1_12_5 流体検層技術
達成目標

結晶質岩のような割れ目(帯)が地下水の主要な移動経路(水みち)となる岩盤を対象としたボーリング調査では,水みちの位置やその水理特性に関する情報を取得することが重要となります。そのため,水みちの位置やその水理特性の調査手法の1つである流体検層の技術的知見を整備することを目標としました。

方法・ノウハウ

ボーリング孔内の状態(水質・水温・水圧・湧水量など)は,ボーリング孔が掘削された地質環境に応じて異なります。また,ローカルスケールの調査時は規模の大きい不連続構造を調査対象としますが,サイトスケールやそれより狭い領域の調査を行う際は,ローカルスケールの調査と比べて詳細な透水性割れ目の水理特性や分布を把握する必要があります。流体検層はいくつかの手法が存在しますが(図1),調査の対象とするボーリング孔の状態と調査の目的に応じて,適切な手法を選択することが重要となります。

①温度検層

温度検層は,温度センサー(サーミスタ)が組み込まれた計測器で孔内の温度を深度に対して連続的に測定して地層の温度を決定する手法で,一般に地層の対比,湧水層,逸水層および帯水層などの位置判定に利用されています。また石油などの探鉱では,温度測定により生産あるいは圧入地層の深度の決定に利用されています。温度の測定においては,流体の流動により生じる微細な温度変化を記録することが重要な要素となります。

②スピンナー式フローメータ検層:

スピンナー式フローメータ検層は,スピンナー(またはインペラー)と呼ばれる回転体(羽根)を備えた測定器を,ケーシングパイプ中あるいは裸孔中で一定の速度で移動させることで孔内流体の流量を求める方法です。この測定では,自然状態,揚水状態に孔内状態を変化させて,孔内の逸水層や湧水層を検出し,それぞれの箇所での透水性に関する評価を行うことができます。

③ヒートパルス検層:

ヒートパルス検層は,スピンナー型フローメータにおける測定限界以下の微流量を計測するために開発された方法です。測定器は,フローチューブ内にあるヒーターグリッド,その上下に一定距離をおいて配置された温度センサー(サーミスタ)やダイバータなどで構成されており,ヒーターグリッド周囲の加熱された流体(ヒートパルス)が,ヒーターグリッド上下のサーミスタに移動することで,温度変化が検出されます。このヒートパルスのピーク到着時間を,キャリブレーションチャートに照らし合わせることにより,流量に換算することができます。ヒートパルス検層は,孔井内の任意の測定ポイントごとに停止して測定を行い,自然状態,揚水状態に孔内状態を変化させて,孔内の逸水層や湧水層を検出し,それぞれの箇所での透水性の評価を行ことができます。

④電磁フローメータ検層:

電磁式フローメータ検層は,電磁センサーが組み込まれた測定器をケーシングパイプ中,あるいは裸孔の中で一定の速度で移動させることで流体の流量や流速を測定する方法です。電磁センサーを使用することで,孔内水の動きを微流速から大きな流速まで幅広いレンジで測定できます。この測定では,自然状態,揚水状態に孔内状態を変化させて,孔内の逸水層や湧水層を検出し,それぞれの箇所での透水性に関する評価を行うことができます。

⑤電気伝導度検層:

電気伝導度検層は,孔内水を地下水の電気伝導度と異なる地下水(脱イオン水や塩水など)で置換し,その後,揚水をしながらボーリング孔内の水の電気伝導度を測定することにより,電気伝導度の有意な変化が認められる水みちを検出する方法です1)。電気伝導度検層は,孔内水の電気伝導度と地下水の電気伝導度とのコントラストから水みちの位置とその透水性を評価する手法であるため,計測結果は岩盤の透水性だけでなく地下水の水質(電気伝導度)を反映したものとなります。このため,全ての水みちの地下水の電気伝導度が等しい場合は,電気伝導度の変化の大きい箇所ではより多くの地下水が流入している(透水性が高い)と考えられます。一方で,水みち毎に地下水の電気伝導度が異なる場合は,各水みちから孔内への流入量が同じであっても,電気伝導度が異なる(例えば,電気伝導度の高い地下水が存在する水みちの箇所で電気伝導度が高くなる)と考えられます。したがって,電気伝導度の結果を評価する際には,地下水の電気伝導度の違いを考慮することが必要となります。

プローブやセンサーの仕組みが概念図で表してある。詳細は本文を参照のこと。
図1 流体検層の概念図
課題・留意点

流体検層全般の課題としては掘削泥水やボーリング孔径の影響が挙げられます。ボーリング孔掘削中に掘削泥水が水みちに流入した場合には泥水による目詰まりが生じ,ボーリング孔近傍の透水性が低下する可能性があります。流体検層ではボーリング孔近傍の透水性が検層結果に反映されることから,流体検層の結果は本来の水みちの透水性より低く評価してしまう可能性があります。また,ボーリング孔径の変化によって孔内流体の流速変化が生じることから,流体検層結果を評価する際には,ボーリング孔径の変化を考慮することが重要となります。これらのことから,ボーリング孔に沿った透水性の調査での品質を担保するためには,流体検層で抽出された水みちの透水性を水理試験によって確認することが有効です。

東濃地域における実施例

研究所用地近傍に掘削されたDH-2号孔で実施した流体検層の結果を図2に示します。DH-2号孔では,スピナー検層,ヒートパルス検層,電磁フローメータ検層,温度検層,電気伝導度検層を実施しました。電気伝導度検層では水質への影響や地上施設の設置スペースの制限などを考慮して,イオン交換樹脂を介して孔内水を循環させることにより精製した脱イオン水を用いて孔内水を置換しました。各検層の結果,電気伝導度検層は他の検層よりも多くの流入点を把握できる方法であることが確認されました2-4)

各検層で検出された水みちを対象とした水理試験の結果,スピナー検層,ヒートパルス検層,電磁フローメータ検層,温度検層では透水量係数で10-6(m²/s)よりも大きい透水性の水みちが検出されたのに対し,電気伝導度検層では透水量係数で10-8(m²/s)よりも大きい透水性の水みちが検出され,他の流体検層と比較して2桁程度低い透水性の水みちの検出が可能であることが確認されました5)

これらの結果から,透水性の低い水みちの検出を目的とする場合は電気伝導度検層,透水性の高い水みちの検出を目的とする場合はその他の検層方法が効果的であると考えられます。なお,電気伝導度検層は,初期条件として地下水とは異なる電気伝導度の水で孔内水を置換する必要があるため,自噴環境(例えば坑道内など)のボーリング孔では実施が困難となることに留意する必要があります。

縦軸に掘削深度,横軸に各流体検層の結果を並記した図。検層データは連続的に取得されており,折れ線グラフの状態で描写してある。値が急変したりスパイク状に変化したりする深度が各検層において確認され,検層の種類を問わずおおむね同じ深度において変化点が存在している。
図2 流体検層結果(DH-2号孔)6)
参考文献
  1. Tsang, C.-F., Hufschmied, P. and Hale, F.V. (1990): Determination of Fracture Inflow parameters with a Borehole Fluid Conductivity Logging Method, Water Resources Research, vol.26, No.4, pp.561-578.
  2. 竹内真司,天野健司,下茂道人,松岡清幸 (2003): 電気伝導度検層を用いた亀裂性岩盤中の水みち検出技術,土木学会第58回年次学術講演会概要集,pp.413-414.
  3. Takeuchi, S., Shimo, M., Doughty, C. and Tsang, C.-F. (2004): Identification of the water-Conducting Features and Evaluation of Hydraulic parameters using Fluid Electric Conductivity Logging, Proceedings of the Second International Symposium on Dynamics of Fluids in Fractured Rock, pp.349-354.
  4. 竹内真司,下茂道人,城まゆみ,Tsang, C.-F. (2004): 電気伝導度検層による深部花崗岩中の水みちの抽出と水理特性の評価,第33回岩盤力学に関するシンポジウム論文講演集,pp.451-456.
  5. 藤田有二,竹内真司 (2005): 瑞浪超新地応研究所を中心とした東濃における深地層の科学的研究―深層ボーリング孔を用いた岩盤の水理特性評価技術の開発―,地球惑星科学関連学会2005年合同大会要旨集,G018-P002(CD-ROM).
  6. 三枝博光,瀬野康弘,中間茂雄,鶴田忠彦,岩月輝希,天野健治,竹内竜史,松岡稔幸,尾上博則,水野崇,大山卓也,濱克宏,佐藤稔紀,久慈雅栄,黒田英高,仙波毅,内田雅大,杉原弘造,坂巻昌工 (2007): 超深地層研究所計画における地表からの調査予測研究段階(第1段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2007-043,337p.

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