技術開発及びCTBTへの貢献
核不拡散・核セキュリティ技術開発
核鑑識技術開発
核セキュリティ分野における核鑑識とは、捜査当局によって押収、採取された不法な核物質や放射性物質とそれらに関連する物質・物品の組成、物理・化学的形態等を分析し、不法な物質の出所、履歴、輸送経路、目的等を分析・解析することで、捜査活動を支援する技術的手段です。核鑑識に必要な分析技術、分析データを照合するためのデータベース等を含む核鑑識ライブラリ技術の開発や、捜査当局等による現場初動対応を支援する放射線測定技術の開発を行っています。
- 核鑑識分析技術
- 同位体分析
- 不純物分析
- ウラン年代測定
- 粒子形状分析・微細構造分析
- 核鑑識ライブラリ
- データベース(核物質、放射性物質)
- 分析データ等の解析手法、ツール
- AIを使った分析データ解析
- 現場初動対応支援のための放射線測定技術
- 携帯型検出器による核種判定
- 指向型ガンマ線検出器技術
アクティブ中性子技術開発
非破壊測定(NDA:Non-Destructive Assay)は、パッシブ法とアクティブ法に分類されます。パッシブ法は、試料から自発的に放出される中性子やガンマ線を測定します。そのため、パッシブ法では強い放射線が放出される使用済み燃料などの試料を測定する場合、測定対象としているガンマ線、中性子がそれらに埋もれ、測定が難しくなることがあります。一方、アクティブ法は、外部から試料に中性子を照射し、核反応を誘起し、それによって発生する放射線を測定する手法で、誘起された放射線がバックグラウンドに対し有意に測定できれば、試料測定に適用できます。
中性子共鳴分析法
中性子共鳴分析法では、試料にパルス中性子を照射し、試料中の原子核と共鳴反応を起こす中性子エネルギーを飛行時間(Time-of-Flight: TOF)法により計測することで、核物質の測定を行います。非破壊分析装置の小型化を目指して行った、レーザー駆動中性子源(Laser-Driven Neutron Source: LDNS)を用いた中性子共鳴透過分析(Neutron Resonance Transmission Analysis: NRTA)システムの開発では、ISCNで開発したNRTAシステムと大阪大学で開発したLDNSを用いて透過中性子測定実験を行い、核物質を模擬した試料の識別が可能であることを示し、LDNSをNRTAに適用することで従来よりも小型な非破壊分析装置の実現が期待できることを実証しました。令和4年度からは、少量の核分裂性物質を精度よく測定する手法として、中性子共鳴核分裂中性子分析(Neutron Resonance Fission Neutron Analysis: NRFNA)を提案し、中性子共鳴分析技術の高度化を進めています。
参考文献
- J. Lee et al., Designs and neutronic characteristics of an epithermal neutron moderator at ambient temperature for neutron time-of-flight measurements, J. Nucl. Sci. Technol. 59, (2022) 1546–1557.
- A. Yogo et al., Laser-driven Neutron Generation Realizing Single-Shot Resonance Spectroscopy, Phys. Rev. X. 13, 011011 (2023).
- 10-1 核物質計量管理のための非破壊分析装置の小型化を目指して | 原子力機構の研究開発成果2022-23
- 発見!レーザーで中性子を発生する新法則 ―1千万分の1秒の瞬間で元素を透過識別する装置がコンパクトに―|日本原子力研究開発機構:プレス発表
遅発ガンマ線分析法
ISCNが開発を進めている遅発ガンマ線分析法では、試料に中性子を照射し、それによって誘発される核分裂によって生成される核分裂生成物(FP)からのガンマ線を測定することによってU-235、Pu-239、Pu-241組成比を測定します。FPの収率が核分裂性の核物質の種類によって異なることを利用して比を求めるものです。試料中に含まれるCs-137などの高強度ガンマ線の干渉を避けるため、数秒から数分の短半減期のFPが放出する2.7MeV以上の高エネルギーガンマ線に注目して測定します。下図は、遅発ガンマ線分析装置の一例です。
- スペクトル解析技術の開発
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- タイミングの感度
- サンプルのスペクトルへの影響
- 逆モンテカルロ解析
- 質量との相関
- 中性子シグネチャーとの相関計測器開発
- 核分裂シグネチャー分析装置(小試料用)
- 遅発ガンマ線試験用検出器
- モデル検証テスト用減速材
- 中性子線源モニタリング用検出器
広域における核・放射性物質検知技術開発
核・放射性物質を用いたテロ行為を防止するため、これらの物質を検知する装置の開発が進められています。ISCNでは、広域における核・放射性物質検知技術開発に令和2年度より着手しています。本技術開発では、特にスポーツやコンサートなどの大規模公共イベントや大型商業施設において、会場・施設の内部やその周辺の広い範囲で、核・放射性物質を効率よく検出できる装置・システムの開発を目的としています。
様々な場面に導入可能なシステムを目指し、屋内外で位置を把握しながら放射線測定を行う技術やロボットを利用した遠隔測定などの導入を計画しています。
- 放射線マッピング技術開発
- 2次元/3次元測位
- ネットワークを介した遠隔測定
- 放射線源探知技術
- ガンマ線イメージング技術
- 核物質等の高速中性子源探知
過去に実施した技術開発
- 使用済燃料中プルトニウムの非破壊測定(NDA)実証実験
- ヘリウム-3代替中性子検出器の開発
- 中性子共鳴濃度分析法技術開発
- 先進プルトニウムモニタリング技術開発
- 福島第一原子力発電所事故の燃料デブリ計量管理技術開発
- 衛星情報の保障措置応用研究
- 透明性向上研究
- 統合非破壊測定装置Active-Nの開発
- 使用済燃料直接処分に関わる保障措置技術開発
その他の活動
CTBT
CTBT国際検証体制のしくみ
包括的核実験禁止条約(CTBT)は、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間での核兵器の実験的爆発及びその他の核爆発を禁止し、加盟国がそれを順守していることを検証する体制の確立等を規定したものです。
CTBTは177ヶ国が批准していますが、発効要件国の未批准のため、現在未発効です。しかし将来の条約発効に備えて、条約の議定書で決められた核実験探知を目的とする地震波、放射性核種、水中音波、微気圧振動の4種類の国際監視制度(IMS)施設の90.2%(304/337ヶ所)が世界中に設置され認証を受けて運用しています。
*: 2023年2月現在
- CTBTの現状(2023年2月現在)
- (1) 署名国186か国、批准177か国
- (2) 発効要件国44か国のうち、署名国41か国、批准国36か国
発効要件国のうち、
署名済・未批准国(5か国):米国、中国、エジプト、イラン、イスラエル
未署名・未批准国(3か国):北朝鮮、インド、パキスタン
CTBT国際検証体制へのISCNの貢献
JAEAは、沖縄観測所、高崎観測所、及び東海放射性核種実験施設の整備を完了し、核実験監視のための技術要件を満足する施設としてCTBT機関(CTBTO)の認証を得て運用を行っています。さらに、国内データセンター(NDC-2)では、オーストリアのウィーンにある国際データセンター(IDC)から配信される世界中の放射性核種観測所データを受信し、日常的にデータ解析を実施しています。このうち、沖縄観測所は宇宙航空研究開発機構の沖縄宇宙通信所内に、高崎観測所は量子科学技術研究開発機構の高崎量子応用研究所内に設置されています。また、東海放射性核種実験施設とNDC-2は、JAEA原子力科学研究所内に設置されています。
下図に示すように、JAEAはCTBT国際検証体制において、放射性核種監視観測所、放射性核種実験施設、及びNDC-2の運用という3つの役割を担い、国に積極的に協力しています。