1_11_3 地球化学モデルの構築(サイトスケール)
達成目標

地下施設建設前の地下水の水質やその形成機構,滞留時間などを三次元的に表現する場の概念モデル(初期状態モデル)を構築することを目標とします。また,概念モデルに基づいて地下水流動や水質形成機構を考慮した数学的モデルを構築します。構築されたモデルは地下施設建設・維持管理時の段階で得られる水質などの情報に基づき評価・更新します。

方法・ノウハウ1), 2)

①ローカルスケール領域のモデルからサイトスケール領域の切り出し:

ローカルスケール領域でのボーリング調査により構築された地球化学モデルを基に,サイトスケール領域の水質分布を図として切り出します。切り出した図に,サイトスケール領域でのボーリング調査で新たに得られた情報を加えて図を更新します。サイトスケール領域では,ローカルスケール領域に比べ孔間距離が近接していることから,新規ボーリング掘削時の調査時(特に揚水試験時)に既設モニタリング孔で観察される水圧応答に基づいて,地層や割れ目の連続性を推測し,水質分布と比較します。

②水質形成機構,地下水滞留時間の確認:

ボーリング調査で新たに得られた情報に基づき,ローカルスケール領域の地球化学モデルから想定されたサイトスケール領域の水質形成機構,地下水滞留時間が妥当であったか確認します。地下施設建設前の地球化学環境とそれに関わる主要プロセスを初期状態概念モデルとして図化します。相対的に透水性の高い水理地質構造(礫岩や割れ目帯など)では,地下施設建設や数十年間にわたる操業に伴う環境変化が想定されることから,それらの場所については特に留意してモデルに示します。

③数学的モデルの構築:

地下水の水質は,起源の異なる地下水の混合やそれに伴う溶存成分間の反応,鉱物の溶解・沈殿,イオン交換反応といった水-岩石反応を経て形成されていると考えられます。そこで,多変量解析を用いて溶存する複数の成分を統合的に解析することで,これらの現象を踏まえた地下水の水質分布や水質形成プロセスを考察します3)

東濃地域における実施例

ローカルスケール領域からサイトスケール領域の水質分布を切り出し4),新たに得られたボーリング調査の結果を加え,水理地質構造や地下水流動との関連性を考察しました。その結果,研究坑道掘削前の地球化学環境について以下のことを明らかにできました5)

サイトスケール領域における調査では,ローカルスケール領域の調査段階で不明瞭だった堆積岩中の地下水のデータ取得をはじめ,信頼性の高い水質データを入手して多変量解析を繰り返すことで,地下水水質の三次元分布に関わる定量的な地球化学モデルを更新することができました。また,低透水層と地球化学特性の深度分布を把握し,水理・地質情報を踏まえたモデルを構築することができました。地球化学モデルの更新過程は図3のように表現できます。

瑞浪層群と土岐花崗岩中の地下水と,河川水,降水,温泉水のデータがプロットされたグラフ。横軸が主成分1,縦軸が主成分2。本文にある抽出された4成分のうち,低Na-Cl型と地表水は0,0付近に位置しており,Na-HCO3型は主成分2が高スコア,高Na-Cl型は主成分1が高スコアとなっている。
図1 多変量解析により抽出された地下水の端成分6)
土岐市・瑞浪市をまたぐ一辺10kmの正方形の地形をDH-10号孔からDH-12号孔方面に直線で切り取り,端成分地下水の混合率の分布を示した断面図。MSB-2号孔の標高-800mから放射状に0.7,0.6,0.5と比が下がっていく。標高-200m付近で比は0~0.1となる。
図2 高Na-Cl型地下水の混合率の断面図6)
左上は土岐市・瑞浪市の航空写真。研究所用地のほか,広域地下水流動研究の対象領域となる一辺10kmの正方形が描かれ,その中に各ボーリング孔とDH-10号孔からDH-13号孔に向かう斜線が描かれている。その右は図1と同じ画像。ローカルスケールにおける水質分布を見ると,サイトスケール深部には塩水系地下水が分布していることが分かる。中央左に研究所用地と瑞浪市民公園の航空写真があり,研究所用地のMSB-4号孔から南にあるDH-2号孔をまっすぐ結び,さらにその東の瑞浪市民公園のDH-15号孔を結んだL字型の破線が描かれている。その右にDH-15号孔,MSB-2号孔,MSB-4号孔を結んだ標高200mから-800mまでの断面図が上下に2枚ある。上はNaの分布を表したものでDH-15号孔の標高-800mから上に向かって放射状に比が下がっていき,地上100mあたりで0に近づいている。下の画像はClの分布を表したもので,標高が高くなるにつれ比がNaと同様に下がっていくが,標高-280m付近から-200m付近で0に近づいている。それらを反映した地球化学モデルの画像が一番下にある。それぞれの地層でどのような地下水が分布するか,それによって考えられる反応や水の流れなどが描かれている。サイトスケールにおける水質分布はボーリング工数の増加に伴い詳細な水質分布図に更新される。その後,地下水滞留時間や水理地質構造などの情報を重ねて書き,モデルを更新している。
図3 地球化学モデルの変遷
参考文献
  1. 太田久仁雄,佐藤稔紀,竹内真司,岩月輝希,天野健治,三枝博光,松岡稔幸,尾上博則 (2005): 東濃地域における地上からの地質環境の調査・評価技術,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-023,373p.
  2. 濱克宏,水野崇,笹尾英嗣,岩月輝希,三枝博光,佐藤稔紀,藤田朝雄,笹本広,松岡稔幸,横田秀晴,石井英一,津坂仁和,青柳和平,中山雅,大山卓也,梅田浩司,安江健一,浅森浩一,大澤英昭,小出馨,伊藤洋昭,長江衣佐子,夏山諒子,仙波毅,天野健治 (2015): 第2期中期計画期間における研究成果取りまとめ報告書; 深地層の研究施設計画および地質環境の長期安定性に関する研究,日本原子力研究開発機構,JAEA-Research 2015-007,269p.
  3. M., Laaksoharju, C., Skarman and E., Skarman (1999): Multivariate mixing and mass balance (M3) calculations, a new tool for decoding hydrogeochemical information, Applied Geochemistry, Vol.14, pp.861-871.
  4. 阿島秀司,戸高法文,岩月輝希,古江良治:多変量解析による瑞浪超深地層研究所周辺の地下水化学モデルの構築,応用地質,47,120-130,2006.
  5. Iwatsuki, T., Furue, R., Mie, H., Ioka, S. and Mizuno, T.: Hydrochemical baseline condition of groundwater at the Mizunami underground research laboratory (MIU), Applied Geochemistry, 20, 2283-2302, 2005.
  6. 戸高法文,阿島秀司,中西繁隆,手塚茂雄 (2005):超深地層研究所周辺の地下水水質変化に関する多変量解析,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7400 2005-001,216p.

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