1_10_2 深層ボーリングによる基盤岩の調査
達成目標
ローカルスケールおよびサイトスケール領域におけるこれまでの調査・解析で課題として残っていた,サイトスケール領域内における地下深部の地質環境特性(地質・地質構造,水理特性,地下水水質,力学特性)に関するデータを取得するため,深層ボーリング調査を行います。ここでは,サイトスケール領域における地下深部の詳細なデータを取得することを目標とします。
方法・ノウハウ1-3)
①深層ボーリング調査の目的:
- 浅層ボーリング調査と同様に,サイトスケール領域における地表からの調査において推定された地下の地質・地質構造(1_9_2)や,地下水流動に影響を及ぼすと推定される断層などの地質構造の存在(1_9_1,1_9_4)を実際に把握し,その分布・形状や水理特性に関するデータを取得します。
- 浅層ボーリング調査と同様に,地下施設の建設前に地下水の水圧・水質の初期値を取得するとともに,その長期モニタリングを開始します。
②ボーリング地点の選定:
深層ボーリングの掘削地点を選定する上で考慮すべきポイントとしては,これまでの調査・解析に基づき,地下水流動に影響を及ぼすと想定される重要な地質構造(断層や割れ目帯など)の分布やその特性を把握することが挙げられます。
特に,抽出された地質構造が高角度傾斜をなす場合や,地下施設と地下深部で交差すると予想される場合は,サイトスケールの領域外において実施した調査結果だけでは,その構造や空間分布を精度よく把握することが困難です。このような場合は,深層ボーリング調査の掘削地点や掘削角度について,これらの情報の取得を優先して検討することが重要となります。
③調査内容:
ローカルスケール領域におけるボーリング調査(1_5)と同様に,地質調査,孔壁画像調査,物理検層(1_12_4),流体検層(1_12_5),水理試験(1_12_6),地下水の採水・分析(1_12_7)といった調査を実施します。
地下深部の地下水は,地表付近の地下水と比べて塩濃度などの地球化学特性が大きく異なる可能性があることから,掘削流体に添加するトレーサー物質の選定や,単孔式水理試験や電気伝導度検層などの試験結果の解釈は,当該深度の地下水水質を念頭に行う必要があります。
④地下水モニタリング:
地質調査や水理試験の結果を踏まえて観測区間を決定し,水圧・水質モニタリング装置を設置して地下水モニタリングを開始します(1_12_8)。
ボーリング孔を利用した調査・解析において一連の調査を組み合わせることは,地表地質調査および地上物理探査による調査・解析により把握した地質・地質構造要素の推定精度を確認し向上させる上で有効です。特に,モデル化領域内の地下深部に分布する不連続構造の空間的なデータを直接取得できるため,地表からの調査・解析では抽出が困難な不連続構造を把握でき,かつ地質構造モデルの不確実性を大きく低減することができます。
東濃地域における実施例
研究所用地においては,新たに1本の深層ボーリング(MIZ-1号孔)を掘削し,上記の調査を実施しました。
- これまでの調査・解析で重要要素として抽出された研究所用地を通過する北北西走向の断層の花崗岩中での水理特性を把握するとともに,上部割れ目帯などの地質構造の空間分布およびその水理特性を把握することを目的としました。本調査では,地下の透水構造とその分布の把握,地下水水質の三次元分布,岩盤の物理・力学特性の把握に重点を置き,ボーリング調査研究を包括的に実施しました。また,地下施設の建設に伴う間隙水圧の変化を把握するため,掘削後のボーリング孔を地下水の長期モニタリングに供することも目的としました4), 5)。
- ボーリング孔のレイアウトが研究所用地を越境しないこと,地下施設建設時の地上設備を設置する工事の妨げにならないこと,といった空間的制約や,予算・工程に基づき検討しました。検討の結果,MIZ-1号孔は,鉛直掘削の後,調査対象の断層に向かって方位と傾斜角度を変化させながら掘削する「コントロールボーリング」を採用することとし,掘削深度は1,350mの計画となりました4), 5)(図1)。
- 広域地下水流動研究におけるボーリング調査(DH-15号孔)においても,研究所用地の地質・地質構造の把握に有効なデータが取得できると期待されたことから,MIZ-1号孔での調査と同時期に同じ内容の調査を実施し6),その調査結果も解析に利用しました。
- 本調査にて取得したボーリングコア試料を用いた地質調査の結果から,研究所用地に分布する花崗岩は主に等粒状の中~粗粒の黒雲母花崗岩からなり,深度別の化学組成変化が小さいことから単一の岩石系列の花崗岩であると考えられました2)。
- ボーリングコアを用いた岩芯記載,孔壁画像調査,物理検層などを組み合わせた地質調査の結果から,堆積岩と花崗岩の正確な深度分布,花崗岩上部に分布する風化部の深度分布,花崗岩中の上部割れ目帯と下部割れ目低密度帯の境界部の深度分布,低角度傾斜を有する割れ目の集中帯の深度分布を推定しました7)。
- 地下深部に分布する主に北西~北北西走向の断層の性状と分布を把握しました。研究所用地を横断する断層のうち,規模が大きく,緑泥石や粘土鉱物を挟在するような強い変質を伴い,規模が大きいと推定される断層が3条確認されました7)。
- これらの情報を用いて,地質構造モデルを更新しました8)(図2(1_7のステップ3))。


参考文献
- 松岡稔幸,熊崎直樹,三枝博光,佐々木圭一,遠藤令誕,天野健治 (2005): 繰り返しアプローチに基づく地質構造のモデル化,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-007,99p.
- 魚住直己,村上真也,大石保政,河村秀紀 (2005): 超深地層研究所計画における試錐調査(MIZ-1号孔),核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7440 2005-091,1833p.
- 三枝博光,瀬野康弘,中間茂雄,鶴田忠彦,岩月輝希,天野健治,竹内竜史,松岡稔幸,尾上博則,水野崇,大山卓也,濱克宏,佐藤稔紀,久慈雅栄,黒田英高,仙波毅,内田雅大,杉原弘造,坂巻昌工 (2007): 超深地層研究所計画における地表からの調査予測研究段階(第1段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2007-043,337p.
- Nakano, K., Amano, K., Takeuchi, S., Ikeda, K., Saegusa, H., Hama, K., Kumazaki, N., Iwatsuki, T., Yabuuchi S. and Sato, T. (2003): Working Program for MIZ-1 Borehole Investigations, Japan Nuclear Cycle Development Institute, JNC TN7400 2002-008, 77p.
- Takeuchi, S. & Ota, K. (2005): Working Programme for MIZ-1 Borehole Investigations; Revision of Work Procedures after Phase IV, Japan Nuclear Cycle Development Institute, JNC TN7400 2005-010, 35p.
- 鶴田忠彦,藤田有二,鐙顕正,彌榮英樹,冨士代秀之 (2005): 広域地下水流動研究におけるボーリング調査(DH-15号孔),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-025,82p.
- 渡邊正, 天野健治, 池田幸喜, 岩月輝希, 三枝博光, 佐藤稔紀, 竹内真司 (2005): 超深地層研究所計画,年度報告書(2004年度),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-027,161p.
- 太田久仁雄,佐藤稔紀,竹内真司,岩月輝希,天野健治,三枝博光,松岡稔幸,尾上博則 (2005): 東濃地域における地上からの地質環境の調査・評価技術,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-023,373p.