1_10_3 不連続構造の水理特性の調査
達成目標
岩盤中の地下水流動に影響を及ぼす可能性のある不連続構造の分布やその水理特性を把握することを目標として,ボーリング孔内で地質観察,物理検層,流体検層および水理試験を実施するとともに,ボーリング孔に長期モニタリング装置を設置し地下水の水圧観測を行います。
方法・ノウハウ
①ボーリング調査による不連続構造の把握:
- ボーリングコアの地質学的調査や物理検層(1_12_4)におけるアノマリー抽出により,不連続構造を同定・抽出し,孔壁画像調査(BTV観察およびBHTV観察)データを用いることで,不連続構造の位置や方向性,密度などを把握することができます。また,ボーリング孔周辺における不連続構造の空間的な連続性を推定することができるマルチオフセットVSP探査(1_12_2)を,これらの調査データと組み合わせて用いることで,より精度の高い地質構造解釈が行えます。
- 推定した不連続構造を含む割れ目の分布情報と流体検層(1_12_5)および水理試験(1_12_6)の結果を合わせて解釈することで,水みちとして重要な不連続構造を抽出し,その位置や密度,連続性を把握することができます。地質情報だけに基づき不連続構造の分布特性を決めてしまうと,規模が小さいものの水理的に重要な構造が見落とされる可能性があることから,地質調査と水理調査を組み合わせて評価・解釈を行うことが重要です。
- 流体検層のうち,とくに電気伝導度検層(1_12_5)は,花崗岩中における地下水の流出入箇所の分布をより詳細に把握することができ,同検層と地質調査を組み合わせることで地下水の流動特性に大きな影響を与える不連続構造を効率的に把握することができます。
②水圧観測による水理学的な連続性と水理境界の把握:
- ボーリング孔掘削中にその周辺のボーリング孔で水圧応答を観測(掘削応答モニタリング)することで,推定した不連続構造が有する遮水性や水理学的な連続性を推定することができます。
- 掘削応答モニタリングは,不連続構造の水理学的な連続性の評価に有効な調査手法です。調査対象領域における地質・地質構造の分布やその透水性によって大きく異なりますが,数百m程度のボーリング孔間の水理地質構造の推定が可能です。そのため,複数のボーリング調査を実施する場合はこれらを同時に実施するよりも1本ずつ順次掘削調査を実施し,終了後に地下水モニタリング装置を挿入して,次の掘削調査による水圧応答モニタリングを実施するといった段階的な実施が,水理学的な連続性や水理境界をより詳細に推定する上では有効です。
- 地下水圧の変化データには,観測位置周辺の水理地質構造の分布やそれらの水理特性などの空間的な情報が含まれています。そのため,ボーリング孔から揚水や注水を実施し,他のボーリング孔でその人工的な場の擾乱に伴う水圧応答を観測する孔間水理試験は,限られた調査数量で岩盤の水理学的な不均質性を評価することができる有効な調査といえます。
東濃地域における実施例
サイトスケール領域において,既存ボーリング孔(DH-2号孔)での調査1),4本の浅層ボーリング孔(MSB-1~4号孔)による調査2),2本の深層ボーリング孔(MIZ-1号孔,DH-15号孔)による調査3), 4)を実施しました。また,MIZ-1号孔を揚水孔,それ以外のボーリング孔を観測孔とした孔間水理試験を実施しました。その結果,不連続構造および水理学的な連続性については,以下の結果が得られました。
- ボーリングコアを用いた地質学的調査結果ならびに物理検層記録におけるアノマリー抽出により,数百m以上の規模を有する不連続構造を抽出した。また,孔壁画像調査データから,それらの位置や方向性を把握し5),地表からの調査・解析(1_9)で構築された地質構造モデルにおける不連続構造の位置と比較することで,モデル化の基礎情報を蓄積した。
- 推定した不連続構造を含む割れ目の分布と流体検層によって抽出された地下水の流出入箇所ならびに水理試験によって求めた透水量係数などの水理特性に関する情報とを合わせて解釈することで,水みちとして重要な不連続構造の分布特性を把握することが可能であることを確認した6), 7)。
- 電気伝導度検層で抽出された地下水の流出入点を対象として実施した単孔式水理試験により,1×10-3~1×10-6m/s程度の透水係数が得られた(図1)。これらの地下水の流出入点における透水係数は,試験区間前後の岩盤の健岩部より高い値を示しており,同検層が透水性の高い割れ目帯を特定するために有効であることを確認した(1_12_5)。
- 地質構造モデルに表現されている断層ごとに透水係数データを整理した結果,岩盤の健岩部の透水性より高い透水性を有する断層と低い透水性を有する断層の二種類に区分できた。このことから,断層はその水理特性に応じて,地下水の移行経路である水みちとなる場合や地下水の流動を規制する遮水機能を有することを確認した。
- 掘削応答モニタリングの結果,ボーリング調査イベントの発生位置とそれに伴う水圧応答が認められた観測位置と水圧変動の傾向の違いから,ボーリング孔間の水理学的な連続性および研究所用地内を区分する大規模な水理境界の存在が推定できた(図2)。これらの情報は断層の水理特性の解釈に活用されるなど8),水理学的な連続性や水理境界をより詳細に推定する上で有効であることを確認した。
- 孔間水理試験に伴う水圧応答からは,研究所用地周辺における浅部と深部での水圧応答の違いや,断層を境とする水圧応答の違いが認められ,地下水の長期モニタリング(1_12_8)で推定された結果と同様に,瑞浪層群中の水理境界および遮水性を有する断層の存在が推定された(図3)。
これらの結果は,サイトスケール領域の水理地質構造モデルの更新(1_7のステップ2~4)に有効な知見として反映された(1_11_2)。
![縦軸に深度,横軸に各調査結果が並記された図。標高は50~-300m強,掘削長は140m~510m。地質は,掘削長157.9mまでが堆積岩で,それ以深は花崗岩で構成されている。岩芯記載による花崗岩の割れ目頻度と累積割れ目頻度を見ると,割れ目が密集しており累積割れ目頻度の傾きが変化する深度が掘削長で200m~250m,300m~350m,425~460mに存在する。両フローメータ検層のうち,青で示された自然状態の結果はほぼ全区間で0.1~0.2m/minである。赤で示された揚水状態の結果は,花崗岩の浅部で高く深部で低い傾向があり,スピナー/ヒートパルスフローメータ検層では掘削長150~240mで3~4m/min,240m~300mで2m/min,これ以深で徐々に低下し350m以深では1m/min以下となる。電磁フローメータ検層でも同様に掘削長300mまでは1~1.5m/minで,これ以深では0.5~1m/minとなる。掘削長300m~320mと420m~450mの割れ目頻度が高い区間では流速が0~0.5m/minまで急激に低下する。電磁フローメータの電気伝導度検層は,自然状態・揚水状態ともにほぼ同じ値で,掘削長150mでは1000μS/cm弱,掘削長300m~400mまでは徐々に上昇しつつもほぼ1000μS/cmだが,掘削長450m付近で傾きが増加して掘削長500m付近では3000μS/cm程度となる。温度勾配も揚水状態・自然状態ともに大差なく,全体的に20~30℃/kmで推移する。掘削長200mと230m付近で80℃/kmのピークが存在する。電気伝導度検層では1回~7回の検層結果が掲載されており,第1回は掘削長450~500m付近でほぼ0μS/cmとなっている以外は1000μS/cmだが,回を重ねるごとに値が下がる領域が複数ある。掘削長150~250m:第6回で低下し始め,第7回では100μS/cm近くまで低下。掘削長320~420m:第2回から複数のピークを形成しながら値が低下しており,第7回には全体的に100~200μS/cmまで低下しつつ,掘削長330m,350m,370m,410mではスパイク状にさらに低くなっている。1993年の調査時は,温度検層以上が212.6m・235.5m・319.4mで,逸水箇所が221.7m・261.5mで認められた。透水量係数[m2/sec]は,掘削長160m~200m付近,320m付近,350m~420m付近,450m付近で1E-6,270m~290m付近,420m~450m付近が1E-5,200m~270m付近,290m~350m付近がが1E-4であり,-400m付近に1E-10のプロットがある。水頭は,掘削長350mまでは35mbgl弱,そこから数m程度の区間で測定すると35mbgl強だが,300m~420mと420m~480mで測定した結果は36mbgl強となっている。](../../img/1/1_10/1_10_03-02.jpg)


参考文献
- 天野健治,岩月輝希,上原大二郎,佐々木圭一,竹内真司,中間茂雄 (2003): 広域地下水流動研究年度報告書(平成14年度),核燃料サイクル開発機構,JNC TN 7400 2003-002,40p.
- Kumazaki, N., Ikeda, K., Goto, J., Mukai, K., Iwatsuki, T. and Furue, R. (2003): Synthesis of the Shallow Borehole Investigations at the MIU Construction Site, Japan Nuclear Cycle Development Institute, JNC TN7400 2003-005, 112p.
- Nakano, K., Amano, K., Takeuchi, S., Ikeda, K., Saegusa, H., Hama, K., Kumazaki, N., Iwatsuki, T., Yabuuchi, S. and Sato, T. (2003): Working Program for MIZ-1 Borehole Investigations, Japan Nuclear Cycle Development Institute, JNC TN7400 2002-008, 77p.
- Takeuchi, S. and Ota, K. (2005): Working Programme for MIZ-1 Borehole Investigations: Revision of Work Procedures after Phase IV, Japan Nuclear Cycle Development Institute, JNC TN7400 2005-010, 35p.
- 松岡稔幸,熊崎直樹,三枝博光,佐々木圭一,遠藤令誕,天野健治 (2005): 繰り返しアプローチに基づく地質構造のモデル化 (Step1およびStep2),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-007,99p.
- 石井英一,天野健治,水野崇,竹内真司 (2002): 亀裂性岩盤中の水みちに認められる特徴-土岐花崗岩を対象とした研究事例-,日本応用地質学会中部支部平成14年度応用地質学会中部支部研究発表会・講演予稿集,pp.1-4.
- 核燃料サイクル開発機構 (2003): 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発-平成14年度報告-, 核燃料サイクル開発機構,JNC TN1400 2003-004,300p.
- 尾上博則,三枝博光,遠藤令誕 (2005): 繰り返しアプローチに基づくサイトスケールの水理地質構造のモデル化・地下水流動解析 (ステップ3前半),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-012,76p.