2_3_5 湧水の水質計測および解析技術
達成目標

地下施設の建設に伴う水理学的,化学的擾乱により,地下施設周辺の地下水の地球化学特性は変化すると考えられます。地下施設の閉鎖後における地質環境の変化(回復)を予測するためには,地下施設の建設,維持管理に伴う地下水の地球化学特性の変化の過程を把握し,その要因を理解しておく必要があります。このため,立坑に深度約25m間隔で設置した集水リングから定期的に地下水を採取し,水質の経時変化を把握するとともに,湧水の水質計測および解析手法を整備することを目標としました。

方法・ノウハウ

地上からの地質環境調査では,地下水の水質の空間分布を評価することが可能ですが,pHや酸化還元電位などの物理化学パラメータは測定が困難な場合もあり(1_12_7),予察的な調査結果に留まることも考えられます。そのため,坑道からの調査により地下水の物理化学パラメータの初期値を取得し,地球化学モデルを補完する必要があると考えられます。

地下施設建設中や維持管理中の水質変化を把握するためには透水係数の異なる水理地質構造ごとの水圧・水質モニタリングが有効であり,地下施設建設に伴う水理学的・化学的擾乱とその変化の程度を水理地質構造ごとに評価することで影響範囲をより正確に理解することができます。

地層処分における天然バリアとしての岩盤の能力を保持するためには,地下施設の建設,維持管理中に可能な限り元の水理学的,化学的状態を乱さないように施工,維持管理を行うことが重要と考えられます。

割れ目が多い岩盤における地下施設建設では,地下施設周辺の複数観測点における長期的な水質データの取得,多変量解析(主成分分析)による経時変化プロセスの把握,経時変化量に基づく将来予測により,地下施設建設時や維持管理時の中長期的な水質変化を推測できます。

多変量解析(主成分分析)は,①水質変化に対する寄与が大きい端成分地下水の明確化,②当該端成分地下水の寄与割合の経時変化に基づく変化速度の見積もり,③将来における地下施設周辺の地下水の水質の外挿,という手順で施設建設中や維持管理中の将来的な地下水水質を推定できます。

地下水に接しているコンクリートでは,地下水中のCa2+(カルシウムイオン)とHCO3-(重炭酸イオン)が反応し,更に脱炭酸してCaCO3(炭酸カルシウム)が生成されます。セメント硬化体表面が連続したCaCO3で覆われれば,CO2の拡散が抑止され中性化が抑制されると考えられます。ただし,地下水の水質は地域により異なるため,中性化抑制効果も一律には期待できないと考えられます。また,維持管理期間中は,セメント材料周辺のアルカリ性地下水が坑道に湧出し,坑外に排出されます。一方で,地下水が坑道に湧出しない条件においては,アルカリ性地下水が長期滞留するため,地下施設周辺に化学環境の不均質性が生じる可能性があります。

瑞浪超深地層研究所における実施例1)

主立坑および換気立坑に設置した集水リング(図1)より捕集した地下水について水質モニタリングを実施し,各深度に掘削された水圧・水質観測孔における水質モニタリング結果と併せて以下の項目に関わる調査・解析技術の開発を実施しました。

  1. 第1段階で地表から掘削したボーリング孔を利用した水質モニタリング結果に基づいて予測した地下水の地球化学特性の空間分布の妥当性の評価(図2)。
    • 坑道から掘削したボーリング孔を用いたモニタリング結果は,坑道掘削と排水による擾乱(浅部地下水の引き込みや深部地下水の湧昇)の影響を受けていると考えられます。そこで,立坑に設置した集水リングの地下水のデータのうち,各集水リングを設置した直後の地下水の水質の深度分布と地表からのボーリング調査結果を比較したところ,両者はほぼ同等でした。このことから,地上からの地質環境調査で理解した水質の深度分布は妥当であったと考えられます。
  2. 地下施設の建設・維持管理に伴う周辺の地球化学特性の変化の把握(図3)。
    • 多変量解析(主成分分析)により,地下水の水質は,2つの主成分で表すことができ,堆積岩の浅部(深度50m付近に分布する明世層の低透水層(泥岩)より上位)では主にMg,SO4,Si濃度の増減を反映する主成分1が,湧水量の少ない深度では主にNa,K,Ca濃度の増減を反映する主成分2の変化が大きいことがわかりました。地下水の水質が主に混合で形成されている場合は,この結果を外挿することで将来の水質変化を推定できると考えられます。
  3. セメントなど研究坑道施工時に使用する人工材料が地下水の地球化学特性に与える影響の調査,解析(図4)。
    • 集水リングから採水した地下水のpHは,各リングの設置初期は立坑に打設したコンクリートと反応して高い値を示しているものの,おおむね半年で元の地下水のpHに戻ることがわかりました。このpHの変化は,セメントの影響を受けた地下水が,岩盤から湧出する地下水により洗い流され置換したためと考えられます。
この図は,主立坑および換気立坑の集水リングの位置(約25m間隔で設置)と立坑で観察された地質を示したもの。
図1 主立坑(上)および換気立坑(下)の集水リング位置1)
この図は,第1段階と第2段階で得られた地下水のCl濃度と深度との関係を示したもの。両者のCl濃度の深度分布はほぼ同じで,どちらも深くなるほど高くなる傾向がある。このことから,地上からの地質環境調査で理解した水質の深度分布は妥当であったと確認。
図2 第1段階と第2段階で得られた地下水中のCl濃度の深度分布の比較
この図は,集水リングから採水された地下水の水質の主成分分析結果を示したもの。多変量解析(主成分分析)により,地下水の水質は,2つの主成分で表すことができ,堆積岩の浅部(深度50m付近に分布する明世層の低透水層(泥岩)より上位)では主にMg,SO4,Si濃度の増減を反映する主成分1が,湧水量の少ない深度では主にNa,K,Ca濃度の増減を反映する主成分2の変化が大きいことを確認。
図3 集水リングから採水された地下水の水質の主成分分析結果
この図は,コンクリートライナー周辺の地下水(集水リング)のpHの経時変化を示したもの。集水リングから採水した地下水のpHは,各リングの設置初期は立坑に打設したコンクリートと反応して高い値を示しているものの,おおむね半年で元の地下水のpHに戻ることを示す。このpHの変化は,セメントの影響を受けた地下水が,岩盤から湧出する地下水により洗い流され置換したためと考えられた。
図4 コンクリートライナー周辺の地下水(集水リング)のpHの経時変化
参考文献
  1. 岩月輝希,湯口貴史,大森一秋,長谷川隆,宗本隆志 (2013): 瑞浪超深地層研究所における深度500mまでの地球化学調査および調査技術開発,JAEA-Research 2013-021,63p.

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