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特集

カーボンニュートラルに貢献する高温ガス炉の開発(2022.03.31掲載)

地球温暖化対策が叫ばれるなか、あらためて高温ガス炉が注目されています。これは、高温ガス炉技術が、その優れた安全性と、水素製造をはじめとする950℃を超える高温熱の活用により、カーボンニュートラルに貢献することを期待されているからです。

この特集では、高温ガス炉の安全性と、水素製造などの熱利用に焦点をあてて、私たち日本原子力研究開発機構が進めている取組を紹介します。

1.高温ガス炉の特長 ―なぜいま高温ガス炉なのかー

<高温熱の供給>

高温ガス炉は950℃の高温熱を供給できる原子炉です。この熱は発電のみならず、水素製造等、化学プラントの熱源として利用することができます。

<優れた安全性>

セラミックスで被覆した燃料と黒鉛製構造物で構成される炉心は耐熱性に優れています。冷却材であるヘリウムガスにより炉心の冷却が出来ない状況になっても、原子炉出力は自然に低下し、間接的に炉心を除熱することができ、炉心溶融を起さないという非常に優れた安全性も持っています。この安全上の特長を確保するため、高温ガス炉は軽水炉に比べて出力を低くしています。

<関連政策文書>

こうした特長を生かして、カーボンニュートラルに貢献すべく研究開発を進めることが、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2021年6月)」、「第6次エネルギー基本計画(2021年10月)」といった政府の政策文書でも位置付けられています。

2.HTTR(高温工学試験研究炉)について ―2021年7月に運転を再開―

HTTR(高温工学試験研究炉)について

世界で唯一950℃の熱を取り出せる高温ガス炉

原子炉出力 30MW
原子炉出口温度 950℃(最高)
1次冷却材 ヘリウム
1次冷却材圧力 4.0MPa
出力密度 2.5W/cc
燃料濃縮度 6%(平均)
初臨界、950℃達成 1998年、2004年
安全性実証試験
連続50日950℃運転
2010年

設置場所:大洗研究所(茨城県大洗町)

<東日本大震災前まで>

原子力機構大洗研究所にあるHTTRは日本で唯一の高温ガス炉です。

原子炉出力は30MW、原子炉出口冷却材温度は最高950℃で、世界で唯一950℃の熱を取り出すことができる原子炉です。

初臨界は1998年、世界初の950℃運転は2004年に達成しています。

東日本大震災発生前の2010年には、HTTRで安定的に高温熱を熱利用設備に供給できることを確認するための連続50日950℃運転と、原子炉冷却材の循環を強制的に停止して冷却機能の喪失と制御棒による原子炉停止操作を行わない停止機能の喪失を重ね合わせた条件でも、原子炉出力が自然に低下し、安定な状態に静定することを確認するための安全性実証試験(炉心流量喪失試験)を実施しました。

2011年3月に東日本大震災が発生し、さらに原子力規制庁により新たな安全基準が制定されたことを受け、HTTRは新規制基準への適合性の確認のため、長期間、運転を停止することとなりました。

HTTR 規制庁審査及び運転再開 経緯

<震災後、再稼働まで>

2013年に施行された試験研究用原子炉に関する新規制基準の適合性確認の審査を受けるため、HTTRでは要求事項を満足していることを示した設置変更許可申請書を作成し、2014年11月に原子力規制庁に提出しました。審査期間は約5年半かかりましたが、原子力規制委員会での審査が終了して2020年6月に許可を取得しました。

また、設計及び工事の計画の認可(設工認)を2017年から2019年(にかけて4分割で申請し、設置許可の審査と並行して設工認の審査も進め、2020年9月から2021年4月にかけて順次認可を取得しました。認可取得後に必要な工事を約1年間かけて行い、2021年7月にすべての工事が完了し、使用前事業者検査に合格した後、HTTRの運転を2021年7月30日に再開しました。

運転再開後の最初の運転は10年半ぶりの運転であることから、安全を最優先とし、約2か月間かけて、プラントの挙動に異常が生じないかを詳細に確認しながら、原子炉出口冷却材温度850℃で原子炉の性能を確認する定期事業者検査を実施し、これをもって新規制基準対応を完了しました。

上記の一連の安全審査等を通じて、HTTRは、全電源喪失のような過酷な条件下においても、炉心溶融のような深刻な事故には至らない性質を有することがあらためて確認されました。

3.固有の安全性の実証 ―HTTRを用いた実証試験―

HTTRを用いた試験計画

OECD/NEAの国際共同試験(LOFC試験)

原子炉運転中に全交流動力電源を喪失し、かつ、制御棒が挿入できない事象を想定した試験

原子炉運転中に原子炉の冷却に使用する循環機等を停止 原子炉を緊急停止させずに制御棒を運転状態の位置に保持

高温ガス炉の固有の優れた安全性により、原子炉の出力が低下し、自然冷却等によって、原子炉が安全な状態に維持され、燃料破損等に至らないことを確認

低出力(30%) 炉心流量喪失試験(ガス循環機停止) ⇒ 2010.12 実施
低出力(30%) 炉心冷却喪失試験(ガス循環機+炉容器冷却系停止) ⇒ 2022.1 実施
高出力(100%) 炉心流量喪失試験(ガス循環機停止) ⇒ 今後実施予定

<実証試験の位置づけ>

1.でも述べたように、高温ガス炉は、全電源喪失などで冷却設備が停止するような過酷な条件下でも、原子炉全体の熱容量が大きいこと、燃料の耐熱温度が高いことなどにより、特段の操作なしに原子炉は安全な状態に維持され、炉心溶融には至らない性質(「固有の安全性」)を持っています。この特長を実証することを目的として、私たちは、HTTRを用いて、炉心の強制冷却の喪失を模擬した試験(LOFC:Loss of Forced Cooling)を、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の国際共同試験として進めています。

<実証試験の概略>

LOFC試験はHTTRの冷却材であるヘリウムガスを循環させているガス循環機を全て強制停止し、さらに制御棒挿入による原子炉停止操作も行わない試験です。すなわち、原子炉の安全確保の観点で最も重要な止める機能と冷やす機能の2つが喪失したことを模擬した試験です。

このような状況においても、高温ガス炉は負の反応度フィードバック特性により自然に出力が低下し、圧力容器表面からの放熱により炉心の異常な温度上昇が無く、安全な状態に静定し、燃料破損に至らないことが解析で確認されています。LOFC試験は実際の原子炉を使ってこの特性を確認するものです。

最初の試験は出力30%で東日本大震災の発生前に実施しました。その時の結果は図に示すように冷却材の流量がゼロになると同時に原子炉出力もゼロ近傍まで自然に低下しました。この時の燃料温度を解析すると、流量低下に伴い、わずかに上昇した後、出力低下に伴い温度も低下するという結果になりました。

HTTRの運転再開に伴い、2022年1月からLOFC試験を再開しました。原子炉出力30%において、前回実施した試験条件に加え、間接的に原子炉を冷却する炉容器冷却設備の運転も停止しました。これにより原子炉内の残留熱は原子炉圧力容器からコンクリート遮へい体へ伝わることになります。そのような状況下において、炉内構造物、原子炉圧力容器、遮へい体コンクリートの温度変化が緩慢で急激な変化が起きないことを確認しました。今後、原子炉出力100%での試験を実施する計画です。

4.水素製造実証に向けて ―HTTR熱利用試験計画―

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(抜粋)(分野別実行計画 原子力産業 高温ガス炉)

4.重要分野における「実行計画」(4)原子力産業 ③高温ガス炉
(略)世界最高温度を記録した試験炉 HTTR を活用し、安全性の国際実証に加え、2030 年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく。並行して、IS 法やメタン熱分解法等を含む超高温熱を活用したカーボンフリー水素製造方法についても開発を支援する。(略)また、試験炉 HTTR の建設・運転・再稼働を通じて、規格基準策定の点でも海外に先行している 状況を踏まえ、日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を推進する。

④原子力産業

◆原子力は、実用段階にある脱炭素の選択肢。可能な限り依存度を低減しつつ、国内での着実な安全最優先の再稼働の進展とともに、海外(米・英・加等)で進む次世代革新炉開発に、高い製造能力を持つ日本企業も連携して参画し、多様な原子力技術のイノベーションを加速していく。

高温ガス炉
現状と課題 今後の取組
開発・運転ノウハウの蓄積と実用化スケールへの拡張が必要

高温工学試験研究炉(HTTR)で950℃(世界最高水準)・50日間の高温連続運転を達成(JAEA)。安全性を実証。

日本企業が水素製造・発電コジェネプラント、蓄熱可能な発電用高温ガス炉などを開発中。

高温ガス炉と水素製造施設との接続技術の確立が必要。

HTTRを活用した試験・実証等

HTTRを活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援。

安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応を念頭に置いた開発支援を行いながら、技術開発・実証に参画。海外の先行プロジェクトの状況を踏まえ、海外共同プロジェクトを組成していく。

日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を推進

④原子力産業の
成長戦略「工程表」

<計画の位置づけ>

日本政府は2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。これを達成するための具体的な施策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が2021年6月に策定されました。この戦略では、成長が期待される14の重要分野が選択され、原子力分野において「2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術を確立する」という実行計画が示されています。

グリーン成長戦略に応えるため、原子力機構ではHTTRに水素製造施設を接続して、熱利用施設の接続に必要な技術開発を進めるHTTR-熱利用試験計画を立案しました。

HTTR-熱利用試験計画

高温ガス炉と水素製造施設の接続に係る安全設計を確立

化学プラントを一般産業法規の下で製作し、原子炉への接続を可能とすることにより、原子力熱利用の利便性、用途拡大を図る

2030年までに高温ガス炉(HTTR)と水素製造施設の接続技術を開発する

並行して熱化学水素製造法(ISプロセス)等のカーボンフリー水素製造技術を検討する

HTTR-熱利用試験施設

<計画の概略>

HTTR-熱利用試験計画では高温ガス炉と水素製造施設の接続に係る安全設計を確立することを主目的としています。

この計画では、水素製造施設は一般産業法規、すなわち、高圧ガス保安を適用することを目指し、利便性、用途拡大を図ります。そして、2030年までに水素製造試験を実施し、必要な技術を確立します。

なお、現時点で技術基盤が確立し、早期にHTTRに接続できる天然ガスの水蒸気改質法による水素製造施設を接続する計画です。将来のカーボンニュートラルを実現するためには、カーボンフリー水素製造技術を確立することも不可欠であるため、HTTR-熱利用試験計画と並行して、原子力機構ではカーボンフリー水素製造技術の一つである熱化学水素製造法(ISプロセス)の技術開発も進めて行きます。ISプロセスの詳細については、別途ホームページをご参照ください。

上記について、より詳しい情報をお知りになりたい方は、是非、高温ガス炉研究開発センターのホームページもご覧ください。
https://www.jaea.go.jp/04/o-arai/nhc/jp/index.html

また、高温ガス炉/HTTRに関する広報動画を以下にて配信しておりますので、こちらもご覧いただければ幸いです。
「カーボンニュートラル実現への架け橋 HTTRを用いた熱利用技術の開発」(約8分)
https://www.jaea.go.jp/atomic_portal/jaea_channel/45/
「2050年カーボンニュートラルに貢献する革新的原子炉システムの開発 ~高温ガス炉の実用化に向けて~」(約5分)
https://www.jaea.go.jp/atomic_portal/jaea_channel/44/

報告:日本原子力研究開発機構
 高速炉・新型炉に関する研究開発
高温ガス炉研究開発センター
センター長 西原哲夫