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国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発

投稿論文・雑誌(平成21年度分)

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全項共通(国内国外)/人工バリア等の信頼性向上に関する研究(国内国外)/安全評価手法の高度化に関する研究(国内国外)/地質環境特性調査・評価手法に関する研究(国内国外)/地質環境の長期的安定性に関する研究(国内国外)

全項共通

国内
著者 タイトル(クリックで要旨) 投稿、発表先 発表年
牧野仁史

地層処分の統合的品質保証に関するワークショップ「地質環境調査結果のセーフティケースへの利用プロセスを対象として」開催報告

地層処分の長期的安全性の立証(セーフティケースと呼ばれる)に用いられる情報やデータ、証拠などの「品質保証」を統合的視点から議論するための国際ワークショップを日本原子力研究開発機構地層処分研究開発部門と原子力安全研究協会処分システム安全研究所で共同開催した。その概要を報告する。

原安協だより 第234号 pp.11-12 2010
大澤英昭

技術の安全性の考え方に関する知識の共有・活用・継承 —高レベル放射性廃棄物の地層処分技術を例として—

工学システムの安全性の確保とその信頼性の向上のために不断の努力がなされているが、こうして構築される考え方や実際の技術的方法を様々な状況に応じて活用できるよう共有・活用・継承していくことが必要となる。このため、従来から、マニュアル、失敗事例集や失敗事例の知識の構造化、事故事例集やヒヤリハットを用いた危険予知活動といった様々な取り組みが行われてきている。しかし、最近では、技術を取り巻く社会や組織の周辺状況の急激な変化や、急速な技術進歩とその応用過程の複雑化等により、こうした知識を共通のものとして恒常的に普遍化することが大きな課題の一つであると指摘されている。本稿では、学際的かつ複雑な知識を駆使する必要のある典型的な例として、原子力発電の結果生ずる高レベル放射性廃棄物の地層処分技術の安全性の考え方とそれらに必要な技術に関する知識の共有・活用・継承を目的とした知識マネジメントシステムの開発について紹介する。ここでは、極めて長期間の安全性を論証するための知識の構造化という新たな視点を取り入れた取り組みを行っている。この事例の紹介を通して、技術の安全性の考え方やそれらに関する技術の共有・活用・継承として何が必要か、その中で技術者として何を果たすべきかを論ずる。

第36回技術士全国大会 分科会テーマ討論報告・小論文集 pp.214-216 2009
亀井玄人

深地層処分の概念

広く粘土の特性やその利用について解説する書籍のなかで、緩衝材として粘土が利用される放射性廃棄物地層処分の概念を記す。その要旨は、地層処分の安全確保、構成要素及びそれらに期待される機能を記すものである。地層処分システムの構成要素は人工バリア(ガラス固化体、オーバーパック、緩衝材)と天然バリア(母岩)である。緩衝材としての粘土には、オーバーパックの腐食や核種移行の抑制など化学的な緩衝機能と廃棄体の保持など物理的な機能が期待されている。

粘土ハンドブック 第三版 pp.735-736 2009

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国外
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
H. Osawa, K. Hioki, H. Umeki, H. Takase and I. Mckinley

USE OF THE SAFETY CASE TO FOCUS KMS APPLICATIONS

高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する実際的な課題として、地層処分技術に関する知識の爆発的な増加が挙げられる。この課題に対応するためには、知識マネジメントの基本概念を取り入れ、長期に渡る地層処分事業において知識を伝承していくことが必要である。そのため、日本原子力研究開発機構では、最新の情報工学および知識工学の技術を最大限に活用した次世代型の知識マネジメントシステムの開発を進めている。本稿では、安全性の考え方を論証、反証の流れで示した討論モデルの概要と「次世代型サイト特性調査情報統合システム」のエキスパートシステムとの関係を紹介する。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16348 Vol.1 pp.501-505
2009
H. Makino, K. Hioki, H. Umeki, H. Yang, H. Takase and I. Mckinley

PRACTICAL APPLICATION OF THE KMS: 1) TOTAL SYSTEM PERFORMANCE ASSESSMENT

本稿では、原子力機構が開発を進めている知識マネジメントシステムの技術の適用事例として、性能評価で考慮されるタスクの知識マネジメントの観点での再整理、およびそれらタスクの実施への知識マネジメント技術の適用の検討と計算機システム上への具体的な展開例を紹介する。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16349 Vol.1 pp.507-514
2009
H. Makino, K. Hioki, H. Umeki, S. Tachibana, H. Takase and I. Mckinley

CHALLENGES FOR THE JAEA KMS: FOSTERING INVENTIVE DESIGN AND PROBLEM SOLVING

原子力機構が開発を進めているJAEA知識マネジメントシステム(KMS)を、技術の進展、安全性の要求、対象とする特定のサイトの条件などの境界条件の変化に柔軟に対応できるものとしていくためには、性能評価を行うために利用される手法の柔軟性を高めること、先進的な処分場概念の開発が柔軟に行えるようにすることが重要となる。このような課題の解決には革新的な解決策が必要となる場合があり、これまでは主に専門家の議論などのインフォーマルな方法で検討が行われてきた。本報では、革新的な解決策を得るための手法をよりフォーマルなものとしていくために、他分野で適用実績のある知識工学的アプローチ(発明的問題解決手法TRIZなど)の適用を検討した結果を紹介する。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16351 Vol.1 pp.515-523
2009
H. Umeki, K. Hioki, H. Takase and I. Mckinley

OVERVIEW OF THE JAEA KNOWLEDGE MANAGEMENT SYSTEM SUPPORTING IMPLEMENTATION AND REGULATION OF GEOLOGICAL DISPOSAL IN JAPAN

地層処分技術に関する知識の急激な増加は世界的な課題である。本稿では、地層処分の知識マネジメントの必要性と重要性、これまでに蓄積してきた知識をセーフティケース概念に基づいて構造化し、関係者間での共有・活用・備蓄するための知識マネジメントシステム(KMS)及びそれに直接リンクしたCoolRepの概念・構造等を交えて論ずる。また、KMSやCoolRepを実現するための最先端の先端工学やITを用いた具体的なツールについて紹介する。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16354 Vol.1 pp.525-530
2009
T. Semba, H. Osawa, K. Hioki, S. Tachibana, H. Takase and I. Mckinley

PRACTICAL APPLICATION OF THE KMS: 2) SITE CHARACTERISATION

本稿では、原子力機構が開発を進めている知識マネジメントシステムの技術の適用事例として、一連の地質環境調査の進展によって変化する情報の質や量、社会状況などに応じて、調査計画の立案や実施を支援する次世代型サイト特性調査情報統合システム(ISIS)の概念や、瑞浪や幌延での経験に基づき構築したエキスパートシステムの例を紹介する。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16355 Vol.1 pp.531-538
2009
H. Makino, H. Umeki, Y. Ochi, K. Hioki, H. Okubo, M. Matsumoto, O. Sato, S. Masuda and I. G. Mckinley

Supporting Development of Practical Designs for a Japanese HLW Repository

高レベル放射性廃棄物の地層処分においては、処分候補サイトの条件及び実施に伴って生ずる制約に対して、最適な処分場デザインを行うことは国際的にも課題になっている。そのためには、処分場の構成要素についてのカタログを準備し柔軟に組合せることで、閉鎖後安全性、操業安全性、技術的実現性・品質保証、環境影響、公衆の受容、コストなどの因子間で生じるトレードオフに対応できるようにしておくことが必要となる。そのため、構成要素のオプションの良い点と悪い点を透明性を持って比較するとともに、創造的なデザインの創出を容易にするツールの開発を進めている。本報告では、背景とアプローチ、構成要素のオプションの特徴の明確化に適用する方法、及び知識工学的技術や性能評価技術を活用した開発支援の考え方を示す。本報告は、同会議のMatsumoto et al.の報告と対をなすものであり、その技術的背景を紹介するものである。本研究は、資源エネルギー庁の公募事業「先進的地層処分概念・性能評価技術高度化開発」において実施したものである。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg (Russia)
MRS symposium proceedings Vol. 1193 pp.673-680
2009
M. Matsumoto, O. Sato, H. Okubo, H. Makino, Y. Ochi, K. Hioki, H. Umeki, S. Masuda and I. G. Mckinley

Application of Formal Knowledge Engineering Approaches to Develop a Design Catalogue for a Japanese HLW Repository

人工バリア及び処分施設の要素のオプションについては、実施主体である原子力発電環境整備機構が、文献調査及び専門家の議論を通じてカタログとして整理している。ここで、代替的なオプションについては、理解を向上させるとともに、レファレンスデザインに対する良い点と悪い点の厳密な比較をしておくことが望まれる。そのため、本研究では、知識工学的な技術を活用しつつ、オプションの比較及び新規の概念の創出をよりフォーマルな形で行うための技術の開発と適用を検討している。具体的には、処分場の要素間でそれぞれに求められる性能の矛盾を抽出し、それらにフォーカスしつつ既成の概念にとらわれない思考を促進する技術を検討している。本報告では、それら技術の内容と適用のアプローチ及びその適用例を示すとともに、今後の課題を議論する。これら成果は、最適化された要素による統合的な処分場概念の構築に向けての基盤を提供する。本報告は、同会議のMakino et al.の報告と対をなすものであり、技術的内容を紹介するものでもある。本研究は、資源エネルギー庁の公募事業「先進的地層処分概念・性能評価技術高度化開発」において実施したものである。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg (Russia)
MRS symposium proceedings Vol. 1193 pp.681-688
2009

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人工バリア等の信頼性向上に関する研究

国内
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
清水浩之、小山倫史、石田毅、千々松正和、藤田朝雄

粒状体個別要素法による一軸圧縮下における岩石のClass II挙動の解析

岩盤工学において、岩石の破壊挙動、特にpost-failure領域での挙動を知ることは最も重要な課題の一つであるといえる。本研究ではスウェーデンエスポ岩盤研究所で採取された岩石コアを用いた側方ひずみ制御の一軸圧縮試験結果に対して、粒状体個別要素法(DEM)コードを新たに開発し、岩石のClass II挙動の再現を試みた。その結果、シミュレーション結果は実験により得られた応力ひずみ曲線とよく一致しており、このことから、DEMシミュレーションにより、岩石のClass II挙動を良好に再現できることが確認できた。さらに、Class II挙動のメカニズムについて検討を行ったところ、Class IとClass IIの挙動の違いが載荷制御方法、Shear bandの形成が強く影響していることが明らかになった。

Journal of MMIJ Vol.126 No.1,2 pp.1-9 2010
鈴木英明、藤ア淳、藤田朝雄

緩衝材の地球化学プロセスに着目した熱–水–化学連成挙動に関する工学規模の人工バリア試験と解析評価

高レベル放射性廃棄物の地層処分における人工バリア定置後のニアフィールドの挙動は、廃棄体からの放熱、人工バリア内への地下水の浸潤、緩衝材の膨潤、間隙水組成の変化など、熱的、水理学的、力学的及び地球化学的プロセスが相互に影響を及ぼし合う連成現象が生じることが予想される。このようなニアフィールドの連成挙動の現実的な理解と予測を目的に、ニアフィールドの連成現象を表現する熱–水–応力–化学連成挙動解析モデルの開発を行っている。本論は、工学規模の人工バリア試験結果及び開発した連成解析モデルによる確証解析結果について述べる。人工バリア試験では、緩衝材中の物質移行及び地球化学プロセスにかかわる情報を得た。そして、開発した連成解析モデルにより、モルタルからの高アルカリ性間隙水の浸潤による緩衝材の地球化学プロセスに着目した熱–水–化学連成解析を実施した。その結果、工学規模の人工バリア試験の温度場、再冠水挙動及び緩衝材とモルタルとの境界部での鉱物の溶解沈殿挙動を説明でき、開発した連成解析モデルが、緩衝材が飽和するまでの過渡的な遷移状態における熱–水–化学連成挙動評価に適用できることを確認した。

原子力バックエンド研究 Vol.16 No.1 pp.43-56 2009
川崎学、谷口直樹、内藤守正

炭酸塩を含む地層処分模擬環境における純銅のアノード分極挙動と皮膜破壊電位の検討

銅オーバーパックの酸化性雰囲気における腐食挙動に及ぼす環境因子の影響を明らかにすることを目的として、炭酸塩水溶液を用いて動電位法及び定電位法によるアノード分極試験を80℃にて行った。その結果、高炭酸塩濃度、低塩化物イオン濃度、高pH条件ほど不動態化が促進され、皮膜破壊は抑制された。また、硫酸イオンは皮膜破壊を促進する傾向があった。ケイ砂混合ベントナイト中では水溶液中に比べて溶液組成の違いによるアノード分極曲線への影響は小さいことがわかった。また、より温度の低い条件で得られた既往のデータと比較すると、温度が高いほど不動態しやすくなる傾向は認められるものの、皮膜破壊電位Ebへの温度による影響は認められなかった。皮膜破壊電位Ebを皮膜攻撃型のイオンと皮膜破壊抑制型のイオンの濃度比、[Cl-]⁄[HCO3-]、 [SO42-]⁄[HCO3-]に対して整理すると、この濃度比が高いほどEbは卑化した。また、濃度比がある値以上では活性溶解の領域となり、不動態領域におけるEbの下限値は約-200mV vs. SCEと求められた。定電位試験の結果、Eb以上の電位や、アノード分極曲線における第2のピーク電流が現れる電位以上の条件で孔食又は不均一な腐食が観察された。

材料と環境 第58巻 第11号 pp.386-394 2009

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国外
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
H. Shimizu, T. Koyama, T. Ishida, M. Chijimatsu, T. Fujita and S. Nakama

Distinct element analysis for Class II behavior of rocks under uniaxial compression

本研究では、半径方向のひずみを制御した一軸圧縮試験について個別要素法(DEM)解析を導入し、岩石のクラスII挙動を解析した。DEMのパラメータはスウェーデンのエスポ岩盤研究所で実施された一軸圧縮試験および圧裂引張試験から求めた。数値解析の結果、室内試験で得られたクラスII挙動を示す応力–ひずみ曲線と良い一致を示し、DEMによって岩石のクラスII挙動を再現可能であることを示した。また、クラスII挙動のメカニズムを微視的な観点から詳細に論じ、載荷状態と岩石の微視的構造がクラスII挙動の重要な役割を持つことを示した。

International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences Vol.47 No.2 pp.323-333 2010
Y. Saito, M. Nishimura, T. Hirai, K. Tanai and M. Naito

Evaluation of mechanical effects of the fault movement on the engineered barrier system

我が国の地層処分概念では、地震・活断層の影響等、地層処分システムに著しい影響を及ぼす可能性のある天然現象については、サイト選定によってその影響を避けることを基本としている。これに対し、万が一断層によるずれ変位が生じる場合を想定し、人工バリア性能の限界状態を把握することも重要であると考えられる。そのため、本研究ではサイト選定で排除できない断層が人工バリアを直撃した場合を想定し、縮小模型試験とシミュレーション解析を行い、人工バリアに及ぼす影響について検討した。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom) Proceedings of ICEM2009-16269 Vol.1 pp.575-583 2009
K. Tanai and M. Naito

Applicability study on the design method for the buffer material of a HLW repository

The basic design flow for the Japanese reference Engineered Barrier System (EBS) and the associated disposal facility for high-level radioactive waste (HLW) was presented in the H12 report. This approach was appropriate to the boundary conditions at that time - defining a repository system that would allow feasibility of post-closure safety to be demonstrated for generic Japanese sites. Over the last decade such boundary conditions have changed dramatically as siting has now been initiated by an open call for volunteer communities to host this facility. The design process must now develop realistic and practical repository systems that can be tailored to specific locations and are described in sufficient detail that they can aid in the site selection process. Although it is clear that post-closure safety is a pre-requisite, for a real project this needs to be considered alongside other top level requirements - in particular the need to assure safety during construction and operation, to minimize environmental impact and to encourage public acceptance. Such concerns may lead to significant modifications of the repository appearance but, to the extent possible, emphasis should be placed on the well-established and demonstrably robust EBS components from H12. The most important of these is the buffer, which is considered in some detail in this paper.

8th Global Congress on Nuclear Fuel Cycle: Sustainable Options & Industrial Perspectives (GLOBAL 2009) Paris (France)
Proceedings of GLOBAL 2009 pp.796-805
2009
M. Kimura, S. Nakama, H. Suzuki and T. Fujita

Development of Prototype Numerical Model on the Coupled Thermo-Hydro-Mechanical-Chemical Processes in the Near-Field of a High-Level Radioactive Waste Repository

高レベル廃棄物処分場のニアフィールドにおいて、塩水系地下水環境下でオーバーバックと緩衝材の境界部付近で生じる可能性のある塩濃縮・析出現象に関心が高まっている。筆者らは、この塩濃縮・析出現象を適切に表現可能な数値モデルの構築を目的として、ニアフィールド環境で生じる熱的、水理的、力学的、化学的なプロセスを考慮した連成解析モデルの開発を行っている。本稿では、これらの連成モデルと塩濃縮室内試験を対象に実施した数値シミュレーションの結果を示し、温度勾配下での溶質移動の適切性を確認するとともに、地球化学反応に関するさらなる精緻化の必要性を示唆した。

An International conference and workshop in the framework of the European Commission TIMODAZ and THERESA projects: Impact of Thermo-Hydro-Mechanical-Chemical (THMC) processes on the safety of underground radioactive waste repositories Luxembourg 2009
T. Fujita, H. Suzuki, S. Nakama and M. Kimura

Comprehensive strategy of coupled thermo-hydro-mechanical-chemical modeling for evaluation of long-term behavior in the near-field in JAEA

ニアフィールドの長期挙動を予測評価するために、熱–水–応力–化学連成現象にかかわるモデル開発を行ってきている。本論では、このモデルの適用範囲,開発方法について示す。また、これらから学んだ教訓及び今後の課題を示す。

An International conference and workshop in the framework of the European Commission TIMODAZ and THERESA projects: Impact of Thermo-Hydro-Mechanical-Chemical (THMC) processes on the safety of underground radioactive waste repositories Luxembourg 2009

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安全評価手法の高度化に関する研究

国内
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
R. Doi, H. Tachikawa and M. Yui

Transformation of Selenium Solid Phase in the Presence of Iron under Reducing Conditions

地層処分模擬環境下でSe溶解度及びその溶解度制限固相について調査した。Se-79は処分環境下で陰イオンとして存在するためバリア材に対する吸着性が低く、高レベル放射性廃棄物処分の安全評価における重要核種の一つである。鉄のオーバーパックの腐食によりFe(II)が発生するため、Se(cr)より溶解度が低いFe-Se固相の生成が予期されている。ベントナイト平衡溶液中における実験とベントナイトが存在しない単純な系の実験を地層処分模擬環境下で行った。前者において液中Se濃度が約10-8mol⁄dm3になった。後者は溶解度制限固相を確認するためのもので、Se固相の変遷を加速するためにより高温度の80℃で行った。液中Se濃度は時間とともに減少し、幾つかのSe固相を特定した。しかしながら、平衡は未確認である。当初はSe(cr)が支配的であったが、時間の経過とともにFe-Se固相(FeSe2、 FeSe)が生成し始めた。長期にわたっては、熱力学計算で安定な固相として示された地層処分環境下におけるSe溶解度制限固相のFeSe2を実験的に確かめることができた。

Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY Vol.47 No.3 pp.278-285 2010
澤田淳、佐藤久、鐵桂一、坂本和彦

岩石試料の研削による亀裂形状計測データを用いた透水トレーサー試験の評価

亀裂性岩盤を対象とした地下水流動評価や核種移行評価には、亀裂を一枚の均質な平行平板に近似したモデルを一般的に用いる。実際の亀裂は複雑な形状を呈しており、これを平行平板モデルで表現する際、透水量係数や亀裂開口幅の値をどのように設定するかが課題となる。この課題解決に向けた研究の一つとして、天然の亀裂を含む50cmスケールの岩石試料を対象とした透水トレーサー試験を行い、岩石試料を1mm毎に精密研削して亀裂形状を観察し、1mmピッチで亀裂表面形状と亀裂幅データを取得した。このデータを用いて数値モデルを作成して、亀裂内充填物の影響を考慮した補正が必要なものの、実測された透水量の不均質性などの再現に加えて、亀裂内の不均質なトレーサー移行の様子をシミュレートした。

第39回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集 pp.54-59 2010
小林賢一郎、岸田潔、細田尚、笹本広、小野香理

慣性項を考慮した単一亀裂グラウト注入モデルに関する基礎的研究

わが国のように岩盤の割れ目や地下水の多い地質環境では、湧水抑制対策としてグラウト技術が必要とされる。セメント系グラウトが用いられた場合、岩盤の変質に伴う化学的な影響が懸念される。グラウトによる岩盤変質の影響評価を行う上での初期条件の設定に関係するため重要である。本研究では、グラウト浸透モデル開発の一環として、慣性項を考慮した非ニュートン流体としてのグラウト注入モデルを構築し、単一亀裂を対象とした室内試験との比較により、慣性項の有無が浸透挙動に及ぼす影響について検討した。

第39回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集 pp.282-286 2010
岸田潔、澤田淳、佐藤久、音田慎一郎、細田尚

三乗則成立条件下での局所レイノルズ数による透水挙動の評価

自然の亀裂は、複雑な開口幅分布を有することが知られているが、透水挙動を評価する場合、一般には平行平板モデルに代表される等価な亀裂開口幅として扱い、三乗則が適用される。平行平板モデルで三乗則が適用されるのは、レイノルズ数が1以下の極めて遅い流れであり、移流項が流れに影響しないとされている。本研究では、レイノルズ数が1以下の三乗則が成立する条件下での単一亀裂透水実験に対し、慣性項を考慮したモデルによる2次元浸透流解析を行った。得られた結果から、局所レイノルズ数を算定し、三乗側成立条件下での単一亀裂透水実験における亀裂内の局所三乗則の成立性に関する検討を行った。

第39回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集 pp.287-292 2010
土井玲祐、油井三和

Se(IV)⁄Se(VI)の標準電極電位に関するサイクリックボルタンメトリーによる実験的研究

本研究では、純粋な溶液系で実験が可能なサイクリックボルタンメトリーを用いてSe(IV)⁄Se(VI)の酸化還元反応の標準電極電位を求めた。室温条件下でNaClO4を用いてイオン強度を調整した系( I(mol⁄kg)=0.500、1.00、1.50、2.00)で式量電位を測定し、式量電位から特異イオン相互作用モデル(SIT)により標準電極電位を導出した。さらに、サイクリックボルタンメトリーにより得られるピーク電位のSe濃度依存性から、次の反応の標準電極電位が得られた。
HSeO3-+H2O=SeO42-+3H++2e- E0=0.821±0.002V vs. SHE.
本研究により決定したこの標準電極電位は、OECD⁄NEAの選定値より卑な値であり、OECD⁄NEAの選定値では矛盾していたSe(VI)の存在を確認した既往の実験研究を裏付けるものである。

原子力バックエンド研究 Vol.16 No.1 pp.35-42 2009
西山哲、大西有三、澤田淳、矢野隆夫

格子ガスオートマトン法によるせん断変形時の岩盤不連続面内の透水特性に関する研究

単一の不連続面を含む岩石を模擬した試料のせん断透水実験において、せん断応力-せん断変位曲線の比例限界点の前後で透水特性が変化するという結果に着目し、不連続面内の水の流れが表現できる解析手法の構築と実験結果に対するメカニズムの考察を試みたものである。具体的には不連続面の表面の構造を再現した解析モデルにおいて、水を仮想粒子に置き換えて、粒子同士及び不連続面の壁面との衝突・散乱を繰り返すという単純な計算によって水の流れを表現する格子ガス法に基づく解析手法の構築を試み、本手法がNavier-Stokes方程式から導かれる流れを表現するものであることを平行平板モデルを用いて検討するとともに、比例限界点前後で不連続面内の水の流れが相違するメカニズムを論じる。

土木学会論文集C Vol.65 No.4 pp.776-788 2009
佐藤晃、有水拓人、米村拓峰、澤田淳

X線CT法による亀裂内トレーサー移行プロセスの可視化と分析

高レベル放射性廃棄物地層処分の長期的安全性を検討する際には処分事業の長期に渡る事業期間を通して評価技術の一貫性を保ちつつ、調査の段階に応じて詳細化されるサイト環境条件や技術の進歩に適切に対応した評価手法を用いた性能評価が実施される。花崗岩など亀裂性岩盤を対象とした性能評価では、岩盤中の核種移行のモデルとして簡便で第2次取りまとめなどのこれまでの性能評価報告書で実績のある一次元平行平板モデルが用いられる。しかし、一次元平行平板モデルの利用に際しては、実際には複雑な形状を呈する亀裂を一次元平行平板モデルで表現するため、透水量係数や亀裂開口幅の代表値をどのように設定するかが課題となっている。この課題解決に向けた研究の一つとして、非破壊検査技術の1つであるX線CTスキャナーを複雑な表面形状を有する亀裂内部を物質移行の可視化に適用した。得られたその画像データにより亀裂内部での物質の移流・分散プロセスを評価・分析し、大きい空間と小さい空間が複雑に分布している場合には、亀裂開口幅の大小によりトレーサーの移行挙動が極端に異なり、開口幅が大きい空間で流れによどみが生じることが示された。

Journal of MMIJ Vol.125 No.4,5 pp.146-155 2009

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国外
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
K. Iijima, S. Kurosawa, S. Kibe, M. Tobita and Y. Ouchi

Modelling of Diffusion Behaviour of Humic Acid and Nd in the Presence of Humic Acid in Compacted Bentonite

圧縮ベントナイト中におけるフミン酸およびフミン酸共存下でのNdの拡散挙動を評価するとともに、そのモデル化を行った。NaCl濃度0.1および1M、乾燥密度1.2-1.6Mg⁄m3の条件下でフミン酸の破過が認められた。また、フミン酸が共存するとNdの移行は促進された。これらの実験結果から、拡散挙動の異なる複数のNd化学種が平衡を維持しながら拡散することを想定した一次元拡散モデルに基づき、フミン酸およびNdの拡散パラメータを評価した。得られたフミン酸およびNdの拡散パラメータを用いて、様々な条件下におけるフミン酸共存下での核種拡散挙動を予測する。

Clays in Natural & Engineered Barriers for Radioactive Waste Confinement -4th International Meeting Nantes (France) 2010
T. Ishidera, S. Kurosawa and S. Kibe

Sorption site capacities for Cs on the sedimentary rock in Horonobe area

放射性核種の収着挙動は、岩石中の鉱物の種類や含有量に強く影響される。しかしながら、XRD分析のようなこれまで行われている鉱物の定量方法では、結晶度の違い等による定量誤差を避けることができず、また、同種の鉱物においても核種の収着挙動に違いが見られており、岩石中の鉱物の含有量から核種の収着挙動を正確に見積もることは困難である。核種の鉱物への収着は、鉱物中の1種類もしくは数種類の分配係数の異なる収着サイトへの収着によって支配されている。そのため、岩石に対する放射性核種の収着挙動を評価する上では、鉱物の含有量ではなく、鉱物中の収着サイトの量を正確に見積もることが重要である。本研究では、日本原子力研究開発機構・幌延深地層研究センター付近の地下より採取された堆積岩試料を用いて、Cs+の収着試験を行った。試験は、バックグラウンドの陽イオンとして、選択定数の異なるK+、 Na+イオンを使用し、Cs+濃度をパラメータとして行った。これら陽イオン存在下での、Csの収着量と溶液中のCs濃度の関係より、幌延地域の堆積岩中の鉱物の収着サイト密度をフィッティングにより定量した。

Clays in Natural & Engineered Barriers for Radioactive Waste Confinement -4th International Meeting Nantes (France) 2010
G. Smith and T. Kato

International Collaboration in Assessment of Radiological Impacts Arising from Releases to the Biosphere after Disposal of Radioactive Waste into Geological Repositories

放射性廃棄物地層処分においては、数千年もしくはそれ以上の超長期にわたって、Cl–36のような長半減期核種が、人間が普通にアクセスし利用する環境、すなわち生物圏に放出される。いかなる場合においても、処分場に起因して人間が受ける放射線量が放射線防護基準を満たすことを保証する必要がある。このような長期の時間枠における線量評価においては、地表環境や人間活動の変遷を考慮しなければならないという理由から、評価の枠組みを構築することは容易ではなく、長年にわたる国際共同プロジェクトによりこの問題が議論されてきた。本報では、放射線防護に関する国際的な勧告とサイト特有の評価におけるセーフティケース構築の準備に関して、国際協力により得られた成果およびJAEAを含む各国の研究アプローチについて概説する。

An International Journal of the Korean Nuclear Society, Nuclear Engineering and Technology (NET) Vol.42 No.1 pp.1-8 2010
A. Sawada and H. Sato

A study of hydraulic properties in a single fracture with in-plane heterogeneity: An evaluation using optical measurements of a transparent replica

亀裂を対象とした平行平板モデルに用いられるパラメータ値の設定方法の検討に必要な単一亀裂内のデータ取得のために、亀裂の透明レプリカを用いた実験的検討を行った。光学的計測手法により亀裂開口幅分布やトレーサー試験時のトレーサー濃度データを高い空間解像度で定量的に取得した。亀裂開口幅分布の算術平均値、トレーサー試験から求めた開口幅、亀裂内体積測定から求めた平均開口幅などの異なる計測手法から求めた開口幅の値が一致することが示され、本試験データが良い精度で取得できていることを示している。亀裂開口幅データから局所的に三乗則が成り立つと仮定して実施した数値解析から得られる亀裂の透水量は透水試験の値より10%〜100%大きな値となった。また、定量的なトレーサー濃度分布のデータは不均質亀裂内の移流分散の数値解析コードの検証にとても有用である。

An International Journal of the Korean Nuclear Society, Nuclear Engineering and Technology (NET) Vol.42 No.1 pp.9-16 2010
H. Yoshikawa, S. Lee and T. Matsui

A Sampling Method and Data Evaluation of Archaeological Samples to Support Long-Term Corrosion Prediction

長期間地中に埋没していた考古学資料を用いたオーバーパックの長期腐食挙動調査を目的として、ナチュラルアナログ研究に資するための採取方法を提示した。小田城遺跡から出土した鉄製の鍬について、大気との接触を極力避けるために周囲の土壌を含めたブロックでの資料採取を行い、X線CTによる非破壊分析で土壌ブロック内の鉄器の腐食量を測定するとともに、微生物調査試料を採取した。本研究の結果、鉄の残存の確認と好気性微生物の検出ができた。腐食環境は弱酸化性雰囲気での腐食であることが分かった。

Corrosion The Journal of Science and Engineering
Vol.65 No.4 pp.227-232
2009
Y. Seida, M. Terashima, Y. Tachi, K. Iijima, T. Nakazawa, N. Yamada and M. Yui

Sorption and diffusion of Eu in sedimentary rock in the presence of humic substance

フミン物質共存下で堆積岩におけるEuの収着、拡散挙動について調べた。拡散挙動はリザーバー減衰拡散試験法により観察した。リザーバーにおける核種濃度の減衰曲線から、フミン物質と核種の間に錯形成などの相互作用が働いているものと推察された。一方、リザーバー内のフミン物質濃度の有意な減少は認められなかった。フミン酸の共存によりEuの岩石に対する収着量が低下する条件があることが明らかとなった。Euの収着、拡散挙動は、フミン酸の影響を受けることが明らかとなった。

Migration 2009 (12th International Conference on the Chemistry and Migration Behaviour of Actinides and Fission Products in the Geosphere) Kennewick(USA)
Radiochimica Acta (Special issue) Vol.98 pp.703-709
2009
Y. Tachi, T. Nakazawa, M. Ochs, K. Yotsuji, T. Suyama, Y. Seida, N. Yamada and M. Yui

Diffusion and sorption of neptunium(V) in compacted montmorillonite: effects of carbonate and salinity

放射性廃棄物地層処分の安全評価において重要となる圧縮ベントナイト中の核種の収着・拡散挙動を把握・評価するため、圧縮モンモリロナイト中のNp(V)の収着・拡散挙動に及ぼす炭酸濃度と塩濃度の影響を、実験とモデルの両面から調査した。密度800kg⁄m3の圧縮モンモリロナイト中のNp(V)の実効拡散係数(De)と分配係数(Kd)が、塩濃度(0.05、0.5MのNaCl)と炭酸濃度(0、0.01MのNaHCO3)の異なる4種類の条件下で取得した。炭酸が存在しない系ではDeは塩濃度とともに減少し、炭酸共存系では逆の傾向を示した。Kdは炭酸が共存する系で1桁減少する結果が得られた。これらの収着・拡散挙動は、地球化学平衡計算、イオン交換と表面錯体反応を考慮した収着モデル、狭隘間隙中の電気二重層を考慮した拡散モデルによって解釈された。現象論収着・拡散モデルが、圧縮系での複雑な化学種の収着・拡散挙動の予測評価に有効であることを示した。

Migration 2009 (12th International Conference on the Chemistry and Migration Behaviour of Actinides and Fission Products in the Geosphere) Kennewick(USA)
Radiochimica Acta (Special issue) Vol.98 pp.711-718
2009
K. Iijima, T. Tomura, M. Tobita and Y. Suzuki

Distribution of Cs and Am in the solution-bentonite colloids-granite ternary system: effect of addition order and sorption reversibility

模擬地下水–ベントナイトコロイド–花崗岩の三元系におけるCs及びAmの分配挙動を調べた。花崗岩の添加によりベントナイトコロイドから核種が脱離するのが認められたことから、ベントナイトコロイドに対するCs及びAmの収着挙動は可逆であった。また、イオン交換と表面錯体反応に基づき、ベントナイトコロイドの高いエッジサイト密度を考慮した収着モデルにより、三元系におけるベントナイトコロイドへの核種収着挙動を説明することができた。

Migration 2009 (12th International Conference on the Chemistry and Migration Behaviour of Actinides and Fission Products in the Geosphere) Kennewick(USA)
Radiochimica Acta (Special issue) Vol.98 pp.729-736
2009
H. Takahashi, Y. Seida and M. Yui

3D X-ray CT and diffusion measurements to assess tortuosity and constrictivity in a sedimentary rock

堆積岩の高分解能3次元画像をナノフォーカスX線CT測定により得た。堆積岩の3次元微細構造をコンピュータプログラムにより解析し、屈曲度及び幾何学的収れん度を算出した。また、同じ堆積岩に対してトリチウム水の拡散実験及び水銀圧入法による測定を実施した。堆積岩中のトリチウム水の拡散を支配する因子を理解するために、これらの結果を比較した。これらの結果は、本研究で対象とした系におけるトリチウム水の拡散を支配しているのは、収れん度ではなく屈曲度と有効間隙率であることを示唆した。本研究で用いた試料は、日本の放射性廃棄物地層処分研究を実施している幌延深地層研究センター周辺の稚内層の珪質泥岩である。

Diffusion Fundamentals III Athens (Greece)
Diffusion Fundamentals.org Vol.11 No.89 pp.1-11
2009
H. Sato

A Thermodynamic Analysis on the Effect of Salinity on Interlayer Space of Sodium-montmorillonite

緩衝材や埋め戻し材として使用されるベントナイトの主要粘土鉱物であるモンモリロナイトの層間距離は、モンモリロナイト密度や接触する溶液の塩濃度が増加すると減少することが詳細な底面間隔の測定によってわかりつつある。この現象は、塩水系地下水に対するベントナイト中の核種の拡散や透水、ベントナイトの膨潤、シーリングなどの各特性のメカニズムの理解やモデルを構築するうえで必要な基礎データである。著者は、以前の研究でNaモンモリロナイトの層間水の自由エネルギーと含水比との関係を取得し、ベントナイトの膨潤圧を計算する熱力学モデルを構築した。本研究では、その関係に基づいてモンモリロナイトがさまざまな塩濃度溶液と接触したときの層間水の自由エネルギーから逆に含水比を求めることで層間距離を計算する理論を構築した。具体的には、塩濃度に対するモンモリロナイト密度の変化を計算し、それに基づいて層間距離の変化を見積もった。その結果、塩濃度の増加に伴いモンモリロナイト密度は増加した。例えば、0.5M–NaClでは初期に0.5Mg⁄m3の密度は1.05Mg⁄m3まで増加し、初期に1.0Mg⁄m3の密度は1.16Mg⁄m3と、初期の密度の増加に伴い密度の変化は減少した。この理論により、さまざまな塩濃度に対するNaモンモリロナイトの層間距離の熱力学計算が可能となる。塩濃度に対する層間距離の変化についてはほとんど報告値がないものの、計算結果はこれまでの報告値と整合している。

14th International Clay Conference (ICC-14) Castellaneta Marina(Italy) 2009
Y. Yoshida, T. Nakazawa, H. Yoshikawa and T. Nakanishi

Partition coefficient of Ra in gypsum

石膏に対するRaの元素分配比を共沈実験を行い測定した。元素分配比は0.71±0.53となった。既往の報告で石膏に対するRaの元素分配比の報告はない。重晶石に対するRa及び石膏に対するSrの元素分配比と比較評価した結果、本実験により得られた元素分配比は妥当な値であると考えられる。

Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry Vol.280 No.3 pp.541-545 2009
K. Miyahara, M. Inagaki, M. Kawamura, T. Ebina and I. G. Mckinley

Disruptive Effects on a HLW Repository Due to Uplift-Erosion in the Distant Future

注意深いサイト調査と処分場の設計により高レベル廃棄物処分場への隆起・侵食の影響は長期に渡り回避できると考えられるものの、安全規制において評価期間が定められていない我が国においては、隆起・侵食の継続により処分場の深度が時間とともに浅くなり遠い将来において処分場が地表に到達する可能性について適切なシナリオにより評価することが求められる。本研究では、隆起・侵食による処分場への破壊的な影響について科学的根拠に基づきシナリオや概念モデルを設定する手順を示すとともに、解析結果を天然の放射性核種のフラックスと比較することにより、処分システムの有効性と頑健性を例示した。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.177-184
2009
Y. Inagaki, S. Mitsui, H. Makigaki, K. Idemitsu, T. Arima, T. Banba and K. Noshita

Measurement of HLW glass dissolution/alteration kinetics by using micro-reactor flow-through test method

ガラス溶解⁄変質挙動の速度論的評価を行うため、マイクロリアクタを用いた新しい流水溶解試験法を開発した。この方法では、マイクロ流路(20×2×16mm)を有するテフロン台に板状のガラス試料を設置し、シリンジポンプにより一定の流速でマイクロ流路に溶液を注入させることでガラス試料と反応させる。反応後の溶液を一定の間隔で採取、分析することで溶解⁄変質速度を得ることが可能となる。この方法は、装置がコンパクトで単純である、反応面積に対して反応溶液量が少ない、高感度で溶解/変質速度が測定できる、試験後試料の表面分析が容易である、などの特徴を有する。この方法により、P0798ガラスのpH、温度、流速、時間を関数とした試験を行い、ガラス溶解⁄変質挙動の速度論的評価に必要なデータを取得した。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.219-228
2009
H. Makigaki, Y. Inagaki, K. Idemitsu, T. Arima, S. Mitsui, T. Banba and K. Noshita

Measurement of initial dissolution rate of P0798 simulated HLW glass by using micro-reactor flow-through test method

新たに考案したマイクロリアクタ流水溶解試験により、模擬ガラス固化体(P0798ガラス)について任意の一定溶液、温度条件での溶解試験を行い、ガラスの初期溶解速度を測定した。試験温度を25℃、溶液のpHを5.6から12の範囲としたpH依存性試験で得られたケイ素の溶解速度から求めた初期溶解速度は、フランス原子力庁(CEA)が報告しているR7T7ガラスと同様に、V字型のpH依存性を示した。また、pHを5.6、試験温度を25から90℃の範囲とした温度依存性試験による初期溶解速度からは、活性化エネルギーとして51kJ⁄molを得た。これはCEAが報告しているR7T7ガラスの値に比べてわずかに小さい値である。これらの結果に基づき、P0798ガラスの溶解機構を議論する。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.307-314
2009
H. Yoshikawa, M. Inagaki and I. Miyasaka

Development of scenario analysis and database for quantitative analysis of microbial effects on the repository performance

地層処分の性能評価の観点から微生物影響について、内外の研究成果をもとにシナリオ解析を実施した。微生物に関する不確実性を踏まえて重要なFEPを抽出し微生物影響を分類した。結果として、地下水組成に関する微生物影響評価が重要であることがわかった。また、重要な6種の微生物群について成長や活性に関する微生物パラメータのデータベースを開発した。そのデータベースは微生物影響を評価するモデル上重要なデータ、成長速度、最大成長速度、死滅率や実験条件を網羅している。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.375-380
2009
S. Mitsui, H. Makino, M. Inagaki and T. Ebina

Impact of Silicon Migration Through Buffer Material on the Lifetime of Vitrified Waste

ガラス固化体の寿命に対するニアフィールドプロセスの影響を把握するため、ケイ素のガラスからの放出と緩衝材中での移行を考慮したガラスの長期溶解に関する感度解析を実施した。解析から見積もられたガラスの寿命は緩衝材中のケイ素の拡散係数と分配係数及びEDZ中の地下水流速に強く依存することを示した。このことは、ガラス固化体の長期挙動においてこれらのパラメータの重要性を示している。さらに、ガラス固化体の寿命における水和変質の影響についても検討した。水和変質はケイ素の放出を考慮したガラスマトリクスの溶解と同時に進行する変質である。その結果、開放系におけるガラス固化体の寿命評価では、ガラスの水和性質よりも、緩衝材中でのケイ素の移行を評価することが、より現象の解明に寄与すると結論付けられた。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.397-404
2009
H. Sato

Quantification of Exchangeable Cations in Interlayer of Tsukinuno Sodium-Montmorillonite

幌延深地層研究計画では、処分技術の信頼性向上と安全評価手法の高度化の一環として、緩衝材や埋め戻し材として使用が検討されているベントナイトに関する研究を行っている。ベントナイトの構成粘土鉱物のモンモリロナイト層間中の交換性陽イオン(EC)については、その一部はCaやMgが占めることも知られているが、定量的にはわかっていないため、Naとして取扱われてきた。しかしながら、層間中のECの種類と占有率は、膨潤、間隙水化学、物質移行など、さまざまな特性に影響を及ぼすため、それらを解析するための基礎データとして必要である。本研究では、月布産のベントナイト中のモンモリロナイトの陽イオン交換容量(CEC)と浸出陽イオン(LC)を精密に測定し、層間中のECとそれらの占有率を求めるとともに、層間中のNaとプロトンのイオン交換反応定数(logK)を算出した。CECは従来の報告値と同程度であり、LCの総量とも一致した。層間中のNaの占有率は全体の3⁄4程度であり、Mgは約7%、Caは約19%であることがわかった。これらのデータに基づいてlogKを求めた結果、既存の値よりも2桁程度低いことがわかった。この原因は、既存の値がイオン強度の影響を受けにくい条件で導出されたことによる。また、既存の値は塩水系地下水に対しては有効であるが、降水系地下水に対しては適用できない。一方、本研究で得られたlogKはすべての条件を網羅しており、今後の解析ではlogKを見直す必要があるものと考える。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.529-536
2009
Y. Tachi, K. Yotsuji, Y. Seida and M. Yui

Diffusion of Cesium and Iodine in Compacted Sodium Montmorillonite Under Different Saline Conditions

圧密モンモリロナイト中の陽イオンと陰イオンの拡散収着挙動の塩濃度影響を、実験的評価とモデル評価の両面から評価した。精製ナトリウム型モンモリロナイトを乾燥密度800kg⁄m3に調整し、0.01、0.1、0.5Mの3種類のNaCl溶液で飽和させた系で、Through–diffusion試験によって、セシウムとヨウ素の実効拡散係数と容量因子を取得した。信頼性の高いデータ取得の観点から、トレーサー減衰曲線、破過曲線、内部プロファイルの複数のカーブからパラメータを決定する手法の適用を試み、さらにin–diffusion試験、バッチ収着試験との比較を行った。取得された実効拡散係数は、陽イオンのセシウムでは塩濃度とともに減少し、陰イオンのヨウ素では逆の傾向を示した。セシウムの収着分配係数については、塩濃度とともに減少する傾向が得られ、バッチ収着試験の結果と整合的であった。これらの陽イオン・陰イオンの実効拡散係数の塩濃度依存性は、電気二重層に基づく拡散モデルによって解釈し、さらに収着モデルと組合せることにより、収着効果を含む見かけの拡散係数を説明できた。

MRS 2009 The 33rd International Symposium on Scientific Basis for Nuclear Waste Management St. Petersburg(Russia)
MRS symposium proceedings Vol.1193 pp.545-552
2009

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地質環境特性調査・評価手法に関する研究

国内
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
津坂仁和

堆積軟岩における立坑掘削の内空変位計測に基づく岩盤挙動分類の提案

深地層の坑道掘削には、地上からの調査では適切な岩盤物性を十分に把握することが困難であるため、情報化施工を必要とする。同施工では、掘削に伴って、岩盤の変形量や支保部材応力を逐次計測・分析し、原位置の岩盤性状に合わせた合理的な支保構造へと変更していく。原子力機構は、幌延深地層研究所の地下施設建設において、情報化施工プログラムを策定し、運用している。2009年2月末には、換気立坑が深度250m、東立坑が深度140mに到達している。同プログラムでは、各種計測結果を迅速に評価し、後続の施工区間や西立坑掘削時の岩盤挙動を予測できる指標を必要としている。本研究では、2本の立坑で計測した内空変位量から、掘削初期段階の初期変形率と、覆工コンクリートの構築までに生じる断面変形率の関係を考察し、両者の関係を岩盤挙動分類として提示した。初期変形率は、初期地圧と岩盤の弾性係数の比と関係があり、岩盤性状を表す指標の一つである。これを踏まえ、初期変形率と立坑底盤で実施した孔内載荷試験結果に基づく弾性係数との関係を分析した。同分類に基づけば、立坑底盤から先行ボーリングを利用した孔内載荷試験を実施し、岩盤の弾性係数を得ることにより、載荷深度付近の立坑掘削に伴う岩盤挙動を迅速に予測することができる。

土木学会論文集 F Vol.66 No.1 pp.181-192 2010
湯口貴史、鶴田忠彦、西山忠男

中部日本土岐花崗岩体の岩相と化学組成の累帯変化

本論文は、西南日本内帯の中部地方に位置する土岐花崗岩体の岩相分布および化学組成分布を明らかにし、これを通して花崗岩質マグマ溜りの貫入定置プロセスについて議論を行った。土岐花崗岩体に対する19本のボーリングコア試料から、岩体中の鉱物組み合わせとモード、全岩化学組成の空間分布を明らかにした。土岐花崗岩体は、内部へ向かって白雲母–黒雲母花崗岩から、ホルンブレンド–黒雲母花崗岩、黒雲母花崗岩相へと推移する内部が珪長質な正累帯深成岩体である。周縁部から内部に向かって、全岩化学組成のASI(mol.Al2O3⁄(CaO+Na2O+K2O) )、K2OおよびAl2O3は減少し、Na2OおよびNa2O⁄K2Oは増大する。このことは白雲母–黒雲母花崗岩でperaluminousであり、黒雲母花崗岩においてmetaluminousな組成であることを示す。また周縁部から内部に向かってFe3+⁄Fe2+は増大する。これに加え、土岐花崗岩の貫入の際に熱変成を被った美濃帯堆積岩起源のホルンフェルスの存在は、その部分溶融メルトと土岐花崗岩マグマの混成作用の可能性を示す。一方、3つの岩相のSiO2量の組成領域が重なることは、それぞれの岩相が、単一の親マグマに由来するものではなく、各々別のマグマであり、それらが同時期(あるいは時期の間隔の短い)に貫入した可能性も否定できない。

岩石鉱物科学 Vol.39 No.2 pp.50-70 2010
竹内真司、乳根達矢、N. Mebruk、渡辺邦夫

人工知能技術を用いた坑道掘削に伴う間隙水圧の変動予測解析

亀裂性岩盤でのトンネルや立坑掘削はサイト周辺の水圧変化を発生させる。高透水性の水みちが存在する場合、その影響は場所により異なることが予想される。そのため水圧変動をリアルタイムで予測し、異常の兆候を捉え、これに対処することにより地下水状態を適切に維持することは、周辺環境への影響を低減するうえで非常に重要である。これは、地層処分のサイト調査における環境影響評価の有効な手法の1つと考えられる。本論では、原子力機構が開発した、人工知能技術(遺伝的アルゴリズムおよびニューラルネットワーク)による水圧変動の予測解析システムを用いて、瑞浪超深地層研究所および周辺のボーリング孔で取得した観測データに適用した結果について論述する。その結果、当地域の水圧変動は4つのパターンに分類可能であることを確認した。また、同じ変動パターンを有するデータ群を用いることで、任意地点の水圧変動を予測可能であることが明らかとなった。

土木学会 第54回水工学講演会 札幌市
水工学論文集 第54巻 pp.409-414
2010
畑中耕一郎、中山雅

低アルカリ性セメントを用いた地下施設の本格的な施工 —安全な地層処分実現に向けた新技術の実証—

原子力機構では、処分坑道の支保工に使用されるコンクリートからの浸出水の低アルカリ化を実現するために、ポゾラン反応に着目し、OPCとポゾラン材料であるシリカフュームとフライアッシュを混合した低アルカリ性セメント(HFSC)を開発し、種々の配合条件下での性能や施工性について検討してきた。その結果、OPCと同等の支保工としての性能や施工性を維持するとともに浸出水のpHを11程度にするHFSCの配合条件を設定できる見通しを得たことから、幌延深地層研究計画地下施設の深度140mの調査坑道の一部において、HFSCを用いた本格的な吹付け施工を行った。その結果、HFSCはOPCと同等の施工性を有し、坑道支保工として適用できることが確認された。低アルカリ性セメント材料を使用した地下施設の本格的な施工は世界で初めてのことである。

コンクリートテクノ Vol.29 No.2 pp.36-44 2010
松井裕哉、平野享

超深地層研究所計画 第2段階の力学調査結果に基づく岩盤力学概念モデルの妥当性評価

日本原子力研究開発機構では、結晶質岩を対象として実施中の超深地層研究所計画において、深部地質環境の調査・解析・評価技術の基盤の整備を進めている。本報では、この一環として地表からの調査予測研究段階(第1段階)で構築した岩盤力学概念モデルの妥当性の検討結果を報告する。具体的には、第1段階で構築した研究所用地の岩盤力学概念モデルの妥当性評価として、深度300mまで展開した研究坑道において岩盤力学調査を実施し、その結果を概念モデルと比較・検討した。その結果、第1段階で予測した岩石物性や初期応力状態は、深度300mまでの範囲ではほぼ妥当と評価できる反面、巨視的物性に影響を及ぼす割れ目の分布特性は予測精度の向上が必要と考えられる。

第39回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集 pp.48-53 2010
真田祐幸、丹生屋純夫、松井裕哉、藤井義明

堆積履歴が幌延地域に分布する珪質岩の力学的特性や微視的構造変化に及ぼす影響

我が国には新第三紀や第四紀などの堆積岩が広く分布し各種構造物の基礎となるケースが多い。とりわけ地下深部に重要な構造物を建設するうえで岩石の力学的性質や応力変化に伴う微視的な構造変化の把握は、構造物の合理的な設計や掘削影響を把握するうえで重要である。原子力機構は新第三紀の堆積岩を対象に高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する基盤研究を幌延町で進めている。本論文では幌延地域に分布する珪質岩の力学的性質を明らかにすることを目的に実施した各種力学試験結果から幌延珪質岩の力学的性質を述べるとともに、堆積岩の工学的性質を支配する主要因を議論した。その結果、幌延地域に分布する珪質岩は堆積過程によって生じた空隙の緻密化や膠結作用により深度方向に三つのゾーンに区分でき、その力学挙動は顕著な拘束圧依存性を示すことがわかった。浅部の声問層の力学挙動は拘束圧の上昇に伴いひずみ軟化型から延性型に移行し、深部の稚内層は拘束圧の程度によらずひずみ軟化型を示す。そして、浅部の声問層は高拘束圧下で珪藻遺骸の損傷によって降伏し、エンドキャップ型の構成則を適用する必要性があることが示唆された。

Journal of MMIJ Vol.125 No.10,11 pp.521-529 2009
真田祐幸、丹生屋純夫、松井裕哉、藤井義明

幌延地域に分布する珪質岩に対する幾つかの岩盤応力測定法の適用性と推定された応力状態

初期地圧は、空洞の形状・支保形態を決定する重要な因子となるため、高レベル放射性廃棄物の処分場のような重要な地下構造物を合理的に設計・施工するには、地下深部に作用する初期地圧を適切に評価する必要がある。そこで、筆者らは原子力機構が進めている幌延深地層研究計画で研究対象としている新第三紀堆積岩を対象に、既存の初期地圧計測手法の新第三紀堆積岩に対する適用性・作業性を検討するとともに、初期地圧測定結果と造構作用や孔壁観察結果などの情報から幌延地域に作用している初期応力状態を総合的に議論した。その結果、AE法についてはカイザー効果の時間依存性の影響が大きく原位置の応力状態を過小に評価してしまう可能性があることが示唆された。一方、DSCA法についてはAE法と比較し原位置試験で得られた最大主応力方位とほぼ一致し、新第三紀堆積岩に対する適用性はAE法と比較すると高かった。水圧破砕法については、コンプライアンスの大きいワイヤラインタイプのシステムを採用することで通常使用されるロッドタイプより高い精度でき裂開口圧を求めることができ、応力状態は造構作用などの影響を受け東西圧縮の偏圧下に晒されていることがわかった。

Journal of MMIJ Vol.125 No.10,11 pp.530-539 2009
濱克宏、岩月輝希

超深地層研究所計画 地表からの調査予測研究段階(第1段階)の成果と今後の展望

日本原子力研究開発機構は、深地層の科学的研究の中核をなす深地層の研究施設計画を北海道幌延町と岐阜県瑞浪市において推進している。超深地層研究所計画(岐阜県瑞浪市)では、現在、地表からの調査予測研究段階(第1段階)を終え、研究坑道の掘削を伴う研究段階(第2段階)を進めている。第1段階および第2段階における調査研究の成果については、地層処分におけるサイト調査などに活用できると考えられるが、調査や解析の実施時の専門家の判断(エキスパートジャッジメント)については、調査担当者や研究者のノウハウとして蓄積されている。これらの一般に暗黙知と呼ばれるノウハウをできるだけ汎用性のある形で整理し表出化することは、調査・評価技術の信頼性や適用性を高める上で、また技術移転や教育の観点から極めて有効であると考えられる。このような考え方で、第1段階で実施した調査や解析について、経験や知識を表出化させることを試みた。特に、専門家の判断について、if–then形式のルールで整理し、これに基づきエキスパートシステムを構築した。

第54回地盤工学シンポジウム 東京 2009
舟木泰智、石井英一、常盤哲也

新第三紀堆積岩中の割れ目は主要な水みちとなり得るか?

堆積岩において、割れ目がどの程度地層中の主要な水みちとして機能しているかを把握することは、地下水の流れに関するモデル化及び数値解析を行ううえで重要な基盤情報となる。本報告では、北海道北部の幌延地域に分布する新第三紀の堆積岩(声問層と稚内層)中の割れ目がどの程度主要な水みちとして機能しているかを、ボーリング孔における割れ目と地下水の流出入箇所との対応関係から把握するために、コア観察,超音波型孔壁画像検層及び流体電気伝導度検層を実施した。その結果、声問層の割れ目はほとんど主要な水みちとして機能せず、稚内層の割れ目はある程度主要な水みちとして機能していることが定量的に示された。その原因を検討するためにさらなる統計処理を行った結果、声問層の割れ目は連続性・連結性に乏しく、稚内層の割れ目はある程度の連続性・連結性を有す(少なくとも声問層のそれより連続性・連結性に富むこと)が示唆された。加えて、稚内層の割れ目は声問層のそれより全体的に開口性に富むことが示唆された。このことから、声問層は多孔質媒体として、稚内層は声問層と比べ亀裂性媒体としての性質が強いと考えられる。

応用地質 Vol.50 No.4 pp.238-247 2009
延藤遵、見掛信一郎、西垣誠

大深度岩盤掘削工事を対象とした効率的なプレグラウチング概念に関する提案

本研究は、大深度下の硬質な結晶質岩において掘削工事を行う際の湧水抑制を目的としたセメントグラウトによる効率的なプレグラウチング方法について検討したものである。プレグラウチングの効率化のためには、グラウト配合の高濃度化が望ましいが、超微粒子セメントの高濃度な配合を用いる場合、グラウト注入孔内の岩盤亀裂入口においてセメント粒子の堆積に起因した目詰まりが発生する。このセメント粒子の堆積のメカニズムと目詰まりの発生確率の関係は明らかにされていないのが現状である。そこで、目詰まり現象を解明するための研究課題としてグラウトの配合に着目し、配合における水セメント比を0.5〜10の範囲で変化させて、水セメント比がグラウト物性や目詰まり現象に与える影響について室内試験により確認した。最後に、上記の試験結果に基づいて大深度岩盤掘削工事を対象とした効率的なプレグラウチング概念について提案している。

土木学会論文集C Vol.65 No.4 pp.806-821 2009
岩月輝希、森川佳太、細谷真一、吉川英樹

深部地下水の物理化学パラメータ(pH、酸化還元電位)の測定とその留意点

地下水の物理化学パラメータは、金属元素の挙動や物質循環にかかわる重要なパラメータである。しかしながら、その測定では電極の応答性に依存して安定値の取得に長時間を要するとともに、地下水揚水時に溶存ガスの脱ガス等により値が変化する。本研究では、深度約500mの地下水を対象として、原位置及び地上において形状の異なる複数の電極を用いて物理化学パラメータを測定し、各電極の応答性について知見を得るとともに、溶存ガスの脱ガスに伴う物理化学パラメータの変化について補正方法の構築を試みた。測定の結果、地下水揚水時の脱ガスに起因して生じるpHの変化は約0.4であり、脱ガス量を補正することで原位置の値を見積もることができた。また、酸化還元電位は約-100mVであり、おもに二価鉄、硫酸イオンと硫化鉱物、炭酸鉄鉱物の酸化還元反応が支配反応であると考えられた。pHと酸化還元電位にかかわる主要なプロセスを解析する際は、脱ガス量とその成分を把握しpHを補正することにより、誤解釈を防ぐことが重要である。電極の選択に関しては、点状電極よりも面状電極、棒状電極の方がより短時間に酸化還元電位値を取得できることが明らかになった。

地下水学会誌 Vol.51 No.3 pp.205-214 2009
岩月輝希、石井英一、新里忠史

北海道幌延地域における深部地球化学環境の長期変遷シナリオの構築

深部地球化学環境の長期変遷解析手法を構築するため、北海道幌延地域を対象として地質現象と地球化学環境との関連を整理したうえで、深度約500mの地球化学環境の長期変遷について考察した。その結果、同深度においては微生物活動による局所的酸性化や還元作用、炭酸塩鉱物の溶解・沈殿反応などにより、中性・還元環境が長期的に維持されてきたと考えられた。また、この過程で、地球化学環境にかかわる重要な現象、プロセスの抽出方法とその将来変遷にかかわる解析手順を整理できた。(1)対象領域の水理地質特性の形成にかかわる現象の整理、(2)水理地質特性の分布、変遷過程に基づく領域(サブシステム)区分、(3)サブシステムごと、時間スケールごとに地球化学環境にかかわる重要な現象、主要プロセスの抽出、(4)抽出された現象、主要プロセスに基づき過去から現在までの地球化学環境の変動幅の推測、(5)過去から現在までの主要プロセスとサブシステムの将来変化に基づいて、将来の地球化学環境の変動幅の推測。今後、人為的擾乱(地下施設建設)により形成される新規のサブシステムの性状や分布、それに対する既存のサブシステムの安定性(頑健性)にかかわる調査研究を行っていく。

地学雑誌 Vol.118 No.4 pp.700-716 2009
竹田宣典、桑江ひとみ、中山雅、小林保之

ポゾラン高含有鉄筋コンクリートの長期海洋暴露試験

pHが11.0程度の低アルカリ性を有するフライアッシュ高含有シリカフュームセメント(HFSC)について、鉄筋コンクリートとしての適用性を評価することを目的として、コンクリート供試体の6年間の海洋暴露試験を行い、圧縮強度、塩化物イオン侵入量、鉄筋腐食について調査し、腐食ひび割れの発生時期を予測した。その結果、6年間の海洋環境下における圧縮強度の低下はなく、塩化物イオンの侵入は普通ポルトランドセメントに比べて少ないことが明らかになった。また、鉄筋腐食は、塩化物イオンの侵入が少ない時期に生じるが、その進行は遅く、かぶり100mm、鉄筋径22mmの場合の腐食ひび割れ発生時期は50〜100年後と予測される。以上のことから、HFSCを鉄筋コンクリートに適用する場合には、鉄筋径や使用部位を適切に選定することが重要となることが示唆された。

コンクリート工学年次大会2009 札幌
コンクリート工学年次論文報告集 Vol.31 No.1 pp.895-900
2009
成川達也、松木浩二、新井孝志、大山卓也、竹内竜史、竹内真司

立坑掘削に伴う排水・冠水・再排水時の地表面傾斜量の逆解析に基づく岐阜県東濃地域超深地層研究所用地の地下水流動場評価

測定した地表付近の岩盤傾斜量を基に、著者らが提案した逆解析法を用いて岐阜県東濃地域の瑞浪超深地層研究所建設用地における立坑掘削の際の排水、冠水および再排水期間における地下水流動場を評価し、さらに、単一の地下水流動場を想定したモデル解析によりその信頼性について検討した。その結果、局所的な影響を除いた傾斜量から評価した平面寸法1000m×1000m、深さ100m〜180mの領域における大局的な地下水流動場は、遮水性があると推定されている二つの断層に挟まれた領域内で主立坑の南側100m〜150mを中心に発達し、立坑の北西方向は収縮傾向、南〜南東方向には広がる傾向にあることを明らかにした。同時に、本研究で用いた傾斜計の配置方向の制約により、立坑の北西方向と南東方向の隅角部近傍は評価できない空白域であることも指摘した。

土木学会論文集C Vol.65 No.2 pp.442-455 2009
坂巻昌工

高レベル放射性廃棄物の地層処分を支える地下研究施設の構築

エネルギー資源に乏しい我が国において継続的にエネルギーを確保していくうえで、核燃料サイクルによる原子力の利用は重要であり、原子力の利用に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の処分を着実に進める必要がある。機構では「原子力政策大綱」などに示される役割に基づき、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術の信頼性を高め、地層処分の実施主体が行う処分事業と国による安全規制の双方を支える基盤的な研究開発の一環として実施しており、岐阜県瑞浪市において結晶質岩を、北海道幌延町において堆積岩を対象として二つの深地層の研究施設計画を進めている。両地下研究施設は世界的にも数少ない大深度の地下空間施設であり、本論においては地下研究施設の背景と位置づけ、施設建設の概要を中心に報告した。

土木技術 第64巻 第4号 pp.35-42 2009
長谷川健、松岡稔幸

領家帯に代表される弱磁気異常地域における空中磁気調査とその解釈

日本原子力研究開発機構は、平成4年度から実施している「広域地下水流動研究」の一環として、領家帯に代表される磁気異常の「静穏域」における空中磁気調査の適用性評価を目的として、空中磁気調査を実施した。本論文では、その適用性について検討を行った。その結果、土岐花崗岩の磁化率が空間的に不均一であることが推定され、このことは土岐花崗岩のボーリングコアの磁化率を測定することにより裏付けられた。また、ボーリングコアの測定で得られた磁化率と空中磁気調査で得られたデータを用いてモデル解析を実施することにより、土岐花崗岩中の高磁化率を持つ部分の3次元的分布を明らかにすることができた。さらに、可児盆地においては蜂屋累層・中村累層の自然残留磁化によると考えられる磁気異常を検出できたほか、美濃帯の堆積岩の分布域の中に比較的規模の大きい花崗岩が地表付近に貫入している可能性を示すデータが取得できた。以上の結果より、磁気センサー高度をできるだけ低く、かつ測線間隔をできるだけ短くしてデータを取得すれば、領家帯に代表されるような「磁気の静穏帯」においても、地質構造調査手法の一つとして空中磁気調査が有効な手段であることが確認できた。

応用地質 Vol.50 No.1 pp.2-15 2009
坂井一雄、小池真史、山本卓也、稲垣大介、山崎雅直

ショートステップ工法における立坑掘削時の覆工および周辺岩盤の挙動

日本原子力研究開発機構が北海道幌延町において建設中の地下施設のうち、2つの立坑はショートステップ工法で施工されている。本工法では掘削後ただちに覆工コンクリートを打設することから、一般的なNATMによる施工とは異なり、覆工コンクリートが支保の役割をなす。このため地中相対変位・覆工応力等は本工法に特有な挙動を示す。このショートステップ工法に特有の挙動のメカニズムを解明し、将来の合理的な設計手法に資することを目的に、初期地圧の異方性、換気立坑の切羽・覆工形状、コンクリートの材齢に応じた力学特性の変化、施工過程等を考慮した三次元逐次掘削解析を実施し、計測結果と比較分析した結果、地中相対変位・覆工応力の計測結果に見られるショートステップ工法に特有の実現象を再現することができた。

大成建設技術センター報 第42号(2009) pp.26-1〜26-8 2009
熊本創、下茂道人、三枝博光、大山卓也

水圧および湧水量モニタリングデータを用いた水理地質構造モデルの構築・更新手法

地下水流動予測のための解析モデルは、通常、ボーリング調査などの限られた情報に基づいて構築されるため、多くの不確実性を含んでいる。そのため、構築したモデルは、地下水圧などの観測データを用いた検証や改良が行われる.特に、地下施設掘削時に観測した周辺観測孔の水圧応答データなどは、大規模な揚水試験データとみなすことが可能であり、広域的な地質構造や水理特性の推定に非常に有効なデータとなる。筆者等は、日本原子力研究開発機構が岐阜県瑞浪市に建設中の瑞浪超深地層研究所を対象に、研究坑道建設に伴う影響予測のための水理地質構造モデルの構築および解析を行ってきた。構築した解析モデルは、研究坑道建設前や建設中に取得した地下水圧や湧水量の観測データを用いて、随時更新している。本報では、特に研究坑道建設時の地下水圧や湧水量の観測データを用いたモデルの検証と見直しの概要について説明する。

大成建設技術センター報 第42号(2009) pp.56-1〜56-8 2009

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国外
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
H. Matsumoto, N. Shigeta, M. Kumazawa and T. Nakajima

Reliable Measurement Method to Reveal a Peculiar Dielectric Dispersion in Wet Rocks by Means of ACROSS

精密制御定常信号システム(アクロス)の手法を応用し、かつ測定中のバイアスを低減する電気回路および電極を用いて、精密で信頼性の高い複素誘電率測定法を開発した。湿潤石英砂およびガラスビーズの電気的特性をこの測定法で測定し、低周波数領域で周波数に反比例して誘電率が大きくなり、1mHzでは10ˆ5にまでなる結果を得た。一方損失角は0.01ラジアン程度で、周波数に依存しないことから、水を含んだ土壌はこれまで報告されていない大きな誘電率をもつ可能性が示唆された。

Handbook of Geophysical Exploration: Seismic Exploration Vol.40 Active Geophysical Monitoring pp.121-133 2010
T. Nakajima, T. Kunitomo, H. Nagao, M. Kumazawa and N. Shigeta

EM-ACROSS System and Corresponding Tensor Transfer Functions in Diffusion Field Region

地下の電磁気的状態をモニタリングするための人工ソースを用いた探査手法を開発し、電磁アクロスと名づけた。この手法では使用する周波数帯に関係なく応用ができる。東濃地域に2方向の接地ダイポールにより送信するシステムを設置し、500Hz以下の拡散場領域での探査が行えるようになった。試験観測として、950m離れた受信点で観測をし、精密なテンソル伝達関数を取得することができた。この試験観測を1か月以上続け、降雨に対応した変動も見られた。

Handbook of Geophysical Exploration: Seismic Exploration Vol.40 Active Geophysical Monitoring pp.177-191 2010
H. Nagao, T. Nakajima, M. Kumazawa and T. Kunitomo

Stacking Strategy for Acquisition of an ACROSS Transfer Function

地下の能動的監視法において、静穏な夜間のデータだけでなく人工ノイズの大きな昼間のデータも用いてスタッキングを行い、SN比(定常信号振幅と環境ノイズの比)を稼ぐことが重要である。本論文では、精密制御定常信号システム(アクロス)のデータに対して理論的なノイズレベル推定法を導入し、最適なスタッキング法を提案する。本方法の重要な点は、SN比は観測時間の平方根に比例して改善されることである。この手法を実際の弾性波および電磁波アクロスのデータに適用した結果を例として示す。

Handbook of Geophysical Exploration: Seismic Exploration Vol.40 Active Geophysical Monitoring pp.213-227 2010
Y. Hasada, M. Kumazawa, K. Tsuruga, T. Kunitomo and J. Kasahara

Automatic Travel Time Determination from a Frequency-domain Transfer Function: The Sompi Event Analysis

アクロス(精密制御定常信号システム)での観測で得られる周波数領域の伝達関数から、時間領域のイベントを抽出する方法を開発した。実データに対するイベント解析が行えるように最尤法に基づいた方法を考案した。この手法の基本理論を説明し、走時の自動決定のための手順を示す。複数のイベントを含む伝達関数データに関する数値実験による検証により、本解析法の有用性を示す。

Handbook of Geophysical Exploration: Seismic Exploration Vol.40 Active Geophysical Monitoring pp.381-395 2010
K. Aoki, Y. Sugita, M. Chijimatsu and K. Tazaki

Impacts of thermo-hydro -mechanical experiments on the microbial activity in compacted bentonite at the Kamaishi Mine, northeast Japan

岩手県の釜石鉱山においてベントナイト及び周辺岩盤(花崗閃緑岩)における微生物活動を調査した。母岩に関して、花崗閃緑岩の深部地下水の細菌及び可視微生物の全菌数が算出できた。また、硫酸還元菌、脱窒菌の存在も確認された。緩衝材の原位置での性能を試験する人工バリア試験という熱–水–応力連成試験を実施した。加熱フェーズ後と冷却フェーズ後にベントナイトのサンプルを取得し、天然の微生物が模擬処分環境で存在するか微生物分析を行った。試験の結果、従属栄養生物が存在するものの、含水比の小さいヒーターの周辺のベントナイト中では存在しないことが確認された。これは、処分後の廃棄体の温度が高い期間の廃棄体周辺では微生物の活動が極端に制限されることを示している。このような知見は、高レベル放射性廃棄物地層処分における微生物の影響の評価に有用である。

Applied Clay Science Vol.47 pp.147-154 2010
W. R. Alexander, B. Frieg and K. Ota

Grimsel Test Site Investigation Phase IV: The Nagra-JAEA in situ study of safety relevant radionuclide retardation in fractured crystalline rock III: The RRP project final report

Nagra(スイス放射性廃棄物管理協同組合)と原子力機構では、亀裂性岩盤中での放射性核種の移行・遅延についての理解をさらに深めることを目的とした原位置試験研究を、スイスのグリムゼル原位置試験場において約10年間にわたって実施してきた。このうち「透水性割れ目開削プロジェクト」では、性能評価において重要ではあるものの、孔間トレーサー試験では破過の観測が困難な強収着性の放射性核種(U、Np、Euなど)を用いた世界初の原位置試験を試みた。具体的には、試験対象の透水性割れ目中に強収着性の放射性核種を注入した後、割れ目と放射性核種を物理的・化学的に固定して開削し、採取した岩石試料を用いて透水性割れ目中のフローフィールドの構造特性ならびに放射性核種の挙動を直接的に評価した。本報告書は、同プロジェクトの最終フェーズ(1996〜1998年)における実施内容とその成果を取りまとめたものである。

Nagra Technical Report 00-07 2009
M. White, J. Guimerã, T. Ohyama, H. Kosaka, P. Robinson and H. Saegusa

APPROACHES FOR MODELLING TRANSIENT UNSATURATED-SATURATED GROUNDWATER FLOW DURING AND AFTER CONSTRUCTION

複雑な水理地質環境における地下水流動解析の効率的なモデル化・解析を実施するため、これらを一貫して行うことができるGEOMASSシステムを開発している。本システムを用いて、坑道掘削に伴う飽和−不飽和問題での地下水流動場の変化に関するデータに基づく水理地質構造モデルの更新および今後の変化を予測するために、地下水流動解析コードの改良を実施するとともに、改良した解析コードの信頼性確認のために、検証済みの解析コードと同一条件下での解析を実施した。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16242 Vol.1 pp.757-766
2009
T. Tsuruta, M. Uchida, K. Hama, H. Matsui, S. Takeuchi, K. Amano, R. Takeuchi, H. Saegusa, T. Matsuoka and T. Mizuno

CURRENT STATUES OF PHASE II INVESTIGATIONS, MIZUNAMI UNDERGROUND RESEARCH LABORATORY (MIU) PROJECT

日本原子力研究開発機構は、結晶質岩を対象として、深部地質環境を包括的に調査研究する超深地層研究所計画(MIUプロジェクト)を、中部日本の瑞浪市において進めている。MIUプロジェクトは地表からの調査予測研究段階(第1段階調査)、研究坑道の掘削を伴う研究段階(第2段階)および研究坑道を利用した研究段階(第3段階)の互いに重複する3段階からなる、約20年にわたるプロジェクトである。第1段階は2004年3月に終了し、現在は研究坑道の建設とともに第2段階を実施している。第2段階の目標は、第1段階において構築した地質、水理、地球化学、および岩盤力学モデルを評価することと、研究坑道の掘削に伴う深部地質環境の変化を把握することである。地質環境モデルの評価を行うために、研究坑道における地質マッピング、研究坑道からのボーリング調査などによる地質、水理、地球化学、および岩盤力学の調査を実施している。また、研究所用地および周辺において、既存のボーリング孔やモニタリングシステムを利用して、地下施設の建設に伴う水圧・水質の変化に関する長期観測を継続している。本報ではMIUプロジェクトにおける第2段階調査のこれまでの成果について報告する。

ICEM 2009 The 12th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management Liverpool (United Kingdom)
Proceedings of ICEM2009-16262 Vol.1 pp.767-774
2009
K. Tsusaka, M. Yamasaki and Y. Hatsuyama

Relationship between rock deformation and support load in shaft sinking in Horonobe URL Project

深地層の坑道掘削には、地上からの調査では適切な岩盤物性を十分に把握することが困難であるため、情報化施工を必要とする。同施工では、掘削に伴って、岩盤の変形量や支保部材応力を逐次計測、分析し、原位置の岩盤性状にあわせた合理的な支保構造へと変更していく。これに従い、原子力機構は、幌延深地層研究所の地下施設建設において、情報化施工プログラムを策定し、運用している。現在、同プログラムでは、掘削初期段階の変形量から坑道が安定する際の支保部材応力を予測し、その安定性を迅速に評価することを必要としている。本研究では、同地下施設の換気立坑深度250m、東立坑深度140mまでに計測した内空変位量に基づく初期変形率と、主要な支保部材である覆工コンクリートの応力計測結果の関係を考察し、両者の関係を岩盤挙動分類として提示した。初期変形率は、初期地圧と原位置の岩盤の弾性係数の比と関係があり、岩盤性状を表す指標の一つである。この関係に基づけば、立坑掘削において、構築した支保構造の評価を迅速に行うことができ、支保部材量の増減を判断する一助となる。今後は、運用している情報化施工プログラムに施工管理基準として組み込む予定である。

EUROCK 2009 Dubrovnik (Croatia)
Proceedings of Rock Engineering in Difficult Ground Conditions; Soft Rocks and Karst (EUROCK 2009) pp.589-594
2009
K. Umeda, A. Ninomiya, K. Shimada and J. Nakajima

Helium isotope variations along the Niigata-Kobe Tectonic Zone, Central Japan

近年のGPS網の整備により新潟平野から神戸に至る幅約100km、長さ約500kmの領域は、その周辺の地域に比べて1桁以上、地殻歪速度が大きい顕著な変動帯であることが明らかになった(新潟–神戸歪集中帯)。その後の地震波速度構造や比抵抗構造等の解析からこの地域の下部地殻あるいは上部マントルには何らかの流体の存在が示唆された。今回、当該地域の温泉ガスのヘリウム同位体比の測定を行った結果、歪集中帯の北部は太平洋プレートの、南部はフィリピン海プレートの沈み込みに伴って脱水した流体が地殻内の不均質性に関与していることが明らかになった。また、一連の調査を通じて、温泉ガスのヘリウム同位体比は、未知の活断層を同定するための重要な化学的指標になり得ることが示唆された。

The Lithosphere pp.141-169 2009
S. Sakurai, N. Shimizu, S. Akutagawa, H. Yoshida, H. Matsui, T. Sato, H. Yamachi

INVESTIGATION ON COLLAPSE MECHANISMS OF SUPER-DEEP VERTICAL SHAFTS IN JAPAN

近年の大深度地下構造物の建設では、大深度の立坑の重要性について関心が寄せられている。しかし、日本の石炭産出量の減少に伴い、1000mオーダーの大深度立坑は20年以上建設されていない。本論文は、立坑の合理的な設計手法の基礎の確立と技術の継承の観点から、集中的な文献調査とそのレビュー及び大深度立坑の設計・施工に関連する経験を持つ技術者へのインタビューを実施した結果をまとめたものである。

7th International Symposium on Rockburst and Seismicity in Mines Dairen (China) 2009
M. Uchida, W. Dershowitz, G. Lee and D. Shuttle

An empirical probabilistic approach for constraining the uncertainty of long-term solute transport predictions in fractured rock using in-situ tracer experiments

原位置トレーサー試験は、通常数時間から数か月という短い期間で、人工的に発生させた速い流速条件下で実施されるのに対して、安全評価においては1万年以上の長期間で、かつ自然状態の遅い流速場が対象となるため、原位置トレーサー試験が安全評価に果たす役割については国際的に議論がなされてきた。本論文においては、亀裂内部には空隙率の高い断層ガウジなどの粘土物質が存在し、短期間のトレーサー試験に大きな影響を及ぼしている可能性に着目し、亀裂内部構造として、従来モデル化されてきた健岩部に加えて、断層ガウジ、亀裂表面鉱物、変質部についても陽にモデル化を行った。この亀裂の内部構造を反映したモデルを用いて、スウェーデンSKBがエスポ地下研究施設で行ったSTT-1bトレーサー試験の破過曲線を説明可能なモデルを構築し、原位置トレーサー試験に対してキャリブレーションを行ったモデルと行わないモデルについて、安全評価の条件下での破過曲線を評価し、原位置トレーサー試験がどの程度安全評価条件での不確実性を低減可能かの検討を行った。検討の結果、原位置トレーサー試験に対してキャリブレーションを行ったモデルは、安全評価条件での不確実性の幅が低減しており、原位置トレーサー試験は亀裂の内部構造をモデル化することにより安全評価の不確実性低減に寄与できる可能性が示された。

Hydrogeology Journal Vol.17 No.5 pp.1093-1110 2009
H. Matsui, S. Takeuchi, K. Sugihara and M. Yui

Studies of Grouting Performance in the Mizunami Underground Research Laboratory

グラウチングは、地下構造物の施工において湧水を抑制するうえで重要な技術である。一方、地層処分の観点からは、グラウチングに使用されるセメント材料が人工バリアの性能に影響を及ぼす可能性を避けるために、グラウチングの効果やその浸透範囲を定量的に把握する必要がある。このような観点から、経済産業省資源エネルギー庁からの研究受託の一貫として、瑞浪超深地層研究所の深度200mレベルに掘削した避難所周辺を対象とし、グラウチングの効果に関する研究を実施した。本研究では、プレグラウチング後に掘削した避難所から計10本のボーリング孔を掘削し、各種調査を行うとともに、その結果を総合的に評価し水理地質モデルの構築及び地下水流動解析を実施し、グラウト材の浸透範囲やその効果を定量的に検討した。その結果、既存のグラウト手法は結晶質岩の大量湧水抑制対策として十分な効果を発揮していることを確認するとともに、グラウチングにより1オーダー以上の透水性の低減があったと推定された。

SINOROCK 2009 Hong Kong (China)
Proceeding of SINROCK pp.953-957
2009
H. Sanada, H. Matsui and Y. Fujii

Mechanical properties of siliceous rocks around Horonobe URL from triaxial compression and isotropic consolidation tests

原子力機構は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究開発において地下研究施設の建設を伴う研究プロジェクトとして幌延深地層研究計画を進めている。本報告では、地下研究施設の設計データの取得並びに坑道掘削に伴う掘削影響の予測のため実施された三軸圧縮試験と等方圧密試験結果、岩盤の力学モデルについて議論する。三軸圧縮試験では、地下施設の浅部に分布する珪藻質泥岩は、封圧の増加に伴い応力–ひずみの曲線形状がひずみ軟化挙動から弾完全塑性型に移行し、深部に分布する珪質泥岩は拘束圧の程度によらずひずみ軟化挙動を示した。等方圧密試験では、珪藻質泥岩では、珪藻遺骸の損傷によって有効封圧10MPaで降伏した。したがって、坑道周辺岩盤の力学挙動のモデル化にあたっては、珪質泥岩はひずみ軟化型の構成則、珪藻質泥岩は等方圧下での降伏を表現できるエンドキャップ型の構成則を適用する必要性があることが示唆された。

SINOROCK 2009 Hong Kong (China) 2009
Y. Sugita, H. Sanada and H. Matsui

Geomechanical Model for Sedimentary Soft Rock based on Surface-based Investigations

日本原子力研究開発機構は、北海道幌延町において新第三紀堆積岩を対象とし、地下施設建設を伴う研究プロジェクト(幌延深地層研究計画)を進めている。本報告は、地表からの調査結果に基づく、地下施設の建設時の岩盤の力学的挙動を予測するための物理的、力学的物性を設定するための岩盤力学概念モデルの構築について示す。地表からのボーリング調査に基づく岩盤物性の評価結果から、現在の地質構造は褶曲や断層などにより複雑になっているが、岩盤は深度方向に3つのゾーンに区分でき、堆積時の地質構造に応じた力学特性を持っていることがわかった。これらの結果から、地質構造(層序、褶曲や断層による変位など)を考慮することで、三次元的な岩盤力学概念モデルを合理的に構築することができた。

SINOROCK 2009 Hong Kong (China) 2009
H. Sanada, Y. Sugita and Y. Fujii

Deformation and failure behavior of rock mass around the ventilation shaft in Horonobe URL

坑道周辺に発生する掘削影響領域は、物質の主要な移行経路になる可能性があることから地層処分の性能評価において重要な課題として位置づけられている。そこで、本研究では掘削影響領域の岩盤性状のモデル化に資する情報を取得するために、幌延深地層研究所の立坑壁面の断面形状計測と立坑周辺の岩盤内に埋設された地中変位並びに支保部材の応力測定結果に基づき、立坑の掘削によって岩盤内に発生する損傷の規模と損傷を受けた岩盤の挙動について検討した。その結果、断面形状計測から、立坑の掘削が深部に進むにつれてボアホールブレイクアウトに類する規模の大きなスポーリング破壊が断続的に見られた。地中変位計測や支保部材の応力測定結果から、断面形状計測と同様に立坑の掘削が深部に進むにつれて立坑の壁面から1.5mまでの範囲で顕著な圧縮ひずみや応力が生じていることがわかった。したがって、損傷域の幅を推定するために、壁面観察から設定した立坑の地山区分から許容限界ひずみを算出し、それと地中変位計で得られた圧縮ひずみ量との対応を調べた。その結果、損傷域の幅は立坑の坑壁から1mまでの範囲であることが推定された。

3rd International Workshop and Conference on Earth Resources Technology 2009 Sapporo (Japan)
Proceedings of the 3rd International Workshop and Conference on Earth Resources Technology 2009 pp.149-158
2009
T. Tokiwa, E. Ishii, H. Funaki, K. Tsusaka and H. Sanada

Relationship between fault system estimated by the fault-striation analysis of drilling cores and rock mass behavior induced by shaft excavation in Horonobe area, northern Japan

原子力機構は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究開発として、幌延地域において地下施設を用いた幌延深地層研究計画を進めており、現在換気立坑と東立坑の坑道掘削を行っている。本研究は、小断層解析によって断層系の特性を把握し、断層系と坑道掘削に伴う岩盤挙動との関係について調べた結果である。本地域では、ボーリング孔を用いた初期地圧測定が行われており、最大主応力方向は東西方向であるという結果が得られている。一方、換気立坑における内空変位の最大圧縮方向は北北東-南南西から北東-南西方向であり、両者の結果は異なる。その原因として、初期地圧測定は健岩部を対象とした測定であり、断層系を考慮していないことが考えられる。そこで、断層系の特性を把握するため、換気立坑近傍で行われた先行ボーリングにより得られたコアを用いて小断層解析を行った。その結果、小断層解析によって得られた最大主応力方向は、換気立坑における内空変位の最大圧縮方向と調和的であり、断層系が岩盤挙動に影響を与えている可能性を示唆する。今後、立坑において今回のようなアプローチを行うことで断層系と岩盤挙動の関係を詳細に把握できると考えられる。

3rd International Workshop and Conference on Earth Resources Technology 2009 Sapporo (Japan)
Proceedings of the 3rd International Workshop and Conference on Earth Resources Technology 2009 pp.159-168
2009
H. Yokota, G. Tomura and K. Maekawa

Study of estimation of hydrogeological structures based on fluctuation of groundwater pressure at Horonobe area, Hokkaido, northern Japan

原子力機構では、高レベル放射性廃棄物の地層処分の技術開発の一環として、水理地質構造や坑道掘削に伴う地下水圧の変化を把握する技術の信頼性向上のため、北海道幌延地域においてボーリング孔(HDB-1、3、4、6〜11孔)を用いた地下水圧等の長期モニタリング試験を行っている。これまでのモニタリングの結果、現在掘削中の立坑に最も近い2つのボーリング孔(HDB-3、6孔)では、地表からの深度が異なるにもかかわらず特定の地層境界付近において立坑掘削に伴うと考えられる水圧の低下が認められた。また、各ボーリング孔における季節変動に連動すると考えられる地下水圧の変動域は地表から地層境界までの区間であることから、本地域のような堆積岩分布域における水理地質構造は深度ではなく大局的な地質構造に支配されることが示唆される。今後、モニタリングを継続し、表層水理調査結果や坑道掘削により取得される地質構造に関するデータとの比較から、地質構造と地下水圧の応答の関係を整理することにより、堆積岩分布域における水理地質構造に関する知見を深める。

3rd International Workshop and Conference on Earth Resources Technology 2009 Sapporo (Japan)
Proceedings of the 3rd International Workshop and Conference on Earth Resources Technology 2009 pp.169-178
2009
K. Matsuki, S. Nakama and T. Sato

Estimation of regional stress by FEM for a heterogeneous rock mass with a large fault

大規模断層を含む不均一岩体の広域応力場の評価法について、三次元有限要素法を用い、二つの研究を実施した。一つ目の研究として、小規模モデルを対象とした基礎的研究として、断層が部分的に滑る場合の広域応力場評価とともに、断層が滑っていない場合について、評価精度に及ぼす断層剛性の設定値,地圧データの与え方、断層滑りの影響等、評価手法について検討した結果を述べる。二つ目の研究として、広領域の東濃地区に月吉断層が存在する場合を対象として、断層が滑らないと仮定した場合の広域応力場評価に関する研究を行い、現在までに測定された地区データを用いて広域応力場を評価し、小規模モデルに関する研究で得られた知見を基礎としてその妥当性について検討し、東濃地区の応力分布の傾向を論じた。

International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences Vol.46 No.1 pp.31-50 2009

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地質環境の長期的安定性に関する研究

国内
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
佐々木俊法、須貝俊彦、大上隆史、柳田誠、安江健一

色相計測による閉塞盆地埋積物中の有機炭素含有率推定の試み

大湫盆地のコア試料を用いて、堆積物の有機炭素量を測定し、その結果と堆積物の色相計測の値の一つである明度(L*値)とを比較した。その結果、両者には有意な相関が認められ、L*値から堆積物中の有機炭素量が推定可能であることが明らかとなった。色相計測は有機炭素量測定に比べ迅速かつ高密度に測定できることから、今後、迅速な堆積物の対比や詳細な気候変動の復元に役立つ手法になると考えられる。

地学雑誌 Vol.119 No.3 pp.562-567 2010
山田国見

三重県多気地域領家花崗岩中のシュードタキライトの(U–Th)He年代測定

断層起源シュードタキライトは過去の地震活動によって生じた脈状岩石であり、その熱史は断層の活動性の時間変化を反映している。三重県多気地域から得られた領家花崗岩中のシュードタキライトの熱史を明らかにするため(U–Th)⁄He年代測定を行い、シュードタキライトと約10cm近傍の原岩からそれぞれ60.3±2.7、55.5±4.5(1SE)Maを得た。これらは本地域の冷却史を示すとともに、既に得られたシュードタキライトのFT年代と一致することは鉱物学的に推定された値とも矛盾しない。これらの研究成果は、熱年代学的アプローチによって断層の活動性の評価が可能となることを支持する。

月刊地球 Vol.32 No.1 pp.30-39 2010
梅田浩司、安江健一、浅森浩一

高レベル放射性廃棄物の地層処分における断層研究の現状と今後の展望

高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性を確保するためには、自然現象によって地層処分システムが有する物理的な隔離機能が著しく損なわれないようなサイトを選ぶこと、選ばれたサイトについては想定される地質環境条件の変動を見込んで合理的な処分システムを構築していくことが重要となる。そのため、第四紀に活動した広義の活断層を検出する技術や断層運動を含む地殻変動によって将来の地下水の流れや水質がどの程度まで変動する可能性があるかを予測する技術に係わる研究開発も進められている。今後は、熱年代学的アプローチによるボーリングや坑道等の地下で遭遇した断層の活動性の検討が必要となる。

月刊地球 Vol.32 No.1 pp.52-63 2010
丹羽雄一、須貝俊彦、大上隆史、田力正好、安江健一、齋藤龍郎、藤原治

濃尾平野西部の上部完新統に残された養老断層系の活動による沈降イベント

沿岸域における断層活動や海水準変動の調査・評価手法の高度化は、長期安定性研究の重要な課題である。本研究では、堆積物の分析に基づく断層活動・海水準変動の復元手法の整備を目的として、濃尾平野で掘削された5本のボーリングコアの岩相記載・粒度分析・電気伝導度(EC)測定・14C年代測定を行った。調査の結果、約1200年前に陸成層の高EC値とデルタフロント堆積物の急激な細粒化が認められた。これらは、約1200年前に急激な海面上昇が起こり、陸地の急激な沈水、及び急激な水深の増加と河口の後退による粗粒物質の供給の激減が生じた可能性を示す。急激な海面上昇は養老断層系の活動による地震性沈降に起因すると考えられ、この活動はAD745年天平地震に対比しうる。また、約500年前には湿地の水没を示唆する植物遺体供給量の急減、デルタフロント堆積物の急激な細粒化が認められた。この変化も同様に断層活動による海面上昇を記録していると考えられ、AD1586年天正地震による地震性沈降に起因する可能性がある。以上の結果から、平野の堆積物の分析は、断層活動・海水準変動を評価する上で有効な調査手法として利用できる見通しが示された。

第四紀研究 Vol.48 No.5 pp.339-349 2009
笹尾英嗣、小室光世、中田正隆

地表近傍の酸化的な水理地質環境における放射性鉱物の安定性 —岐阜県南東部、苗木地方の砂鉱床の事例

我が国のウラン鉱床は、さまざまな地質学的事象を被りつつも長期間にわたって核種が保持されてきた事例である。このため、このような天然の事例を通じて、我が国の多様な地質環境における長期間に渡る核種の保持・移行挙動についての理解を深めることは、核種移行モデルの不確実性を低減させるとともに、地層処分の安全性に対する信頼性をさらに向上させるうえで有益である。そこで、地表近傍の酸化的な環境における核種の移行挙動を解明することを目的として、岐阜県南東部、苗木地域のウラン鉱床(砂鉱床タイプ)の試料を用いて、放射性鉱物(ジルコン、モナズ石、フェルグソン石、トール石など)の表面構造の観察と化学分析を行った。その結果、各鉱物の変質・溶食に対する安定性の程度や変質層の形成速度などを見積もることができた。また、放射性鉱物が変質を受けやすい酸化的な環境におかれた場合、ウランの溶出速度は鉱物種に依存するものの、その量は微量にとどまることが示唆された。

資源地質 Vol.59 No.3 pp.209-217 2009
N. Yamada, K. Ishigaki, Y. Hodotsuka and T. Matsuoka

Examination regarding High-Angle structure Imaging by seismic interferometry

地震波干渉法は、地表に設置された受振器群で地中からの雑振動を透過波として測定し、それらの相互相関処理を行なう事により、地上で実施される反射法地震探査と同様な合成波形記録を全受振点において得る手法である。本手法は、測定レイアウトにおける制約が少ないことから、VSP探査や孔間トモグラフィのようなボーリング孔を用いた調査へ適用することにより、高角度の構造をイメージする技術として期待できる。本研究では、花崗岩内に高角度断層を想定した速度構造モデルを用いたVSP探査レイアウトのシュミレーションデータとマルチオフセットVSP探査データに、デコンボリューション地震波干渉法を適用性し、高角度構造のイメージング技術への有効性を確認した。

9th SEGJ International Symposium Sapporo (Japan) 2009
大上隆史、須貝俊彦、藤原治、山口正秋、笹尾英嗣

ボーリングコア解析と14C年代測定にもとづく木曽川デルタの形成プロセス

隆起・侵食は処分場の深度を減少させ、地下水流動系の変化を引き起こす可能性があるため、地層処分の長期安全性を評価するうえで考慮すべき重要な地質学的事象である。侵食量については、河川上流域の比較的狭い範囲を対象としてはダムの堆砂量を利用して見積もられているが、下流域から上流域までを含む広い範囲を対象としては行われていない。このような広い範囲を対象とする場合、侵食された土砂は河口付近の平野に堆積するため、そこでの堆積量を見積もることにより、侵食量を推定することができる。しかし、海岸沿いの平野は海水準変動の影響を強く受けるため、その形成プロセスは複雑である。そこで、海水準変動の影響を受けて形成された平野の事例として、濃尾平野の形成プロセスを検討した。具体的には、海岸からの距離が異なる複数のボーリングコアを用いて、堆積物の堆積相解析によって濃尾平野の地形地質断面を作成するとともに、多数の放射性炭素年代によって等時間面を求めた。この結果、海水準の上昇に伴って内湾が拡大したのに対し、海水準の下降に伴ってデルタが前進したことが明らかになるとともに、内湾の拡大速度とデルタの前進速度が示された。

地学雑誌 Vol.118 No.4 pp.665-685 2009
田力正好、池田安隆、野原壯

河成段丘の高度分布から推定された、岩手・宮城内陸地震の震源断層

河成段丘の比高を用いて、2008年6月14日に発生した、岩手・宮城内陸地震の震源域周辺における過去10数万年間の隆起速度分布を求めた。この地震の震源域では、明瞭かつ大規模な断層変位地形が存在せず、これまで活断層は記載されていなかった。今回の地震の震源域には隆起速度の変化帯が存在し、この変化帯は今回の地震の震源断層の活動に関連していることが示された。また、震源断層を挟んだ両側の隆起速度の差から、今回の地震の震源断層の垂直変位速度は0.4-0.5mm⁄yrと推定された。明瞭な断層変位地形を持たない地域においても、河成段丘の比高を用いて隆起速度分布を明らかにすることにより、活断層の存在を推定することが可能であると考えられる。

地震 第2輯 第62巻 第1号 pp.1-11 2009
國分陽子、鈴木元孝、石丸恒存、西澤章光、大脇好夫、西尾智博

JAEA–AMS–TONOの現状

日本原子力研究開発機構東濃地科学センターでは、平成9年に天然試料の同位体分析を目的としてタンデム型加速器質量分析計JAEA–AMS–TONO(NEC製15SDH–2ペレトロン)を導入した。おもに放射性炭素の測定を行い、堆積物や地下水などの地球科学にかかわる各種試料の年代決定等に貢献してきた。平成18年度より施設共用が開始され、外部機関からの試料の受け入れも実施している。本発表では平成20年度の運転状況及び装置の改善点について報告する。平成20年度の実績として879件の測定を行い、ビーム発生時間は1102時間であった。イオンビームの安定化を図るため、入射側ビームラインのアライメントを再度行い、イオン源オーブン温度制御、ホイール回転軸及びコロナプローブの改善等を行った。

第22回タンデム加速器およびその周辺技術の研究会 報告集 pp.42-45 2009
鈴木元孝、國分陽子、西澤章光、大脇好夫、西尾智博、石丸恒存

JAEA–AMS–TONOの装置改善

JAEA–AMS–TONOでは、ルーチン測定を行っている放射性炭素の年代測定の精度向上を目的として、改善を行った。加速器本体では、測定に必要な加速電圧を4.5MVに維持するため、加速電圧の安定化とコロナプローブ針の長寿命化に取り組んだ。イオン源装置では、ホイールを回転させる主軸の微量変動を抑えるため主軸の交換を行った。また、イオン電流の安定化のため、セシウムオーブン温度を一定に保持できるよう温度調整器の設置を行った。今回、これらの装置改善の最近の成果について報告する。

第22回タンデム加速器およびその周辺技術の研究会 2009
山田国見、花室孝広、田上高広、島田耕史、高木秀雄、梅田浩司

三重県多気地域に産するシュードタキライトのジルコン(U–Th)⁄He年代測定

地層処分の安全性を検討する上で考慮すべき自然現象の一つである断層活動の活動性については、断層岩に着目した熱年代学的アプローチが重要な評価手法の1つとなる。代表的な断層岩であるシュードタキライト(PST)について、三重県多気町の試料の(U–Th)⁄He年代測定を行ったのでその結果を報告する。このPSTはマイロナイト化した畑井トーナル岩の脆性変形の際に融解・急冷によって形成され、その後さらに破砕の影響を受けているとされる。PSTから分離したジルコンについて60.3±2.7 Ma(1SE)、PST近傍のマイロナイトから分離したジルコンについて55.5±4.5 Ma(1SE)の(U–Th)⁄He年代を得た。これはPSTから分離したジルコンの60.0±3.5 Ma(1SE)のFT年代(Takagi et al., 2009)と誤差の範囲で一致する。また、この年代はトーナル岩より有意に若い(Takagi et al., 2009)。これらが示唆する180–350℃というPST生成環境温度は、これを200–300℃と推定したShimada et al.(2001)とも整合的である。この場合、(U–Th)⁄He年代は試料の長期的な冷却過程、すなわち削剥速度と断層を起源とする長期的な熱影響の情報を通じて天然バリアの長期安定性評価に貢献しうる。

フィッション・トラックニュースレター No.22 pp.73-75 2009

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国外
著者 タイトル(クリックで要旨) 発表先 発表年
M. Niwa, Y. Mizuochi and A. Tanase

Reconstructing the evolution of fault zone architecture: Field-based study of the core region of the Atera Fault, Central Japan

地下数km以浅における断層破砕帯の発達過程を明らかにするため、岐阜県の阿寺断層を事例対象として、破砕帯の詳細な記載を行った。調査地域では、花崗岩と溶結凝灰岩が阿寺断層を介して接し、断層粘土、断層角礫などからなる破砕帯が幅20m程度で発達する。脆性破壊で特徴付けられる岩石の変形構造などから、この破砕帯がおもに地下数100mから数kmで形成されたことがわかる。調査対象の破砕帯のうち、断層粘土が卓越する幅1m程度の区間にのみ、花崗岩と溶結凝灰岩の両方の破砕岩片が混在し、調査地域に近接して分布する約160万年前の火山岩(上野玄武岩)の破片が伴われる。またこの区間では、水–岩石反応に伴い玄武岩岩片の表面にできた炭酸塩の充填物が破片化して散在するなど、複数回の地震に伴う破壊の繰り返しを示す構造が見られる。以上のことから、幅20m程度の破砕帯の中で、近年の断層活動に伴う変位をまかなっていたのは、幅1m程度の区間に集中していたことが示される。

The Island Arc Vol.18 No.4 pp.577-598 2009
H. Mashima

A melting anomaly in Northwest Kyushu, Southwest Japan: A consequence of the tectonic evolution of NW Kyusyu and the origin of a pseudo hot spot in a convergent zone

これまでに得られた地質学的、岩石学的情報に基づき、日本海拡大後の西南日本北西九州の火山活動の成因について考察した。火山活動に先立ち北西九州は沈降し、唐津佐世保炭田が形成されるとともに、北西-南東断層群が形成された。これに伴って北西九州のリソスフェアは脆弱化した。炭田西部に北東-南西方向に走る佐々川断層における相対隆起中心と沈降中心の偏在は、左横ずれ伸張場が炭田沈降を支配したことを示している。日本海拡大後に九州北方の日本海に北東-南西褶曲群が発達した。これは、応力場が北西-南東圧縮場に変化したことを示している。未分化玄武岩及びマントルゼノリスから見積もられた温度は、北西九州マントルに有意な温度異常があったことを示さない。これらの証拠から、北西九州火山活動は脆弱化したリソスフェアが水平圧縮応力によって破断したため生じたと考えられる。圧縮応力場は日本海拡大後のフィリピン海プレートと西南日本弧の強い力学的結合がもたらしたと考えられる。

Journal of Volcanology and Geothermal Research Vol.186 No.3-4 pp.195-209 2009
K. Umeda and A. Ninomiya

Helium isotopes as a tool for detecting concealed active faults

伏在活断層や低活動性で変動地形の明瞭でない活断層、未成熟な活断層等、いわゆる未知の活断層と呼ばれる断層を概要調査等によって確認することは、地層処分の安全性を確保する点から重要な課題である。これらの調査技術は、近年の変動地形学や地球物理学の進歩によって高い確度で識別されることが予想されるが、さらなる信頼性の向上を図るため、これまで研究事例が少なかった地球化学的アプローチによる活断層の検出手法について検討を行い、有効である可能性が示された。

Geochemistry, Geophysics, Geosystems Vol.10 No.8(電子ジャーナルのため頁数記載なし) 2009
K. Kagohara, T. Ishiyama, T. Imaizumi, T. Miyauchi, H. Saito, N. Matsuta, A. Miwa and T. Ikawa

Subsurface geometry and structural evolution of the eastern margin fault zone of the Yokote basin based on seismic reflection data, northeast Japan

横手盆地東縁断層帯は、1896年陸羽地震の地表地震断層である。本研究では、陸羽地震の地表地震断層(断層帯北部)を対象に原子力機構が実施した高分解能反射法地震探査の結果を中心に、変動地形学的調査・構造地質学的調査を組合せて総合的な活断層調査を実施し、本地域の構造発達史を明らかにした。その結果、本断層帯は活断層の地表トレースや浅層の地下地質構造が走向方向に変化しているにもかかわらず、断層構造はいずれも盆地側へ新たな分岐断層を形成してきたことがわかった。また、バランス断面法を用いて得られた過去数100万年間のすべり速度と、一回の地震時あるいは段丘面の変形から推定される過去数万年間における変位量・すべり速度の分布パターンが一致しないことが明確となった。こうした断層帯に沿ったすべり速度の違いは、地表地震断層の形成された層準・すなわち中新統海成泥岩の物性に影響されていると考えられる。

Tectonophysics Vol.470 No.3-4 pp.319-328 2009

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