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超深地層研究所計画

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トピックス

瑞浪超深地層研究所の建設に伴う周辺地下水の変化-主にこの10年間の水質変化について-

ポイント
  • 深度500m規模の大規模地下施設の建設に伴う周辺地下水の変化を明らかにした。
  • 研究坑道掘削に伴う地下水の水位、水質の変化は、周辺岩盤の透水性の分布(割れ目や断層、泥岩層などの分布)に応じて異なる。
  • 地上と坑道の間に帯水層を区別する低透水性の地層(泥岩層など)が分布すると、上部の帯水層での変化は低減される。
概要

地層処分場のような大規模な地下施設を建設し、長期間操業すると、地下水の水位低下やそれに伴う水質変化など様々な環境変化が起こる可能性があります。本研究では、この可能性について具体的に確認するため、瑞浪超深地層研究所を利用して、研究坑道の掘削開始前から深度500mまでの掘削が終了するまで、約10年間にわたって周辺の地下水の水位・水質変化をモニタリングしました。そして、地質(堆積岩や花崗岩)、地質構造(泥岩層、礫岩層、割れ目、断層など)の分布を踏まえた上で、研究坑道掘削に伴う地下水の水質変化について確認しました。

研究所では研究坑道の掘削開始以来、主に礫岩層や花崗岩中の割れ目から坑道に湧水する地下水を毎日数百トン(2015年4月の時点では毎日約850トン)排水しています。この結果、研究坑道の近傍では、深度50m付近にある泥岩層より深い深度で地下水の水位が約150m低下しています。一方、泥岩層より浅い深度では地下水の水位低下は小さく、泥岩層が水の流れをさえぎる遮水層のような働きをして、研究坑道掘削に伴う地下水の変化を低減していることが明らかになりました。

地下水の水質は年々変化しつつあります。泥岩層より深い深度では、水位低下により浅い深度の地下水がより深い深度に移動しつつあり、一方、研究坑道の最深部(深度500m)では、500mより深い深度の地下水が坑道に湧き出すことで、地下水の水質が、当初、深度500mより深い場所に分布していた地下水の水質に近づきつつあります。

なお、ここで示す知見は、2013年度までの観測データをもとにして記述しています。

内容

研究坑道の掘削を開始する前に、地上からボーリング調査を行い、地質・地質構造の分布と地下水の水質の初期状態を図1のように把握しています。研究坑道の掘削に伴う地下水の水質の変化を把握するため、地上から掘削した観測孔で得られる地下水に加え、研究坑道に湧水する地下水、研究坑道から掘削した観測孔(図2)で得られる地下水を対象として、定期的な水位測定・採水調査を行いました。ちなみに、研究坑道の掘削中に坑道に湧水した地下水の量は、両立坑に設けた集水リング(WR)毎に図2のように計測されています。

観測の結果、深度50m付近にある泥岩層より深い深度では、地下水の水位が徐々に低下していることが確認されました(2014年3月時点で研究坑道から約100mの範囲において150m程度低下)。また地下水位の低下に伴い、地下水の水質は図3のように変化していることが確認できました。

観測結果を地質・地質構造毎に整理するとともに多変量解析を行った結果、以下のことが明らかになりました。

  • 研究坑道の掘削・維持管理時は、最深部の研究坑道周辺ではより深部からの地下水の上昇、最深部以外の坑道周辺では水位低下に伴い浅部の地下水の深部への移動が起こる。地下水の水質変化は、主に異なる水質の地下水の混合により引き起こされる。
  • 地下水を今後も排水し続ける場合、深度400mまでの地下水は、より浅い深度の地下水の水質と同様の組成に変化すると予想される。
  • 低透水性の地質・地質構造(堆積岩中の泥岩層や割れ目の少ない花崗岩、断層など)は、研究坑道の掘削に伴う地下水の移動を抑制する。一方で、割れ目の多い花崗岩や礫岩層など高透水性の地質・地質構造では、水位低下や水質変化が大きい。

以上のことから、透水性の異なる地質・地質構造の3次元分布を踏まえて坑道のレイアウトを設計することで、湧水量を抑制し地球化学的な変化を低減させるとともに、地下施設建設プロジェクトに関わる経済性監理が可能になると考えられます。

今後も、観測を継続し、研究坑道掘削のより長期的な影響を把握するとともに、研究坑道の閉鎖に伴う地下水環境の回復過程(地下水位の回復やそれに伴う水質変化など)の研究を行っていく予定です。

研究坑道掘削前の地下水調査イメージ
図1. 研究坑道掘削前の地下水調査
地上からのボーリング調査では、深度50m付近の泥岩層より浅い深度では、ナトリウムとカルシウム、無機炭素イオンに富む地下水が、それ以深では、ナトリウムやカルシウム、塩化物イオンに富む地下水が分布していることが確認されました。
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研究坑道における観測地点と深度毎の湧水量を表す図
図2. 研究坑道における観測地点と深度毎の湧水量(2013年時点)
主立坑、換気立坑に約25m毎に設けた集水リング(WR)と坑道から掘削した観測孔で定期観測を行いました。なお、観測孔のうち07MI07, 09MI20, 10MI26号孔は上部割れ目帯、09MI21, 12MI33号孔は下部割れ目低密度帯に位置しています(図1)。観測には、瑞浪超深地層研究所で開発された観測装置を使用しています。
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07MI07, 09MI20, 09MI21, 10MI26, 12MI33号孔の各観測区間における水質変化を表す図
図3. 07MI07, 09MI20, 09MI21, 10MI26, 12MI33号孔の各観測区間における水質変化
観測区間番号は、09MI21号孔を除き観測孔最奥から坑道に向かって1~6。09MI21号孔については、坑道から観測孔奥に向かって1~4。
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用語解説
多変量解析
主として統計学の分野で用いられる手法で、得られた多くの変数の間にある相互の関連を考慮しながら、各変数に目的に応じた重みづけをし、結果として得られる合成得点を、複数の異なった分類軸の組合せによって多次元空間に位置づける分析手法。(出典 ブリタニカ国際大百科事典)
参考文献