1_9_4 地下水流動の感度解析
達成目標
ボーリング調査で優先的に対象とすべき断層を抽出することを目標として,断層の水理特性を変えた複数のケースについて地下水流動の感度解析を行い,断層の透水性が動水勾配分布に及ぼす影響の評価および解析領域内の動水勾配分布に大きな影響を及ぼす断層の抽出を目標とします。
方法・ノウハウ
ボーリング調査の前に行われる地表地質調査や物理探査では複数の断層が認められるのが一般的なため,断層の水理特性を把握するために必要なボーリング調査を効率的に行うためにも,どの断層を優先的に調査すべきかを事前に検討し,ボーリングの掘削位置などを選定する必要があります。
例えば,ローカルスケール領域を対象とした地下水流動解析例えば1), 2)において,断層が地下水の流動特性に及ぼす影響が大きい地質構造要素の1つであることが確認されています。サイトスケール領域で実施した地表地質調査や反射法弾性波探査の結果,領域内には複数の断層の存在が確認または推定されており(1_9_1),ボーリング調査の前に,それらの断層の透水性が地下水流動に及ぼす影響の程度を把握することが必要となります。
上記のような影響評価にあたっては,断層の透水性に着目した感度解析が有効な評価手法の1つです。感度解析のケース設定の考え方は,以下のとおりです。
- 地表地質調査や物理探査においては,既存情報以外の断層の透水性に関する情報が取得されていないため,既存情報に基づいて断層の透水性のパターンを設定する必要があります。一般的には,断層の透水性は,岩盤部と比較して高透水性,低透水性,透水異方性(断層面方向に高透水性,断層面直行方向に低透水性)の3パターンが考えられます。
- 感度解析の実施ケースは,断層一本一本の透水性パターンを網羅的に組み合わせて設定することも考えられますが,感度解析の対象となる断層の数が多い場合には,例えば,断層の卓越する走向に基づきグルーピングを行い,分類したグループ毎に地下水流動に及ぼす影響を把握した上で,評価対象領域との位置関係や断層の規模に基づき重要な断層を特定する方法も有効です。
東濃地域における実施例3)
サイトスケール領域の水理地質構造モデル(1_8_3)に,地表地質調査および反射法弾性波探査結果に基づき抽出した断層(1_9_1, 1_9_2)をモデル化しました。ローカルスケール領域内において複数の断層が分布していると推定されたため,領域内の地下水流動に大きな影響を及ぼす断層を抽出するために,断層の透水性に着目した感度解析を実施しました。なお,水理地質構造のモデル化および地下水流動解析はGEOMASSシステム(1_12_9)を用いて実施しました。
サイトスケール領域に分布する月吉断層を対象にした調査研究から例えば2), 4),断層の有する透水異方性が動水勾配分布に及ぼす影響が大きいことが明らかとなっていました。そこで感度解析では,モデル化した断層を卓越する断層の走向に基づいて5つに分類(図1)したうえで,断層の透水異方性の有無に着目した感度解析を実施しました。その結果,以下のことが明らかになりました。
- 研究所用地の地下水の主流動方向(北東から南西)に対して,上流側に分布する断層のうち北北西系断層および北東系断層が透水異方性を有しているケースでは,これらの断層を挟んで上流側と下流側で水頭差が生じているが,これらの断層が高透水性を有する場合は,この断層を挟んだ部分での水頭差が生じていない(図2)。一方,その他の走向の断層は,断層が透水異方性を有するケースでも高透水性であるケースでも,断層を挟んだ前後の水頭に変化が生じない(図2)。
- 上記のことから,北北西系および北東系断層の透水性が研究所用地周辺の全水頭分布に大きな影響を与えることが明らかとなった。また,トレース長が長い断層ほど,その断層の上流側・下流側でより大きな水頭差を生じる水理境界となる傾向が示唆された。これにより,北北西系および北東系断層の規模の大きい断層が,次のボーリング調査で優先的に調査すべき水理地質構造であることを確認した。
このように,ボーリング調査の位置を決める上でも,断層の透水性に着目した感度解析が有効な評価手法の1つであることが確認されるとともに,水理地質構造モデルの更新にも反映されました(1_11_2)。


参考文献
- 三枝博光,前田勝彦,稲葉薫 (2001): 水理地質構造モデル化概念の違いによる深部地下水流動への影響評価 (その6)-不連続構造の水理特性および水理学的境界条件に着目した水理地質構造のモデル化および地下水流動解析-,社団法人地盤工学会,亀裂性岩盤における浸透問題に関するシンポジウム発表論文集,pp.299-308.
- 三枝博光,稲葉薫,澤田淳 (2003): 断層の透水異方性に着目した水理地質構造のモデル化・地下水流動解析-東濃地域を例として-,第32回岩盤力学に関するシンポジウム論文講演集,pp.371-376.
- 大山卓也,三枝博光,尾上博則,遠藤令誕 (2005): 繰り返しアプローチに基づくサイトスケールの水理地質構造のモデル化・地下水流動解析 (ステップ0および1),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-008,77p.
- 竹内真司,下茂道人,西嶌望,後藤和幸 (2001): 1,000mボーリング孔を用いた圧力干渉試験による断層近傍の透水性調査,第31回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.296-300.