1_6_5 地下水流動の長期変遷モデル
達成目標
地下水流動は,地形分布,涵養量,海水準,水理地質構造の分布やその透水性などの影響を受けます。数万年以上の時間スケールを評価の対象とした場合,これらの影響因子の変化に伴って地下水流動は非定常に変化することが考えられます。そのため,これらの影響因子が地下水流動に及ぼす長期的な変化を連続的に考慮可能な数値モデルを構築することを目標とします。
方法・ノウハウ
地層処分事業における自然現象の将来予測においては,過去から現在までの地質環境の変動傾向を明らかにし,その傾向を将来へ外挿する外挿法が有効な手法と考えられています1)。この外挿法を適用するにあたっては,将来予測の前提となる過去から現在までの変動傾向の推定が重要となります。過去から現在までの変動傾向は,地下水流動状態の長期変動性の評価手法2)(1_6_4)を用いて推定することも可能ですが,ここでは地形変化などの影響因子の変化を連続的に考慮した解析手法(SMS;Sequential Modeling System of geological evolution impact on groundwater flow3))について説明します。
①SMSの概要:
- SMSとは,図1に示すように複数の時間断面における地形変化や水理特性の変化,気候変動を考慮できるとともに,海面変化と地下水涵養量の変化を連動させた地下水流動特性と塩分濃度分布の長期的な変化を連続的に評価可能な地下水流動解析手法である。
②影響因子の変化の推定:
- SMSで解析を行うには,評価対象期間内における複数の時間断面の水理地質構造モデルを構築する必要がある。そのために,評価対象期間内の影響因子の変化を時系列で整理する。
- 地下水流動の駆動力となる動水勾配は,主に地表の地形分布に支配されているため,評価対象期間内の地形分布の変化は,必ず考慮すべき影響因子であり,地史などに基づき設定が可能である。
- 海水準や涵養量の変化については,氷期・間氷期サイクル例えば4)に基づき設定が可能である。
- 水理地質構造の分布形状や水理特性の変化に関する情報がある場合は,それらの時間変化についても整理する。
③水理地質構造モデルの構築:
- 評価対象期間内の影響因子の変化に基づき,SMSに考慮すべき時間断面を抽出し,その時間断面における水理地質構造モデルを構築する。
④地下水流動/移流分散解析の実施:
- ③で構築した水理地質構造モデルを用いて非定常の地下水流動/移流分散解析を実施する。最初の時間断面の解析結果を次の時間断面の初期条件として引き継ぐことで影響因子の変化を連続的に考慮する。
⑤解析結果の妥当性確認:
- 地下水の水質などの地球化学特性データは,地下水の起源や地下水が流動してきた地質条件や滞留時間などの情報を有していることから,地球化学特性データから推定された地下水年代などの情報に基づき解析結果の妥当性確認やモデルの更新を行う。
東濃地域における実施例5)
東濃地域の土岐川流域(1_6_4の図2)を事例に,過去100万年間の地形変化や気候変動条件を推定し,SMSで地下水流動/移流分散解析を実施しました。その結果,以下のことが明らかになりました。
- 地下水流動解析の結果,瑞浪超深地層研究所周辺の標高-100m~-200mの場所で9千年程度,標高-300mの場所で1.5万年程度の地下水の滞留時間であることが推定できた。これは,14C濃度に基づく地下水の滞留時間の推定結果(数万年程度)6)と整合的な結果である。
- 移流分散解析の結果,100万年の間,地下水中の塩分が洗い出されない相対的な地下水の滞留域(山田断層帯と月吉断層で囲まれた領域など)と,塩分が完全に洗い出される地下水の流動域の空間分布やその時間変遷を推定することができた(図2)。滞留域や流動域といった地下水流動場の推定結果は,地下水の水質分析結果例えば7),8)や地下水流動状態の長期変動性の評価結果2)(1_6_4)とも整合している。
- 14C濃度に基づき推定した地下水年代は,水理地質構造モデルや地下水流動解析の妥当性確認および更新に有効である。
- これらにより,上記に示したSMSを用いた一連の流れが,過去の地下水中の塩分濃度条件や過去から現在までの地下水流動状態の変化を考慮した地下水中の塩分濃度の変動プロセスを推定する方法として有効であることが確認できた(図3)。


※本成果は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部です。
参考文献
- 原子力発電環境整備機構 (2011): 地層処分事業の安全確保(2010年度版)‐確かな技術による安全な地層処分の実現のために‐,NUMO-TR-11-01,770p.
- 尾上博則,小坂寛,松岡稔幸,小松哲也,竹内竜史,岩月輝希,安江健一 (2019): 長期的な地形変化と機構変動による地下水流動状態の変動性評価手法の構築,原子力バックエンド研究,Vol.26,No.1,pp.3-14.
- 今井久,山下亮,塩﨑功,浦野和彦,笠博義,丸山能生,新里忠史,前川恵輔 (2009): 地下水流動に対する地質環境の長期変遷の影響に関する研究,日本原子力研究開発機構,JAEA-Research 2009-001,116p.
- Rohling, E.L., Foster, G.L., Grant, K.M., Marino, G., Roberts, A.P., Tamisiea, M.E. and Williams, F. (2014): Sea-level and deep-sea-temperature variability over the past 5.3 million years, Nature, vol.508, pp.477-482.
- 日本原子力研究開発機構 (2017): 平成28年度地層処分技術調査等事業地質環境長期安定性評価確証技術開発報告書,経済産業省資源エネルギー庁,230p.
- 電力中央研究所 (2013): 平成24年度 地層処分技術調査等事業 岩盤中地下水移行評価技術高度化開発-地下水年代測定技術開発-報告書,421p.
- Iwatsuki, T., Furue, R., Mie, H., Ioka, S. and Mizuno, T. (2005): Hydrochemical baseline condition of groundwater at the Mizunami underground research laboratory (MIU). Appl. Geochem, 20, pp.2283-2302.
- Iwatsuki, T., Xu, S., Itoh, S., Abe, M. and Watanabe, M. (2000): Estimation of relative groundwater age in the granite at the Tono research site, central Japan, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B, 172, pp.524-529.