1_12_6 水理試験技術
達成目標

水理試験技術については,深度数百mという大深度環境下で幅広い透水性を有する岩盤(透水係数が10-12~10-3m/sオーダー程度)に対して,試験データの品質を確保しつつ透水性データを取得する技術が必要となりますが,東濃地域での研究開始当初の1990年代には十分な試験技術が整備されていませんでした。そのため,品質を確保した試験データを取得可能な試験装置の開発,試験の実施からデータの解析に至る一連の手法の整備を目標としました。

方法・ノウハウ

水理試験装置

土木分野では不透水層として扱われる透水係数10-8m/s以下の難透水性岩盤を対象とした深度1,000mまで適用可能な水理試験装置を開発し,その後,難透水性岩盤から高透水性岩盤までの幅広い透水性に対応するための水理試験装置(図1)を開発しました1-3)

これらの試験装置は,高温高圧に耐えることができ,かつ難透水性岩盤の水理学的特徴を把握可能なレベルの精度を取得できるよう開発しました。また,孔壁崩壊により装置が抑留される可能性があることを念頭に,ワイヤライン式ではなくパイプ方式(測定部をロッドに接続して昇降する方式)を採用しました4)

難透水性の岩盤を対象とした水理試験装置は,BTVカメラ,ポンプユニット,マルチパッカー,インナープローブが一体となっており,主にツールスを降下させその場で試験を行う。幅広い透水性の岩盤を対象とした水理試験装置では,ポンプユニットが地上部付近に設置され,主に地下水を汲み上げて試験を行う。
図1 水理試験装置の概要
(左)難透水性岩盤を対象とした水理試験装置,(右)幅広い透水性の岩盤を対象とした水理試験装置
試験方法

幅広い透水性を有する岩盤を対象として効率的に水理試験を実施するためには,岩盤の透水性に適した試験方法を選択する必要があります。水理試験の種類としては,主としてパルス試験,スラグ試験,ならびに揚水試験があります。ここでは,これらの代表的な試験方法について紹介します。

①パルス試験:

パルス試験は,試験装置に備えられているバルブの開閉などによって試験区間内の水圧を瞬時に変化させ,その後の試験区間の水圧変化から透水性を把握する方法です(図2)。閉鎖区間内の少量の水の移動を水圧変化として測定できるため,透水性の低い岩盤での試験に適した方法です。

装置の概念図と水圧変化のグラフが掲載された図。グラフは,横軸が時間,縦軸が試験区間の圧力を示している。パルス試験における水圧は,バルブの開閉時に瞬時に変化し,その後徐々に回復する動きとなる。
図2 パルス試験

②スラグ試験:

スラグ試験は,試験区間とバルブを介して連結するピエゾ管に,バルブを閉鎖した状態で想定される試験区間の間隙水圧に対して水頭差を設定し,バルブを開放することにより,試験区間内の水位を瞬時に変化させ,その後の試験区間の水位変化から透水性を把握する方法です(図3)。閉鎖区間内の水の移動がパルス試験よりも多いため,パルス試験よりも透水性の高い岩盤での試験に適した方法です。なお,スラグ試験においては開放したバルブを試験途中で閉鎖し,その後の試験区間の圧力変化を測定する方法があります。この試験は石油工学や地熱開発の分野で実施されるドリルステムテスト(Drill stem test)と同様の試験方法です5)。これにより試験時間の短縮や揚水試験とみなした透水性の評価などが可能となります6)

装置の概念図と水圧変化のグラフが掲載された図。グラフは,横軸が時間,縦軸が試験区間の圧力を示している。スラグ試験における水圧は,バルブの開閉時に瞬時に変化し,その後徐々に回復する動きとなる。途中でバルブを閉じた場合,それ以降は水圧の回復スピードが早くなる。
図3 スラグ試験

③揚水試験:

揚水試験は,試験区間から水を揚水し,揚水に伴う試験区間の水圧変化から透水性を把握する方法です。一定の流量で揚水する試験は定流量揚水試験(図4),一定の水圧を維持した状態で揚水する試験は定圧揚水試験と呼ばれます。定流量揚水試験では一定の揚水流量条件下での水圧低下量と水圧低下に要する時間の関係から,定圧揚水試験では一定の水圧差(試験区間の平衡水圧と揚水時の水圧との差)条件下での揚水流量と時間の関係から透水係数が算出されます。揚水試験は比較的透水性の高い岩盤での試験に適した方法です。

装置の概念図と水圧変化のグラフが掲載された図。グラフは,横軸が時間,縦軸が試験区間の圧力を示している。定流量揚水試験のグラフが図示されており,試験中の水圧低下は,揚水開始後が急激で,その後は徐々に緩やかになる傾向がある。
図4 揚水試験
シーケンシャル試験

各試験方法の特徴に基づき,効率的に試験区間に相応しい試験手法を選定するための方法として,1つの区間で異なる複数の試験を行う「シーケンシャル試験」手法が提案されています4), 7)。シーケンシャル試験の構成を図5に示します。

シーケンシャル試験では,水理試験装置の挿入,パッカー拡張,間隙水圧測定に続き,岩盤の概略の透水性を把握するために最初にパルス試験を実施します。パルス試験により透水量係数でおおむね10-10m²/s以下の場合は,再度パルス試験を実施して再現性を確認し,試験を終了します(図5の左側の試験フロー)。

最初のパルス試験においておおむね10-10~10-8m²/sの透水量係数が推定される場合は,スラグ試験を実施します。スラグ試験において試験区間内の水位の回復に長時間を要する(例えば数時間以上)と推定される場合は,回復の途中でバルブを閉鎖し,その後の回復圧力を測定します(図5の中央の試験フロー)。

最初のパルス試験によりおおむね10-7m²/s以上の透水量係数が推定される場合,パルス試験の際の圧力の回復は瞬時に終了するため,この結果から岩盤の透水性を正確に把握することは困難です。したがって,より精度の高い透水性を把握するため,揚水流量を決定するためにスラグ試験を実施し,その後,揚水試験を実施します(図5の右側の試験フロー)。

各フローの最後のパルス試験は,最初に実施するパルス試験とその圧力挙動を比較(再現性を確認)することにより,その間に実施されたスラグ試験や揚水試験による試験区間の岩盤の水理的な変化の有無を確認するために実施します。さらに,パルス試験では,試験の際の水圧差と試験中に装置に流入した地下水の体積から試験区間の圧縮率が算定できることから,各パルス試験で算定された圧縮率と一般的な水の圧縮率とを比較することで,試験区間において遊離した気相の存在の有無を推定することもできます。

試験手順をフロー図で表現してある。手順は本文を参照のこと。
図5 シーケンシャル試験の構成
東濃地域における実施例

東濃地域では,これらのボーリング調査(水理試験)において方法・ノウハウに示した試験装置および一連の試験手法を適用した結果,限られた時間の中でデータの品質を確認しつつ透水性などの水理特性を把握でき,構築した一連の手法が有効であることを確認しました(1_5_51_6_21_10_3)。これらから得られた技術的知見として,水理試験で取得されるデータの品質を確保するための留意点などを以下に紹介します7)

①試験区間の設定(適切なパッカー位置の設定)

深層岩盤を対象として水理試験を実施する際は,着目する水みちなどの構造をパッカーによって遮断して試験区間を形成します。この際,ボーリング孔近傍で水みちが連結するなど,試験区間と外側の区間との遮断が不十分となった場合は,試験区間に与えた圧力が上下区間に漏洩することになります(図6(a))。この場合,試験区間の上下区間に漏洩した圧力が試験区間の圧力として取得されるため,試験区間の岩盤水理特性を正しく把握することができません。したがって,試験区間とその上下区間との連続性が検知された場合は,試験区間とその上下区間が遮断される位置にパッカー位置を変更する必要があります(図6(b))。

試験区間とその外側区間との遮断状況を確認するためには,試験区間だけでなく,その上下区間にも圧力センサーを設置し,試験中に上限区間の水圧が変動しないことを確認することが有効となります。そのため,原子力機構が開発した試験装置には,ダブルパッカーで仕切られた試験区間の圧力とその上下の区間の圧力測定が可能な機能を備えられています(図7)。

左図は試験区間の遮断が不十分な場合で,試験の対象区間と非対象区間を水みちが連結しているため,揚水試験をすると両方の区間の水位が低下する。右図はパッカーの位置をズラすことで,水みちを試験区間内に収めた図。
図6 パッカー位置の例
試験区間は,上部と下部の2つのパッカーで挟まれている。圧力センサーが4つ備え付けられており,試験区間,その上部と下部,ケーシング内の圧力を観測可能になっている。
図7 水理試験装置概念図

②圧力変化の時間微分プロット

試験データの評価において取得データから透水性を算出するデータ領域を適切に抽出するためには,次式で表される圧力変化の時間微分プロットが有効です。

Δp'=dp/(d ln Δt)

ここで,

圧力変化の時間微分プロットは試験データを評価する際の有効なデータ範囲(例えば,揚水試験における直線勾配法での直線区間)や境界条件による影響などを容易に確認することができるため,技術者の経験などによる評価結果のばらつきを低減することができます。また,計測している圧力の収束状況も把握することができることから,計測終了の判断を的確に行うことができます。

縦軸に圧力変化量と時間微分,横軸に時間をとったグラフ。圧力変化量は,最初は時間の経過とともに直線状に上昇し,途中で変化量が緩やかになり,終盤はほぼ横ばいになる。時間微分値は,最初は圧力変化量と同様に直線状に上昇し,途中で上に凸の状態に変化し,一度ほぼ横ばいになり最後に少し上昇する。
図8 圧力変化とデリバティブによる透水性の評価領域の抽出例8)
参考文献
  1. 平田洋一,後藤和幸,小川賢 (1996): 1,000m対応水理試験装置の製作,動力炉・核燃料開発事業団,PNC TJ7439 96-003,83p.
  2. 平田洋一,小川賢,松本隆史,後藤和幸,奥寺勇 (1997): 1,000m対応水理試験装置(高温環境型)の製作,動力炉・核燃料開発事業団,PNC TJ7439 97-004,312p.
  3. 後藤和幸,牧野章也,奥寺勇,松本隆史 (1999): 1,000m対応水理試験装置(1号機)の改良,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7440 99-016,120p.
  4. 小出馨,杉原弘造,長谷川健,武田精悦 (2001): 花崗岩を対象とした深部地質環境の調査技術開発の課題と現状-測定データの品質保証の観点で構築した地下水調査方法の提案-,資源と素材,Vol.117,No.10,pp785-793
  5. Kupfer, Th., Hufschmied, P. and Pasquier, F. (1989): Hydraulic Testing in the Nagra Boreoles, Nagra Bulletin, p7-23.
  6. Grisak. G.E., Pickens. J.E, Belanger. D.W. and Avis. J.D. (1985): Hydrogeologic Testing of Crystalline Rocks during the Nagra Deep Drilling Program. NTB85-08, Nagra, 194p.
  7. 竹内真司,中野勝志,平田洋一,進士喜英,西垣誠 (2007): 深層岩盤を対象としたシーケンシャル水理試験手法の開発と適用,地下水学会誌,第49巻,第1号,pp17-32.
  8. 太田久仁雄,佐藤稔紀,竹内真司,岩月輝希,天野健治,三枝博光,松岡稔幸,尾上博則 (2005): 東濃地域における地上からの地質環境の調査・評価技術,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2005-023,373p.

PAGE TOP