1_11_4 岩盤力学モデルの構築
達成目標

サイトスケール領域およびブロックスケール領域における地上からの地質環境調査の段階では,応力場や岩盤の物理・力学特性について,ボーリング孔を利用した調査・解析から得られるデータを収集することにより,サイトスケール領域およびブロックスケール領域の岩盤力学モデルを構築することを目標とします。なお,この調査で取得したデータおよび構築したモデルは,坑道掘削に伴う掘削影響予測解析,地下施設の実施設計や調整設計などの入力情報として活用されます。

方法・ノウハウ

①データセット:

岩盤の物理・力学特性については,ボーリングコアを用いた室内物理・力学試験により情報を取得します。試験項目としては,室内物理試験として,密度試験,含水比試験,有効空隙率試験および弾性波速度試験などを実施することにより,見かけ比重や含水比,有効空隙率,弾性波速度が算出されます。また,室内力学試験として,一軸圧縮試験,圧裂引張試験および三軸圧縮試験を実施することにより,一軸圧縮強度,ヤング率,ポアソン比,圧裂引張強度,粘着力,内部摩擦角が評価されます。

②データの解釈:

岩盤の物理・力学特性を把握するためには,ボーリングコアを用いた室内物理・力学試験などの室内試験を複数の深度において実施する必要があります。また,地質構造モデルと岩盤の応力場に関するデータセットを組み合わせて岩盤力学モデルを構築することにより,サイトスケール領域における力学状態を把握することができます

なお,断層などの地質構造が存在すると,応力などの状態が変化する場合もあることから,調査計画の立案にあたっては,主要な地質構造に着目することも重要となります。

東濃地域における実施例1)

瑞浪超深地層研究所においては,ステップ3において掘削した深層ボーリング孔(MIZ-1号孔)において測定した初期応力(1_10_5)に加え,MIZ-1号孔から採取した土岐花崗岩のボーリングコアを用いて室内物理・力学試験を実施し,岩盤の物理・力学特性の深度分布を取得しました(図1)。

正馬様用地内のボーリング孔の結果とMIZ-1号孔の結果とを比較すると,正馬様用地における物性値の分布幅が若干広いことを除けば,両者の分布傾向はおおむね一致することがわかりました。MIZ-1号孔の深度200m付近のみ全体の分布傾向から大きく外れて小さな値を示すデータがありますが,これは変質部から試料を採取したためと考えられます(なお,この深度は電研式岩盤等級がCL級で,他の深度に比べて脆弱でした。)。

MIZ-1号孔のボーリングコアは,電研式岩盤等級ではA級~CL級に評価されましたが,室内試験の結果を岩盤等級で分類して整理すると,A級~CH級の新鮮な岩盤部分では物理・力学特性のデータに差異は認められませんが,CM級やCL級の脆弱な部分では値が大きく異なりました。これは変質の影響が著しい岩石と,変質の影響をあまり受けていない岩石との差によるものと考えられます。A級~CH級の間での相異は亀裂頻度に依存すると想定されるため,割れ目の無い部分から採取した試料を用いた試験では岩盤等級の影響が小さいものと考えられました。

深層ボーリング孔を利用した調査・解析における地質構造モデル,岩盤の応力場,物理・力学特性に関する解釈/データセットを基に,既存情報の解析・評価で構築したモデル(1_8_5, 1_8_6)を更新して岩盤力学モデルを構築しました(図2)。

研究所用地の土岐花崗岩は,正馬様用地における岩盤力学モデル(1_8_6)と比べて,岩盤の物理特性としては見かけ比重,有効空隙率ともに高く,力学特性としては一軸圧縮強度,剛性ともに高く,電研式岩盤分類でB~CM級のやや硬質な岩石が分布しているものと評価しました。ただし,深度200m付近の断層が交差する近傍では,電研式岩盤分類がCL級で,有効空隙率が高く,見かけ比重は低く,一軸圧縮強度などの力学特性の値が小さい軟質な岩石が分布しているものと評価しました。岩盤の応力状態については,深度600m付近で交差する断層を境に応力状態が変化している様子(1_10_5)もモデルに反映されるなど,モデルの更新により理解度が深まっていることを示しています。

物性値の深度分布と頻度分布のグラフ。見掛け比重,含水比,有効間隙率,弾性波速度,一軸圧縮強度,50%接線ヤング率,ポアソン比,圧裂引張強度,粘着力,内部摩擦角のグラフがそれぞれ示してある。MIZ-1号孔の結果が青,DH-2号孔の結果が赤,正馬様用地の結果が灰色でプロットしてある。
図1 研究所用地内の物理・力学特性の深度分布
研究所用地の南北断面図に,立坑の掘削予定位置,DH-2号孔,MIZ-1号孔,地層境界と断層が模式的に描いてある。その横に,岩盤の初期応力状態,物理特性,力学特性,亀裂特性,透水係数を対象として,深度ごとの違いが説明されている。
図2 研究所用地における岩盤力学モデル
参考文献
  1. 三枝博光,瀬野康弘,中間茂雄,鶴田忠彦,岩月輝希,天野健治,竹内竜史,松岡稔幸,尾上博則,水野崇,大山卓也,濱克宏,佐藤稔紀,久慈雅栄,黒田英高,仙波毅,内田雅大,杉原弘造,坂巻昌工 (2007): 超深地層研究所計画における地表からの調査予測研究段階(第1段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2007-043,337p.

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