4_7_21 地下施設で使用するセメント材料が地下水の水質に与える影響の評価方法の提案
ポイント
概要

地下施設の建設・操業時には,高透水性の水理地質構造を対象としたグラウトや作業安全確保のための吹付けコンクリート支保工などにセメント材料が使用される可能性があります。施設閉鎖後,これらのセメント材料に地下水が浸透するとセメント成分の溶解により,坑道の周囲にアルカリ性地下水が分布する領域が形成されることが予想されます。放射性元素の移動プロセスは地下水の化学条件に影響を受けるため,セメント材料により形成される化学条件やその長期的な変化の予測手法を確立することが必要とされています。

本研究では,深度500mの花崗岩に掘削した坑道(図1)を閉鎖する実規模原位置実験を行い,閉鎖坑道内の水質観察,吹付けコンクリートの分析,それらに基づく水質再現解析を行うことで,地下水のアルカリ化に関わる主要な反応鉱物種を同定し,更にそれらの反応量を見積もることで,坑道閉鎖後のセメント材料の化学影響解析手法を提示しました。

内容

試験では,2016年1月から2017年9月まで約1年8か月にわたって坑道を閉鎖し,冠水坑道内および周辺モニタリング孔の各観測点において水質の変化を観測しました。また,坑道の壁面に吹付けられたセメント材料を採取し,坑道閉鎖中の地下水との反応に伴う組成変化について分析しました。

冠水坑道内の地下水のpHは当初の8.9付近から最終的には10付近で定常状態となりました(図2)。鉱物-水反応によりその濃度が変化しにくいCl濃度の経時変化から,時間とともに相対的にCl濃度の低い地下水が冠水坑道に流入しており冠水坑道内の地下水の水質は,水質の異なる2つの地下水の混合状態を反映していると考えられました。また,Na,K,SO4濃度などの経時変化については,混合プロセスに加えて鉱物-水反応,微生物反応の影響も受けていると考えられました。

冠水坑道内外のセメント材料を分析したところ,それぞれの試料の表面付近に大気による変質層(アルカリ成分が消失する中性化フロント)が認められました(図3)。坑道建設時期と中性化フロントの深さを比較した結果,大気との反応により10年間で約2㎝,中性化フロントが進展することが判りました。また,坑道閉鎖後の地下水との反応により,コンクリート内部のポルトランダイトという鉱物がカルサイトという鉱物に徐々に変質している状態が認められました。

地下水の混合状態と様々な鉱物の変質状態の観察結果に基づいて,地球化学計算コード(PHREEQC)により坑道内の水質変化の再現解析を行いました。解析では,各時点の地下水に対する様々な鉱物の反応度を事前に見積り,様々な鉱物-水反応を仮定してフィッティング計算を行うという工夫をしました。その結果,アモルファスシリカ,カルサイト,ギブサイト,ポルトランダイト,エトリンガイトといった鉱物の溶解・沈殿反応を仮定することで,水質の経時変化を再現できることが判りました(図2)。

本研究で構築した解析手法は,トンネルや坑道など様々な地下施設で使用されるセメント材料の長期的な化学影響の予測に利用することができます。

表1 冠水坑道の緒元および吹付けコンクリート配合比
冠水坑道の緒元
坑道容積 900m³
坑道壁面表面積 553m²
吹付けコンクリート容積
(吹付け厚5cmと仮定した最小値)
28m³
吹付けコンクリート配合比
普通ポルトランドセメント 450kg/m³
練り混ぜ水 203kg/m³
細骨材(砂) 1047kg/m³
粗骨材(砕石) 647kg/m³
原位置実規模試験坑道(冠水坑道)と観測孔のレイアウト図
図1 原位置実規模試験坑道(冠水坑道)と観測孔のレイアウト
坑道閉鎖中の地下水の水質変化図
図2 坑道閉鎖中の地下水の水質変化
坑道壁面のコンクリートの変質状態の画像
図3 坑道壁面のコンクリートの変質状態
参考文献
  1. 岩月輝希,柴田真仁,村上裕晃,渡辺勇輔,福田健二 (2019): 地下施設で使用する吹付けコンクリートが地下水水質に与える影響 -地球化学計算コードによる評価方法の提案-,土木学会論文集G(環境),75巻,pp.42-54.

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