1_11_2 水理地質構造モデルの更新
達成目標
地下施設建設前の岩盤内の透水性分布を三次元的に表現する水理地質構造モデルを構築することを目標とします。水理地質構造モデルは,調査の進展に伴い増加する地質環境特性情報に基づき段階的に更新します。サイトスケール領域を対象とした地上からの地質環境調査の段階で構築されたモデルは,地下施設建設段階において取得される情報で妥当性が確認され,更新されます。
方法・ノウハウ
①ローカルスケール領域からサイトスケール領域のモデルの切り出し
- ローカルスケール領域で構築された水理地質構造モデルから,サイトスケール領域の水理地質構造モデルを切り出します。その際には,ローカルスケール領域に比べて取り扱う空間スケールがより狭くなるために,サイトスケール領域内の地質環境特性情報に基づき,より詳細なモデル化を行います(1_9_3)。
②調査の進展に伴う理解度の確認
- サイトスケール領域内の調査においては,各調査で得られた情報の種類・量と地下水流動特性の理解度や不確実性との関係を明確にすること,次の調査で確認すべき重要な要素を特定することが重要です。そのためには,調査の種類に応じていくつかの調査ステップを設定し,調査・解析・評価の一連のプロセスを繰り返し実施(繰り返しアプローチ)することが有効です(図1)。
- 調査の進展に伴う地下水の流動特性に関する理解度を評価するにあたっては,地下施設建設前の地下水流動特性の把握や各調査ステップにおいて特定することのできない水理特性の有無の観点から,以下のような評価指標を設定することができます。
感度解析のケース数 | 感度解析のケース数の減少は地下水流動特性に影響を及ぼす水理地質構造の水理特性が把握もしくは推定された数が増加していることを意味しており,地下水流動特性のうち岩盤中の透水性分布に関する理解度が向上したと解釈できます。 |
感度解析のケース間での全水頭分布のばらつき | 感度解析のケース間での全水頭分布のばらつきの減少は,地下水流動特性に特に大きな影響を及ぼす水理地質構造の水理特性が把握/推定されていることを意味しており,地下水流動特性のうち岩盤中の透水性分布に関する理解度が向上したと解釈できます。 |
ボーリング孔における全水頭分布の実測値の再現性 | ボーリング孔における全水頭分布の実測値の再現性の向上は,地下水流動解析結果の信頼性が向上したことを意味しており,地下水流動特性のうち動水勾配分布ならびに岩盤中の透水性分布に関する理解度が向上したと解釈できます。 |

東濃地域における実施例
地表からの調査予測研究段階(第1段階)においては,物理探査など地質環境特性を面的に調査できる手法を用いて広い領域を概略的に把握した上で(1_9),詳細な情報を必要とする項目を抽出・特定し,それらについてボーリング孔を利用した調査(1_10)によって把握するといった手順で実施しました1)(図2)。ローカルスケール領域を対象とした調査研究例えば2), 3)ならびにサイトスケール領域における各種調査や地下水流動解析で,断層が地下水の流動特性に及ぼす影響が大きい地質構造要素の1つであることが確認されたため,繰り返しアプローチの地下水流動解析では,断層の透水性に着目した感度解析をステップごとに繰り返し実施しました(1_9_4)。その結果,以下の結果が得られました。
- ステップ1においては,面的調査として地表地質調査,地上物理探査(反射法)を実施し,堆積岩中の南北-北北西走向の不連続構造を把握しました。それらに基づきモデル化,断層についての感度解析も含めて地下水流動解析を行った結果,ステップ2で確認すべき重要な要素として,北北西走向断層,北東走向の断層の水理特性が抽出されました4)。
- ステップ2においては,500mの既存ボーリングの調査と堆積岩中のボーリング調査を実施し,低角度割れ目帯,各累層の基底礫岩,花崗岩風化部を把握し,概念モデルの構成要素が全て抽出されるとともに,深度500mまでの岩盤中の水みちの分布とその水理特性を把握しました。それらに基づきモデルの更新,感度解析も含めて地下水流動解析を行った結果,ステップ3で確認すべき重要な要素として,より深部の地質環境特性が抽出されました5)。
- ステップ3においては,深度1,300mに至るボーリング調査を実施し,深部までの地質構造や水理特性,水質,力学特性を調査しました。それらに基づきモデルの更新,感度解析も含めて地下水流動解析を行った結果,ステップ4で確認すべき重要な要素として,研究坑道掘削予定地点周辺における岩盤中の水みちの連続性が抽出されました6)。
- ステップ4においては,複数のボーリング孔を用いて孔間トモグラフィーと孔間透水試験を実施し,岩盤中の水みちの連続性を調査しました。それらに基づきモデルの更新,感度解析も含めて地下水流動解析を行い,次段階(研究坑道の掘削を伴う研究段階:第2段階)で確認すべき重要な要素として,立坑付近を通過する低透水性断層の位置が確認されました7)。
- 調査ステップの進展に伴って感度解析のケース数の減少,感度解析のケース間での全水頭分布のばらつきの減少,全水頭分布の実測値の再現性の向上が確認でき,岩盤の透水性および動水勾配分布の理解度が向上しました1)(図3)。これは,サイトスケール領域で段階的に行ってきた既存情報の解析・評価(1_8),地表からの調査・解析(1_9),ボーリング孔を利用した調査・解析(1_10)で適用されてきた技術が,不確実性を低減する上で有効であったことも示しています。


参考文献
- 三枝博光,瀬野康弘,中間茂雄,鶴田忠彦,岩月輝希,天野健治,竹内竜史,松岡稔幸,尾上博則,水野崇,大山卓也,濱克宏,佐藤稔紀,久慈雅栄,黒田英高,仙波毅,内田雅大,杉原弘造,坂巻昌工 (2007): 超深地層研究所計画における地表からの調査予測研究段階(第1段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2007-043,337p.
- 三枝博光,前田勝彦,稲葉薫 (2001): 水理地質構造モデル化概念の違いによる深部地下水流動への影響評価 (その6)-不連続構造の水理特性および水理学的境界条件に着目した水理地質構造のモデル化および地下水流動解析-,社団法人地盤工学会 亀裂性岩盤における浸透問題に関するシンポジウム発表論文集, pp.299-308.
- 三枝博光,稲葉薫,澤田淳 (2003): 断層の透水異方性に着目した水理地質構造のモデル化・地下水流動解析-東濃地域を例として-,第32回岩盤力学に関するシンポジウム論文講演集,pp.371-376.
- 大山卓也,三枝博光,尾上博則,遠藤令誕 (2005): 繰り返しアプローチに基づくサイトスケールの水理地質構造のモデル化・地下水流動解析(ステップ0およびステップ1),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-008,77p.
- 尾上博則,三枝博光,遠藤令誕 (2005a): 繰り返しアプローチに基づくサイトスケールの水理地質構造のモデル化・地下水流動解析(ステップ2),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-006,93p.
- 尾上博則,三枝博光,遠藤令誕 (2005b): 繰り返しアプローチに基づくサイトスケールの水理地質構造のモデル化・地下水流動解析(ステップ3前半),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-012,76p.
- 三枝博光,尾上博則,大山卓也,遠藤令誕 (2007): 繰り返しアプローチに基づくサイトスケールの水理地質構造のモデル化・地下水流動解析(ステップ4),JAEA-Research 2007-034,106p.