質環境長期安定性評価確証技術開発 報告書,276p.
  4. Iwatsuki, T., Furue, R., Mie, H., Ioka, S. and Mizuno, T. (2005): Hydrochemical baseline condition of groundwater at the Mizunami underground research laboratory (MIU), Appl. Geochem, 20, pp.2283-2302.
  5. Iwatsuki, T., Xu, S., Itoh, S., Abe, M. and Watanabe, M. (2000): Estimation of relative groundwater age in the granite at the Tono research site, central Japan, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B, 172, pp.524-529.
  6. 電力中央研究所 (2013): 平成24年度 地層処分技術調査等事業 岩盤中地下水移行評価技術高度化開発-地下水年代測定技術開発-報告書,421p.
  7. Metcalfe, R., Hama, K., Amano, K., Iwatsuki, T. and Saegusa, H. (2003): Geochemical approaches to understanding a deep groundwater flow system in the Tono area, Gifu-ken, Japan. In: Groundwater Engineering - Recent Advances: Proceedings of the International Symposium, Okayama, Japan, May 2003, 1st edn. (Kono, I., Nishigaki, M. and Komatsu, M. ed.) CRC Press, pp.555-561.

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