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特集

海外におけるSMRの開発・導入動向(2021.10.14掲載)

カーボンニュートラルの達成に挑戦することが世界の潮流となる中、世界各国で、二酸化炭素を排出せず、安全性や柔軟性に優れた小型モジュール炉(SMR)が注目を集めています。

本特集では、このSMRについて、幅広く関係の文献を調査して、その特長と課題を概観するとともに、海外における開発と導入の動向について整理して紹介します。

はじめに

従来の電気出力1,000 MWe超の原子力発電所と異なり、1基毎の出力を小さくすることで原子炉の冷却を容易にし、安全性を高めた小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる原子炉が、世界で注目されている。国際原子力機関(IAEA)の定義によれば、電気出力300 MWe以下の原子炉がSMRとなる。SMRは、安全性、工場生産性、立地・運転・利用に関する柔軟性、等の観点から、米国、カナダ、英国、露国及び中国を中心に、各国で開発及び導入検討が積極的に行われている。

日本でも、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」1 において、海外のSMR実証プロジェクトと連携した日本企業の取組への支援や、SMRの炉型の1つである高温ガス炉を用いたカーボンフリー水素製造に必要な技術開発への支援が示されている。文部科学省と経済産業省が原子力イノベーション促進(NEXIP)イニシアチブ事業を行っており、小型高速炉、小型軽水炉や高温ガス炉といった革新的な原子力技術を開発する民間企業等を支援している。また、原子力機構においても、2021年7月に再稼働した試験研究炉HTTRを中心とした高温ガス炉の安全性の実証や熱利用(水素製造やガスタービン発電)の技術開発、小型高速炉の技術開発を進めている。

本報告では、SMRの特長と課題及び海外におけるSMRの開発と導入の動向について紹介する。

SMRの特長と課題

(1)SMRの特長2,3

①安全性

小型で低出力であることを生かし、事故時に自然に止まる、対流やふく射で冷やすといった固有・受動の安全性を高めている。これにより、合理的な機器・設備の簡素化や防災計画エリアの縮小等が可能となる。

②工場生産性

あらかじめ工場でユニット(モジュール)を製造し、組み立て、トラック等で運搬し、建設地に据え付けることで、品質の維持・向上、工期の短縮及び建設コストの削減が見込める。

③柔軟性
  • 大規模なインフラ整備が不要であり、電力需要が小さい地域や電力グリッドが未発達な地域(未開発地、寒冷地、僻地、離島等)への設置が可能となる。
  • エネルギー需要に応じて、原子炉モジュールの設置数を調整できる。
  • 発電以外に周辺産業(水素製造等)や地域への熱供給源としても利用でき、再生可能エネルギーの出力変動を調整する炭素無排出電源としても期待されている。
④その他
  • 受動的安全性により事故時の対応が軽減されると共に、簡素化設計によりメンテナンスが容易となり、製作及び維持コストの低減化にも繋がる。
  • 低出力であることから燃料交換不要あるいは交換頻度を少なくすることが可能であり、核物質の取扱い・輸送を最小限にすることができ、核セキュリティ・核不拡散の観点からも優れている。
  • 大型原子炉に比べ、1基の炉価格が低く、建設期間が短いため、初期投資が抑えられ早期の投資回収が可能となる。段階的な容量増加等、柔軟な選択が可能となり投資リスクが小さい。

(2)SMRの課題2,3

①経済性

従来のスケールメリット(大型化)によるコスト削減の方向に反しており、SMRの特長を生かした設計や安全基準の確立(許認可までの時間短縮や緊急時計画区域(EPZ)の縮小)、将来的には炉型の集約による標準化・量産化により、発電コストを低減することが必要となる。

②安全基準

既存の軽水炉と炉型が異なるためSMRの安全基準が確立されるまでは、許認可に時間がかかる等、負担が大きくなる可能性がある。なお、安全基準確立の取組として、以下のような活動が行われている。

  • 米国原子力規制委員会(NRC)とカナダ原子力安全委員会(CNSC)は、SMRや新型炉の共同技術審査の実施や、双方の専門的知見を共有する等の協力を行っている4
  • 国際原子力機関(IAEA)は、大型軽水炉用に策定された既存のIAEA安全基準類について、SMRへの適用性を検討中であり、安全設計要件を確立するための炉型に依らない技術中立的な安全アプローチ及び安全要件作成の方法論に関する技術報告書の作成を計画している5。また、SMRに対するEPZのサイズ決定法に関する検討も行われてきた6
③サプライチェーンの構築

既存の軽水炉と異なる新たなサプライチェーンの構築が求められる。

海外におけるSMRの開発と導入の動向

1.米国

米国では、民間企業を中心にSMRの開発が進められており、その活動を政府が支援する形になっている。以下に、米国における主なSMR導入計画を示す。なお、米国では、電気出力300 MWe以下の軽水炉をSMRとし、非軽水炉型の炉は出力に関係なく“新型炉”としている。

(1)新型炉実証プログラム(ARDP)7

エネルギー省(DOE)は2020年5月、ARDPを開始した。新型炉として、軽水炉、非軽水炉を問わないが、固有安全性、廃棄物低減、燃料高利用率、高信頼性、核拡散抵抗性、高熱効率及び非電力利用を有するものとしている。ARDPは官民による費用分担を前提とし、以下の3つのカテゴリーにおいて、公募により選ばれた新型炉開発プロジェクトに対して資金援助が行われる。

①新型炉実証プロジェクト

5~7年以内に実証(運転)可能な新型炉に対し、資金援助を行う(民間企業の負担率は50%以上)。DOEは2020年10月、以下2社のチームを支援先として選定した。

  • TerraPower社(ナトリウム冷却高速炉:Natriumの開発及び建設)
  • X-energy社(ペブルベッド型高温ガス炉:Xe-100の開発及び建設)
    DOEが約7年間に投資する総額は、約32億ドルに達する見通しである。
②将来の実証に向けたリスク低減プロジェクト

将来(10~14年後)の新型炉実証に向けたリスク低減を目的とした技術・運転・規制課題解決に対し、資金援助を行う(民間企業の負担率は20%以上)。DOEは2020年12月、以下5社のチームを支援先として選定した。

  • Kairos Power社(Hermes縮小規模試験炉の設計、建設及び運転による商用炉Kairos Powerフッ化物塩冷却高温炉(KP-FHR)の開発)
    (7年間で総額6億2,900万ドル、DOE支援分3億300万ドル)
  • Westinghouse Electric Company社(ヒートパイプ冷却炉:eVinci超小型炉の設計)
    (7年間で総額930万ドル、DOE支援分740万ドル)
  • BWXT Advanced Technologies社(TRISO燃料及びSiCマトリックスを利用するBWXT新型原子炉(BANR)の開発)
    (7年間で総額1億660万ドル、DOE支援分8,530万ドル)
  • Holtec Government Services社(軽水炉(PWR):Holtec SMR-160の初期設計、エンジニアリング及び許認可活動)
    (7年間で総額1億4,750万ドル、DOE支援分1億1,600万ドル)
  • Southern Company Services社(溶融塩化物炉実験(MCRE)の設計、建設及び運転による溶融塩化物冷却高速炉の開発)
    (7年間で総額1億1,300万ドル、DOE支援分9,040万ドル)
(2)NuScale Power社のSMR開発

米国NuScale Power社8は、PWR技術に基づいた熱出力200 MWt、電気出力50 MWe(現在は、設計の改良により77 MWe)のSMRであるNuScale Power Module(NPM)を開発中である。開発に当たっては、DOEによる支援(2013年の2億2,600万ドル等)を受けている9。同社は2029年に、アイダホ国立研究所(INL)敷地内でNuScale Power社初となるNPMの運転開始を目指している。その所有者となるユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)は、NPMを12基連結して発電することを計画している(2021年7月、電力量の使用見込みから、6基連結に変更10)。本計画は、無炭素電力計画(CFPP)11と呼ばれている。UAMPSは2020年10月、DOEがCFPPに対し、10年間にわたる13億5,500万ドルの資金援助を承認したと発表した12

NPMの設計(電気出力50 MWe版)は、NRCより2020年9月11日付けで、標準設計承認(SDA)の発行を受けた13。これにより同設計は、NRCの安全・規制要件を全て満たした米国初のSMR設計となった。なお、電気出力77 MWe版のSDA取得申請は、2022年に行う予定である。

NPMの平準化発電単価(6基連結時)は、58$/MWh(1$=110円換算で6.4円/kWh)とされている。参考までに、経済産業省の資源エネルギー調査会、発電コスト検証ワーキンググループが算出した原子力発電の平準化発電単価は11円代後半~/kWhとなっている14

NuScale社は、NPMの世界展開に向け、カナダ、ルーマニア、チェコ、ウクライナ、英国、ヨルダン、韓国及び日本の企業や政府組織と協力している15。また、日本の日揮ホールディングス社とIHI社が、2021年4月と5月にNuScale社への出資を発表している16,17

(3)その他のSMR開発

米国では、これらの他にもSMR(新型炉)の開発が進められており、主なものを以下に示す。

Oklo社は、熱出力4 MWt、電気出力1.5 MWeのヒートパイプ冷却小型高速炉Aurora18を開発中であり、2020年代初頭から半ばにかけてAuroraの着工を目指している。GE Hitachi Nuclear Energy(GEH)社は、BWR技術に基づいた熱出力900 MWt、電気出力300 MWeのBWRX-30019を開発中であり、2030年の米国での初号機運開を目指している。両社とも、開発に当たってはDOEから支援を受けている。

国防総省(DOD)は“プロジェクトPele”により先進的な可搬式超小型炉(マイクロリアクター)の開発を進めており、BWXT Advanced Technologies社とX-energy社が主導する2チームがマイクロリアクター開発のための支援をDODから受けている20

2.カナダ

カナダでは、政府系研究機関や州政府を中心に、SMR実現に向けた活発な取り組みが行われている。

カナダ天然資源省(NRCan)は2018年11月、SMRに関する戦略ロードマップであるカナダSMRロードマップ報告書を公表し、4つの柱(実証と展開、政策、法整備と規制、住民の関与と信頼、国際協力と市場)に基づいた行動を提言した21

NRCanは2020年12月、カナダSMRロードマップに基づくカナダSMR行動計画を公表した22。本計画は、「チーム・カナダ」と呼ばれる、カナダ全土から主要な参加者(連邦政府、州・準州、先住民族、市町村、電力会社、市民社会・教育団体、学術・研究機関、原子力関係団体及びSMRベンダーを含む産業界)を集めた汎カナダ的な取り組みの成果とした。以下に示すSMR関連活動は、SMR行動計画に沿ったものとの位置付けである。

(1)カナダ原子力研究所(CNL)のSMR実証施設建設・運転プロジェクト

CNLは2018年4月、CNLが管理するチョークリバー・サイトにSMRの実証炉を建設・運転するというプロジェクトの提案募集を開始した(現在は、ホワイトシェル・サイトも同プロジェクトの対象)。同プロジェクトの審査プロセスは、以下の4段階に分かれている23

  • 第1段階「認定前段階」:SMR設計を提案した開発業者が予備的基準(提案されたSMR設計の技術上・事業上のメリットのみならず、プロジェクトとしての財政的実行可能性、国家安全保障や健全性に関する要件)の適合状況について、任意で評価を受ける。
  • 第2段階「適正評価段階」:第1段階の審査に続く本段階では、一層厳格な財務要件審査が行われる。ここでは、国家セキュリティ関係の要件と共に、プロジェクトの経費と資金調達について、CNLが全面的に評価する。
  • 第3段階「土地の手配とその他の契約に関する交渉段階」:続く第3段階では、CNLの親会社としてサイトを所有しているAECL社が、開発業者とサイト譲渡契約を交わす。また、建設プロジェクトのリスク管理やその他の契約に関する交渉を行う。
  • 第4段階「プロジェクトの実施段階」:最終の本段階に進展すると、SMR実証炉の許認可と建設、試験、起動、運転及び廃止措置が実行に移されることになる。CNLは現在、以下の4社から提案を審査中である24
    • カナダGlobal First Power(GFP)社とカナダOntario Power Generation(OPG)社、米国USNCのチーム
      (MMR:電気出力5 MWeの高温ガス炉、CNL審査の第3段階評価中)
    • カナダTerrestrial Energy社
      (IMSR:電気出力190 MWeの統合型溶融塩炉、CNL審査の第1段階評価完了)
    • カナダStarCore Nuclear社
      (StarCore:電気出力14 MWeの高温ガス炉、CNL審査の第1段階評価完了)
    • U-Batteryカナダ社(ウラン濃縮役務の供給大手の英国URENCO社が率いる企業連合のカナダ支社)
      (U-Battery:電気出力4 MWeの高温ガス炉、CNL審査の第1段階評価完了)

なお、CNSCは2021年5月、CNLのチョークリバー・サイトに高温ガス炉MMRの設置を進めるGFP社によるサイト準備許可申請(LTPS、2019年3月申請)が、技術審査に移行したと発表した25

(2)CNSCによる許認可申請前ベンダー設計審査26

CNSCは、正式な許認可手続きとは異なるサービスとして、ベンダーに対する原子炉設計の事前審査(VDR)を行っている。事業者が予め審査対象となる設計をCNSCとシェアすることで、正式な許認可プロセスに入る前の段階から、その設計や技術に致命的な欠陥がないかどうかを確認することができる。またこれにより、CNSCはその設計をより良く理解でき、事業者もCNSCの条件・規制要件をより詳しく知ることができる。審査は、以下の3段階がある。

  • フェーズ1:設計が規制基準全般に亘り適合しているかを評価(12~18ヶ月)。
  • フェーズ2:許認可上障害となり得る点を同定する詳細な評価(約24ヶ月)。
  • フェーズ3:フォローアップの実施。

CNSCは、ベンダーからの申請により順次審査・評価を実施している。2021年7月の時点で、SMRの設計12件が申請されている。申請12件の内訳は、高温ガス炉4件、軽水炉3件、溶融塩炉2件、高速炉2件及びヒートパイプ炉1件である。

(3)州政府のSMR導入計画
①州政府間のSMR開発協力

カナダのオンタリオ州、ニュー・ブランズウィック(NB)州及びサスカチュワン州は2019年12月、SMRをカナダ国内で開発・建設するため、協力覚書を締結した27。3州に加え、アルバータ州も2021年4月、本協力覚書に参加している28

②カナダ3州電気事業者によるSMR開発の実行可能性調査

カナダのオンタリオ州、NB州及びサスカチュワン州は2021年4月、3州の電気事業者が共同で実施したSMR開発の実行可能性調査(FS)の結果を公表した。FSは3州の協力覚書の一環として、各州の州営電力会社であるOPG社、Bruce Power(BP)社、NB Power社及びSask Power社が、州政府の要請を受けて行った。FS報告書は、3州が既に進めているSMR開発プロジェクトに関し、各州政府が考慮すべき方向性を、以下のように提案した。

  • オンタリオ州とサスカチュワン州が進めているSMR計画

送電網への接続が可能な出力300 MWe程度のSMR初号機を2028年までにオンタリオ州に建設し、これに続くフェーズで最大4基のSMRの最初の1基を2032年までにサスカチュワン州内で完成させる。複数の地点で早急かつ効率的にSMRを建設できるよう、共通技術を1つに絞り込み、SMR群を一まとめに建設する。これに向けて、OPG社とBP社及びSask社は協力して、2021年末までに採用技術と開発企業を選定する。

OPG社は、Terrestrial Energy社(溶融塩炉IMSRを開発)、GEH社(BWR型BWRX-300を開発)及びX-energy社(ペブルベッド型高温ガス炉Xe-100を開発)と協力中であることから、この中から採用技術・企業が選定される見込である。

  • NB州がポイントルプロー原子力発電所敷地内で進めているSMR計画

NB州では、第4世代の先進的SMR実証炉を2種類、建設する。NB州が協力関係を結んでいる2社のベンダーのうち、米国ARC Clean Energy社の「ナトリウム冷却・プール型高速中性子炉ARC-100」の実証炉を2030年までに完成させる。また、英国Moltex Energy社の「燃料ピン型溶融塩炉SSR-W」と廃棄物リサイクル施設を2030年代初頭までに稼働可能にする。

ARC社は2021年2月、ARC-100の開発支援にNB州から2千万加ドルの29 、Moltex Energy社は2021年3月、SSR-Wの開発支援にカナダ政府から約5千万加ドルの30資金提供を受けている。

  • CNLがチョーク・リバー・サイトで進めているSMR計画

遠隔地のコミュニティや鉱山で主に使用されているディーゼル発電機に代わって、米国USNCが開発した電気出力5 MWeの「超小型高温ガス炉MMR」を、2026年までにオンタリオ州のCNLチョーク・リバー・サイトに建設する。なお、本計画は(1)で述べたように、CNLが各社の提案を評価中であり、MMRの建設が決定している訳ではない。

3.英国

英国では、民間企業を中心にSMRの開発が行われており、政府がこれを支援している。なお、英国において、SMRは電気出力1,000 MWe以下の小型軽水炉を意味し、ヘリウムガス、ナトリウム、溶融塩等、軽水以外を冷却材として利用するものは新型モジュール炉(AMR)として分類し、区別している。

(1)AMR実行可能性・開発プロジェクト31

ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は2017年12月、SMR等、次世代新型原子炉プログラム開発で英国が世界のリーダー的地位を獲得するため、原子力産業界に対する包括的な支援方策を公表し、「AMR実行可能性・開発プロジェクト」を開始した。BEISによる本プロジェクトの目的は、AMRの商業化における英国関与の可能性を探り、新興原子力技術が長期エネルギー目標や経済政策目標にどのように適合するかを判断することある。本プロジェクトには、次の2つのフェーズがある。

  • フェーズ1:AMR設計に関する実行可能性調査を実施するため、全体で最大400万ポンドの資金提供を、公募によって選定されたAMR開発ベンダーに対して行う(1つの契約は、最大30万ポンド)。
    2018年2月に技術的実行可能性調査の支援に関する公募が行われ、2018年8月に8つのベンダーと各々のAMR開発プロジェクト(高温ガス炉3件、高速炉3件、溶融塩炉1件、核融合炉1件)が選定された。
  • フェーズ2:フェーズ1から選定されたプロジェクトの開発活動に対して、全体で最大4,000万ポンドの資金提供を行う。
    2020年7月、以下の3社が、8社から選定された。
    • Tokamak Energy社(核融合炉)
    • Westinghouse Electric Company UK社(鉛冷却高速炉)
    • U-Battery Developments社(高温ガス炉)
(2)グリーン産業革命に向けた10ポイント計画32及びエネルギー白書33

英国首相官邸とBEISは2020年11月、二酸化炭素排出量実質ゼロを実現するための政策文書「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」を発表した。本計画には、先進原子力基金(最大3億8,500万ポンド)の創設が含まれ、英国内のSMR設計開発に対して最大2億1,500万ポンド、AMRの研究開発に対して最大1億7,000万ポンドを投資するとしている。また、2030年代初頭までに、SMR初号機及びAMR実証炉の導入を行うとした。

BEISは2020年12月、10ポイント計画に基づいた政策文書「エネルギー白書:ネットゼロ未来の原動力」を公表した。これは、2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロの目標実現に至るためのエネルギーシステムに関する長期戦略ビジョンである。SMR及びAMRに関しては、10ポイント計画と同様の記載がなされた。

(3)AMR研究開発・実証(RD&D)プログラム34

BEISは2021年7月、「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」及び「エネルギー白書」に基づき、2030年代初頭までにAMRの実証を行うAMR RD&Dプログラムを発表した。本プログラムでは、AMRが低炭素水素生産、工業プロセス・家庭用の熱及びコスト競争力のある発電に使用できる高温熱を生成できることを実証する。BEISは、この目的を達成するための最も有望なAMRとして、高温の熱利用が可能な高温ガス炉を選定し、これに関する意見公募を開始した(2021年9月9日締切)。

(4)Rolls-Royce社のSMR開発35

Rolls-Royce社が主導する企業連合は、UK SMRと呼ばれるPWR型の小型軽水炉(熱出力1,276 MWt、電気出力470 MWe)を開発中で、2030年代初頭までに初号機の完成と運転開始を目指している。

同企業連合は2019年11月、英国の準自治的非政府組織で戦略的政策研究機関「UK Research and Innovation(UKRI)」から、1,800万ポンドの支援金を受領した36。この資金は、規制当局が実施する包括的設計審査(GDA)の準備等にあてられる。

4.露国

露国では、国営原子力総合企業ROSATOM社が政府組織の機能も有した体制の下、SMRを含む新型炉の開発を進めている。以下に、主なSMRの開発状況を示す。

(1)浮揚式原子力発電所の実用化

ROSATOM社は、世界で唯一の浮揚式原子力発電所(FNPP)であるアカデミック・ロモノソフ号を開発、建設した。同船には、出力35 MWeの小型PWR「KLT-40S」2基で構成される海上浮揚式原子力ユニットが搭載されており、どちらも2019年3月に出力100%に到達した37。アカデミック・ロモノソフ号は2019年12月、極東地域北東部のチュクチ自治区管内ペベクの隔絶された送電網に送電を開始し、世界で初めてSMR技術に基づく原子力発電所になった38。また、同号は2020年5月、営業運転を開始し、露国原子力発電所の一つに正式承認された39

(2)鉛冷却高速炉BREST-OD-300の建設40

ROSATOM社傘下の燃料製造企業であるTVEL社は2021年6月、シベリア西部のトムスク州セベルスクに位置するシベリア化学コンビナート(SCC)で、鉛冷却高速炉のパイロット実証炉「BREST-OD-300」(電気出力300 MWe)の建設を開始したと発表した。SCC内では、BREST-300のみならず、専用のウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料製造プラント及び同炉から出る使用済燃料の再処理プラントが建設される。これにより、固有の安全性を有する高速炉で、天然ウランや使用済燃料を有効利用するクローズト原子燃料サイクルを確立する。

燃料製造プラント及び使用済燃料再処理プラントは、それぞれ2023年と2024年に建設され、BREST-OD-300は2026年に運転を開始する予定となっている。

5.中国

中国は、国家能源局(NEA)の指導の下、様々な機関が高速炉、高温ガス炉、超臨界圧水冷却炉、SMR等、幅広い炉型に亘る開発に取り組んでいる。以下に、主なSMRの開発状況を示す。

(1)高温ガス炉の建設41

高温ガス炉に関しては、清華大学核能及新能源技術研究院(INET)が中心となり、ペブルベッド型高温ガス炉実用炉の開発を行っているが、実証炉HTR-PM(熱出力250 MWt×2基、電気出力210 MWe、原子炉出口冷却材温度750℃)を山東省威海市石島湾に建設した。HTR-PMは、2021年に臨界の達成(9月に臨界達成済み)及び低出力運転の開始、2022年に全出力運転開始の予定である。

また、商用炉HTR-PM600(熱出力250 MWt×6基×2ユニット、電気出力650 MWe×2、原子炉出口冷却材温度750℃)を設計中である。

(2)軽水炉型SMRの建設42

中国核工業集団公司(CNNC)は2021年7月、海南省にある昌江原子力発電所で、国産のPWR型SMR「玲瓏一号」の建設を開始したと発表した。玲瓏一号(別名:ACP100)は、出力125MWeであり、多目的(発電、暖房、蒸気生産、または海水淡水化)用に設計されている。CNNCは、同炉が完成すれば、世界初の陸上商用SMRになるとした。

6.アルゼンチン

アルゼンチンは、研究炉の開発・建設経験を活かし、発電または海水淡水化等に用いる電気出力32 MWeのPWR型SMR「CAREM」を建設中である。建設完了は、2022年を予定していたが、政府から建設会社への建設費支払遅延により建設が中断されたため、完成は数年程度延期される見込みである43

7.その他の国

仏国では、CEA、EDF、小型炉専門開発企業TechnicAtome社及び政府系造船企業Naval Groupが、同国で50年以上の経験が蓄積された最高レベルのPWR技術をベースにしたSMR「NUWARD」を開発している44。NUWARDは、2基の原子炉ユニットで構成され、熱出力540 MWt×2、電気出力170 MWe×2である。

その他、ポーランド、チェコ等の東欧諸国、ヨルダン、サウジアラビア等の中東諸国、インドネシア等、世界各国でSMRの導入検討が行われている。

まとめ

露国では浮揚式SMRが実用化し、中国では高温ガス炉実証炉が建設を完了、アルゼンチンではPWR型SMRが建設中であり、米国、カナダ及び英国では、民間企業が開発を進めるSMRの実証に向けた政府の支援が進んでいる。また、日本では、NEXIP事業や原子力機構における高温ガス炉や高速炉に関する技術開発によりSMR開発が進んでいる。

ここで紹介したSMR以外にも、様々な炉型のSMRが各国のベンダーを中心に開発されている。各国で開発されているSMRの説明は、IAEA発行の「Advances in Small Modular Reactor Technology Developments」45が詳しい。

報告:高速炉・新型炉に関する研究開発 戦略・社会環境Gr 稲葉 良知

1 経済産業省,「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」,2021年6月、

URL:https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html

2 田中隆則,「原子力革新技術への挑戦-SMRへの期待-」,季報エネルギー総合工学Vol. 41,No. 2,pp. 20-29,2018,

URL:https://www.iae.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/201807_Vol41_No2.pdf

3 田中隆則,「SMRを巡る国際動向とそのインパクト」,エネルギー問題に発言する会,第191回座談会,

URL:http://engy-sqr.com/lecture2/191zadannkaisiryoutanaka.pdf

4 原子力産業新聞,「米規制委と加安全委、初の共同技術審査にテレストリアル社の溶融塩炉 選択」,2019年12月、

URL:http://www.jaif.or.jp/191209-a

5 URL:https://www.iaea.org/topics/small-modular-reactors
6 IAEA,「Development of Approaches, Methodologies and Criteria for Determining the Technical Basis for EPZ for SMR Deployment,

URL:https://www.iaea.org/projects/crp/i31029

7 DOE,「Advanced Reactor Demonstration Program」,

URL:https://www.energy.gov/ne/nuclear-reactor-technologies/advanced-reactor-demonstration-program

8 URL:https://www.nuscalepower.com/
9 NuScale Power,「NUSCALE WINS U.S. DOE FUNDING FOR ITS SMR TECHNOLOGY」,

URL:https://www.nuscalepower.com/about-us/doe-partnership

10 Post Register、「Eastern Idaho nuclear reactor project downsized」,July 16,2021,

URL:https://www.postregister.com/news/inl/eastern-idaho-nuclear-reactor-project-downsized/article_0c60abf6-d0ea-5d42-9f9e-3cdb1a49b381.html

11 NuScale Power,「CARBON FREE POWER PROJECT」,

URL:https://www.nuscalepower.com/projects/carbon-free-power-project

12 UAMPS,「DOE cost-share award of $1.355 billion is approved for UAMPS’ Carbon Free Power Project」,October 2020,

URL:https://www.uamps.com/file/41df5556-8f47-47c3-af10-d3665271fd20

13 米国官報,「NuScale Power, LLC; NuScale Small Modular Reactor」,September 2020,

URL:https://www.federalregister.gov/documents/2020/09/29/2020-21429/nuscale-power-llc-nuscale-small-modular-reactor

14 経済産業省,総合資源エネルギー調査会,発電コスト検証ワーキンググループ(第7回会合),

URL:https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2021/data/07_05.pdf

15 NuScale Power,「Global Relationships」,

URL:https://www.nuscalepower.com/projects/current-projects

16 日揮ホールディングス,「小型モジュール原子炉(SMR)のEPC事業へ進出 -米国ニュースケール社へ出資-」,2021年4月,

URL:https://www.jgc.com/jp/news/2021/20210406.html

17 IHI,「米国ニュースケール社への出資により,小型モジュール原子炉(SMR)事業に参画」,2021年5月,

URL:https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2021/resources_energy_environment/1197416_3345.html

18 U.S. NRC,「Aurora – Oklo Application」,

URL:https://www.nrc.gov/reactors/new-reactors/col/aurora-oklo.html

19 GEH,「THE BWRX-300 SMALL MODULAR REACTOR」,

URL:https://nuclear.gepower.com/build-a-plant/products/nuclear-power-plants-overview/bwrx-300

20 DOD,「Strategic Capabilities Office Selects Two Mobile Microreactor Concepts to Proceed to Final Design」,March 2021,

URL:https://www.defense.gov/Newsroom/Releases/Release/Article/2545869/strategic-capabilities-office-selects-two-mobile-microreactor-concepts-to-proce/

21 Canadian Small Modular Reactor Roadmap Steering Committee,「A Call to Action: A Canadian Roadmap for Small Modular Reactors」,Ottawa, Ontario, Canada,November 2018,

URL:https://smrroadmap.ca/wp-content/uploads/2018/11/SMRroadmap_EN_nov6_Web-1.pdf

22 カナダ政府,「smr action plan」,

URL:https://smractionplan.ca/

23 CNL,「Siting Canada’s First SMR」,

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24 原子力産業新聞,「カナダ原研のSMR実証炉開発プロセスで4つ目の設計が第1フェーズ完了」,

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25 CNSC,「Global First Power Micro Modular Reactor Project」,

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26 CNSC,「Pre-Licensing Vendor Design Review」,

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27 原子力産業新聞,「カナダの3州の首相がSMR開発で協力覚書」,2019年12月、

URL:https://www.jaif.or.jp/191203-a

28 原子力産業新聞,「“SMR技術でカナダが世界のリーダーに、とのFS結果」,2021年4月、

URL:https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/7735.html

29 ARC Clean Energy,「ARC Canada Awarded $20 Million in Funding from the Province of New Brunswick」,Feb. 2021,

URL:https://www.arcenergy.co/news/31/39/ARC-Canada-Awarded-20-Million-in-Funding-from-the-Province-of-New-Brunswick

30 Moltex Energy,「Moltex receives $50.5M from Government of Canada for small modular reactor」,March 2021,

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31 BEIS,「Advanced Modular Reactor (AMR) Feasibility and Development Project」,

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32 BEIS,「The ten point plan for a green industrial revolution」,November 2020,

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33 BEIS,「Energy white paper: Powering our net zero future」,December 2020,

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34 BEIS,「Potential of high temperature gas reactors to support the AMR RD&D programme: call for evidence」,July 2021,

URL:https://www.gov.uk/government/consultations/potential-of-high-temperature-gas-reactors-to-support-the-amr-rd-demonstration-programme-call-for-evidence

35 Rolls-Royce,「UK small modular reactor: pioneering intelligent power」,

URL:https://www.rolls-royce.com/products-and-services/nuclear/small-modular-reactors.aspx#/

36 Rolls-Royce,「UK Government and industry champion new compact nuclear power station」,September 2019,

URL:https://www.rolls-royce.com/media/press-releases/2019/05-11-19-uk-gov-and-industry-champion-new-compact-nuclear-power-station.aspx

37 ROSATOM,「World’s only floating nuclear power unit to begin commercial operations in Russia」,April 2019,

URL:https://www.rosatom.ru/en/press-centre/news/world-s-only-floating-nuclear-power-unit-to-begin-commercial-operations-in-russia/?sphrase_id=641817

38 ROSATOM,「ROSATOM’s first of a kind floating power unit connects to isolated electricity grid in Pevek, Russia’s Far East」,December 2019,

URL:https://www.rosatom.ru/en/press-centre/news/rosatom-s-first-of-a-kind-floating-power-unit-connects-to-isolated-electricity-grid-in-pevek-russia-/

39 Rosenergoatom,「Rosatom: world’s only floating nuclear power plant enters full commercial exploitation」,May 2020,

URL:https://www.rosenergoatom.ru/en/for-journalists/highlights/35050/

40 TVEL,「Rosatom starts construction of unique power unit with BREST-OD-300 fast neutron reactor」,June 2021,

URL:https://www.tvel.ru/en/press-center/news/?ELEMENT_ID=8787

41 Fu LI,「Approach of Operational Startup for HTR-PM in China」,Virtual Side Event in IAEA 64th General Conference、September 2020.
42 World Nuclear News,China starts construction of demonstration SMR」,July 2021,

URL:https://www.world-nuclear-news.org/Articles/China-starts-construction-of-demonstration-SMR

43 Nucleoeléctrica contracted to complete CAREM-25」,July 2021,

URL:https://www.world-nuclear-news.org/Articles/Nucleoelectrica-contracted-to-complete-CAREM-25

44 EDF,「CEA, EDF, Naval Group and TechnicAtome unveil "NUWARD"™: jointly developed Small Modular Reactor (SMR) project」,September 2019,

URL:https://www.edf.fr/en/edf/cea-edf-naval-group-and-technicatome-unveil-nuward-tm-jointly-developed-small-modular-reactor-smr-project

45 URL:https://aris.iaea.org/Publications/SMR_Book_2020.pdf