1_9_1 断層/推定断層の分布図更新
達成目標
地上からの地質環境調査では,サイトスケール領域において移行経路となったり地下水流動に影響を及ぼしたりする地質・地質構造を推定することが重要です。ここでは,地表地質調査を実施して地層境界や断層の位置などの情報を取得するとともに,反射法弾性波探査の結果のほか,これまで実施してきた既存のリニアメント判読,ボーリング調査の結果と比較して,地質構造モデルに反映すべき地質・地質構造を抽出し,断層・推定断層の分布図を更新することを目標としました。
方法・ノウハウ1), 2)
①地表地質調査:
サイトスケール領域に分布すると推定される地層境界や断層の正確な位置および性状を把握するための調査を実施します。既存の地質図では認識されていない小規模な断層の位置や連続性に関するデータを取得することができます。断層露頭では,断層の位置,割れ目帯の規模,走向傾斜,変位量,断層岩の種類といった情報を記載します。
②地質・地質構造(特に,断層・推定断層)の三次元分布の推定:
地表踏査の結果を反射法弾性波探査やこれまでの調査結果と比較して,サイトスケール領域における地質・地質構造の三次元分布を推定します。リニアメント判読は広範囲において概略的な分布を把握する手法であり,ボーリング調査や反射法弾性波探査は狭い範囲の情報を提供することから,地表踏査の直接的かつ面的な情報と組み合わせることが,地質・地質構造(特に,断層・推定断層)の三次元分布の精度を向上させる上で有効な手段だと考えられます。
③断層岩の岩石鉱物学的調査:
地表地質調査において断層露頭を確認した際には,断層岩を持ち帰って分析し,その岩石鉱物学的データを取得します。
④留意点:
- 地質・地質構造の三次元分布の精度を向上させるためには,本段階における地表地質調査や物理探査について,これまで実施してきたローカルスケール領域における調査結果やリニアメント判読結果を基にして,データの拡充が必要と考えられる位置や範囲を適切に選定することが重要です。
東濃地域における実施例
研究所用地内およびその周辺を中心として地表地質調査を実施し,地層境界や断層に関する情報を取得し,断層・推定断層の分布図を更新ました2)(図1,図2)。
- 新たに堆積岩(瑞浪層群と瀬戸層群)の地層境界の位置情報を取得し,地表地質図を更新しました。
- 地表地質調査で明らかになった断層,反射法弾性波探査で抽出された反射イベント(1_9_2),リニアメント判読で抽出されたリニアメント(1_8_1)を比較し,分布位置や走向・傾斜の整合性が高いものを同一の断層として整理しました。
- 断層については,地表地質調査およびボーリング調査の結果を優先しつつも,反射法弾性波探査およびリニアメント判読の結果を組み合わせて解釈することが,地質構造モデルの更新(1_9_3)に有効な手法でした。
- 地表地質調査で確認した断層の多くは走向が南北~北北西であり,この地域の地下水流動の主流動方向と交差する方向に分布していました。さらに,粘土分を多く含む断層ガウジや断層角礫を含んでいました。これらにより,これらの断層は,サイトスケール領域における地下水流動に影響を与えている可能性があると考えられました。


参考文献
- 太田久仁雄,天野健治,熊崎直樹,松岡稔幸,竹内真司,升元一彦,藪内聡 (2003): 超深地層研究所計画,年度報告書(平成14年度),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7410 2003-006,127p.
- 松岡稔幸,熊崎直樹,三枝博光,佐々木圭一,遠藤令誕,天野健治 (2005): 繰り返しアプローチに基づく地質構造のモデル化(Step1およびStep2),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-007,99p.