環境にやさしく安全で炉心溶融を起こさない原子炉の実用化を目指して

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人類が社会活動を行なう上で排出される炭酸ガスに起因する気候変動問題は、世界各国が取り組まなければならない人類共通の喫緊の課題であり、原子力はこれを解決する上で重要な技術の一つです。しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に原子力の安全性への信頼が揺らいでいます。国民の懸念を解消し、信頼を回復するためには、いかなる事情を考慮しても、安全性が保たれる原子炉の開発が必要です。そうした中で、固有の安全性を備え、カーボンフリー水素製造などの多目的な熱利用が可能な高温ガス炉が着目され、令和3年10月22日に閣議決定された エネルギー基本計画 *1 では、カーボンニュートラルの実現に向け、安全性の高度化に貢献する原子力技術であり、水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれる高温ガス炉の研究開発を国際協力の下で推進することが明記されました。

また、令和3年6月18日に閣議決定された 「成長戦略実行計画」*2において、原子力は、実用段階にある脱炭素の選択肢である。可能な限り依存度を低減しつつ、国内での着実な安全最優先の再稼働の進展とともに、米・英等で進む次世代革新炉等の開発に、高い製造能力を持つ日本企業も連携して参画し、多様な原子力技術のイノベーションを加速化していく。安全性等に優れた炉の追求など将来に向けた研究開発・人材育成等を推進する。具体的には、2030年までに、国際連携による小型モジュール炉技術の実証、高温ガス炉に係る要素技術確立等を進めるとともに、核融合研究開発を着実に推進することが政府の方針として明記されました。

さらに、令和3年6月18日に経済産業省が、関係省庁と連携し、グリーン成長戦略を更に具体化した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」*3において、世界最高温度を記録した高温工学試験研究炉(HTTR)を活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく。並行して、IS 法やメタン熱分解法等を含む超高温熱を活用したカーボンフリー水素製造方法についても開発を支援する。また、試験炉HTTRの建設・運転・再稼働を通じて、規格基準策定の点でも海外に先行している状況を踏まえ、日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を推進することが明記されました。

加えて、令和3年6月18日に閣議決定された「統合イノベーション戦略2021」*4において、原子力については、軽水炉の安全性向上技術に加え、高速炉、小型モジュール炉、高温ガス炉等の革新的原子力技術等に係る研究開発や原子力分野における人材育成を進めることが明記されました。

高温ガス炉の研究開発は、アメリカ、中国及び韓国など世界各国において進められています。日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)では、HTTRを用いた試験研究により、この分野の研究開発で世界をリードしています。HTTRを用いた試験研究として平成22年度には出力30%からの炉心流量喪失試験、令和3年度には出力30%からの炉心冷却喪失試験を実施し、安全設計方針の策定に必要なデータを取得しています。また、次世代の高温ガス炉に不可欠な原子炉解析コード、高性能耐熱燃料及び黒鉛の長寿命化等の基盤技術開発や高度化を行ってきました。

高温工学試験研究炉(HTTR)の構造の概要

高温工学試験研究炉(HTTR)の構造

  • 熱出力30MWの黒鉛減速ヘリウムガス冷却型高温ガス炉
  • セラミックスで4重に被覆した燃料粒子と黒鉛製構造物で炉心を構成するため、炉心溶融がない設計が可能

また、核熱を使用し水を原料とする水素製造研究では、フッ素樹脂被覆のブンゼン反応器、セラミックス製の硫酸分解器などの耐食機器技術の蓄積を反映させて、金属、セラミックスなどの実用装置材料を用いた連続水素製造試験施設を平成25年度に完成させ、各反応特性を確認する試験に着手しています。

連続水素製造試験施設

連続水素製造試験施設の外観

原子力機構は、エネルギー基本計画、未来投資戦略に記載された政府の方針を踏まえ、平成27年度から始まった第3期中長期計画において、HTTRと熱利用施設を接続して総合性能を検証するためのHTTR-熱利用試験施設のシステム設計、安全評価等を計画しています。同施設では、水素製造設備やガスタービン発電設備などの熱利用系をHTTRに接続し、その性能を確証することで、高温ガス炉熱利用システムの早期実用化に役立てます。

脚注リンク先
*1:エネルギー基本計画 (令和3年10月22日):経済産業省(PDF:800KB)
*2:「成長戦略実行計画」(令和3年6月18日):首相官邸(PDF:1,252KB)
*3:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(令和3年6月18日):経済産業省(PDF:3,341KB)
*4:「統合イノベーション戦略2021」(令和3年6月18日):内閣府(PDF:610KB)