4_7_2 花崗岩体中における割れ目形成メカニズムの解明を目指して -花崗岩体の初期冷却が割れ目分布に与える影響-
ポイント
- 中部日本の土岐花崗岩体を対象に,岩体中に分布する割れ目の形成メカニズムを明らかにしました。
- 花崗岩体の初期冷却が,割れ目分布に大きな影響を与えることを明らかにしました。
概要
花崗岩体(結晶質岩体)中には,割れ目が発達します。花崗岩体における地層処分システムの安全評価においては,割れ目の分布特性を把握することが重要となります。これは,割れ目が物質移動経路となるためです。割れ目の分布特性を理解するために,花崗岩質マグマの冷却の様子に着目しました。
花崗岩体の冷却の際に生じる岩体内での温度差は,収縮による体積差『冷却歪』をもたらします。私たちの先行研究により,花崗岩体中には冷却様式を知るための指標となるマイクロメートルスケール(1/1000㎜)の微組織(ミルメカイト;図1)があることが分かっています。私たちは,この微組織から冷却歪を評価する手法を構築しました。
実際に,中部地方に位置する土岐花崗岩体中の『冷却歪(図2)』と『割れ目の頻度(図3)』を比較してみました。その結果,割れ目頻度の高い領域で大きな冷却歪を持つという相関が認められました(たとえば,図2の寒色域が図3の暖色域と良い一致を示します)。この相関から,冷却歪をもたらす岩体の初期冷却が割れ目分布を支配する要因の1つであることが分かりました。
内容
本研究では,割れ目の分布特性を論じる上で,花崗岩質マグマの冷却の様子に着目しました。なぜなら,花崗岩体の冷却の際に生じる岩体内での温度差は,収縮による体積差『冷却歪』をもたらします。この冷却歪が,割れ目を生成する原因であると考えたためです。
私たちの先行研究により,花崗岩体中には冷却様式を知るための指標となるμmスケールの微組織(ミルメカイト;図1)があることが分かっています。私たちは,この微組織から冷却歪を評価する手法を構築しました。これは実際には観察できない過去の冷却という現象を定量的に評価する画期的な方法です。
中部地方に位置する土岐花崗岩体中の約19本のボーリングコアから,約670点の微組織のデータを抽出し,そこから導き出した『冷却歪』(図2)および『割れ目頻度』(図3)の空間分布の相関性を明らかにしました。その結果,割れ目頻度の高い領域で大きな冷却歪を持つという相関が認められました(たとえば図2と図3中の中央部など)。この相関は,割れ目の発生が冷却歪という概念によって説明できることを表しており,岩体の初期冷却が割れ目分布を支配する主たる要因の1つであることを示しています。また同時に,μmスケールの微組織から岩体中のkmオーダーの割れ目分布頻度を定量的に評価できるという新たな知見を得ました。このような岩体中の微組織を用いた割れ目頻度の評価手法の構築は世界初の成果です。
今後は,本研究の成果を踏まえ,さらに踏み込んだ花崗岩体の形成過程(特にマグマの貫入・定置過程)の理解を目指します。貫入・定置過程に起因する花崗岩体の岩相や化学組成の相違は,岩体の物性の相違となります。この物性の相違は,断層や割れ目を発達させる構造運動の際に,応力の集中や解放に影響を与えると考えられるためです。このようにして,より分解能の高い割れ目の分布特性および割れ目の形成・発達メカニズムの解明を目指します。
参考文献
- Yuguchi, T., Tagami, M., Tsuruta, T., Nishiyama, T. (2012): Three-dimensional fracture distribution in relation to local cooling rate in a granitic body: An example from the Toki granitic pluton, Central Japan, ENGINEERING GEOLOGY, vol.149-150, pp.35-46.