パネル2「核不拡散・保障措置技術の将来展望」
・座 長 | : | オリ・ハイノネン | IAEA事務局 次長 |
・パネリスト | : | ウィリアム・オコーナー | 米国 エネルギー省 国家核安全保障庁 防衛核不拡散局 核解体・透明性課 課長代理 |
モリジオ・ボエラ | 欧州委員会 エネルギー・輸送局保障措置部 保障措置概念・評価・支援担当課長 | ||
内藤 香 | (財)核物質管理センター(NMCC) 専務理事 | ||
ギュンシク・ミン | 韓国原子力規制機構 検認技術部 マネージャー | ||
千崎 雅生 | 日本原子力研究開発機構(JAEA) 核不拡散科学技術センター長 |
パネル2では、まず1. 保障措置技術の現状と将来展望、次いで2. 先進リサイクルに対する保障措置技術の概要と今後の方向性につき、前者は日本、韓国、ECから、後者は日本、IAEA、米国から、各々のプレゼンテーションの後、議論が行われた。概要は以下の通り。
(なお、この概要は核不拡散科学技術センターが編集したものであり、その内容については座長・パネリストの確認を得たものではない。)

日本の核不拡散政策、効果的かつ効率的保障措置への努力及び六ヶ所再処理の保障措置について述べる。
日本は、NPTに加盟し非核三原則の下、原子力平和利用の徹底を明言している。2005年に閣議決定された「原子力政策大綱」でも核不拡散担保の重要性が強調されている。保障措置関係では、1999年にIAEA追加議定書を批准し、2004年にはIAEAから「日本にあるすべての核物質が保障措置下にあり転用されていない」との結論を導き、以後、段階的に統合保障措置に移行している。
これまで日本は、TASTEX(Tokai Advanced Safeguards Technology Experience)やLASCAR(Large Scale Reprocessing Plant Safeguards)等の国際的な保障措置プロジェクトに参加し、IAEAに対する機器や設備の提供、保障措置技術開発、補完的アクセスや統合保障措置実施訓練等を通じて効果的かつ効率的なIAEA保障措置を実現するために努力してきた。
六ヶ所再処理施設(RRP)は、多量のプルトニウム等を24時間体制で取り扱うことから、今までにない高度かつ大規模な保障措置が必要である。そのためRRPへの保障措置を効果的かつ効率的なものとするため、RRPでは、LASCARの結論を踏まえ、IAEAと協力しながら、計量管理や封じ込め/監視等につき非立会検認技術を含む保障措置機器を整備した。また国は、施設内にIAEAとの共同利用の分析所(オンサイトラボ)を設置、さらに国による保障措置の拠点として六ヶ所保障措置センターを設置した。RRPに隣接して設置されるMOX燃料加工工場(J-MOX)についてもIAEAと連携して保障措置機器及び技術の整備が実施される予定である。

韓国の計量管理制度の紹介と遠隔監視技術の保障措置への適用について述べる。
韓国では、かつて韓国原子力研究所(KAERI)の一部門であった原子力管理技術センター(TCNC: Technology Center for Nuclear Control)が国の保障措置を代行していたが、IAEAの未申告活動の発覚を契機に独立性を確保するため、韓国原子力規制機構(NNCA: National Nuclear Management and Control Agency)が設置され、現在ではNNCAが軽水炉やCANDU炉、KAERIの研究施設等の査察を実施している。NNCAのミッションは、核物質の転用がないことの確認、核不拡散、輸出管理及び核物質管理に関する透明性確保である。今後は、より強力な国内計量管理制度の確立に向けたNNCAの改組(2006年7月予定、既に原子力基本法は改正済み)、核拡散抵抗性の研究開発及び核不拡散文化の構築に向けた教育の研究者への義務付け、を考えている。
韓国の軽水炉への保障措置に適用されている遠隔監視システムは、IAEA保障措置強化の中で新規応用技術の一例として取り上げられ、中間査察のランダム化による合理化が可能になったことを契機にIAEAと協議しつつこれを導入した。セキュリティやコストの問題についてはインターネットによるデータ伝送、VPNの導入により克服できた。

欧州原子力共同体(EURATOM: European Atomic Energy Community)の保障措置と研究開発の現状について述べる。
EURATOMでは、加盟国の増大や保障措置技術の向上等を踏まえて、EURATOMの保障措置をどう変えていくべきか専門家グループを結成し検討、2006年4月にECドラフトドキュメント"Implementing Euratom Treaty Safeguards"を発刊した。この見直しは、保障措置の柔軟性、保障措置の効果と効率化の向上及び昨今の保障措置技術の向上を反映する観点から行われたもの。またIAEAに対しては従来から保障措置技術支援を行っているが、上記EURATOM保障措置の見直しを受けて、IAEAとの協力関係に関する協定内容の見直しを実施し、近々フィックスされる予定。
上記のプレゼンテーションにつき、韓国の核不拡散教育について質問があったところ、当該教育は韓国の原子力法にも記載されており、2004年に発覚した未申告活動の再発等を防止するためとの回答がなされた。この点に関して、EUから、欧州保障措置研究開発機構(ESARDA)では核不拡散に関する教育訓練を大学の原子力工学の授業に取り入れていく旨の言及があった。

IAEAの保障措置研究開発につき今後の計画、内容及びIAEA保障措置技術開発支援計画(JASPAS: Japan Support Program for Agency Safeguards)を通じた日本への貢献、について述べる。
IAEAの「2006-2011年中期戦略」に基づくIAEA保障措置局の「2006-2011年戦略目標」には、業務の優先事項として、新しい保障措置(統合保障措置)課題へのアプローチ開発、保障措置機器/技術の最適化、環境試料分析能力の拡大、衛星写真分析能力の向上等が明記されている。また2年毎に発行されるIAEA保障措置局の「研究開発計画」の2006/2007版には、22のプロジェクトが記載されている。2005年に保障措置局は、核燃料サイクル活動の痕跡を特定化する新規技術に関して、60の提案を行い、うち、レーザーを利用した分光分析計や希ガス分析、光励起発光などの5件については今後、さらに開発を進める予定であるが、これらの評価や開発には資源が必要である。環境試料分析に関しては、分析所ネットワークがIAEAの活動に欠かせないものとなっており、現在はウラン分析が中心であるが、今後はプルトニウム分析に重点を移す必要があると認識している。また検認の中核である情報分析に関しては、査察の削減には情報分析能力の向上が必須であり、種々雑多な情報の中から重要な情報を抽出する技術が必要である。
IAEAは、日本が今までJASPASを通じたIAEAへの貢献を評価しており、六ヶ所再処理施設の保障措置確立も当該貢献に帰することが多い。今後も、新しい保障措置技術の発掘やデータ送信技術、環境試料の分析等につき日本の協力を期待している。

原子力機構における保障措置技術開発、統合保障措置へのアプローチ及び先進リサイクル施設への保障措置システムの構築、について述べる。
原子力機構は、再処理、ウラン濃縮、MOX燃料加工、新型炉(MOX炉)等の核燃料サイクル施設を有することからこれらの施設の保障措置アプローチを確立するために保障措置技術開発に積極的に取り組んできた。東海再処理施設(TRP)では、1970〜1980年代は同工場に適用する保障措置手法を確立するための技術開発を実施、1995年以降はプルトニウム転換開発施設とともに保障措置の信頼性向上と効率化の観点から技術開発を実施しており、MOX燃料加工施設については、自動化された燃料加工設備に対応するため、非立会検査装置の開発を米国ロスアラモス研究所と実施、施設の建設段階から装置を組み込んだ。またMOX炉については、フローモニターや二重封じこめ監視装置の開発を行い、現在当該装置のデータ統合と遠隔監視システムの導入を進めている。
計量管理に関しては、原子力機構の種々の施設での計量管理データを集約して一元的に管理するとともに、情報の精度向上やセキュリティにも配慮している。またデータベースを活用して法令報告や外部問い合わせに迅速に対応している。
統合保障措置に関しては、核燃料サイクル施設の統合保障措置へのアプローチをIAEA、国及び核物質管理センター等と協議しているところである。また環境試料分析技術開発を原子力機構の東海研究開発センターの高度環境分析研究棟(CLEAR)で実施しており、その高い技術レベルによりIAEAネットワーク研究所にも認定されている。
先進リサイクル施設への保障措置については、施設や取扱核物質の多様化に対応した、より効果的かつ効率的な保障措置の導入を検討しており、施設・設備の初期設計段階から保障措置を考慮にいれ、また国際協力の下で技術開発を進めていくことが必要と考えている。

米国における最先端の保障措置開発への取り組みについて述べる。
米国ではこれまで、核物質有意量(プルトニウムの場合は8キロ、高濃縮ウランの場合は25キロ及びウラン233の場合は8キロ)の転用を適時(核物質毎に異なる)に探知すること、また未申告の核物質や活動を探知することを目的に、計量管理、破壊/非破壊分析による物質収支、及びカメラや封印、放射線探知機による封じ込め/監視の開発を行ってきた。しかし取り扱う核物質量の増大(施設の大型化)、未申告製造や秘密裡の活動、データの収集や総合的な評価及びGNEPのような先進燃料サイクル施設に保障措置を適用するため、システム評価、モデリング、シミュレーション、設計段階での保障措置の組み込み、先進計測機器などを保障措置へ導入するという新たなアプローチが必要となった。
先進計測技術に関しては、現在、ウラン転換施設での取扱量を検認するため、中性子測定と硝酸ウラニルの流量測定の技術開発に力を入れており、当該測定技術は遠心法ウラン濃縮施設への応用も期待されている。また次世代の監視システムに関しては、現在、使用されているDCM-14カメラに代わる監視システムがIAEAの次世代監視システムプロジェクトとして検討されており、画像度向上、長期にわたる信頼性・耐放射線性、遠隔監視性能の向上などが図られている。さらに先進的な封印システムに関しては、メタルシール健全性確認のための画面変化検出ソフト、超音波技術の応用及びコブラシール機能向上を実施している。
先進燃料サイクルへの保障措置アプローチに関しては、特に大型再処理施設や燃料加工施設における効果的な保障措置システムを検討する必要があり、また保障措置システムを施設の設計段階から込みこんでいく必要がある。さらに、工程内滞留量を高精度で測定する非破壊分析や先進的なプロセスモニタリングについては、データの自動収集及び解析と組み合わせることが要求される。
上記プレゼンテーションの後、フロアも交えて以下の質疑応答が行われた。
保障措置へのプルトニウム同位体区分の導入についての質問に対しては、IAEAから、有意量、適時性等について随時レビューしているが、プルトニウム8キロ、高濃縮ウラン25キロは現在も有効で10年前にSAGSI(保障措置実施に関する常設諮問委員会)でも有効であるとの結論が出されている、との回答がなされた。また、非立会いモニタリングにつき、モニタリング機器に故障があった場合はIAEAの査察官が到着するまで待つ必要があるのか否かについては、六ヶ所の場合は査察官が24時間常駐し、迅速な状況把握と対処が可能で、機器に故障がないよう設備の改善に取り組んでいるし、機器の性能も近年向上しているとの回答がなされた。
米国における将来の保障措置に適用できる新しい技術(novel technology)の内容に関しては、米から、例えば環境試料分析に関して、現在は分析完了まで2ヶ月を要して結果を報告しているが、分析時間を短縮できる、現在はまだ国内で試験運用中だが、数ヶ月後には当該プログラムをIAEAに報告することになっている、との回答がなされた。また、マイナーアクチニド(MA)への保障措置適用に関しては、MAはプルトニウムとともに取り扱われるのでMA独自の計量管理を考える必要はないのではないか、フローシート検認で大体のMA量はわかるが、一方で新しい保障措置の中でいかにフローシート検認を実施していくか検討する必要があるとは思っている、との回答がなされた。
核燃料サイクル施設が統合保障措置に移行すれば具体的にどのくらい査察量が減るのかに関しては、JAEAから、JAEA東海には再処理施設、MOX燃料製造施設があるが、これらMOX施設について一つのサイトと見てどのようにしてより効率的な保障措置が適用できるか協議中である、システムが出来上がれば査察量はかなり削減できるのではないかと考えており、六ヶ所の施設にも反映できるものと考えている、との回答がなされた。
最後に、パネル2でのプレゼンテーションと質疑応答のまとめとして座長から、保障措置技術の研究開発は核不拡散体制の強化にとって重要であり、最新の機器や技術を導入することによって保障措置の信頼性を高めることができる、との言及があった。

