パネル1「核不拡散と原子力平和利用の将来展望」
・座 長 | : | 浅田 正彦 | 京都大学大学院法学研究科 教授 |
・パネリスト | : | ジェリー・ポール | 米国 エネルギー省 国家核安全保障庁 副長官 |
アレックス・バーカート | 米国 国務省 国際安全保障不拡散局 原子力政策・安全・保安部 次長 | ||
中根 猛 | 外務省 軍縮不拡散・科学部長 | ||
フィリップ・ドゥローヌ | 仏国 原子力庁 国際部副部長 | ||
ヴィタリー・フェデチェンコ | ストックホルム国際平和研究所 研究員 | ||
岡﨑 俊雄 | 日本原子力研究開発機構 副理事長 |

パネル1では、原子力平和利用と核不拡散に係る問題につき、既存の核兵器不拡散条約(NPT)体制を強化するための枠組みとして国際的に注目を浴びている1. 燃料供給保証構想、2. 米国の国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP: Global Nuclear Energy Partnership)と、3. 米印原子力協力、について、これらイニシアティブの意義、効果、影響、課題及び国際的に取り組む事柄の方向性を探る議論が行われた。議論の概要は以下の通り。
(なお、各パネリストの発言につき、国名でこれを表示しているものもあるが、個人の資格としての発言である。また、この概要は核不拡散科学技術センターが編集したものであり、その内容については座長・パネリストの確認を得たものではない。)
まず、議論の前提として、(1)IAEAのエルバラダイ事務局長が提唱するMNA(Multilateral Nuclear Approaches)での燃料供給保証構想、(2)世界原子力協会(WNA:World Nuclear Association)が産業界の中心となり取りまとめている燃料供給保証構想、(3)米国ブッシュ大統領の燃料供給保証構想及び(4)GNEP、の4提案の関係と相違点が次のとおり整理された。
(1) | MNA:信頼性のある多国間での燃料供給の仕組みの構築。 |
(2) | WNA構想:政府またはIAEAのサポートによる濃縮提供国による核燃料供給の保証。(核燃料市場に依存するのが基本であり、供給保証はあくまでバックアップ。)受領国は濃縮の開発、建設及び運転を放棄した国で国際保障措置に完全に従い、IAEAが承認した国。実際の供給は濃縮業者、IAEA及び政府が関与する商業契約行為で行われる。 |
(3) | ブッシュ提案:商業市場における短期的な燃料供給保証構想。 |
(4) | GNEP:ブッシュ大統領提案の延長線上にあり、バックエンド対策を含むより長期的なアプローチ。 |

以上の整理を踏まえて、次の議論が行われた。
燃料供給保証がイラン、北朝鮮の核開発問題の解決に寄与するか否か、については、差し迫った当該問題の解決には直ぐには結びつかず外交的手法で解決を図るほかない、北朝鮮問題には適用できないがイラン問題にはバックエンド(再処理)の部分で適用可能性がある、との意見の一方で、現段階での判断は時期尚早である、との意見もあった。
燃料供給保証の条件となっている濃縮や再処理の放棄については、すべての国に再処理や濃縮にアクセスする権利はあるが、そのためには核兵器に転用されないよう保障措置、輸出管理及び核物質防護などの厳格な管理による核不拡散の責務がある、また受領国が受け入れられる制度や方法の構築、導入が必要である、等の意見があった。
「供給国(サイクル国)」と「受領国(燃料受領/発電国)」の区分化と、当該区分がNPTの不平等性を拡大するものであるという懸念に対しては、今まで原子力にアクセスできなかった国のアクセスが可能となりむしろ差別が少なくなるのではないか、また、一国の問題でなく全世界、全人類に利益をもたらすものと考えるべき、との意見があった。一方で、区分化は差別を固定するものとして反対が強く、一定の条件を満たせば「受領国」から「供給国」に変わることができるなど流動性の確保が重要なポイント、また不平等性の緩和策として核兵器国の民生用原子力施設に保障措置を適用することが考えられる、さらに核軍縮で得られる核物質を燃料供給保証で活用するといった核軍縮との関連付けの努力が供給保証システムへの理解を得る上で重要である、との意見があった。

廃棄物の最終処分者については、供給国は廃棄物の環境負荷をできるだけ軽減する技術開発の責任を負うことが考えられるが、受領国が廃棄物処分の発生者責任を放棄し供給国が処分を行うことには問題がある、また受領国(受益国)に責任があるとするのが現在の考え方であってこれを含めて将来は柔軟に対応することが重要である、さらに現段階ではまだ詳細は決まっておらず、市場原理や第三国での処分の可能性もあり、最終的に誰がどうするかについて今回答を出す必要はなく今後の議論が必要である、等の意見があった。
再処理については、多くの国が原子力を利用すれば使用済燃料の発生量が増加し、既存の数カ国での再処理能力では処理できないので一定の条件を満たす国があれば、再処理や新燃料の供給を実施する国を追加的に認めてもよいのではないか、またマイナーアクチニド燃焼などの研究開発は数カ国に限るが、商業ベースでの再処理は限定されないというオプションもありえるのではないかとの意見がある一方で、再処理国を増やすのは疑問である、との意見があった。
プルトニウムの燃焼と増殖については、GNEPはプルトニウムをマイナーアクチニドと一緒に燃焼させる方針であるのに対し、日本はプルトニウムを増殖させてエネルギーとして利用するのを基本としている、高速炉でプルトニウムを燃焼させるか増殖させるかは、ウラン需給の見通しによるものであって資源の有効利用を目的としている点に相違はなく、また技術的には大きな相違はない、マイナーアクチニドの燃焼を段階的に進めることには賛成である、との意見があった。

保障措置については、先進的な保障措置システムの開発はGNEPの7つのエレメントの一つであり、効率的保障措置の観点から先進的な保障措置システムを取り入れていく必要があり、またGNEPではマイナーアクチニドを燃料として利用することが想定されることから、新しい保障措置技術が必要となる、日本は当該分野をリードしており日本からのアイディアを期待しているとの意見があった。これに対して日本は再処理やプルトニウム燃料施設の保障措置技術開発で貢献しており、先進サイクル技術の中での保障措置のあり方についてGNEPの中で議論していきたい、との言及があった。
GNEPの制度的な枠組みについては、米から詳細はまだ協議中だが、GNEPに関心を持つ国は多く、国際的な議論を進めていくことが重要であり、日本のリーダーシップや今回のようなフォーラムは極めて重要である、と述べられた。
他、会場から、GNEPでの経済性の観点からの検討の有無に関して質問があり、米より、今後当該観点からの評価を進めていきたい旨、回答があった。

議論に先立ち、米から米印協力の意義につき、インドの増大するエネルギーを原子力で賄うとの視点から重要であり、当該協力はNPT上インドが非核兵器国であるという位置づけを変えるものでなく、現在、インドの原子炉のうち81%が保障措置対象ではないが、将来的に原子炉の90%を保障措置対象にすることによりインドを核不拡散体制に取り込むことができる、また米印合意ではインドはIAEA保障措置追加議定書、輸出管理、核実験のモラトリアム及び兵器用核分裂性物質生産禁止条約等にコミットしており、これは核不拡散の観点からは大きな進展である、さらにIAEA、英、仏及び露も当該協力を支持している、との言及があった。2月に同様に原子力分野でインドとの協力を発表した仏からは、米印協力を支持し、インドを核兵器国として認知するものではないが、インドは核不拡散義務を遵守することが重要であり、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も働きかけたい、との意見が述べられた。一方で、今すぐに当該協力の是非につき結論を出すことは難しく、NPT、原子力供給国グループ(NSG)の輸出管理ガイドラインへの影響、IAEA保障措置の内容等に注目したい、との意見があった。
協力の範囲については、米からは、濃縮、再処理分野の協力は考えていない、インドは高速増殖炉(FBR)を保障措置下に置かないことを表明したためFBRへの協力は不可能、あくまでも軽水炉の協力がメインである旨の言及があり、仏からはFBRについては米と同様の理由で基本的には協力の対象とはならないが、事故等の際には国際社会に影響を及ぼす可能性があり、多国間の枠組みの中で安全性の分野での協力について検討の余地はあるのではないか、ただし平和利用の担保が前提である、との意見があった。

NPTへの影響について、インドとの協力はNPT第1条(核兵器製造援助の禁止)と第3条(包括的保障措置の適用なくしての核物質供給の禁止)に違反する可能性がある、との懸念が示されたのに対し、米からは、NPT違反とは考えていない、保障措置の適切な遂行により核物質の軍事転用を防止し、軍事用に使用される核物質量を減らすことができ、さらに核物質利用の透明性も向上する、との回答があった。
NSGの輸出管理ガイドラインとの関係については、米からは、インドのみを例外と考えておりイランや北朝鮮等のNPT違反国をインド以外に例外とする考えはない、との言及があり、一方で仏からはNSGで合意されるまではインドへの原子力供給は行わないとの見解が述べられた。また、現段階で米仏ともNSGを損なわせるつもりはないと考えていることは非常に重要である、との意見があった。
上記の議論を踏まえ、座長より以下のパネル総括がなされた。
燃料供給保証:様々な構想があるが、北朝鮮・イラン問題の解決にはならないかも知れないが長期的には核拡散防止に役立つ、濃縮や再処理技術の拡散がないよう、また政治的な影響を受けない枠組みが必要であり、具体的にどのような枠組みが適当なのかは、当該技術を有する供給国の参画のあり方によると思われる、との見解が示された。
GNEP:今まで原子力の恩恵を享受してこなかった国にも受益の可能性が広がる仕組みであり、核不拡散と安全確保に先進国が協力できる要素もある、放射性廃棄物の最終処分については、受領国(受益国)がその責任をまっとうする必要があるのではないか、拡散抵抗性のある技術が必要であり、技術保有国の貢献を期待、またプルトニウムを燃焼させるか増殖させるかは国により政策が異なるが、資源の有効利用という目的は同じである、今後GNEPについて国際的な議論を進めることが有益である、との見解が示された。
米印原子力協力:インドを核不拡散体制に取り込むことが重要、そのために保障措置の対象となる施設を拡大することが重要である、他方、当該協力については、インドにのみ例外措置を認め、NPT加盟により核兵器開発を放棄し原子力の平和利用を認められた国と同等の取り扱いをすることには問題があるとする見解も示された。

