1_12_2 物理探査技術
達成目標

地質環境特性の理解に必要な調査・評価技術の整備の一環として,地上からの地質環境調査段階において地質環境特性を合理的かつ精度良く調査・評価するうえで重要と考えられる,地上物理探査技術の整備を目標とします。

方法・ノウハウ

①反射法弾性波探査:

反射法弾性波探査は,主に堆積岩中における地層境界面の検出などを目的として発展してきた手法であり,花崗岩を対象としたその適用性については十分に議論されていない部分がありました。このため,より詳細に地質構造を解釈するためには,花崗岩中の反射イベントのS/N(Signal/Noise)比や反射イメージング精度の向上を目的とした,いくつかの反射法処理・解析を行う必要があります。

例えば,堆積岩と花崗岩のような急激な速度コントラストがある場合には,この境界近傍でのNMO(Normal Move Out)補正時の波形の急激な変化によるイメージングの低下や花崗岩中での反射振幅の低下による相対的な各種ノイズ振幅の増大などの問題が考えられます。このため,簡易的な処理・解析として,堆積岩のイメージングを考慮せずに,花崗岩を対象にNMO補正速度とデコンボリューションパラメータを適用する必要があります(解析の結果は図1を参照)。

また,追加の処理・解析項目として,表面波抑制処理,サーフィスコンシステントデコンボリューション,相対振幅保存処理,重合前時間マイグレーションなどを適用することにより,花崗岩中において断層や割れ目などによる不均質の影響が大きいと思われる領域を推定することが可能になります。

②高密度電気探査:

花崗岩が地表に露出する地域においては,反射法弾性波探査では高角度の不連続構造を抽出することが困難な場合があります。このような場所では,高密度電気探査によって一般に高比抵抗を示す花崗岩の健岩部と低比抵抗を示す断層などの軟質部の比抵抗差から不連続構造を検出できる可能性があります。しかしながら,電気探査の測線長が不十分な場合には,低比抵抗体の偽像が出現する場合があります。このため,高密度電気探査では,ボーリング孔の電気検層の情報を解析の拘束条件とすることにより正確な解析結果を得ることができ,花崗岩中の風化部や不連続構造などの分布に関する確度の高い地質構造解釈をするうえでは,このような解析・検討が効果的であると考えられます。また,地質構造解釈の精度を向上させるためには,ボーリング孔と地表間を対象とした比抵抗トモグラフィ探査を実施することや,調査対象の不確実性を考慮して探査測線(特に長さなど)を設定した調査計画の策定が重要と考えられます。

③マルチオフセットVSP探査:

マルチオフセットVSP探査は,反射法弾性波探査結果を補完するとともに,ボーリング孔周辺に複数の発震点を設けることによって,ボーリング孔周辺における反射法弾性波探査よりも詳細に不連続構造や割れ目帯の分布を推定することが期待されます。例えば,VSPマイグレーションを適用した各オフセットVSP記録を重合した断面においては,地表地質調査や反射法弾性波探査で確認・推定された高角度の断層の深部への延長を推定することが可能となります。また,マルチオフセットVSP探査に使用した3成分受振器(ジオフォン)のうち,水平2成分記録を用いて解析・重合した断面からは,高角度の断層の反射イベントを抽出することができ,ボーリング孔周辺の高角度の断層の分布を推定することができます。

東濃地域における実施例

①反射法弾性波探査1)

東濃地域では,ローカルスケール領域およびサイトスケール領域を対象に全10測線,総延長約18kmにおいて反射法弾性波探査を実施しました。その結果,反射断面記録には,瀬戸層群および瑞浪層群中の地層境界や堆積岩と土岐花崗岩との不整合面などに対応する連続性の良い反射イベントが得られたほか,土岐花崗岩中の上部割れ目帯に対応する深度にもいくつかの反射イベントが認められました。しかしながら,花崗岩中に認められる反射イベントについては,ボーリング孔を利用した調査・解析などで把握した地質構造と一致しているものの,例えばボーリング調査で認められた破砕帯が反射イベントでは明瞭ではないなど,その詳細を比較した場合には一致しない箇所が認められました2)。そのため,花崗岩中の地質構造解釈を行えるように,花崗岩中の反射イベントのS/N(Signal/Noise)比や反射イメージング精度の向上を目的とした,いくつかの反射法処理・解析を試みました。

まず,堆積岩と花崗岩の急激な速度コントラストにより,この境界近傍でのNMO(Normal Move Out)補正時の波形の急激な変化によるイメージングの低下や花崗岩中での反射振幅の低下による相対的な各種ノイズ振幅の増大などの問題が考えられることから,簡易的な処理・解析法として,堆積岩部のイメージングを考慮せずに,花崗岩部のみを対象にした処理・解析(NMO補正とデコンボリューションフィルタ)を実施しました。その結果,堆積岩部もイメージングすることを考慮した通常の処理・解析を適用した反射断面記録に比べて,花崗岩を対象とした処理・解析を適用した反射断面記録の方が,物理検層データから作成した花崗岩中の合成地震記録に見られるイベントと一致する結果を得ることができました(図1)。

また,データやマイグレーション(傾斜している反射面を空間的に正しい位置に戻す操作)にも不確実性があることから,それを解消するための処理・解析として,表面波抑制処理,サーフィスコンシステントデコンボリューション,相対振幅保存処理,重合前時間マイグレーションを適用しました。その結果,通常の処理・解析結果に比べて再処理・解析による反射断面記録の方が反射イベント(図2の赤点線で囲った範囲)と合成地震記録とはよく一致てしおり,さらに花崗岩中の断層や割れ目の規模などに対応すると思われる合成地震記録上の反射イベントの振幅の強弱なども反映した結果を得ることができました。これらの結果から,特に花崗岩の上に堆積岩が厚く被覆するような条件下では,地質構造解釈をするうえで,通常の処理・解析に加えて,このような処理・解析手法の適用は有効であると考えられました。

②高密度電気探査3)

東濃地域では,花崗岩が地表に露出している場所において高密度電気探査を実施し,その有効性について検討しました。測定にあたっては,電流遠電極,電位遠電極はそれぞれ測線から1km程度離して設置するとともに,データの品質向上を目的として①60Hzノッチフィルターによる商用電源由来ノイズの除去,②5回のスタック,③電位波形のチェック,④電位の距離減衰のチェック,⑤相反測定による整合性チェックを行いました。また,解析は有限要素法と最小二乗法による二次元インバージョン解析を行いました。比抵抗構造は初期値から大きくかけ離れないとする拘束条件を与えるMarquardt法を用いました。この結果,解析断面の端部において,断層を示唆する数十Ωm程度の顕著な低比抵抗体が検出されました。しかしながら,低比抵抗体の構造を確認するために実施したボーリング調査では,低比抵抗体に対応する深度付近に断層は確認されず,比抵抗値も非常に高い値でした。

このため,ボーリング孔における電気検層結果を拘束条件とした高密度電気探査データの再解析とその結果の信頼性を確認するためのモデルシミュレーション解析を実施しました。その結果,北東部の低比抵抗部は,調査測線の延長方向の表層部に低比抵抗層が分布している場合にも,測線端部に偽像として現れることがわかりました。また,電気検層結果を拘束条件とした再解析によって,花崗岩の健岩部と風化部の境界ならびに中~高角度に傾斜する3条の不連続構造を推定することができました(図3)。これらの結果から,ボーリング孔による情報を解析の拘束条件とすることにより正確な解析結果を得ることができ,花崗岩中の風化部や不連続構造などの分布に関する確度の高い地質構造解釈をするうえでは,このような解析・検討が有効であると考えられました。また,地質構造解釈の精度を向上させるためには,ボーリング孔と地表間を対象とした比抵抗トモグラフィ探査を実施することが有効と考えられました。さらに,調査計画の策定に際しては,地質構造が予想よりも複雑であるというような,調査対象の不確実性を考慮して探査測線(特に長さなど)を設定した調査計画の策定が重要と考えられました。

③マルチオフセットVSP探査3)

東濃地域のように基盤花崗岩の上位に堆積岩が厚く分布しているような地質条件では,花崗岩中の反射法弾性波探査において高品質なデータを取得することは困難です。VSP探査は,反射法弾性波探査と同じ地表で起振する震源を用いますが,受振器をボーリング孔内に設置するため,通常の反射法弾性波探査と比較して堆積岩によるデータ品質の劣化が軽減できることから,高分解能な波形を取得することが可能となります。そこで,花崗岩中の不連続構造や割れ目帯の分布を把握するための調査技術開発として,マルチオフセットVSP探査を実施し,その有効性を検討しました。

通常のVSPデータの処理・解析として,ゼロオフセットVSPデータの処理・解析から,ボーリング孔沿いの速度分布,反射イベントを確認した後,オフセットVSPデータの処理・解析を実施し,各オフセットVSP記録を重合してVSP断面を作成しました。その結果,地表地質調査や反射法弾性波探査で確認・推定された高角度の断層の深部(花崗岩中)への延長と考えられる反射イベントの不連続部を抽出することができました(図4左)。

また,通常のVSPイメージングでは,ハイドロフォンもしくは3成分受振器の鉛直成分のみを用いるのが一般的であり,受振された波形から速度フィルターなどを利用して上方進行波を抽出して処理・解析を行います。しかし,高角度傾斜を有する断層が存在する場合,その反射波は下方もしくは水平方向に受振器に到達すると考えられ,通常の処理・解析では,これらの反射波を抽出することができません。そのため,高角度傾斜を有する断層をイメージングすることを目的として,3成分受振器(ジオフォン)のうち,水平2成分の受振器で取得されたデータのみを利用した処理・解析を実施し,その有効性を検討しました。その結果,地表地質調査や反射法弾性波探査で確認・推定された高角度の断層から直接に反射したと考えられる反射イベントを抽出し,ボーリング孔周辺の高角度の断層の分布を可視化することができました(図4右)。この結果から,高角度の構造が推定される調査地域では,3成分受振器を用いて下方,水平方向に伝播する反射波を取得しておくことが有効であると考えられました。

DH-2号孔を通過する北東-南西方向の断面図。縦軸は弾性波の往復走時が0.0~0.5秒まで,横軸は水平距離で,DH-2号孔を境として北東側に約250m,南西側に約1000mまでが描写されている。花崗岩の分布深度においては,左側の断面図では反射イベントが不明瞭だが,右側の断面図では明瞭になっている。
図1 反射法弾性波探査結果の通常の反射法処理・解析結果(左)と再処理・解析結果(右)との比較
図1を拡大した領域の断面図。縦軸は弾性波の往復走時が0.0~0.3秒まで,横軸は水平距離で,DH-2号孔を中心として約500mが描写されている。再処理・解析を行った反射断面記録は,DH-2号孔の物理検層結果とよくいい地するほか,反射イベントが不連続にあんる領域がDH-2号孔の北東側で新たに推定されている。
図2 反射法弾性波探査における通常の反射法処理・解析結果と再処理・解析結果との比較
赤点線は反射イベントと合成地震記録が良く一致する範囲を,青点線は断層や割れ目などによる不均質の影響が大きいと考えられる範囲を示します。
幅が約550m,深さが約150mの比抵抗断面図。ボーリング調査前に行った比抵抗探査で予想された断層の分布が黒の点線で示してあるが,ボーリング調査結果を拘束条件として再解析した結果,黒の点線の位置は低比抵抗体となり断層は予想されなくなっている。
図3 高密度電気探査の再解析結果と地質構造解釈
右図がVSP探査ので推定されたアノマリーを投影した断面図,左図は反射法弾性波探査の断面図にVSP探査で作成した重合断面を重ねた断面図。反射法弾性波探査で推定された鉛直方向の不連続部と近い位置において,VSP探査により不連続部が推定されている。
図4 作成したVSP断面
左:鉛直成分記録を用いたVSP重合断面,右:水平2成分記録を用いたVSP重合断面
参考文献
  1. 核燃料サイクル開発機構 (2004): 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発-平成15年度報告-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN1400 2004-007,409p.
  2. 太田久仁雄,天野健治,熊崎直樹,松岡稔幸,竹内真司,升元一彦,藪内聡 (2003): 超深地層研究所計画,年度報告書(平成14年度),核燃料サイクル開発機構,JNC TN7410 2003-006,123p.
  3. 石垣孝一,松岡稔幸,上原大二郎 (2005): 花崗岩を対象とした断層調査技術の開発-高密度電気探査,マルチオフセットVSP探査の適用性評価-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-009,32p.

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