再生可能エネルギーや水素、アンモニアといった新エネルギーの導入が進められるなか、高速炉が果たすべき役割とは何か?その答えを求めて前回は、エネルギーをめぐる現状と、それをふまえた原子力の優位性について語っていただきました。今回は、原子力利用にともなう課題と解決に向けた取り組みについて、語っていただきます。
残された課題―ごみを資源に
大島:原子力は電力の安定供給に貢献できますが、その真価は、高速炉サイクルが実現されてこそ発揮できるのです。高速炉サイクルでは、ウラン資源を有効に活用することができます。そもそも、天然ウランの中に核分裂しやすいウラン235は約1%しか含まれておらず、残る99%は核分裂しにくいウラン238です。ところが高速炉では、運動エネルギーが大きい高速中性子を利用して、天然ウランや使用済み燃料に含まれる核分裂しにくいウラン238をプルトニウム239に変換して、燃料として活用できるようになります。また、高レベル放射性廃棄物の有害度が天然ウラン並みになるまで10万年かかるといわれていますが、10万年かかるのはプルトニウムを直接処分した場合です。高速炉サイクルではプルトニウムを燃料として利用しますし、次に有害なマイナーアクチノイド(以下、MA)も、高速炉なら燃料に混ぜて燃やすことができます1)。
小林:これから、電力だけでなくエネルギー需要が世界的に増えていくと考えられます。そのため、エネルギー資源は有効活用しなければならないと思います。昨年8月に経済産業省が「カーボンリサイクルロードマップ」という文書を出しているのですが、この文書の面白いところはCO2を廃棄物ではなく、資源とみなして積極的に燃料や化学品にリサイクルしていこうということが盛り込まれている点です2)。太陽光発電パネルのリサイクルという話も出てきていますし、電気自動車(以下、EV)についてもバッテリーのリサイクルがこれから重要になってきます。もはや、エネルギーを使った後に残るものをごみとみなすのではなく、活用するということが、他のエネルギー分野ではトレンドになっています。いわゆる「核のゴミ」についても、捨ててしまうのはもったいない。
大島:使用済み核燃料からプルトニウムとMAを除くと、核分裂で割れたフィッションプロダクト(FP)がまだ含まれています。その中には、ルテニウムやロジウム、パラジウムといった白金族元素が含まれています。これらは、触媒や歯科材などとして利用できます。ジルコニウムのような耐食性の高い金属も含まれています。これらの有用な物質を除いた残りに対しては、核変換して放射能レベルが低い別な物質に変えるための研究開発を行っています。また、放射線をエネルギーに変える素子を用いて発電する研究開発も試みています3)。これらを実用化していくために乗り越えなければならない課題は多いですが、原子力基本法で明記されているように、人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与するために、挑戦していくことは有意義だと私は思います。
小林:核燃料としてリサイクルするほかに、希少金属を取り出して利用するということですね。エネルギー資源に乏しい国なので、使えるものは使っていけたら良いなと私も思います。
国民が原子力の恩恵を享受するために
小林:原子力には、他のエネルギーにはない強みが色々あることが分かりました。そうした恩恵を享受するためには、長期的な開発への投資が必要になると思います。しかし、電力セクターには市場メカニズムが導入されており、経営の合理化やコストの削減が徹底されるために、利益回収の先行きが見通しにくい長期的な開発や設備へ投資しづらいということがあるのではないかと思います。
大島:米国ではエネルギー省が新型炉プロジェクトを支援するプログラムがあります。「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」というもので、自国の企業が国内で新型炉を実証するためにかかる費用を、企業と政府で分担することとしています。こうした支援策は、メーカーや事業者にとって、質の高い設備投資が可能になるというインセンティブが働くのではないかと思います。
小林:米国政府にとっては、国内の原子力関連技術の維持継承というメリットもありそうですね。日本では、事業の見通しが立てられるよう、卸市場や調整市場、容量市場に加えて長期脱炭素電源オークション制度によって手当てをしようとしていますが、やや制度が複雑になりすぎているように思います。これまでの評価をして、今後のあるべき制度のあり方についてあらためて議論をする時期にきているのではないかと思います。
参考リンク
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/faq/files/material020102.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_recycle_rm/20230623_report.html
https://www.jaea.go.jp/jaea-houkoku18/shiryo/3-2.pdf
第5回へ続く