2_1_5 グラウチング技術
達成目標

セメント溶液などを岩盤に注入するグラウチング技術により,坑道掘削時の湧水を抑制することを目標とします。また,湧水量の予測にグラウチング効果を考慮できる理論式を用いることにより,目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定する手法を構築します。

方法・ノウハウ

① 先行ボーリング調査の実施

坑道掘削前に先行ボーリング調査を実施し,坑道掘削時に多量の湧水の発生が懸念される区間を対象にグラウチングを実施します。グラウチングは,セメント溶液などの材料を水みちに注入し,坑道周辺の岩盤の透水性を低下させることで,坑道内への湧水量を低減させる工法です。その際,湧水量の予測にグラウチングの効果を考慮できる理論式を用いることにより,目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定します。

② グラウチングの実施

グラウチングにおいて注入する材料は,岩盤の透水性に合わせて様々な材料(普通ポルトランドセメントあるいは超微粒子セメントを水に溶かした材料や,セメントより浸透性に優れた溶液型グラウト材料である活性シリカコロイド)を用います。グラウチングは,湧水が予測される区間を対象に掘削に先立ち坑道切羽から前方に行うグラウチング(プレグラウチング)や,さらなる湧水抑制を目指し掘削後の坑道から行うグラウチング(ポストグラウチング)を実施します。

③ 湧水抑制効果の評価

坑道周辺の緩み領域やグラウチングによる透水性の低減割合と注入範囲などの条件を考慮した湧水量算定式を用いて,グラウチング未実施の場合と実績との比較により湧水抑制効果の評価を行います。

瑞浪超深地層研究所における実施例1), 2)

瑞浪超深地層研究所における研究坑道掘削では,坑道掘削前に実施した先行ボーリング調査により換気立坑掘削時に多量の湧水の発生が懸念され,深度200mから深度500mまでの研究坑道を掘削する間に,湧水抑制対策としてグラウチングを実施しました(図1:立坑における実施例は石井ほか(2011)2),水平坑道における実施例は見掛ほか(2018)1)を参照)。その際,湧水量の予測にグラウチングの効果を考慮できる理論式を用いることにより,目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定しました(図23)。設定した条件によりグラウチングを実施した結果,おおむね予測に合った効果が得られたことから,理論式による目標設定から設計,施工に至る一連の手法は,簡便であり有用性が高いことを提示することができました。これらの成果は,様々な地下空洞の施工への適用が可能であり,成果を広く反映できると考えられます。

深度500m研究アクセス南坑道では,プレグラウチングを実施して坑道を掘削した後,比較的湧水量が多い区間(区間長:約16m)において,さらなる湧水抑制技術の試行として,その外側の範囲を対象としてポストグラウチングを実施しました(図4)。その結果,対象区間の湧水量は,グラウチングを実施しない場合の予測値(1,380m³/日)に対して,プレグラウチング実施後は約30分の1(50m³/日)となりました。その後実施したポストグラウチングにより,50m³/日から15m³/日となり,グラウチングを実施しない場合に対して,湧水量を約100分の1まで低減できました(図5)。また,ポストグラウチングでは,活性シリカコロイドの使用と複合動的注入(周波数の異なる脈動波を組み合せた工法)の適用が効果的であることが確認できました。

この技術は亀裂性岩盤に適用できる汎用的なものであり,地層処分場における維持コストの低減や人工バリアの施工精度の向上に寄与する重要な技術となるとともに,一般的な土木工事においても湧水抑制対策として適用できる技術と考えられます。

この図は,瑞浪超深地層研究所の主立坑,換気立坑,水平坑道のどこで,プレグラウチング,ポストグラウチングを行ったかを示したもの。プレグラウチングは,主に換気立坑の深度191~220m,深度200mボーリング横坑,深度300m研究アクセス坑道,換気立坑の深度417~428mおよび442~453m,深度500m研究アクセス南坑道で実施された。ポストグラウチングは深度500m研究アクセス南坑道の,プレグラウチングを行った同位置で実施された。
図1 瑞浪超深地層研究所のグラウチング実施箇所
この図は,深度500m研究アクセス南坑道でのプレグラウチングを概念的に示したもの。プレグラウチングと坑道掘削は,坑道の先端から約15mのグラウチング材料の注入孔を複数,放射状に掘削,グラウチング材料を注入後,坑道を約10m掘削,掘削した坑道の先端からさらに約15mのグラウチング材料の注入孔を複数,放射状に掘削,グラウチング材料を注入後,坑道を10m掘削する,という手順で実施された。
図2 深度500m研究アクセス南坑道のプレグラウチング実施範囲概念図
この図は,想定されるゆるみ領域に対し,プレグラウチング注入範囲,ポストグラウチングの注入範囲の概念図と,グラウチング効果の理論式を示している。
図3 坑道と注入範囲の模式図

グラウチング効果を考慮できる理論式は以下のとおり。

この図は,深度500m研究アクセス南坑道のポストグラウチングの実施範囲を示したもの。深度500m研究アクセス南坑道におけるポストグラウチングでの施工範囲は換気立坑から坑道延長77.6m~93.8mの16.2m区間(6リング)であり,1リングあたりの注入行標準仕様は32孔,削孔長8.4m,注入区間長4.2m,注入量350L/mとして実施した。
図4 ポストグラウチングの実施範囲
この図は,深度500m研究アクセス南坑道におけるプレグラウチングとポストグラウチングに伴う予測湧水量と実測湧水量の比較したもの。プレグラウチング区間の湧水抑制効果は,横軸がプレラウチングによる改良値(ルジオン値),縦軸が湧水量m3/日のグラフで示されている。プレグラウチング未実施の場合,湧水量の予測値は1,380m3/日であるのに対し,プレグラウチング実施後,改良値0.1ルジオンでの湧水量の予測値は57m3/日,実測値は50m3/日となり,プレグラウチング未実施時の30分の1の湧水抑制効果が得られた。さらにポストグラウチング実施後は改良値0.025ルジオンでの湧水量の実測値が15m3/日となり,当初の湧水量予測値である1,380m3/日の約100分の1の湧水抑制効果が得られた。
図5 深度500m研究アクセス南坑道におけるプレグラウチングと
ポストグラウチングに伴う予測湧水量と実測湧水量の比較
(左)プレグラウチング区間の湧水抑制効果,(右)ポストグラウチング区間の湧水抑制効果
参考文献
  1. 見掛信一郎,池田幸喜,松井裕哉,辻正邦,西垣誠 (2018): 高圧湧水下におけるプレグラウチングとポストグラウチングを併用した湧水抑制効果の評価,土木学会論文集C(地圏工学),第74巻第1号,pp.76-91.
  2. 石井洋司,渡辺和彦,神谷晃,早野明,見掛信一郎,竹内真司,池田幸喜,山本勝,杉原弘造(2011): 深度400m 以深の換気立坑掘削において実施したプレグラウチングの施工結果と考察,JAEA-Technology 2010-044,92p.

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