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超深地層研究所計画

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トピックス

観測データから地下の地質構造の分布や透水性を推定する-原位置データを用いた逆解析の適用事例-

ポイント
  • 複数のボーリング孔による揚水試験*1で得られた水圧変化データを用いた逆解析*2を実施し、断層の透水性の空間分布を推定した。
  • 水圧変化データを用いた逆解析は、原位置で不足する調査量を補うことができる有効なツールの1つであることが分かった。
概要

岩盤中には、周辺岩盤と比較して数桁に渡り透水性の異なる断層や亀裂といった水理地質構造が分布しています。それらは水理特性の空間的な不均質性(以下、透水不均質性)の要因となっており、地下水の流れる方向や流速に大きな影響を与えています。地層処分の安全性を評価するにあたっては、岩盤の透水不均質性を効率的に、かつ精度よく推定することが重要となります。揚水試験などによる地下水の水圧変化データを用いた地下水流動の逆解析は、そのための有効な手法の一つとして考えられています。

本研究では、原位置データを用いた地下水流動の逆解析手法の適用性確認を目的として、瑞浪超深地層研究所で実施した揚水試験データを用いた逆解析を行いました。逆解析では、水理地質構造のうち断層に着目し、断層部において既往研究の知見と整合的な透水不均質性の空間分布を推定することができました。

内容

本研究の対象領域は、主立坑断層を中心として水平方向400 m×400 m,鉛直方向には標高150 mから標高-350 mまでの500 mの範囲です(図1)。逆解析では、主立坑断層の北東側に位置する10MI22号孔(図1、区間長約53 m)を揚水区間とした揚水試験で取得した観測データを用い、表1に示した各水理地質構造の透水係数*3を初期値として、主に主立坑断層とその周辺の低透水性領域の透水係数を推定しました。具体的には、図1に示した各観測区間位置で観測された水圧変化データを200分間隔でサンプリングしたものを入力条件としました。なお、揚水条件は原位置の揚水試験に基づき、最大揚水量を240.5 L/minとした揚水期間30日、回復期間20日と設定しました(図2)。

図2に、揚水試験に伴う水圧変化の観測値と逆解析結果から得られた各観測区間の再現結果の比較例を示します。観測値をみると、揚水区間が位置する主立坑断層北東側では揚水に伴う明瞭な水圧変化が観測されていますが、主立坑断層南西側では明瞭な水圧変化が認められません。この主立坑断層を境とした水圧変化の違いは、逆解析によって再現できているとともに、各観測区間の観測値のマッチングは良好であることが確認できました。

逆解析の主な目的である主立坑断層近傍の透水不均質性の推定結果について考察します。主立坑断層部に設定した透水係数の初期値(1×10-7 m/s)からの変化に着目すると、瑞浪層群浅部に低透水性の構造(図3中の① )や瑞浪層群中における断層部の透水性のコントラスト(図3中の②)が認められます。これらは、図4に示す研究所周辺の水理地質構造概念にある低透水性の泥岩層(図4中の①)と主立坑断層の低透水性部の分布範囲(図4中の②)と整合的です。また、図3中の③に見られる透水性の低い領域については、観測データが比較的多い領域の推定結果であるため、推定結果の信頼性は比較的高いと考えられます。つまり、主立坑断層が低透水性構造としてある程度の広がりを有して分布していると解釈できます。一方で、図3中の④に見られる透水性の高い領域については、観測データが乏しい領域の推定結果であるため、解析的な誤差の可能性が高いと判断しました。

上記の通り、揚水試験データを用いた逆解析によって、主立坑断層の低透水性や分布範囲といった透水不均質性に関する既往研究の知見と整合的な結果が得られました。このことは、地下水流動特性評価において水圧変化データを用いた逆解析が有効であることを示しており、ボーリング調査などの原位置調査と逆解析を組み合わせることで、評価対象領域における重要な水理地質構造の特定や水理地質構造の概念および解析モデルの信頼性の確認に活用できると考えられます。

瑞浪超深地層研究所周辺の水理地質構造と地下水圧観測孔の位置図
図1. 瑞浪超深地層研究所周辺の水理地質構造と地下水圧観測孔の位置図
研究所周辺の主な地質は、白亜紀後期の花崗岩(土岐花崗岩)からなる基盤を、新第三紀中新世の堆積岩(瑞浪層群)が不整合で覆う。瑞浪層群は、泥岩・砂岩・礫岩からなり、それらの構成によっていくつかの累層に区分される。土岐花崗岩は、割れ目の分布密度などによって3つに区分される。また、研究所周辺に分布する断層(以下、主立坑断層)は、その周辺に幅40 m程度の幅を有する低透水性の領域が推定されている。
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水理地質構造に設定した透水係数の表の画像
表1. 水理地質構造に設定した透水係数(初期値)
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観測区間の水圧応答のマッチング結果例の画像
図2. 観測区間の水圧応答のマッチング結果例
初期の透水係数分布を用いた解析で得られる目的関数の値で規格化した誤差が10-3以下の値まで収束している解析結果を整理。
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主立坑断層部の透水係数分布の推定結果の画像
図3. 主立坑断層部の透水係数分布の推定結果
逆解析で推定した透水係数を20mグリッドで可視化
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既往研究で構築された研究所用地の水理地質構造概念図
図4. 既往研究(尾上ほか、2016)で構築された研究所用地の水理地質構造概念
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用語解説
*1 揚水試験
広い範囲の地盤の水理特性を求めるための原位置試験の1つ。揚水井より地下水を汲みあげ、その周辺に設置した複数の地下水観測井で、揚水量と地下水位低下の関係を経時的に測定する試験。
*2 逆解析
一般的な地下水流動解析は順解析と呼ばれ、原位置調査などで取得された情報に基づく物性値により構築された数値モデルを用いて、地下水圧などの物理量を計算により算出する。これに対し、原位置で観測された地下水圧などの物理量から、そのような物理量を再現する数値モデルを逆算して求める手法が逆解析と呼ばれる。一般産業では自動車部品の空気抵抗を最小とする形状を求める最適化問題などにも、逆解析手法が用いられる。
*3 透水係数
岩盤の水の透しやすさを表す値。水の流速を2点間の水圧の差で割ったもの。同じ水圧差の場合、透水係数が大きいほど地下水の流速が大きくなり、その結果多くの地下水が流れる。
参考文献