1_8_1 リニアメントの分布
達成目標
サイトスケール領域の地質構造の三次元分布を把握するために,大縮尺の画像(1万分の1の空中写真)を利用してリニアメントを抽出するとともに,サイトスケール領域で実施するリニアメント判読で適正に判読できるリニアメントの規模や判読精度を評価することを目標としました。
方法・ノウハウ1)
①調査で取得すべき情報:
空中写真を用いて,直線上の谷,地形急変部,横ずれ地形などの判読地形が認められる線状構造をリニアメントとして抽出します。抽出したリニアメントは,判読図の縮尺や抽出したリニアメントの長さに合わせて適切な解像度の地形図や地質図に転写します。
②既存のリニアメント調査との比較:
判読した結果を,既往報告やローカルスケール領域で実施したリニアメント判読結果と比較します。1万分の1の空中写真を用いたリニアメント判読は,長さが1km以下のリニアメントの判読には適していますが,縮尺が大きすぎるため,長さが3km以上のリニアメントの判読には適していません。このことから,リニアメント判読の対象とするスケールに応じて適切な縮尺の画像を選定することが重要です。
③既存の調査結果との比較:
露頭調査,ボーリング調査や物理探査などで確認もしくは推定した地質構造(不連続構造)との比較を行います。判読されたリニアメントの長さと頻度の関係は,割れ目の長さと頻度の関係と同じフラクタル特性2), 3)などが認められる傾向があり(東濃地域の事例を図1に示す),不連続構造の分布頻度の概略的な推定に用いることができると考えられます。
④留意点:
- リニアメント判読の精度は,画像の分解能や人の識別能力にも依存し,幅が存在しうることに留意する必要があります。一例として,1万分の1の空中写真を用いて判読されたリニアメントを2千5百分の1地形図に転写する場合は,リニアメントの分布位置には数十mのズレが存在しうると考えられます。
- 断層の規模が小さい場合は,リニアメント判読で抽出できないものがあることに留意する必要があります。
- 判読結果が地表の地形特性に基づいている以上,地表に地質構造と関係しない被覆層が分布している場合や,地上が人為的に改変されている場合などは,不連続構造を正確に抽出できないことに留意する必要があります。
東濃地域における実施例
1万分の1の空中写真を用いてリニアメントを判読し(研究所用地周辺を図2,DH-10合孔周辺を図3に例として示す),物理探査(1_3)の結果と比較しました。ここでは,ローカルスケール領域の調査で実施した地表地質調査(1_9_1)の結果と比較も示しました
- ローカルスケール領域におけるリニアメント判読(小縮尺;1_2_1)と大縮尺の空中写真(1万分の1)を用いたリニアメント判読および地表地質調査の結果をあわせると,リニアメントの長さ別頻度分布がほぼ同一のべき乗分布にしたがっていることから,リニアメント判読や地表地質調査では確認が困難な長さ数百m程度の不連続構造の分布頻度を推定できる可能性がある(図1)。
- 1万分の1の空中写真を用いて判読された長さ数百mのリニアメントは,その分布や方向性が既往の調査(地表地質調査やボーリング調査)から推定された断層や割れ目帯と整合的であった(図3)。このことから,1万分の1の空中写真を用いた解析結果は,既存地質図に記載されない規模の不連続構造の分布特性を推定するうえで有用なデータになると考えられる。
- リニアメントが判読できる長さは地質により異なり,基盤岩(結晶質岩)分布域では長さ約300~1,000m,瑞浪層群(堆積岩)分布域では400~1,000m程度であった。
- 瀬戸層群(瑞浪層群を被覆する堆積岩)ではリニアメントの判読が困難であった。この原因として以下の2点が挙げられる。①下位の岩盤に断層が分布していても,瀬戸層群が被覆して断層に起因する地形が認められにくくなっている(瀬戸層群の堆積後に構造運動が生じていない場合はリニアメントが生じない)。②柔らかい堆積岩では明瞭な破断面が形成されない可能性があり,結晶質岩と比較して不明瞭になる場合がある。
- リニアメントが断層だと仮定した場合,既往研究による断層の長さと破砕幅の関係式4)に基づくと,破砕幅が1.2m以下の断層は長さが300m以下となり,リニアメントとして抽出されない可能性が高いと考えられた。
なお,ここに示した内容を含め,リニアメント解析技術の適用性については,1_12_1で示します。


青(L0x-xxx)は衛星画像および4万分の1空中写真の判読結果5)
ピンク(Lxxx)は1万分の1の空中写真の判読結果6)

参考文献
- 佐々木圭一,太田久仁雄 (2004): 大縮尺の空中写真により判読したリニアメントに関する検討-東濃地域における事例研究-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2004-007,68p.
- 大野博之,小島圭二 (1993): 岩盤割れ目のフラクタル (その2),応用地質,34巻,2号,pp.58-72.
- 井尻裕二,深田淳,坂本和彦,内田雅大,石黒勝彦,梅木博之,大西有三 (2001): 割れ目ネットワークモデルの水理特性に及ぼす割れ目スケール効果の影響,土木学会論文集,694号,Ⅲ-57,pp.179-194.
- 緒方正虔,本荘静光 (1981): 電力施設の耐震設計における断層活動性の評価,応用地質,22巻,1号,pp.67-87.
- 山井忠世,角南基亮,小林公一 (1994): 東濃地域を対象にしたリニアメント調査(その1),動力炉・核燃料開発事業団,PNC TJ7361 94-002,71p.
- 梅本和裕,地主卓弥,篠田繁幸,森大 (2003): 広域地下水流動研究領域における航空写真判読および地表調査,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7400 2003-005,276p.