2_1_6 突発事象に対する施工対策技術
達成目標
山はねについては,兆候が認められた場合に必要な対策を講じることができることを目標とします。瑞浪超深地層研究所では山はねは発生しなかったため,事前の検討として対策事例について情報収集を行いました。
方法・ノウハウ
トンネル施工では山はねが発生した事例とその対策の方法・ノウハウが示されています。これらについて情報収集し整理したものを表1に示します。
瑞浪超深地層研究所における実施例2)
山はねは,坑道掘削時において,掘削面周辺の岩盤の一部が大きな音響を伴って坑道内に突然飛び出す現象です。この現象は,岩盤中に蓄えられた弾性ひずみエネルギーが掘削により解放されることに起因して発生すると考えられています。一般的に山はねは,土被り(坑道の上端から地表面までの岩盤などの厚さ)が大きく,応力が高い場合で,かつ均質で節理などの少ない硬い岩盤で起こりやすいと考えられており,前兆現象といえる山鳴りや振動が認められ,これらが連続して発生した場合に山はねが発生する場合が多いとされています。瑞浪超深地層研究所では,研究坑道掘削時に山はねが発生することも想定し,兆候が認められた場合に必要な対策を講じることができるよう事前の検討として対策事例について情報収集を行いました。これまでの事例では,その多くは2~5cmの厚さの板状の岩片となって飛び出しており,大きさは小片から1m³を超えるものまでさまざまです。表1に山はねの発生したトンネル施工例を示します。それぞれの施工例では,次のような対策が実施されています。
- 待機時間の確保
- 矢板による天端,側壁防護
- 掘削面を覆うためのネット設置
- 鋼繊維補強吹付けコンクリートの使用(支保工のじん性を上げ,山はねに起因するはく落の危険性を減少させる)
- 鏡(坑道掘進方向の掘削面)ボルトと防護ネット,鏡吹付けコンクリートの打設
- 一掘進長の短縮(1.5~3mから1.2m,2.5mから1.5mなど)
山はねの生じる岩盤は,その予知対策も重要です。山はねの発生メカニズムは詳細に解明されておらず,確立された方法もないのが現状ですが,発生メカニズムの解明と予知を目的にAE(Acoustic Emission:材料が変形したりき裂が発生したりする際,材料が内部に蓄えていた弾性エネルギーが高い周波数をもつ音(弾性波) として放出される現象)測定が用いられています。これは,岩盤が破壊に至る前からAEを発するという性質を利用して,岩盤内のAEを収録し山はねの兆候を予知しようとするものです。AEセンサーを切羽近傍に設置し,連続的に解析処理を行い,異常を検知した場合には警報を発するようにシステム化されたものもあります。山はねの兆候が発生した場合には,AE測定を実施するとともに,上記の対策を講じる必要があります。
なお,上記のような事前検討を行いましたが,瑞浪超深地層研究所の研究坑道掘削時に山はねは発生せず,情報収集した対策方法が適用されることはありませんでした。
トンネル名 | 延長 (m) |
地質 | 支保工 | 山はねの発生 状況と位置 |
山はね対策工 |
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関越自動車道3) | 10,926 (下り線) |
石英閃緑岩 | 鋼製支保工,ロックボルト |
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11,020 (上り線) |
石英閃緑岩 | ロックボルト,吹付コンクリート |
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雁坂(国道)4) | 6,645 | 花崗閃緑岩 砂岩 粘板岩 |
ロックボルト,吹付コンクリート,鋼製支保工 |
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西風(高速道路)5) | 3,900 | 花崗岩 | ロックボルト,吹付コンクリート |
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参考文献
- 核燃料サイクル開発機構 (2005): 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する知識基盤の構築-平成17年取りまとめ-,-分冊1 深地層の科学的研究-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN1400 2005-014,415p.
- トンネル工学委員会 (2016): トンネル標準示方書〔共通編〕・同解説/〔山岳工法編〕・同解説,土木学会,pp.321-322.
- 山本市治,多賀直大 (1990): 3年で谷川連峰を貫くー関越自動車道 関越トンネル(Ⅱ期線),トンネルと地下,第21巻2号, pp.29-37.
- 望月常好,穂刈利夫,斉藤義信,桑田俊男 (1990): 土かぶり200mで山はね現象に遭遇 国道140号 雁坂トンネル,トンネルと地下,第21巻9号,pp.27-36.
- 吉田幸伸,小林光男,北村俊記,谷卓也 (2001): 小土かぶりトンネルにおける山はね現象とその対策 広島高速4号線 西風トンネル第3工区,トンネルと地下,第32巻5号,pp.7-17.