4_7_16 花崗岩中のモード組成の新たな評価手法の構築
ポイント
概要

花崗岩のモード組成は,岩石の基礎的な情報であり,多くの現場調査の初期段階で取得する情報です。また,モード組成は岩石の形成過程,局所的な割れ目の分布や岩石基質中の物質移動現象を検討する上でも重要な情報です。モード組成を定量的に把握する方法としては,岩石薄片中の鉱物を一定間隔で数千点計数し,構成鉱物の割合を把握する手法(ポイントカウンティング法)が一般的です。しかし,ポイントカウンティング法には測定者の鉱物判定能力に結果が左右されるといった点や,測定に数時間拘束されるといった難点があります。そのため,これまでにポイントカウンティング法に代わる手法として,岩石チップのスキャン画像,偏光顕微鏡画像や電子顕微鏡画像などを用いた画像解析手法,鉱物の多点分析結果を用いた解析手法などが提案されています2-6)など表1)。しかし,いずれの手法も鉱物粒径の大きな花崗岩に適用する上では,表1に示すような課題があります。そこで,本研究では,走査型X線分析顕微鏡(SXAM)で取得できる広範囲(数十cm×数十cm)の元素分布画像(元素分布図)に着目し,鉱物個々の化学組成の不均質性を考慮しつつ鉱物種を同定する手法を検討しました。その結果,二次鉱物の分布と量も評価可能な客観的かつ簡便に花崗岩のモード組成を評価できる新たな手法を構築できました。

内容

本研究では,以下を実施し,本手法の妥当性を検証しました。

なお,実試料としては,瑞浪超深地層研究所で取得した2つの岩石試料(肉眼観察で熱水変質を被っている試料と被っていない試料)を対象としました。

検討に用いた元素分布図は,SXAMを用いて表2に示す仕様で取得しました。検討したモード組成の評価手法と各種計算のイメージを図1に示します。具体的には,1)顕微鏡観察で把握した各鉱物からの元素ごとのX線強度の分布関数の推定,2)推定した分布関数に基づく各画素が鉱物iである確率(MPi)の算出,3)MPiの最も高い鉱物種をその画素の鉱物種として決定,といった流れで鉱物分布図を構築し,各鉱物の画素数によってモード組成を算出します。1)では,X線強度の分布を正規分布と仮定し,最小二乗法で分布関数を推定することで,バラつきを考慮できるようにしました。正規分布は標準偏差が大きいほど,期待値(中央値)での確率(確率密度)が低下します。MPiは,画素ごとに“ある元素”における“ある鉱物”である確率を掛け合わせた値として算出します(図1)。そのため,各元素の標準偏差が大きいとMPiが小さな値となってしまい,適切に鉱物が同定されなくなります。そこで,本研究では,各元素における正規分布の期待値での確率密度を1にしてMPiを算出し,鉱物が適切に同定されるようにしました(具体的なイメージは図1参照のこと)。

本手法を実試料に適用した結果,SXAMでの測定時間によって,測定ビーム径よりも小さな二次鉱物のモード組成が変動する傾向が確認できました(図2)。これは,測定時間が長くなると,測定ビーム径よりも微細な鉱物の元素の分布範囲が,実際とは異なってしまうことに起因すると考えられます。図3を例として示しますと,画素A周りには数十μm径の絹雲母と緑泥石が分布しますが,測定時間が長い場合(下段)では,前後約100m範囲の画素中に絹雲母中のKや緑泥石中のFeが分布する測定結果となり,画素Aは本来の斜長石ではなく黒雲母といった異なる鉱物と推定されてしまいます。このような測定上の問題も加味しますと,ポイントカウンティング法との比較の結果から,10,000秒程度(約3時間)の測定時間が最適であることが確認できました(図4)。

SXAMを用いた既存の手法5)では,各元素のX線強度分布のバラつきを考慮することが困難だったことから,SXAMでの測定時間として48時間以上が必要とされていました。しかし,本研究では各鉱物からの元素ごとのX強度分布バラつきを考慮したことで約3時間程度にまで測定時間を短縮でました。なお,本手法は測定者の拘束時間としては,SXAMへの試料のセット,データ回収,データの解析を合わせても,解析コードを構築してしまえば数十分程度であり,簡易な手法であるといえます。

また,本手法は電子顕微鏡を用いて取得した元素分布図にも適用可能であると考えられ,今後の適用の拡大が期待できます。

表1 既存のモード組成を推定する手法の例と花崗岩のモード組成把握にむけた課題
測定手法 測定手法の概要 花崗岩のモード組成把握にむけた課題
ポイントカウント法 偏光顕微鏡を用いて一定間隔で鉱物種を同定し,数千点の計数結果からモード組成を推定する手法 測定者の技量で結果が変わるといった不確実性があると共に測定に係る拘束時朋が長い
画像解析手法
   
対象画像 可視・顕微鏡画像2, 3)など 岩石チップのスキャン画像や偏光顕微鏡画像等を用いて色調の差で鉱物種を推定し画素数でモード組成を推定する手法 鉱物内の色調がバラつくため,異種鉱物間の色が類似しており,判別が困難
電子顕微鏡の画像 BSE像の輝度の差を用いて鉱物種を推定し,画素数でモード組成を推定する手法 観察面積が狭く(数mm程度),花崗岩のモード組成を把握する上で必要な面積を確保することが困難
走査型X線分析顕微鏡の元素分布図5)など SXAMで取得した元素分布図を用いて,元素分布から鉱物種を推定しモード組成を推定する手法 既存の手法では,初生鉱物の化学組成と類似した組成を有する二次鉱物(例えば熱水性鉱物)の評価が困難
元素の多点分析6)など XRFやEPMAで取得した多点元素分析の結果を用いて数値解析によって鉱物種を推定し,モード組成を推定する手法 鉱物個々の元素濃度の不均質性を考慮することが困難
表2 SXAMの測定の仕様等
機器 HORIBA XGT-5000
管電圧・管電流 15kV, 1mA
蛍光X線検出器 高純度Si検出器
ビーム径 100µm
測定範囲(画素数) 3cm×3cm  (512×512)
総測定時間 4,800秒,10,000秒,20,000秒,40,000秒,80,000秒
(約2,3,6,12,24時間)
測定対象元素 Al,Si,K,Ca,Fe
鉱物分布図作成フローと具体的な推定方法のイメージ
図1 鉱物分布図作成フローと具体的な推定方法のイメージ
本手法を適用した岩石薄片の偏光顕微鏡写真およびSXAMでの測定時間ごとの元素分布図に基づき構築した鉱物分布図
図2 本手法を適用した岩石薄片の偏光顕微鏡写真およびSXAMでの測定時間ごとの元素分布図に基づき構築した鉱物分布図
単位測定時間ごとの元素分布の測定結果と鉱物分布図の構築結果の差の概念図
図3 単位測定時間ごとの元素分布の測定結果と鉱物分布図の構築結果の差の概念図
Qtzは石英,Plは斜長石,Btは黒雲母,Chlは緑泥石,Serは絹雲母を示す。
ポイントカウンティング法および鉱物分布図から推定したモード組成の比較結果図
図4 ポイントカウンティング法および鉱物分布図から推定したモード組成の比較結果
参考文献
  1. 石橋正祐紀,湯口貴史 (2017): 花崗岩類中の鉱物分布および鉱物組合せとその量比(モード組成)の新たな評価手法の構築:走査型X線分析顕微鏡で取得した元素分布図を用いた画像解析,応用地質,58巻,pp.80-93.
  2. 升本真二,森邦夫,弘原海清 (1982):  デジタル画像処理の岩石記載への適用,情報地質,7号,pp.55-66.
  3. 西本昌司 (1996):  画像処理ソフト“Photoshop TM”を用いた花崗岩質岩石のモード測定,岩鉱,91巻,6号,pp.235-241.
  4. Robinson B.W. and Nickel E.H. (1983): The SEM examination of geological samples with a semiconductor back-scattered electron detector: discussion,American Mineralogist,68,pp.840-842.
  5. 戸上昭司,高野雅夫,道林克禎,村上雅美,熊澤峰夫(1998):  走査型X線分析顕微鏡画像の解析による鉱物分布画像の作成,鉱物学雑誌,27,pp.203-212.
  6. 平岡義博 (1996): 全岩および鉱物化学組成値を用いたモード(重量%)分析-比叡・比良・鞍馬の花崗岩質岩石を例に-,岩鉱,91,pp.123-132.

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