中性子共鳴濃度分析法技術開発
原子炉過酷事故で発生した溶融燃料(核燃料と構造材の溶融混合物)デブリ(粒子状デブリ)あるいは(現世代・次世代)核燃料サイクルでの(固体)保障措置サンプル中の核物質量を同位体毎に定量的に測定する非破壊測定技術の基礎開発を(原子力基礎工学研究センター担当で)実施しています。
この技術開発では、パルス中性子源による透過中性子の共鳴解析(中性子共鳴透過分析法;核燃料核種の定量)をベースに、中性子共鳴捕獲分析法(混在核種を定量)を組み合わせた中性子共鳴濃度分析法によるNDA技術をJRC-IRMMと共同で開発しています。

P/U同位体はそれぞれ特有のエネルギーの中性子に大きく反応します(これを共鳴反応と呼んでいます。)一方、パルス的に発生させた中性子ビームを発生源から少し離れた位置まで飛行させると、(中性子飛行速度がエネルギーにより異なるため)飛行時間の違いで中性子エネルギーが知られた状況で中性子が計数されます。ここでは粒子状溶融燃料デブリ中の核物質同位体測定を例に説明します。また、パルス中性子源としては、電子ビームをタングステン等に当て、その際の制動放射が引き起こす光核分裂反応で中性子を発生させる中性子源(1012中性子/秒程度)を想定しています。
中性子共鳴透過分析法では、パルス中性子源(1012中性子/秒程度)からの中性子ビームを、対象物(粒子状溶融燃料デブリを入れた薄い円盤状容器)に当てTOF法を用いて透過する中性子のエネルギー分布を計数します。得られた透過中性子エネルギー分布において各Pu/U同位体特有のエネルギーでの共鳴状況(中性子計数の減少量)を分析することにより、含まれる核物質の各同位体を定量することができます。
この方法は、対象物(溶融燃料デブリ)に中性子吸収効果の大きい10B等が含まれると、その影響を受けます。それを評価・補正するために、中性子共鳴捕獲分析法により対象物(溶融燃料デブリ)中に含まれている10Bを同定します。
中性子共鳴捕獲分析法では、対象物中に含まれている10B等の存在を調べることができます。10Bの場合、10Bの中性子捕獲反応(10B(n,γ)11B)で発生する即発γ線(478 keV)を測定しますが、溶融燃料デブリ中に大量に含まれる137Csからの崩壊γ線(662 keV)のコンプトン端により測定が大きく影響されるため、137Csからの崩壊γ線の影響を大幅に低減できるガンマ線検出器(下図)を新たに開発しています。

新しく開発されたガンマ線検出器及び中性子透過共鳴分析用の中性子検出器をJRC-IRMMのGELINA(中性子共鳴透過測定法で実績を有する施設)に持ち込み大強度パルス中性子ビームを用いたNRDの実証試験を行う予定です。

その他に、JRC-IRMMとの共同研究においては、中性子共鳴濃度分析法の測定精度の評価研究も行っています。
なお、これまでの研究開発成果より、原子炉過酷事故で発生しているとされる粒子状デブリ中の核物質同位体定量測定用(実用)の中性子共鳴濃度分析装置の概念及び溶融燃料取出し時のストラータ分類、粒子状溶融燃料デブリへの中性子共鳴濃度分析法適用の一つの提案を作成しています。
また、中性子共鳴濃度分析法は、次世代核燃料サイクルで取り扱われる高線量の核物質(固体)サンプルの同位体組成比分析等にも適用できます。