1_3_1 空中自然放射能探査(γ線強度分布と地表地質分布)
達成目標

物理探査などによる地質調査は,広域を大まかに調査する概査と,特定の対象を細かく調査する精査に分けることができます。広域を大まかに調査する手法としては,衛星を使ったリモート・センシングや,航空機やヘリコプターを用いた調査手法があります。東濃地域では広域を大まかに調査する手法のうち,ヘリコプターを用いた空中自然放射能探査を取り上げ,ローカルスケール領域の岩盤の地質学的不均一性や地質構造の三次元分布の把握を目標とした調査を実施しました。取得されたγ線(ガンマ線)のデータを地図上にマッピングすることで,広域の地質分布を推定することができました。

方法・ノウハウ

①空中自然放射能探査による地質調査:

自然放射線(主にγ線)の分布は公開されている全国データ1)を利用できます。また,空中探査は,ヘリコプターや飛行機にセンサーを装着して,上空から測定をするため,高圧線などが存在する場合や航空法により制限される場所を除き,調査する場所の制約を受けることはありません。空中探査に必要な時間は,東濃地域で実施した放射能探査の場合では合計643kmの測線の調査が4日程度であり,広範囲の調査を迅速に実施できる手法といえます。ヘリコプターや飛行機による探査では,複数の装置を装着して調査することで,異なる種類の観測を同時に実施することも可能なため,効率の良い調査手法です。

空中自然放射能探査は,自然に発生している放射線を測定する探査手法です。自然放射線は岩石に含まれる放射性物質(主にU(ウラン),Th(トリウム),K(カリウム))の濃度によって強度が決まります。このため,自然放射線の分布に基づいて,概略的な地質や断層などの地質構造の分布を把握することができます。東濃地域ではカリウム40,ビスマス214,タリウム208のγ線強度を測定し,花崗岩の分布を推定することができました。また,断層部ではγ線強度が大きくなることが知られています。これは,断層を上昇するラドンガスに由来すると考えられています。

②取得データの処理:

取得されたデータからγ線強度を求めるためには,検出器に特有の傾向を取り除くストリッピング補正,空気層の厚さ(飛行高度)によるγ線の減衰を補正する高度補正,バックグランド成分を取り除くバックグランド補正を行う必要があります。観測結果を表示する際には,飛行データを用いることでマッピングをすることができますが,場合によっては観測されたデータに高周波の成分が含まれる場合もあります。こうした場合には,例えば,ローパスフィルタを適用することで,滑らかな結果図を取得することができます。

東濃地域における実施例2-4)

図1~3は,東濃地域の約10km四方の範囲で調査した結果です。各々,K(カリウム40),Bi(ビスマス)-214,Ta(タリウム)-208の結果を示しています。K-40の結果は他の結果と比較して,強度が高い領域が広いことが確認できます。これら3つの結果のうち,共通してγ線強度が高い場所を既存の地質図5)と比較した結果,おおむね花崗岩の分布と一致しました。この結果から,γ線強度分布から地表における花崗岩が露出する領域を概略的に把握することが可能であることを確認しました。また,K-40の結果に見られる花崗岩が分布する領域以外でγ線の値が高い場所は,土地利用状況と照らし合わせたところ,道路やゴルフ場,工場や住宅地等と一致しており,人工物の影響にも留意する必要があることが確認できました。

図4では,断層やウラン鉱床とγ線の強度の関係を調べるため,特にγ線強度が高い場所を抽出し,地質図と重ね合わせましたが,当該結果では,断層やウラン鉱床付近とγ線強度が高い場所との関連性は認められせんでした。

黄色~赤色で示されたカリウム40のガンマ線強度分布が高い領域は,おおむね領域の半分ほどを占めており,花崗岩の分布域と近い形状を示す。
図1 K-40のγ線強度分布
黄色~赤色で示されたビスマス214のガンマ線強度分布が高い領域は,おおむね領域の3分の1ほどを占めており,花崗岩の分布域と近い形状を示す。
図2 Bi-214のγ線強度分布
黄色~赤色で示されたタリウム208のガンマ線強度分布が高い領域は,おおむね領域の3分の1ほどを占めており,花崗岩の分布域と近い形状を示す。
図3 Ta-208のγ線強度分布
地表で認められた花崗岩類,中・古生界,濃飛流紋岩類,鉱床および鉱化帯の分布図に,ガンマ線強度の局所異常が認められた地点をプロットした図。断層やウラン鉱床の近くで特異的に局所異常が濃集している様子は認められない。
図4 γ線強度の局所異常と地質の関係
参考文献
  1. 今井登,岡井貴司 (2014): 自然放射線図,「日本の地球化学図」補遺,産業技術総合研究所 地質調査総合センター,2021年9月9日閲覧.
    https://gbank.gsj.jp/geochemmap/data/pdf/Nradiation.pdf
  2. 小野傳,奥野孝晴,安藤茂,池田和隆,佐藤徹,黒浜忠一 (1999): ヘリコプターによる空中物理探査,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7420 99-002,420p.
  3. 小野傅,奥野孝晴,安藤茂,池田和隆,佐藤徹,黒浜忠一 (1999): ヘリコプターによる空中物理探査,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7420 99-008,400p.
  4. 長谷川健,山田信人,遠藤令誕,小出馨 (2013): ヘリコプターを用いた空中物理探査データの再解析,JAEA-Research 2013-028.
  5. 糸魚川淳二 (1980): 瑞浪地域の地質,瑞浪市化石博物館専報,第1号,pp.1-50.

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