1_8_5 鉛直応力の深度分布
達成目標

サイトスケール領域における岩盤の初期応力状態を三次元的に把握し,力学特性と合わせて岩盤力学モデルを構築することを目標とします。なお,このモデルは,坑道掘削前の初期応力状態の推定,地下施設の詳細設計や次段階以降の調査・研究計画の策定などに反映させるとともに,坑道掘削に伴う坑道周辺岩盤の変形挙動および応力変化,ならびに応力集中に伴う岩盤の損傷領域の推定にも用いられます。

方法・ノウハウ

①データセット:

岩盤の初期応力は地下施設の設計・建設において最も重要な因子の1つであり,坑道のレイアウトや安定性にも大きく影響する因子です。初期応力測定手法は,実用段階のものから研究段階のものまで,多数の手法が提案されています例えば1)。この理由として,各々の手法がそれぞれ長所,短所,適用限界を有しているためです。

初期応力の測定手法としては,ボーリングコアを用いた手法として,①AE(Acoustic Emission)法とDRA(Deformation Rate Analysis)法との併用法(AE/DRA法),②DSCA(Differential Strain Curve Analysis)法および③ASR(Anelastic Strain Recovery)法などがあり,ボーリング孔を利用した手法として水圧破砕法などがあります。

なお,ボーリングコアを用いた手法は,ボーリングによって岩石にかかっていた応力が解放され,これによる岩石供試体の変形に係わるAEやひずみを測定し,そのAEの発生量の変化や,ひずみ増分の変化などから原位置で作用していた応力値を推定するものです。また,ボーリング孔を用いた水圧破砕法は,水圧によって岩盤を直接破壊し,破壊時などの水圧や破壊の発生方向などから主応力値およびその方向を求めるものです。

②データの解釈:

岩盤の初期応力については,ボーリング孔を用いた水圧破砕法による初期応力測定によって算出されたボーリング方向に直交する断面(鉛直孔では水平面)内の最大主応力・最小主応力の大きさおよび最大主応力方向の深度分布を把握します。また,ボーリングコアを用いた初期応力の測定手法(東濃ではAE法/DRA法を採用)と室内物理・力学試験の結果を組み合わせて,ボーリング方向(鉛直孔では鉛直方向)の初期応力を推定します。これらにより,疑似的な三次元応力状態を評価できます。

東濃地域における実施例2), 3)

ボーリング孔を用いた初期応力測定として,正馬様用地に掘削された3本の深層ボーリング孔(AN-1号孔,MIU-2号孔,MIU-3号孔)において水圧破砕法による初期応力測定を実施しました(図1)。

3本のボーリング孔の主応力値の深度分布は,深度500~650mを境にして上部と下部で応力環境が異なるという特徴が認められました。例えば,AN-1号孔では深度650mでσH(水平面内の最大主応力)>σh(水平面内の最小主応力)≒σv(鉛直応力=土かぶり圧)の逆断層型と横ずれ断層型の遷移型の応力環境からσH>σv>σhの横ずれ断層型の応力環境への変化が認められました。また,MIU-2号孔とMIU-3号孔ではそれぞれ深度550mと600mでσH>σh>σvの逆断層型からσH>σv>σhの横ずれ断層型への応力環境の変化が認められました。

このほか,AN-1号孔とMIU-1号孔では,深度300m付近で初期応力が著しく低下することが確認されました。これは土岐花崗岩の表層から深度200~300mに分布する割れ目頻度の高い箇所(上部割れ目帯)の存在により,局部的に応力緩和が生じているためと推測されました。さらに,MIU-3号孔の深度700m以深の月吉断層の下盤における主応力の大きさは,他のボーリング孔の同一深度で測定された値よりも著しく小さく,応力環境はこの断層を境に横ずれ断層型から正断層型に変化することがわかりました。

3本のボーリング孔の最大主応力方向は,深度200~300m以浅ではAN-1号孔でほぼ南北方向であるのに対して,MIU-2号孔では深度100mから300mにかけて南北から北西-南東方向へと約60°回転するように見えます。MIU-3号孔では深度100m付近でほぼ東西方向です。深度300m以深ではいずれのボーリング孔においてもほぼ北西を中心に分布し,三角点の相対変位から推測される広域的な初期応力状態ともおおむね一致していることがわかりました。

これらの結果に加えて,既存の地質構造モデルや岩盤の力学特性に関する情報をもとに,正馬様用地の初期応力状態を異なる4つのゾーンに区分しました 4), 5)図21_7のステップ0))。

○断層上盤側の深度300mまでの領域:
σH>σh>σv;逆断層型,σHの方向:N-S
○断層上盤側の深度300~600mまでの領域:
σH>σh=σv;逆断層型~横ずれ断層型の遷移型,σHの方向:NW-SE
○断層上盤側の深度600m以深の領域:
σH>σv>σh;横ずれ断層型,σHの方向:NW-SE
○断層下盤側の領域:
σv>σH>σh;正断層型,σHの方向:NW-SE

以上のように,測定された初期応力の大きさおよび最大主応力方向は深度によって異なります。このような現象は“stress decoupling”と呼ばれており,岩質の変化あるいは地形と関係があるといわれています。また,一般に岩盤内部の初期応力分布には地質構造,岩盤の不均質性および異方性,地形などが影響を及ぼすことが知られています。しかし,調査地域の地形は比較的なだらかであり,応力環境が変化する深度500~650mに断層あるいは不整合面などの地質構造は認められません。

以上のことから,ローカルスケール領域の地上からの地質環境調査の段階においては,岩盤深部の初期応力状態はボーリング孔を用いた調査によって初めて正確に推定可能であり,これらを正確に評価するためには,サイトスケール領域において複数の深度あるいは地点における初期応力測定が必要であることがわかりました。

AN-1号孔,MIU-2号孔,MIU-3号孔の試験結果が2段に分けてグラフ化されている。どのグラフも,縦軸は地表からの深度を0~1200mまで示してある。上段は,横軸が0~60 MPaまでの応力値を示すグラフ。四角のプロットで水平面内最大主応力,丸のプロットで水平面内最小主応力,黒の点線で推定土かぶり圧が表現されている。最小主応力は,地表付近ではどの孔も土かぶり圧と同程度以上だが,AN-1号孔は深度650m,MIU-2号孔は深度550m,MIU-3号孔は深度600mで土かぶり圧より低くなる分布傾向がある。下段は最大種応力方位をグラフ化したもので,横軸の左が西(W),中央が北(N),右が東(E)を表す。方位の傾向は本文のとおり。
図1 水圧破砕法による初期応力測定結果
月吉断層の上盤側にAN-1,MIU-1,MIU-2,MIU-3の各ボーリング孔が位置しており,それぞれの孔における応力分布が矢印で示してある。広域応力の作用方向がNWであることが大きな矢印で示してある。断層上盤側の岩体の説明として,「・深度300m以深の水平面内の最大主応力方向はNNW-SSE~NW-SE方向。・Stress decouplingを生じている。・地表から地下1000mの範囲で3つの異なる応力状態のゾーンが存在する。・断層近傍以外は,鉛直応力はほぼ土被り圧に等しい。」とある。断層下盤側の説明として,「・水平面内の最大主応力方向は断層上盤側と同様,NNW-SSE~NW-SE方向。・作用している応力が断層上盤側に比べかなり小さい。・断層近傍以外は,鉛直応力はほぼ土被り圧に等しい。」とある。正馬様用地を含む鉛直断面図では,AN-1号孔とMIU-1号孔では深度300m程度と深度700m程度で応力分布が変化する2つの点がある。MIU-2号孔は,1つ目の変化点が深度400m程度となっている。月吉断層との遭遇深度は,MIU-2号孔で深度800m程度,MIU-3号孔で深度600m程度。
図2 サイトスケール領域(正馬様用地)の岩盤力学モデルにおける応力状態
参考文献
  1. 菅原勝彦(1998):岩盤応力測定に関する研究の動向,資源と素材,Vol.114,pp.834-844.
  2. 核燃料サイクル開発機構 (2002): 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発-平成13年度報告-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN1400 2002-003.
  3. 中間茂雄,山田淳夫,青木俊朗,佐藤稔紀 (2005): 超深地層研究所計画 (第1段階)における岩盤力学調査研究,サイクル機構技報,No.26,pp.77-86.
  4. 松井裕哉,前田信行,吉川和夫 (2000a): MIU-2号孔における力学特性調査結果および月吉断層上盤側岩体の岩盤力学的概念モデル,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7420 2000-001,51p.
  5. 松井裕哉,前田信行,吉川和夫 (2000b): MIU-3号孔における力学特性調査結果および正馬様用地における土岐花崗岩体の岩盤力学的概念モデル,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7420 2001-001,55p.

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