1_10_4 地球化学調査
達成目標

サイトスケール領域におけるボーリング調査では,地下施設の建設前の地球化学環境をまとめた地球化学モデルを確認・更新するための諸データの取得,施設建設前に評価しておくべき環境項目(水質汚濁防止法や土壌汚染対策法)に関わる化学成分濃度を把握することを目標とします。

方法・ノウハウ

①調査で取得すべき情報:

地下施設の地下深部における地球化学環境を把握するためローカルスケール領域での調査と同様に,地下水中の放射性元素の濃度や化学形に影響を与えるpH,酸化還元電位,イオン濃度,地下水の起源・滞留時間を推定するための水素・酸素安定同位体比やトリチウム濃度,放射性炭素同位体濃度などのデータを取得します。

また,地下施設建設時の周辺環境管理に必要な情報を得るため,水質汚濁防止法や土壌汚染対策法に関わる基準項目の濃度も取得します。

②調査ボーリング孔のレイアウト:

坑道の掘削時に遭遇すると予測された地質構造や地下水水質の分布位置や深度は,これまでの調査結果や推定手法に応じた不確実性を含んでいます。したがって,サイトスケール領域では,立坑掘削予定地点でのパイロットボーリング調査を事前に実施することが必要です。また,地下施設の建設予定地に連続する可能性のある透水性に特徴のある地質構造(断層や礫岩層など)を対象としてボーリング調査を実施します。これらは,調査終了後にモニタリング孔へ転用することも念頭において,地下施設の建設予定地から異なる距離に複数配置します。

③調査時の留意点:

サイトスケール領域のボーリング孔は,ローカルスケール領域に比べて地下施設に近接した位置に掘削することになるため,ボーリング孔の掘削中(あるいは坑道掘削中)に,物質移行経路(立坑と連続する水みち)となり得る地質構造を抽出できる可能性があります。具体的には,多区間水圧モニタリング装置を設置した既設のボーリング孔で水圧を連続観測し,ボーリング孔掘削時の水圧応答の有無を把握します。水圧応答が認められた場所では,地下水の水質や地下水年代がその上下深度と異なっている可能性があるため,優先的に採水調査を行います。

東濃地域における実施例

研究所用地における地上からのボーリング調査(MSB孔,MIZ-1号孔)の開始と立坑の掘削開始までの間には1年6か月の期間がありましたが,地下水の水質に関わる情報を立坑の掘削開始前までに得ることができず,立坑の掘削と並行して取得することになりました。その結果,事前に立坑近傍の地下水の地球化学特性を正確に把握できなかったため,立坑からの排水の放流先河川でふっ素濃度が環境基準を超え,一時立坑掘削が中断するという事態になりました1)

立坑掘削を中断している期間中に,主立坑および換気立坑の掘削を中断した深度(約180~190m)から,それ以深の地質構造や湧水量,水質を調べるためのパイロットボーリングを実施しました2)。その結果,当該深度から深度500mまでの地下水中のふっ素,ほう素濃度が排水基準値以下であるものの環境基準を超えていることを確認しました(図1)。この濃度分布に基づき,排水処理施設の仕様を決定しました。この経験から,立坑掘削地点周辺の地下水水質の詳細情報を得るための調査と排水先河川の流量の季節変化を評価するデータを,パイロットボーリングなどで事前に取得し,環境影響を評価した上で掘削計画と対策を立案することの重要性が示されました。

深度200mから500mまでの水質データがプロットされたグラフ。電気伝導度,ナトリウムイオン,塩化物イオン,ホウ素の濃度は深度450mから500mで若干上昇する傾向がある。フッ素は全深度を通して5 mg/L前後で全体的に高い。ホウ素は1.5~2.0 mg/L。

図1 パイロットボーリング(換気立坑)で得られた水質データ

DH-2,DH-15,MIZ-1,MSB-2,4号孔での地下水の採水・分析により取得された水質データ3), 4)を基に,未調査領域を補間して水質分布を推測しました5)。その結果とパイロットボーリングにより得られた水質の深度プロファイルを比較すると両者がほぼ整合したことから,5本のボーリング孔(深度約100m,200m,500m,1,000m,1,300m)による採水調査と得られたデータの補間処理(クリギング)を行うことで,水質の概略的な空間分布を把握できることが示されました(図2)。これらのデータに基づき,地下施設の建設前の地球化学環境をまとめた地球化学モデルの確認・更新を行いました(1_11_3)。

東にDH-15号孔,そこから西にDH-2号孔とMSB-2号孔,そこからさらに北にMIZ-1号孔とMSB-4号孔が位置する。これらを結ぶL字型の線を断面線とした断面図に,pH,ナトリウム,カルシウム,マグネシウム,塩化物,硫酸,重炭酸の濃度分布が色で表現してある。マグネシウム,硫酸,重炭酸は地表付近で高く地下深部は低い傾向があり,ナトリウム,カルシウム,塩化物イオンは逆に地下深部にいくほど高くなる。
図2 DH-2,DH-15,MIZ-1,MSB孔の水質データから予想される水質分布
参考文献
  1. 東濃地科学センター 施設建設課 (2012): 瑞浪超深地層研究所研究坑道掘削工事; 平成14年度から平成17年度までの建設工事記録(平成18年度の一部を含む),JAEA-Review 2012-026,252p.
  2. 鶴田忠彦,竹内真司,竹内竜史,水野崇,大山卓也 (2008): 瑞浪超深地層研究所における立坑内からのパイロットボーリング調査報告書,JAEA-Research 2008-098,116p.
  3. 大石保政 (2005): 超深地層研究所計画における試錐調査(MIZ-1号孔),核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7440 2005-091,1833p.
  4. Furue, R., Iwatsuki, T., Mizuno, T. and Hideki, M. (2003): Data Book on Groundwater Chemistry in the Tono Area, Japan Nuclear Cycle Development Institute, JNC TN7450 2003-001, 103p.
  5. 阿島秀司,戸高法文,岩月輝希,古江良治 (2006): 多変量解析による瑞浪超深地層研究所周辺の地下水化学モデルの構築,応用地質,47巻,3号,pp.120-130.

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