1_11_6 坑道掘削に伴う地下水湧水量の予測
達成目標

大深度の地下に施設を建設するにあたっては,周辺の環境影響評価および作業計画の立案や施設の維持管理などの観点から,坑道への湧水量を事前に予測し,その湧水について適切な対策や準備を行うことが重要となります。そのため,目的に応じ複数の手法を用いて坑道への湧水量を予測することを目標とします。

方法・ノウハウ

湧水量の予測については,調査の進捗に合わせて地下水流動解析などによる湧水量予測を逐次実施し,湧水量の増加が見込まれる場合は排水処理設備の増強などの対処を進める必要があります。予測の手法については,地下水の浸透理論に基づく予測解析,二次元数値解析,三次元数値解析などの手法がありますが,それぞれの手法により対象モデルの水理地質構造について考慮できる範囲が異なることや,予測解析に要する時間が異なることなどから,目的に応じて複数の手法から適切な手法を選択します。以下に,各予測手法の概要を示します。

表1 湧水量の予測手法とその概要
予測手法①:
定常軸対称モデルを仮定した地下水の浸透理論に基づく予測解析
排水対策の概略設計などに反映するために,パイロットボーリング調査などの水理試験結果に基づく大まかな湧水量予測や,グラウチングによる湧水抑制の目標設定(透水係数低下の目標値の設定,改良幅の設定など)の検討に用いる。
予測手法②:
二次元軸対称モデルに基づく数値解析
断層など高角度傾斜の水理地質構造を考慮できないが,水平な地質構造を考慮した比較的短時間での解析が可能であるため,排水対策の詳細設計などに反映する湧水量の予測や,グラウチングの施工条件が予測湧水量に与える影響の把握などの検討材料として用いる(ただし,適宜三次元モデルに基づく解析との比較を行い,予測結果の妥当性確認が必要)。
予測手法③:
断層や不連続面などの地質構造の三次元分布を考慮した,より現実的な水理地質構造モデルに基づく数値解析
次段階の調査で対象とすべき重要な構造の特定や周辺への環境影響評価,長期的(最深深度までの掘削など)な排水処理設備の設計の見直しなど,プロジェクト管理の検討材料とする。三次元モデルに基づく湧水量の予測を掘削中の情報(地質・水理)をもとに実施し,主要な水みちとなる水理地質構造に遭遇した場合は,モデルの更新・予測解析を実施する。
東濃地域における実施例

瑞浪超深地層研究所の研究坑道掘削について,上記の3つの予測手法を適用した事例を紹介します1)。それぞれの予測手法の特長を活かして使い分けることで,地下水湧水量の予測結果をグラウチング施工計画や仕様といった地下水抑制対策(2_1_5)や,排水処理の詳細な設計検討(2_1_8)にタイムリーに反映することができました。

(1) 予測手法①:地下水の浸透理論に基づく予測解析

(2) 予測手法②:二次元軸対称モデルに基づく数値解析

(3) 予測手法③:三次元水理地質構造モデルに基づく数値解析

透水係数を変化させることでどのくらい湧水量が低減できるかを解析したグラフ。縦軸が換気立坑における湧水量低減割合,横軸が改良幅(m)。改良前の透水係数は4.6E-6m/sec。ゆるみ領域を幅1m,透水係数4.6E-5m/sec(改良前の10倍)と仮定。グラウトによる透水係数の改良割合を,透水係数の0.1倍(4Lu),0.05倍(2Lu),0.03倍(1.2Lu),0.02倍(0.8Lu),0.01倍(0.4Lu)の5例で実施。5例とも,改良幅3mまでは割合は大きく減るが,その後は緩やかな減少となっている。
図1 理論解析によるグラウト改良幅と湧水量低減の関係
換気立坑が貫く岩盤の種類と透水性の設定値を表した断面図。区分されている岩相は,明世層/本郷層とその基底礫岩層,土岐夾炭層とその基底礫岩層,土岐花崗岩の上部割れ目帯,低角度割れ目帯,下部割目低密度帯の7つ。それぞれに透水係数が設定されている。解析領域は,深度方向が1020m,水平方向が2000m。
図2 二次元軸対称モデルの概要
縦軸は湧水量低減割合,横軸は改良幅(m)の。LAFZ(不均質性考慮なし:ケース(a)),LAFZ(不均質性考慮あり:ケース(b))ともに改良幅0のとき,湧水量低減割合は1.0である。最初の2mでケース(a)の低減割合は0.7,ケース(b)の低減割合は0.3と大きく下がっているが,その後3~5mでの低減割合はケース(a)は0.65~0.57,ケース(b)は0.26~0.23とゆるやかな減少となっている。
図3 二次元軸対称モデルに基づくグラウチングの効果予測結果
Case(a)はLAFZを1層でモデル化したケースで,Case(b)は透水性の違いで2層にモデル化したケースを示す。
この図には,立坑を中心とした南北断面図と,各深度における湧水量を示した棒グラフの2つが掲載されている。断面図では,地層ごとに設定された透水係数の値の違いが色で表現されている。棒グラフでは100mおきの湧水量の予測値が表現されており,深度ごとの総湧水量と,主立坑,換気立坑,水平坑道の各領域からの個別の湧水量が示されている。
図4 三次元水理地質構造モデルと湧水量の推定結果
参考文献
  1. 見掛信一郎,山本勝,池田幸喜,杉原弘造,竹内真司,早野明,佐藤稔紀,武田信一,石井洋司,石田英明,浅井秀明,原雅人,久慈雅栄,南出賢司,黒田英高,松井裕哉,鶴田忠彦,竹内竜史,三枝博光,松岡稔幸,水野崇,大山卓也 (2010): 結晶質岩を対象とした坑道掘削における湧水抑制対策の計画策定と施工結果に関する考察,JAEA-Technology 2010-026,146p.

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