レーザー・コンプトン散乱線を利用した核共鳴蛍光NDA技術開発
これまでの技術では困難と考えられている核セキュリティ及び保障措置分野での以下のような検知・測定を非破壊で実施できる技術として、レーザービームと電子ビームの散乱(「レーザー・コンプトン散乱」と呼びます)により発生させるエネルギーの揃った(これを「単色」と言います)ガンマ線を利用する核共鳴蛍光非破壊測定技術の基礎開発を、量子ビーム応用研究センターとの連携により行っています。
- 海上貨物コンテナ内で厚い遮へい体で覆われた核物質の確実な検知(核セキュリティ)
- 使用済燃料中の核物質の定量測定、燃料要素抜取検認(保障措置)
- 溶融燃料デブリ中核物質量の非破壊定量測定(計量管理・保障措置)
この基礎開発では、「測定したい同位体の核共鳴蛍光反応(エネルギーの決まったガンマ線の入射による特定準位への励起、及びその後の基底状態への遷移に伴い入射エネルギーと同一エネルギーのガンマ線を放出する反応:下図参照)」を利用しノイズ信号を減らした精度の高い先進NDA技術「大強度単色ガンマ線利用・核共鳴蛍光非破壊測定技術」の基礎技術を開発するために、「レーザー・コンプトン散乱(LCS)ガンマ線源:大強度単色ガンマ線源」の基礎実証を行っています。

このガンマ線源は、位置分散が少なくエネルギーが良くそろった高い品質の大強度電子ビームを得る新型のリニアック(エネルギー回収型リニアック:ERL(Energy Recovery Linac))をベースに、高出力レーザー発振装置のレーザービームを大量に蓄積させる装置(レーザー蓄積装置)内のレーザービームと電子ビームを同期させて散乱させ、高いエネルギーの電子からレーザー光子にエネルギーを与えることでエネルギーのそろった(波長のそろった:単色の)強いガンマ線を発生させるものです。現在、JAEAとの共同研究で、KEK(つくばキャンパス)において、その基礎実証装置の整備が進められております。

レーザー・コンプトン散乱により大強度単色ガンマ線(LCSガンマ線)を発生させる試験は平成26年度末に予定されています。発生させるLCSガンマ線につきましては、エネルギーは電子エネルギー(35 MeV)が低いため10keV程度ですが、強度(フラックス)はこれまでのLCSガンマ線の強度を4桁程度上回り、エネルギー分散については約1%未満という世界初の単色性を目指しています。
また、この技術開発において、並行して、核共鳴蛍光散乱反応を取り込むシミュレーションコード(NRFGeant4)の開発を実施しています。この開発及び実験検証は日米共同(JAEA/DOE・LANL・LBNL(ローレンス・バークレイ国立研究所)・ORNL(オークリッジ国立研究所))で実施し、米国側では、シミュレーションコードMCNPXに核共鳴蛍光散乱反応を取り込む拡張を行うとともに、Duke大学で実施した核共鳴蛍光反応試験をベンチマークとして両者共同で利用しました。

なお、これまでの研究開発成果をベースに、実用の「大強度単色ガンマ線発生装置」やそれを利用する「大強度単色ガンマ線利用・核共鳴蛍光非破壊測定装置」の例として、以下の実用装置の概念を作成しています。
- 海上貨物コンテナ内の厚い遮へい体中核物質探知システム(核セキュリティ分野)
- 使用済燃料中核物質(Pu/U)高精度非破壊測定システム(保障措置)
- 溶融燃料(切出し)デブリ中核物質(Pu/U)高精度非破壊定システム(計量管理・保障措置)