4_7_25 マグマ由来の流体による微小な割れ目網が地下水の流路に-世界初,白亜紀の花崗岩中に超臨界流体の痕跡を発見-
ポイント
概要

花崗岩の中では,割れ目が発達して地下水の流路となっていることがあります。従来,割れ目の発達は,地殻変動に伴う断層運動によって生じると考えられてきました。また,岩石の変形様式が塑性変形(元に戻らない変形)に変わる温度(350℃)を超えた岩盤には割れ目ができにくく,流路が存在しないと考えられてきました。一方で,割れ目が発達していないにもかかわらず地下水が流れやすい岩盤があり,その原因は明らかになっていませんでした。近年,地熱分野では,450℃の岩盤中に超臨界流体の流路が存在することが報告されています。しかし,この報告では,具体的な流体の流れ易さ(透水性)の情報は得られていませんでした。このため,痕跡の発見と岩盤中の流路の詳しい調査が課題となっていました。

本研究では,1,000m級の大深度ボーリング調査により得られた岩石試料を利用して,白亜紀の花崗岩中に保存されていた超臨界流体(当時の温度は約700℃)の痕跡を世界で初めて発見しました。さらに,超臨界流体の痕跡付近では,透水性が比較的高く,この痕跡の周りに発達しているマイクロフラクチャネットワークが地下水の流路になっていることを明らかにしました。

今後は,超臨界流体による岩盤への影響やその特徴をさらに詳しく調べ,熱水や断層の影響との違いについて識別精度を向上させることによって,地質環境の長期変遷の解析技術を向上させていきます。

なお,本研究成果は2019年8月に国際論文誌「Geofluids,2019,2019巻」に掲載されました。

内容

研究開発の背景と目的

花崗岩は日本列島において最も広範囲に分布する岩石です。これまで,花崗岩における地下水の流路の形成は,断層運動に伴う割れ目の発達が主たる要因と考えられてきました1)。一方,火成活動に伴い高温の岩盤で生じる割れ目は,貫入岩や,岩盤の塑性変形によって塞がれるため,地下水などの流路にはならないと考えられ,ほとんど注目されていませんでした。最近の地熱分野の研究では,450℃の下部地殻で高透水化(地下水などの流体が流れやすくなること)が生じていることがわかってきており,そのメカニズムの解明のための室内試験が行われています2)。ただし,高温の地下の岩盤を直接調べることができないため,超臨界流体が,岩盤にどのような影響を及ぼすのかについてはわかっていませんでした。そこで,温度が低下した古い岩盤に超臨界流体の痕跡をみつけられれば,これらを詳しく調査できる可能性がありました。本研究では,深度1,000m級のボーリング孔から採取された岩石試料を用いて,花崗岩中の超臨界流体の痕跡の発見と,流路の形成原因の解明を主な目的とした研究に取り組んできました。

研究の成果

本研究では,以下の三つの課題に取り組みました。

一つ目の課題は,超臨界流体の痕跡の発見です。超臨界流体の痕跡としては,開口割れ目中の自形(鉱物固有の結晶の形)のホルンブレンド(高温で生成される鉱物の一種)や石英結晶中の流体包有物(鉱物中に取り込まれた流体)が知られています3)。しかし,これらの古い痕跡は,断層活動や風化による変質を受けやすく,地表での発見は困難です。そこで,岐阜県東濃地域の花崗岩(土岐花崗岩)を対象に実施した深度1,000m級のボーリング調査によって採取された岩石試料(延べ約3,000m)を使って,割れ目中の鉱物の肉眼観察と岩石薄片試料の顕微鏡観察(図1)を行いました。その結果,深度550m付近で採取された岩石試料に,超臨界流体の痕跡と考えられるホルンブレンドを伴う割れ目を発見しました(図2左)。

二つ目の課題は,超臨界流体の温度の見積です。

超臨界流体の痕跡かどうかを判断するには,超臨界流体によって形成された鉱物を特定し,温度を見積る必要があります。本研究では,光学顕微鏡観察により超臨界流体によって形成された鉱物(ホルンブレンドと斜長石)を特定し,その化学組成を電子プローブ微小分析装置で分析するとともに,地質温度計(鉱物の化学成分濃度などから鉱物の生成温度を求める方法)を用いた解析を行いました。その結果,超臨界流体の温度は約700℃,超臨界流体の起源と考えらえる貫入岩の温度と圧力はそれぞれ約700℃と4kb(深度10〜15kmの地温と地圧に相当)と見積もられました。

三つ目の課題は,地下深部の岩盤の透水性の把握と高透水化の原因の解明です。

まず,上記のボーリング孔において,原子力機構が開発した1,000m対応水理試験装置※3により取得されていた水理試験データ4)を利用して,地下深部の岩盤の透水性の分布を整理しました。超臨界流体の痕跡が発見された深度550m付近の花崗岩は,顕著な割れ目が観察されないにもかかわらず比較的高い透水性を示していました(透水係数:10-7(m/s))。当該部分の花崗岩組織の顕微鏡観察の結果,石英や長石の鉱物の結晶粒界に,開口したマイクロフラクチャが観察されました。さらに,電子顕微鏡によりマイクロフラクチャがネットワーク状に発達していることを確認しました。マイクロフラクチャの一部には,超臨界流体の痕跡と考えられるホルンブレンドの自形結晶や石英結晶中の流体包有物(図1)が認められました。これらのことから,超臨界流体によって花崗岩中にマイクロフラクチャネットワークが発達し,それらが現在まで保存されて,岩盤の高い透水性の原因になったと考えられます。

今後の期待

今後は,超臨界流体による岩盤への影響やその特徴をさらに詳しく調べ,熱水や断層の影響との違いについて識別精度を向上させることによって,地質環境の長期変遷解析技術の高度化への寄与が期待されます。そのほか,超臨界流体の痕跡に関する研究は,地下深部における流体の移動や,それに伴う微小地震などの現象の理解に繋がることが期待されます。

岩石薄片試料に認められた超臨界流体の痕跡の光学顕微鏡写真<
図1 岩石薄片試料に認められた超臨界流体の痕跡の光学顕微鏡写真
左:開口割れ目中の自形ホルンブレンド(緑色の鉱物),右:石英結晶中の流体包有物
左:超臨界流体の流路の痕跡(白矢印),右:鉱物の化学組成を用いた温度圧力解析の結果の画像
図2 左:超臨界流体の流路の痕跡(白矢印),右:鉱物の化学組成を用いた温度圧力解析の結果
(超臨界流体の痕跡である鉱物(ホルンブレンドと斜長石)は,開口幅約3mmの割れ目中に認められた(左)。超臨界流体の温度は,ホルンブレンドと斜長石の化学組成から約700℃(黒矢印)と見積もられた(右)。
用語解説
※1 超臨界流体
地下深部の高温のマグマや溶岩から発生し,粘性が低く,水よりも気体に近い性質を持つ高温の流体。水を主成分としており,塩素,硫黄,フッ素などを含むと岩石を溶かす能力が高くなる。低密度のため上昇し,温度低下(374℃未満)に伴い熱水に変わる。
※2 マイクロフラクチャ
顕微鏡観察により認められる微小な割れ目。
※3 1,000m対応水理試験装置
ボーリング孔を利用して地下1,000mまでの岩盤の透水性を高精度で調べることができる装置。最大70℃までの耐温度性能を有している。
参考文献
  1. Faulkner, D.R., Jackson, C.A.L., Lunn, R.J., Schlische, R.W., Shipton, Z.K., Wibberley, C.A.J., Withjack, M.O. (2010): A review of recent developments concerning the structure, mechanics and fluid flow properties of fault zones, Journal of Structural Geology, 32(11), pp.1557-1575.
  2. Watanabe, N., Numakura, T., Sakaguchi, K., Saishu, H., Okamoto, A., Ingebritsen, S.E. and Tsuchiya, N. (2017): Potentially exploitable supercritical geothermal resources in the ductile crust, Nature Geoscience, 10, pp.140-144.
  3. Tsuchiya, N., Yamada, R., and Uno, M. (2016): Supercritical geothermal reservoir revealed by a granite-porphyry system, Geothermics, 63, pp.182–194.
  4. 尾上博則,竹内竜史 (2016): 超深地層研究所計画における単孔式水理試験結果,日本原子力研究開発機構,JAEA-Data/Code 2016-012,46p.

PAGE TOP