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対談
「高速炉開発を語る」
第1回

高速実験炉「常陽」が安全審査を終えた。今後は、運転再開に向けて取り組むことになる。この機会に、高速炉開発の過去・現在・未来について、小林 祐喜 笹川平和財団研究員と大島 宏之 高速炉・新型炉研究開発部門長に語っていただきました。

広く国民の理解を得るには

小林:高速炉開発は「もんじゅ」が廃止措置になったことで、失敗したという見方があります。「常陽」の運転再開そして高速炉開発を進めていくためには、広く国民の理解を得ることが重要だと思いますが、いかがお考えでしょうか。

小林 祐喜の写真

小林 祐喜

(笹川平和財団研究員)

大島 宏之の写真

大島 宏之

(高速炉・新型炉研究開発部門長)

普遍的価値に加えて新たな付加価値の探求

大島:現在、再生可能エネルギーなど、原子力以外の電源開発が進んでおり、多様なエネルギー源が共存しています。そのような状況下で高速炉開発を進めることは、燃料のリサイクルにより、エネルギーの長期安定供給に貢献するという開発当初からの普遍的な意義に加えて、原子力利用によって生じた放射性廃棄物の処理問題に貢献するという意義があると考えています。高速炉で発生する高速中性子を用いて、ウラン資源を有効に活用するのみならず、放射性廃棄物の核種変換を行い、人や環境に対する負荷を低減するということです。また、こうした取り組み以外にも、国民の皆様そして人類の福祉のために活用する方法を、我々は考えなければならないと思っています。

高速炉技術基盤があるということ

小林:高速炉開発の意義について、資源の有効活用や放射性廃棄物の低減はやや言い古された印象があり、私は安全保障の観点から高速炉開発を見る必要があると考えています。経済合理性の観点から、計画を凍結したり中止する国々が多く、開発が停滞する中で、「常陽」を動かす意義は何か?ひとつは、将来の経済安全保障に貢献することが挙げられます。高速増殖炉は機微な技術になりますが、国際情勢を見ると、ロシアや中国が開発で先行しているという状況にあります。自前で高速増殖炉と関連するナトリウム流動の実験ができる施設を持っていることは、我が国の優位性を維持するために必要と考えます。

もうひとつは、国際的な核物質の管理体制の規約策定などに貢献することが挙げられるでしょう。日本は非核兵器国のなかで唯一、高速増殖炉及び核燃料再処理の開発が認められた国であり、また、唯一の戦争被爆国としてIAEAに全面協力してきました。特に、フルスコープ保障措置(国内の平和的な原子力活動に係るすべての核物質について保障措置を受け入れる)は、日本しか経験していません。こうした実績をもとにすれば、プルトニウムを含む核物質管理の国際的な議論、つまり、核不拡散といった国際安全保障、また、少々大げさかもしれませんが、平和のための議論を主導できる立場にあると考えます。これもまた、高速炉の技術基盤があることがとても重要になり、加えて、その人材を育てていくことは欠かせないと思います。

高速炉開発で貢献できること

大島:そういう見方もありますね。国際的な議論を主導すると言えば、日本はGIF(第4世代炉国際フォーラム)において、ナトリウム冷却高速炉の安全の考え方(クライテリア)及び設計ガイドラインの取りまとめを行っています。高速炉開発で先行するロシアや中国もこれを採用するとしています。我々は、安全に対する世界共通の考え方を作り、原子力を利用するすべての国がこれを守っていくことが大事だと思っています。この例から、小林さんがおっしゃるような将来の高速炉市場の獲得と核不拡散を両立させる人材育成について考えてみたとき、我々が自らの開発及び保障措置の実績に基づき、国際的なルール作りの議論を主導するということは重要だと思います。

国民の理解や議論が進展するような情報提供とは

小林:高速炉はこれまで、核燃料サイクルや脱炭素社会の実現への貢献が語られてきました。これらは高速炉の普遍的価値と言えると思いますが、国民は様々なトラブルや事故について見聞きしているので、「何で今さら動かすの?」という疑問が生じることになるでしょう。こうした疑問には、例えば安全保障のような新たな視点を提供して、高速炉について多角的に捉えるようにすることが、理解を醸成するということになるのではないでしょうか。

多様な視点で情報発信を

大島:多角的と言えば、高速炉は世界が注目する新たながん治療法に必要な放射性物質を製造することも可能です。ご指摘いただいた安全保障も含めて新たな視点を示していくことは大事ですね。

私共はこれまで、リスクコミュニケーションをはじめ、様々な機会に地域住民の皆様との対話に努めてきたつもりでした。今回「常陽」の運転再開に向けて、様々な方に高速炉についてご説明する機会を得てきたのですが、有識者の中ですら「初めて聞く」という方もおられ、いかに私共の情報発信が不十分であったか、あらためて認識した次第です。

「常陽」はこれから、安全対策強化のための工事を行っていくわけですが、この間には、地域にお住いの皆様との対話に努めることはもちろんのこと、より多くの方々に高速炉開発が持つ多様な意義についてご理解いただけるようなコミュニケーションや情報発信をタイムリーに行っていきたいと思います。

第2回へ続く