1_11_1 地質構造モデルの更新
達成目標
サイトスケール領域で取得された各データを用いてデータセットを作成し,地表地質図と地質構造モデルを更新することを目標としました。地上からの地質環境調査の段階で構築されたモデルは,地下施設の建設時の取得される情報に基づき,その妥当性を確認しつつ更新していきます。
方法・ノウハウ1), 2)
①モデル化要素の抽出:
地質構造モデルで表現すべきモデル化要素を抽出します。モデル化要素としては,岩盤の水理特性(透水係数など)に関係すると考えられる地質・地質構造を抽出します。
②データセットの更新とモデル図の作成:
抽出されたモデル化要素の位置情報を整理し,データセットを更新します。更新したデータセットを用いて,地表地質図と地質構造モデルを更新します。
③次段階の調査に向けた検討:
サイトスケール領域の調査で構築した地質構造モデルに基づき,地下施設周辺の地質・地質構造の特徴を推定します。ここでは,不確実性を考慮したうえで,地下施設の建設時に遭遇すると考えられる地質・地質構造を抽出することが重要となります。例えば,ボーリング孔を用いた調査の場合,その掘進方向と平行な不連続構造とは遭遇しにくいため3),鉛直下向きのボーリング孔の場合は高角度の不連続構造に関するデータが限られてしまい,その不確実性が高くなります。
地質構造の三次元分布の理解度
サイトスケール領域の調査では,その調査の進展に伴って地質・地質構造要素の深度に関する情報が取得され,とくに花崗岩では不連続構造に関する知見が蓄積されることから,その推定精度を大幅に向上させることができます。
一方,地表地質調査やボーリング調査などにより確認・推定された断層に比べて,リニアメント調査のみで存在が推定されている断層は,その分布する可能性が相対的に低くなります。このような不連続構造も地質構造モデルにおいて考慮されていることから,課題として,不確実性の定量化手法を含むモデル化技術の高度化が挙げられます。
統計学手法を用いた不確実性の評価技術の構築や,これまでに取得した地質学的・地球物理学的データを用いた地質構造シミュレーション解析により未調査領域の不連続構造の分布を推定する4)等が,不均質性を考慮できる地質構造・水理地質構造のモデル化手法の構築に有効であると考えられます。
東濃地域における実施例1), 2), 5)
ローカルスケール領域の調査で構築したモデルからサイトスケール領域を切り出し,サイトスケール領域で実施した地表地質調査,地上物理探査およびボーリング調査の結果に基づき,地質構造モデルを作成しました (図1;1_7のステップ4)。サイトスケール領域で実施した調査結果に基づく地質構造モデルの更新の変遷は,以下のように要約されます(図2)。
- 既存情報の解析・評価(ステップ0:1_8_2)では,既往の文献やこれまでの調査結果をもとに,サイトスケール領域の地質構造の概念モデルを構築しました。この結果,連続性が推定できる地質・地質構造として,瑞浪層群と瀬戸層群の各層,土岐花崗岩の上部割れ目帯,下部割れ目低密度帯,月吉断層が抽出されました。この時点でモデル化された各地質構造の分布深度は,サイトスケール領域での調査前のため,大きな不確実性がありました(図2左図;1_7のステップ0)。
- 地表地質調査および地上物理探査に基づく調査・解析(ステップ1:1_9_3)では,地表踏査と反射法弾性波探査により,各地層や断層の分布に関するデータを取得し,既得情報との整合性を確認しました。地表地質調査により,本領域に分布する断層は,粘土を含む断層ガウジや断層角礫を挟在し,地下水の主流動方向に対して影響を与える南北~北北西走向であることから,地下水流動に影響を与える可能性があり,これ以降の調査にて優先的に調査すべきと考えられました。一方,地層境界や土岐花崗岩中の上部割れ目帯の深度分布は,ボーリング調査データがないため不確実性を有した状態でした。(図1中央図;1_7のステップ1)
- ボーリング孔を利用した調査・解析(ステップ2~4:1_10)では,地下の地質構造の分布深度を実際に確認し,これまで認識できていなかった瑞浪層群中の基底礫岩の分布,花崗岩の風化帯と低角度割れ目集中帯の存在を確認できました。また,深層ボーリング調査およびボーリング孔間を対象とした弾性波・比抵抗トモグラフィ探査により,花崗岩深部の地質構造の実測データを取得し,地下施設周辺の地下の地質構造モデルの精度を大幅に向上させることができました。さらに,地下水モニタリング装置を設置した浅層ボーリング孔での掘削応答を把握することで,確認あるいは推定されていた不連続構造の遮水性や水理学的連続性に関する情報を取得しました。(図1右図;1_7のステップ4)
- 立坑の掘削中に遭遇する地質としては,中間ステージの深度500m付近では花崗岩の上部割れ目帯と下部割れ目低密度帯が,最深ステージの深度1,000m付近では花崗岩の下部割れ目低密度帯が分布すると推定されました。断層については,地表付近から主立坑と換気立坑の間付近を北西~北北西走向の断層が横断していると予測されました。ただし,これらの不連続構造はいずれも高角度傾斜であることから,実際の立坑での遭遇深度が違っていたり,断層に伴う破砕帯が立坑に沿って続いたりする可能性があると考えられました(図3)。
- 以上のように,段階的に調査・解析を行って地質構造モデルを更新することで,重要な地質構造要素の不確実性を低減することができました。このことは,サイトスケール領域で段階的に行ってきた既存情報の解析・評価(1_8),地表地質調査および地上物理探査に基づく調査・解析(1_9),ボーリング孔を利用した調査・解析(1_10)で適用されてきた地質・地質構造に関する調査・解析技術が,不確実性を低減する上で有効であったことも示しています。


左から,既存情報の解析・評価の段階(ステップ0),サイトスケール領域での既存ボーリング調査,新規浅層ボーリング調査後(ステップ2),サイトスケール領域での新規深層ボーリング調査,孔間トモグラフィ探査/孔間水理試験の調査後(ステップ4)

参考文献
- 太田久仁雄,佐藤稔紀,竹内真司,岩月輝希,天野健治,三枝博光,松岡稔幸,尾上博則 (2005): 東濃地域における地上からの地質環境の調査・評価技術,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-023,373p.
- 三枝博光,瀬野康弘,中間茂雄,鶴田忠彦,岩月輝希,天野健治,竹内竜史,松岡稔幸,尾上博則,水野崇,大山卓也,濱克宏,佐藤稔紀,久慈雅栄,黒田英高,仙波毅,内田雅大,杉原弘造,坂巻昌工 (2007): 超深地層研究所計画における地表からの調査予測研究段階(第1段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2007-043,337p.
- Terzaghi, R.D. (1965): Source of error in joint surveys, Géotechnique, Vol.15, pp.287-307.
- Yamada, Y. and Matsuoka, T. (2005): Digital Sandbox Modeling Using Distinct Element Method: Applications to Fault Tectonics. Faults, Fluid Flow, and Petroleum Traps, R. Sorkhabi and Y. Tsuji (eds), AAPG Memoir 85, pp.107-123.
- 松岡稔幸,熊崎直樹,三枝博光,佐々木圭一,遠藤令誕,天野健治 (2005): 繰り返しアプローチに基づく地質構造のモデル化(Step1およびStep2),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-007,99p.