当ウェブサイトはJavaScriptを使用しております。JavaScriptを有効にして、ご覧ください。

お使いのブラウザは古いブラウザです。当ウェブサイトは古いブラウザは非推奨です。
Microsoft EdgeやGoogle Chrome、Firefoxなどの最新ブラウザでご覧ください。

対談
「高速炉開発を語る」
第5回

再生可能エネルギーや水素、アンモニアといった新エネルギーの導入が進められるなか、高速炉が果たすべき役割とは何か?その答えを求めてエネルギーをめぐる現状と原子力の優位性(第3回)、原子力利用にともなう課題と解決に向けた取り組み(第4回)について、語っていただきました。今回は、高速炉開発のレバレッジ効果について語っていただきます。

小林良和

小林 良和

日本エネルギー経済研究所
研究戦略ユニット担任補佐

原子力を通して築く互恵関係の可能性

小林:日本は少子高齢化が進んでおり、中東のような資源国から見て、これから日本と関係を構築しようというインセンティブが働かなくなってきていると思うんですよね。つまり、これまで日本は世界最大の輸入国でしたが、今や、中国が最大の輸入国となっています。また、中国はこれからたくさん買ってくれそうだけど、日本は再生可能エネルギーを主力電源化すると言っていて、化石燃料はもう要らないという人や風潮がある。マーケットとしての魅力は低下し、いざという時の供給優先順位も下がっていると考えてもおかしくはないでしょう。また、日本はまだロシアからLNGを買っていますが、経済制裁強化の一環で、EUでは、ロシアからのLNG輸入を制限するというような話も出ています。今後、EUがロシアからのLNG輸入をやめるとなった時に、日本も輸入を停止するように言われる可能性はある。

大島:情勢が変わり、価値観も当然変わってきていると思います。我々の研究所としては、リスクの高い輸入に頼らなくてよいエネルギー供給体制の構築に貢献していく必要があると思います。

小林:中東情勢の質がこれまでと違ってきているとみています。イスラエルとイランは長い間対立してきましたが、イランがイスラエルを攻撃することは無かった。それが、今年4月に初めてイランがイスラエル領土をミサイルで攻撃した。また今年7月には、イランに滞在中のハマスの最高幹部がイスラエルによる攻撃で暗殺されるという事態が起きています。両国の対立がこれまでにない水準にまで高まってきており、地域安全保障をめぐる情勢が変化する可能性があると考えられます。その影響が、石油の生産や供給に及ぶ可能性も否定できないでしょう。化石燃料の輸入に対するリスクというのは、これまで以上に高まっていると思います。

大島:石油の備蓄は200日、LNGの備蓄は20日ほどと聞いています。悠長に構えている時間はないと思っています。 中東といえば、UAEがCOP28の議長国を務めて、米国などとともに2050 年までに 2020 年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にするため協力するという宣言をしましたね。世界的に原子力への関心は高まっているという印象があります1)

小林:脱炭素社会を目指す世界的な潮流のなかで、中東諸国は石油産業に代わる産業を育み、産業の裾野を広げたいと考えています。そのため、発電の際にCO2を排出しないだけでなく、発電時の熱を利用して水素を製造できるといった原子力への関心は高まっています。また、デジタル化は様々な国が推進しており、電力需要を原子力で賄いたいと考える国は増えていると思います。

エネルギー安定供給の:原子力人材の育成・サプライチェーンの維持支援策

大島:韓国の企業連合がUAEで4基の韓国標準型原子炉(140万kW級)の建設を受注し、既に4号機も今年から送電を開始しました。このことは、韓国には大型軽水炉をつくることができる人材やサプライチェーンが、今現在も維持できているということを意味しています。日本には、原子力発電所の設計から建設まで担える企業が複数社ありますが、国内での建て替えや新規建設がない状況が続いたため、海外での原子力発電所建設事業に活路を見出そうとしました。しかし、運転開始に至るまでに安全規制への対応を強化する必要が生じたり、それに伴って建設期間が延びて予定していた建設費用を上回るといった事業の不確実性があり、また、事故時の損害賠償責任など様々な課題が重なって撤退することとなりました。

活路を絶たれた企業は事業の衣替えを行い、中には、既設炉のメンテナンス事業を他社に委ねて、CO2削減を統括するシステムや配電システムといったソフトウェア事業に重きを置くようになった企業もあります。これは、事業や人材の集約をはかる再編という見方もできますが、設計や建設のノウハウのある人材が引退していく一方で、福島第一原子力発電所事故の影響もあって原子力分野を目指す人材が減少しており、担い手が足りないというのが実態でしょう。

大島宏之

大島 宏之

(エネルギー研究開発領域長)

小林:既設炉の運転延長が可能となり、安全に運転するため、また廃炉のため、さらに高速炉の実用化を見据えると、原子力に対するニーズは相当高まってきているにもかかわらず、実態との間にギャップが生じているということですね。

大島:今後は、技術者の先輩から話を聞いたり、座学で学んだという実機での経験がない人たちが担い手となります。技術というのは、モノだけをいうのではありません。積み重ねられた知識や経験も含まれます。また、技術は失われると、取り戻すことが非常に困難です。設計や建設そして運転経験のある人材が残っていて、指導を受けながら知識や経験を積んで技術を継承できるうちに、建て替えや新規建設を速やかにおこなうことが重要だと思います。

小林:原子力は専門性の高い分野であり、高度な技能を求められることと思います。そうした専門性の高い人材の育成は確かに必要だと思いますが、人材の確保そして原子力発電所の建て替えや新規建設は、原子力産業のためだけでなく、他産業や経済全体の活性化に寄与するという観点から、対策を講じることも必要ではないかと思います。エネルギーは、私たちの日々の生活や、産業、経済活動を支える必要不可欠なものなのですから。

参考リンク

1)資源エネルギー庁「世界で高まりを見せる原子力利用への関心 COP28でも注目」(2024年3月)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop28_genshiryoku.html