1_8_6 物理・力学特性値の頻度分布
達成目標

サイトスケール領域における岩盤の力学特性(物理特性,変形特性,強度特性)を三次元的に把握し,初期応力状態と合わせて岩盤力学モデルを構築することを目標とします。なお,このモデルは,坑道掘削前の初期応力状態の推定,坑道の詳細設計や坑道掘削以降の調査・研究計画の策定などに反映させるとともに,坑道掘削に伴う坑道周辺岩盤の変形挙動および応力変化,ならびに応力集中に伴う岩盤の損傷領域の推定にも用いられます。

方法・ノウハウ

①データセット:

岩盤の物理・力学特性については,ボーリングコアを用いた室内物理・力学試験により情報を取得します。試験項目としては,室内物理試験として,密度試験,含水比試験,有効空隙率試験および弾性波速度試験などを実施することにより,見かけ比重や含水比,有効空隙率,弾性波速度が算出されます。また,室内力学試験として,一軸圧縮試験,圧裂引張試験および三軸圧縮試験を実施することにより,一軸圧縮強度,ヤング率,ポアソン比,圧裂引張強度,粘着力,内部摩擦角が評価されます。

②データの解釈:

岩盤の物理・力学特性を把握するためには,ボーリング孔を用いた複数深度での調査により,サイトスケール領域の詳細な物理・力学特性の深度分布を把握することができます。また,測定データから三次元的な岩盤の物理・力学特性を評価するためには,岩種ごとにデータを取得することにより,より詳細なサイトスケール領域の岩盤力学モデルを構築することができます。

東濃地域における実施例1-3)

東濃地域では,地表から深度1,000mまでの岩盤の物理・力学特性を把握するための室内物理・力学試験を実施しました。調査方法としては,ボーリング調査で取得されたボーリングコアから深度50~100m間隔で試料を採取し,室内物理・力学試験を行いました。

得られたデータについては,深度方向の物理・力学特性の分布として示すとともに(図1),頻度分布として示し,全国規模のデータ4-6)と比較することにより,岩盤の特徴を把握しました(図2)。

正馬様用地でのデータは,有効間隙率,一軸圧縮強度および弾性係数についてはローカルスケールにおけるデータと分布範囲はほぼ一致しました。また,正馬様用地内の引張強度は全国平均よりも若干低いものの,内部摩擦角とせん断強度は全国平均値とほぼ同程度でした。一方,4つのボーリング孔のデータをまとめてプロットすると,同一深度内であっても値の分布幅が広くなり,さらに物理特性よりも力学特性のデータの分布範囲が広くばらつきます。この原因として,各ボーリングコアの亀裂頻度の違いに応じたコア内のマイクロクラックの発達度合いによって,同一深度であっても値がばらついており,さらに力学特性値の方が亀裂頻度の影響をより強く受けていると考えられました1-3)

岩盤の物理・力学特性と既存の地質構造モデルおよび初期応力状態に関する情報をもとに,正馬様用地の土岐花崗岩における岩盤力学モデルでは,4つのゾーンを設定しました(図31_7のステップ0)。

正馬様用地において実施されたボーリング調査データとそれに基づく解釈によって,岩盤の物理・力学特性の分布を把握することができました。また,岩盤の応力場に関するモデルと同様に4つのゾーンを設定し,それぞれについての物性値を把握しました。岩盤の物理・力学特性については,深度依存性が認められなかったことから,物理・力学物性値に影響を与える大きな要因として亀裂頻度や岩盤等級であることが推測されました。

縦軸に0~1000mの深度を,横軸に物性値をとった10個のグラフが並べてある。値がほぼバラついていない物性値は以下のとおり。見かけ比重(乾燥)が2.5%,含水比 w[%]が0.1~0.8%,有効間隙率n[%]が1~2%,弾性波速度V[km/s]のP波が4~6 km/s・S波が2~4 km/s,50%接線ヤング率E50[GPa]が30~60 GPa,ポアソン比νが0.3~0.5,内部摩擦角f[°]が50~60°。バラつきがある物性値は以下のとおり。一軸圧縮強度σt[MPa]が50~300 MPa,圧裂引張強度σt[MPa]が3~12 MPa,粘着力c[MPa]が10~60 MPa。
図1 サイトスケール領域(正馬様用地内)の物理・力学特性の深度分布
縦軸が頻度,横軸が各物性値をとった棒グラフで表現されている。白抜きが文献データ,黄の塗りつぶしが土岐花崗岩のデータ。頻度のピークを土岐花崗岩/文献データで示す;有効間隙率:2/2(%),一軸圧縮強度:150/100(MPa),弾性係数:60/10(GPa),引張強度:8/8(MPa),せん断強度:20/10(MPa),内部摩擦角:60/40(deg)。
図2 サイトスケール領域(正馬様用地内)の物理・力学特性値の頻度分布
表1 正馬様用地における岩盤力学モデルの物理・力学特性の特徴
月吉断層上盤側岩体 月吉断層下盤側岩体 月吉断層周辺部
ゾーン1 ゾーン2 ゾーン3 ゾーン4 断層上盤割れ目帯
断層下盤割れ目帯
岩盤マトリックス部の力学特性
  • 剛性:小
  • 力学的異方性:不明
  • 剛性:大
  • 力学的異方性:大
  • 剛性:小
  • 力学的異方性:小
  • 剛性:小
  • 力学的異方性:水平面内の異方性は非常に小さい
  • 剛性:最小
  • 力学的異方性:大
割れ目の分布特性
  • 割れ目が多い
  • 低角~水平傾斜の割れ目が相対的に卓越
  • 割れ目が少ないゾーン
  • 割れ目が多いゾーン
  • 高傾斜の割れ目が卓越
  • 上盤側の岩体に比べ,極端に割れ目が少ない
  • 割れ目数は相対的に多い
  • 上盤側に比べ,断層下盤側の割れ目帯の方が相対的に割れ目が多い
原位置岩盤の力学特性
  • 剛性:ゾーン2に比べ小さい
  • 局所的な変化が大きい
  • 剛性:最も大きい
  • 局所的な変化は小さい
  • 剛性:ゾーン2に比べ小さい
  • 局所的な変化は大きい
  • 剛性:上盤側岩体とほぼ同等
  • 割れ目密集部や断層破砕部以外の領域では,局所的な変化は最小
  • 剛性:最小値で他の領域の60%程度
参考文
  1. 松井裕哉 (1999): AN-1号孔およびMIU-1号孔における力学特性調査結果,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7420 99-004,35p.
  2. 松井裕哉,前田信行,吉川和夫 (2000a): MIU-2号孔における力学特性調査結果および月吉断層上盤側岩体の岩盤力学的概念モデル,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7420 2000-001,51p.
  3. 松井裕哉,前田信行,吉川和夫 (2000b): MIU-3号孔における力学特性調査結果および正馬様用地における土岐花崗岩体の岩盤力学的概念モデル,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7420 2001-001,55p.
  4. 佐藤稔紀,石丸恒存,杉原弘造,清水和彦 (1992): 文献調査による我が国の岩石の物理的特性に関するデータの収集,動力炉・核燃料開発事業団,PNC TN7410 92-018,46p.
  5. 佐藤稔紀,谷口航,藤田朝雄,長谷川宏 (1999): 文献調査によるわが国の岩石の物理的特性に関するデータの収集 (その2),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 99-011,36p.
  6. 核燃料サイクル開発機構 (1999): わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ-分冊1 わが国の地質環境,核燃料サイクル開発機構,JNC TN1400 99-021,559p.

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