1_11_5 坑道掘削に伴う岩盤変位の予測
達成目標

サイトスケール領域およびブロックスケール領域における地上からの地質環境調査の段階では,地下施設の実施設計や調整設計などに活用するため,初期応力場や岩盤の物理・力学特性について,ボーリング孔を利用した調査・解析から得られるデータに基づいて,坑道掘削に伴う岩盤変位などを予測することを目標とします。

方法・ノウハウ

①データセット

岩盤変位の解析を行うためには,①岩盤物性,②亀裂物性,③初期応力場などを入力データとする必要があります。

このうち,岩盤物性については,1_11_4で述べた,ボーリングコアを用いた物理・力学試験で取得される物理特性(密度,有効間隙率,含水比,弾性波速度)と力学特性(一軸圧縮強度,圧裂引張強度,ヤング率,粘着力,内部摩擦角)を解析に使用するデータとして整理します。

亀裂特性については,ボーリングコアを用いて,亀裂を対象とした一面せん断試験,鉛直載荷試験,ティルト試験,室内透水試験で取得されるデータとともに,BTVによる不連続面観察結果をもとにボーリング孔にみられる全ての亀裂をステレオネットに整理し亀裂の幾何学特性をデータとして整理します。

初期応力場については,ボーリング孔における水圧破砕試験やボーリングコアを用いた室内試験によって深度方向のデータを取得します。

②解析

坑道掘削に伴う変位を正確に予測するためには,坑道掘削に伴って発生する掘削損傷領域(2_2_3)について,坑道周辺岩盤の不連続面の挙動(既存亀裂の滑りや進展など)を適切に表現できる解析手法が必要となります。このような解析手法として,MBCモデル(Micro-mechanics Based Continuum model1), 2))およびクラックテンソルモデル3)と仮想割れ目モデル4)を組み合わせたモデルがあります。これらのモデルを用いて,目的とする深度において立坑や水平坑道を掘削することによる周辺岩盤の変位やひずみ,亀裂開口幅の分布,せん断ひずみや局所安全係数の分布などの予測解析を行います。また,解析にあたっては,岩盤等級,坑道の掘削方向,掘削損傷領域の有無などの条件設定を変えることによって,坑道掘削に伴う岩盤や支保工の挙動,掘削損傷領域の変化の違いについても検討を行うことができます。

③解析結果の解釈

解析の結果,坑道周辺の岩盤の変形,応力,掘削の影響により発生する坑道周辺の亀裂の特性と,初期応力場,既存亀裂および掘削により発生する新規亀裂の大きさや方向の影響などの関係を検討します。

なお,MBCモデルとクラックテンソル・仮想割れ目モデルとでは,亀裂物性の取扱い(入力データ項目)に違いがあるため,手法の特徴の違いにより解析結果に違いが生じる場合もあることに注意を要します。

東濃地域における実施例5), 6)

瑞浪超深地層研究所においては,掘削損傷領域を考慮できる解析手法としてMBCモデルおよびクラックテンソルモデル+仮想割れ目モデルを選定し,深度500mと深度1,000mの立坑と水平坑道を対象として,掘削による周辺岩盤の変位やひずみ,亀裂開口幅の分布,せん断ひずみや局所安全係数の分布などの予測解析を行いました。

解析においては,掘削の直接的な損傷を考慮したパラメータスタディの結果に基づいて,①岩盤物性,②亀裂物性,③初期応力場を入力データとし,岩盤等級,坑道展開方向,掘削損傷領域の有無などの解析条件の違いによる岩盤や支保工の挙動,掘削損傷領域の変化の違いについて検討を行いました。なお,掘削損傷領域の坑壁からの範囲は80cmとし,応力解放率は,立坑では80%,水平坑道では60%と設定しています。

解析の結果,立坑の岩盤変位はMBCモデルでは最大でも2.0mm程度(深度1,000m)となり,岩盤等級の違いによる明瞭な差も認められませんでした(図1)。一方で,クラックテンソルモデル+仮想割れ目モデルでは,立坑については,岩盤等級によって,変形(岩盤等級CMの場合,深度1,000mで最大値18mm;図2)や支保工(覆工コンクリート)応力が大きく変化することがわかりました。これは岩盤等級による差は,岩盤基質部のヤング係数などではなく,主に割れ目の頻度(岩盤等級が下がると割れ目の頻度は増加する)に依存しており,岩盤等級の低下により岩盤の等価剛性が下がるためと考えられました。

深度方向への比較では,深度500mと深度1,000mとでは,ほとんどの変化が,深度が深いほど増大する傾向にありました。MBCモデルでは,支保部材の応力はすべて許容値以内であったのに対し,クラックテンソルモデル+仮想割れ目モデルでは,深度1,000mの水平坑道側壁下端の吹付けコンクリートにおいては,許容応力度を超える結果になりました。また,ロックボルトにいたっては,降伏荷重を超える軸力が発生するケース(CH級・掘削損傷領域あり)もありました。

掘削損傷領域を考慮した場合,総じてMBCモデルでは考慮しない場合と岩盤変位や亀裂開口量などの挙動に大差は認められませんでしたが,クラックテンソルモデル+仮想割れ目モデルでは傾向が異なり,岩盤変形や亀裂開口量から算定される透水係数に影響が生じる結果となりました。

両モデルの共通事項として,掘削坑道周辺岩盤の変形,応力,さらに掘削の影響で発生する坑道周辺岩盤の亀裂開口量などの亀裂特性の変化は,初期応力の影響と亀裂のトレース方向および掘削損傷領域の有無に多大に影響されることが確認されました。一方で,MBCモデルとクラックテンソル+仮想割れ目モデルとで亀裂物性の取扱いに違いがあるため,解析結果に若干隔たりが生じる場合のあることがわかりました。この違いは,各モデルにおける仮定や入力パラメータの設定方法などに起因すると想定されることから,坑道掘削後に実際のデータを取得し,今回の解析結果と比較することで,モデルの適用性を確認する必要があると考えられました。

この図には2つのグラフが掲載されている。どちらのグラフも,横軸は壁面からの距離で,縦軸は左が岩盤変位(mm),右が最大主応力(MPa)である。どちらのグラフも壁面に近い方が値が大きく,離れると小さくなる。ケース5~7の結果がプロットしてあるが,どの結果も同じ傾向を示す。
図1 MBCモデルで解析した深度1,000mにおける立坑周辺岩盤の変位分布(左)と最大種応力分布(右)
この図には,立坑周辺をメッシュ化した絵と,数値解析の結果を示したグラフが掲載されている。グラフは横軸が壁面からの距離(m),縦軸が岩盤変位(mm)。
図2 クラックテンソルモデル+仮想割れ目モデルで解析した立坑周辺の岩盤変位の解析結果(深度1,000m)
参考文献
  1. 吉田秀典,堀井秀之 (1996): マイクロメカニズムに基づく岩盤の連続体モデルと大規模空洞掘削の解析,土木学会論文集,No.535,pp.23-41.
  2. Yoshida, H. and Horii, H. (2004): Micromechanics-based continuum model for a jointed rock mass and excavation analysis of a large-scale carven, International Journal of Rock Mechanics and Mining Science, Vol. 41, Issue1, pp.119-145.
  3. Oda, M. (1988): An experimental study of the elasticity of mylonite rock with random cracks, International Journal of Rock Mechanics and Mining Science & Geomechnics Abstracts, Vol. 25, No. 2, pp.59-68.
  4. 石井卓,郷家光男,桜井英行,里優,木下直人,菅原健太郎 (2002): 仮想割れ目モデルによる空洞周辺岩盤の透水性変化予測手法,土木学会論文集,No.715,Ⅲ-60,pp.237-250.
  5. 郷家光男,堀田政國,多田浩幸 (2005): クラックテンソル・仮想割れ目モデルによる瑞浪超深地層研究所研究坑道の掘削影響予測解析,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7400 2005-058,167p.
  6. 森孝之,森川誠司,田部井和人,岩野圭太 (2005): MBCモデルによる瑞浪超深地層研究所研究坑道の掘削影響予測解析,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7400 2005-080,216p.

PAGE TOP