1_5_6 地下水水質の深度分布
達成目標

ローカルスケール領域におけるボーリング調査では,各々のボーリング孔において各深度の地下水を採水して水質を分析し,広域的な水質の空間分布を把握します。また,岩盤中の断層などの地下水流動に影響を与え得る地質構造や地層,鉱物分布などとの関連性について予察します。これらの知見を整備し,地球化学モデルの構築に反映することを目標とします。

方法・ノウハウ

①調査で取得すべき情報:

地下水中での放射性元素の濃度や化学形は,主に地下水のpH,酸化還元電位,イオン濃度に影響を受けます。そのため,これらの情報について空間分布を取得しておく必要があります。また,地下水の起源・滞留時間を推定するために水素・酸素安定同位体比やトリチウム,放射性炭素同位体濃度などの分析も行います。

さらに,サイトスケール領域の周辺に位置するボーリング孔においては,将来の地下施設建設時の周辺環境管理に必要な情報を得るため,水質汚濁防止法における排水基準・環境基準項目の濃度も取得します。

②調査ボーリング孔のレイアウト:

ボーリング孔のレイアウト検討では,温泉などの既存情報の整理により予察された水質分布(1_2_2),表層地形から推定される地下水流動の涵養域から流出域までの地下水流動方向(1_1_11_5_5),断層や礫岩層など透水性に特徴がある地質構造の分布(1_5_3),地下施設の建設候補地を含むサイトスケール領域の位置などを考慮して理想的な配置を考えます。その上で,土地活用状況や調査用地の借地もしくは購入の可否,調査予算,工程などを踏まえて,実現可能な孔の配置,数量について再検討します。

  1. 地下水流動に伴う水質進化を確認できるように,想定される地下水流動の上流から下流に沿った配置とします。涵養域と流出域に各1本配置し,その間に存在する地層・地質構造,予算などに応じて複数の孔を配置します。
  2. 地下施設の建設候補地を含むサイトスケール領域周辺では,調査終了後のボーリング孔をモニタリング孔へ転用することも念頭において,候補地周辺の特徴的な透水性の地質構造(断層や礫岩層など)を包含するように,候補地からの距離に応じて複数配置します。
  3. 調査終了後にモニタリングなど利用用途のないボーリング孔については,周辺地下水への影響を避けるため,速やかに埋め戻し,閉塞します。

③採水方法と品質管理:

ボーリング孔内の異なった深度の地下水の混入を防止するため,パッカーにより採水区間を上下深度から隔離して地下水を採水します。採水方法は,岩盤中の水理試験(揚水試験)時に,地上に揚水される地下水を採水する方法,採水区間にバッチ式ボトルを接続して採取する方法などがあります1), 2)。なお,調査データの品質管理のためには以下の点に留意します。

  1. ボーリング孔掘削時の掘削水による汚染の有無:採水に先立って区間内の汚れた水を排水除去します。ボーリング孔の掘削時に蛍光染料などのトレーサー3)が加えられている場合は,区間体積分など一定排水量毎にトレーサー濃度を測定し,トレーサー濃度が十分に低下してから,化学分析用の試料を採水します。トレーサーが加えられていない場合は,一定排水量ごとに水質を分析し,分析値の変化がなくなるまで排水します。
  2. 地上に揚水される地下水を採水する場合は,地下水が空気に触れて酸化することで,酸化還元電位やFe(鉄)イオン,S(硫化物)イオン,Mn(マンガン)イオン濃度などが変化してしまうことを防ぐため,グローブバッグを利用して不活性雰囲気とするか,採取容器から地下水をオーバーフローさせて採取します。
  3. 分析値については,総溶存成分濃度に応じて全分析項目のイオンバランス4)や採水作業時の品質管理基準5)などにより品質を確認します。
東濃地域における実施例

ローカルスケール領域における地下水流動の上流域から下流域にかけて,深度500m~1,000mのボーリング孔を掘削し採水調査を行いました6-19)。得られた地下水を分析し,周辺温泉情報で得られた情報も合わせて整理した結果21),以下のことを明らかにできました。

上記の結果は,ローカルスケール領域の水質分布モデル(1_6_6)に反映されました。また,月吉断層を境にした水質の違いの可能性などの課題は,1_6_6で調査されることになります。

左図:瑞浪市周辺を含む約10km四方の地図。瑞浪超深地層研究所を通過する北東~南西の断面線を表示している。右図:北東から南西に向かい,DH-10,13,11,2,12の各ボーリング孔が並んだ断面図。水質調査で得られた塩化物イオンとナトリウムイオンの濃度が色で表現されている。北東側からDH-10,13,11ではどちらのイオンも100mg/L以下だが,南西側のDH-2,12では深くなるにつれて濃度が上昇し,標高-500m付近で200mg/L以上となる。
図1 ボーリング調査で得られた地下水のCl-(塩化物イオン)濃度とNa+(ナトリウムイオン)濃度の深度分布
地形,地層境界と水質分布を表現した概念図。地下水の水質は,流域と深度で4つに区分される。北東・浅部:DH-13号孔の掘削地点周辺。瑞浪層群(生俵層,明世層,土岐夾炭層)の分布域。ナトリウム-カルシウム-重炭酸型,pHは7~9,総溶存物質は55~65 mg/L。北東・深部:土岐花崗岩の分布域。水質はほぼ浅部と変わらないが,pHが8~9のアルカリ性を示す。南西浅部:DH-12号孔の掘削地点。Na-Cl-HCO3型,pHは8~10,総溶存物質は130~170 mg/L。南西・深部:ナトリウム-塩化物イオン型,pHは8~10,総溶存物質は200~320mg/L。
図2 ローカルスケール領域のおける地下水の水質分布の概念図
参考文献
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  7. 長谷川健 (1997): DH-2号孔における調査研究報告書,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2000-007,17p.
  8. 長谷川健 (1997): DH-3号孔における調査研究報告書,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2000-008,18p.
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