1_3_2 ヘリコプターによる空中電磁探査
達成目標

ヘリコプターや航空機を用いた空中からの調査は,広域の地質情報を短時間で調査できるため,地質調査の初期段階で使用されることが多い手法です。空中電磁探査では,ヘリコプターや航空機に搭載したコイルを用いて電磁波を送受信し,電磁誘導によって発生する電場や磁場の歪みから,調査対象領域の岩盤の地質学的不均一性や地質構造の三次元分布を把握することを目標として地下の比抵抗構造を推定します。東濃地域では,送受信機をヘリコプターに装着して調査する探査と,潜水艦通信用に外部で人工的に送信された3~30KHzの電磁波を利用するVLF(very low frequency)探査を実施し,広域の比抵抗構造を推定しました。

方法・ノウハウ

①空中電磁探査による地下構造調査:

空中からの調査では航空法に従う必要があるため,市街地や主要交通路の上空,送電線などの近くで調査する際には飛行が制限されることに注意する必要があります。特に,騒音を考慮した場合,高高度を飛行した方が騒音を抑えられる一方,データのS/N比を考慮すると低高度を飛行した方が良いデータを取得できるというトレードオフがあります。そこで,予備調査として,飛行高度を変えた場合の取得されるデータへの影響なども考慮しつつ調査し,広範囲の見掛け比抵抗を取得することが有効です。得られた見掛け比抵抗は岩石によって値が異なるため,見掛け比抵抗の分布に基づいて概略的な地質や断層などの地質構造の分布を把握することができます。東濃地域で実施した空中電磁探査では,S/N比の良いデータを取得するために送信コイルと受信コイルの共振周波数が一致するシステムを用いて測定を実施しました。

②データ取得:

取得されたデータは,見掛け比抵抗値という値に変換して出力されます。見掛け比抵抗は実際の比抵抗の値ではなく,ある深度までの平均的な比抵抗の値です。見掛け比抵抗は探査で使用した電磁波の周波数ごとに算出することができ,ある見掛け比抵抗値が代表する深度は周波数と見掛け比抵抗などにより算出できます例えば1)。これらの見掛け比抵抗および深度を測線に沿ってマッピングすることにより,広域の比抵抗構造を推定することができます。ただし,このようにして作成された図は,実際の地質構造における比抵抗を推定したものではないため解釈をする際には注意する必要があります。

東濃地域における実施例

ヘリコプターによる空中電磁探査を実施し,このデータから見掛け比抵抗分布図(図1)を作成しました2-4)。作成した見掛け比抵抗分布図と既存の地質図5)とを比較した結果,地表下10mにおいてはおおむね50Ωm以上の高比抵抗域が花崗岩などの基盤岩類にほぼ対応しており,50Ωm未満の低比抵抗域は堆積岩と一致していることがわかりました。地表下10m,40m,80mと深度が増すとともに,堆積岩を示す低比抵抗域が減少し,基盤岩類を示す高比抵抗域が拡大していることがわかりました。このことから,50Ωmを境とした花崗岩上面の分布を推定した結果,動力炉・核燃料開発事業団(1994)6)などの既存情報に示されている古河川を示すチャンネル構造の分布と一致することを確認できました。これらの結果から,ヘリコプターによる空中電磁探査で,広い領域の浅部の地質・地質構造を概略的に推定し,後続するボーリング調査(1_5_1)や地質構造モデル(1_6_1)に活用できることを確認しました。

なお,ヘリコプターなどの航空機の飛行は,飛行高度によっては騒音となるおせれがあります。探査実施日および飛行ルートなどの探査計画作成においては,地元行事などを事前に把握することが探査を円滑に進める一助となり得ます。

見掛比抵抗分布を地図上に描写した図。堆積岩の分布域では見掛比抵抗が50Ω以下の橙色~赤色を,花崗岩の分布域は50Ω以上の黄緑色・緑色・青色を示す。
図1 空中電磁探査による見掛け比抵抗分布(地表下10m)
参考文献
  1. Sengpiel, K.P. and Siemon, B. (2000): Advanced inversion methods for airborne electromagnetic exploration, Geophysics, vol.65, pp.1983-1992.
  2. 小野傅,奥野孝晴,安藤茂,池田和隆,佐藤徹,黒浜忠一 (1999): ヘリコプターによる空中物理探査,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7420 99-008,400p.
  3. 小出馨,中野勝志,竹内真司,濱克宏,松井裕哉,池田幸喜,長谷川健,杉原弘造,武田精悦 (2000): 広域地下水流動研究の現状-平成4年度~平成11年度-,核燃料サイクル開発機構,JNC TN7400 2000-014,83p.
  4. 長谷川健,山田信人,遠藤令誕,小出馨 (2013): ヘリコプターを用いた空中物理探査データの再解析,日本原子力研究開発機構,JAEA-Research 2013-028,83p.
  5. 糸魚川淳二 (1980): 瑞浪地域の地質,瑞浪市化石博物館専報,第1号,pp.1-50.
  6. 動力炉・核燃料開発事業団 (1994): 日本のウラン資源,動力炉・核燃料開発事業団,PNC TN7420 94-007,403p.

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