1_2_1 リニアメント判読と不連続構造の抽出
達成目標
ローカルスケール領域の地質・地質構造の三次元分布を推定するために,衛星画像(1/20万LANDSAT画像,1/10万SPOT画像)および空中写真(1/4万,1/1万)を利用した地形判読でリニアメントを抽出し,不連続構造のおおよその位置を推定することを目標としました。
方法・ノウハウ1-4)
①取得すべき情報:
衛星画像や空中写真を用いて地形判読を行います。直線状の谷,地形急変部,横ずれ地形などの組織・変異地形が認められる線状構造をリニアメントとして抽出します。
②リニアメント解析:
判読されたリニアメントの解析を行います。リニアメントの判読結果を地質図に投影し,各地質におけるリニアメントの分布密度,長さ,方向性に関する傾向について統計処理を行います。
③留意点:
- 衛星画像(1/20万LANDSAT画像および1/10万SPOT画像)は,1画像で判読できる範囲が広く,大規模な地質構造の把握に適しています。LANDSAT画像のように立体視が適用できない画像の場合は,リニアメント判読は画像の陰影に基づくこととなり,太陽光線の入射角や方向の違いが判読結果に影響を及ぼす可能性があります。これに対して,立体視が可能なSPOT画像では,高度感が得やすくLANDSAT画像に比べて詳細な地形まで判読できます。
- 1/4万および1/1万の空中写真は,上記の衛星画像と比較して分解能が高く,写真の縮尺も大きいため,より詳細な地形まで判読できますが,一度に判読できる範囲が狭いため,大規模な地質構造の抽出には不向きです。
- 衛星画像は,広範囲の地質・地質構造分布を踏まえた大規模なリニアメントの判読に有効ですが,数km以下の小規模なリニアメント判読には適していません。これに対して,空中写真は衛星画像に比べ,より小規模なリニアメントを抽出できますが,4万分の1の空中写真では,1km程度が判読限界と考えられます(表1)。
東濃地域における実施例
- ローカルスケール領域を対象として,1/20万LANDSAT画像,1/10万SPOT画像,1/4万空中写真,1/1万空中写真を用いてリニアメントを抽出しました(図1)。その結果,解析領域においては,活断層研究会編(1991)5)による活断層で唯一本領域内に分布する屏風山断層の一部と考えられるリニアメントが本領域南東端で抽出されました。また,断層や節理に対応する可能性があると言われている長さ3 km以上のリニアメント6)が5本抽出されました。
- 1万分の1の空中写真によるリニアメント判読図を使って地質毎のリニアメントの分布特徴を調べた結果,領域内のリニアメントの分布密度は地質によって大きく異なり,土岐花崗岩(基盤岩)で6.90本/km²,瑞浪層群(堆積岩)で4.28本/km²,瀬戸層群(堆積岩)で0.98本/km²でした(表2)。一般的に,基盤岩に断層が分布していてもその活動後に上位に堆積岩が被覆した場合は断層地形が不明瞭になることや,岩盤が柔らかい堆積岩では断層運動による断層地形が明瞭になりにくいと言われており,堆積岩地域,とくに瀬戸層群ではリニアメントが抽出されにくくなっていると考えられます。
- 撮影方法の異なる画像で,かつ複数の縮尺の画像を用いてリニアメントを判読することは,地質文献に記載されていない不連続構造のおおよその位置を推定するのに有効であると考えられます。つまり,リニアメント判読を行うことで,次の段階の調査や解析で優先すべき地質構造を抽出することが可能になります。
- なお,ここに示した内容を含め,リニアメントに関する調査・解析技術の適用性については,1_12_1で示します。
メディア名 | 適用規模 | 長所 | 短所 |
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LANDSAT画像 (縮尺:1/20万) |
数km以上 |
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SPOT画像 (縮尺:1/10万) |
1~数km以上 |
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1/4万航空写真 | 1km以上 |
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1/1万航空写真 | 数百m~数km |
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項目 | 単位 | 全体 | 基盤岩類 | 瑞浪層群 | 瀬戸層群 (土岐砂礫層) |
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対象面積 | (km²) | 144.72 | 40.28 | 27.82 | 76.58 |
総本数 | (本) | 472 | 278 | 119 | 75 |
総延長 | (m) | 217,802.31 | 120,116.58 | 58,489.86 | 39,195.87 |
平均長 | (m) | 461.45 | 432.07 | 491.51 | 522.61 |
長さの標準偏差 | (m) | 359.76 | 395.48 | 251.67 | 358.94 |
分布密度 (本数/km²) |
(本/km²) | 3.26 | 6.90 | 4.28 | 0.98 |
分布密度 (総延長/km²) |
(km/km²) | 1.51 | 2.98 | 2.10 | 0.51 |
最短延長 | (m) | 32.57 | 32.57 | 86.67 | 103.02 |
最長延長 | (m) | 2,840.41 | 2,840.41 | 1,389.39 | 2,287.42 |
参考文献
- 動力炉・核燃料開発事業団, アジア航測 (1987): 航空写真等による水理地質構造の解析, 核燃料サイクル開発機構, JNC TJ7440 2001-009, 143p.
- 今村遼平, 加藤芳郎 (1990): 中部地方における広域地質環境評価のための断裂系調査, 核燃料サイクル開発機構, JNC TJ7440 2000-028, 92p.
- 山井忠世, 角南基亮, 小林公一 (1994): 東濃地域を対象にしたリニアメント調査(その1), 動力炉・核燃料開発事業団, PNC TJ7361 94-002, 71p.
- 梅本和裕, 地主卓弥, 篠田繁幸, 森大 (2003): 広域地下水流動研究領域における航空写真判読および地表調査, 核燃料サイクル開発機構, JNC TJ7400 2003-005, 276p.
- 活断層研究会編 (1991): 新編 日本の活断層, 東京大学出版, 440p.
- 井上大榮, 水落幸広, 桜田裕之 (1992): リニアメントの断裂系としての特性とその評価, 応用地質, 33巻, 3号, pp.147-156.